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俺、元兵士、奴隷買いました。  作者: 岩塩龍
第四章・俺、ですか?
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51話・帰らなきゃ、だよな。

 ―武元曹駛―


 俺が、どうなったかなんて、どうでもいい。

 今は、俺が生きている。それだけで十分だ。

 俺は、帰らなければ。

 少し暗い森の中を歩き続けた。

 時には食われた。時には食った。

 武装があって本当に良かったと思う。武装が無ければ、きっと俺は食われ続けて終わりだっただろう。

 俺が食う側に回ることが出来たのも、この槍と盾があったからだ。

 それでも、俺だってたまには食われた。

 ただ、それによって絶命することは無い。いや、正確には絶命している。だが、その後、また息を吹き返す。いくら死んでも、死に切ることは無い。俺は、死なない。死んでも生き返る。

 そうか、これが、試練によって与えられた力。

 厄介なものかもしれない。これから生きていく時に、もう表立った行動は出来ないかもしれない。

 でも、それでも、今はそれでいい。

 ただ、生きていけるなら。幸せになれる、チャンスがあるのなら。

 それでいいんだ。

 重い装備だけで、歩く。

 荷物は無い。何一つない。

 俺は、死んで死んで死んで、また死んで、それでも、歩く。そして、少しずつだが、強くなっている。

 強く、強く。

 身体の扱い方が、よく分かってきた。

 無茶な特訓だ。なんせ死んでいるんだからな。

 こんな特訓あるかよ。

 それに、いくつか魔法も使えるようになった。

 魔法なんて人が使う物じゃないのは分かっているが、それでも、俺は魔法を覚えた。

 だって、人じゃないからな。それは化け物の一種でしかない。

 けど、幸せにはなれる。

 不幸中の幸いは、見た目が化け物になる前の俺だったことだろう。

 いや、死ななくなったんだし、もう一度幸せのチャンスを与えられたんだ。幸い中の幸いなのかもしれない。

 俺は、ただ歩き続けた。

 食べ物が取れないときは、身体が言う事を聞かなくなる前に、自殺した。

 それだけで、また数日動けるようになる。

 森は、まだ暗い。

 まだ、出口には達していない。

 日付は分からないが、歩き始めてもう1か月は経っただろう。

 でも、俺は生きている。

 生きなかったら、幸せは訪れてはくれない。

 俺は、まだ幸せを諦めていない。

 それに、だんだん、現れるモンスターの数が減っている。だから、きっともう少しで森を抜けることが出来るはずだ。

 それに、モンスターの数が少ないと言う事は、人の居住区域が近いと言う可能性もある。

 それが希望的観測でも、それが、当たらなくても、それが、絶望的未来でも、いい。

 死ななきゃいい。

 そうすれば、また幸せを求めることが出来る。

 一週間後、そんな俺の、希望的観測が珍しく当たる。

 森を抜けることが出来たのだ、そして、その先にあったのは、大きな町と城だった。

 来たことも聞いた事もない国だった。

 カーヴァンズ公国。

 俺は、もちろん門番に止められた。けど、そんなことよりも、驚かれた。


「あの森を抜けて来たのか?」


 と。


「しかも、そんな装備だけで」


 と。


「お前は、何者だ」


 そう聞かれたので、こう答えておいた。


「傭兵志望のしがない元兵士」


 だと。

 そう言った俺は、疲労によってぶっ倒れた。

 肉体的疲労ではない。精神的疲労だ。

 そして、目を覚ませば、知らないところにいた。

 だが、ここは人工物で囲まれている。

 俺は、人の居る場所に来たんだな。


「目が覚めたか」


 そう言うのは、先ほど門番をしていた男だ。


「大丈夫か、あ、一応武器は預からせてもらっている。街中であんなもの持ち歩かれては困るからな」

「ああ、すまない」


 そりゃそうだ。

 街中で抜き身の武器を持てば、皆パニックになるかもしれない。


「それにしても、少し古いかもしれないが、ちゃんと手入れがされていた、いい武器だな」


その門番の言葉を聞いて、今更になって気づいた。

 そういえば、この服も、鎧も、盾も、槍も、全部、俺と同じなのか。

 俺と同じで、壊れることが無い。正確には壊れてもまた少しすれば元通りになる。

 便利なこった。


「ところで、お前は、どこから来たんだ?」

「俺か……俺は、フォルド王国と言うところから来た」

「フォルド王国?」

「ああ、知らないか?」

「聞いた事もない」

「そうか……」


 フォルド王国を知らない。つまり、結構離れているようだな。


「なぁ、今は、何月何日だ?」

「今か、今は十月の一日だが、どうかしたか?」

「そうか、ありがとう」


 なるほど、時間が進んだわけはないか。

 じゃあ、単純に、フォルド王国から場所が離れているだけか。


「なぁ、すまない、俺はフォルド王国に帰らなければいけないんだが、どの方角に行ったらいいかだけでも分からないか? それさえわかれば、俺はどんなに遠くてもあるいて行くことが出来る。だから、分からないとしても、出来れば調べられる場所くらい教えてくれれば」

「そうか……うん、わかった、いいぜ、調べておく」

「いや、いい、分からないなら俺が調べるから」

「そんなことしなくてもいいさ、お前は休みついでに、観光でもしておけ、俺が調べておく」

「……悪いな、俺は、武元……いや、グルックだ」


 たまたま、頭の中に会った言葉を口にした。


「俺は、グルック=グブンリシ、何から何まで世話になって済まない」

「いや、いい、俺の名前は木尾(きお) 杯人(はいと)だ、よろしくな」


 木尾は手を差し出す。


「大丈夫、一人で立てる」


 なんせ体は全く悪いところが一つもない、健康体そのものだからな。

 そう心の中で思っていると。木尾はこう言った。


「違う、握手だ」


 なるほどな。そう言う事か。

 握手か、それなら手を差し出さないわけにはいかないか。

 俺も、手を出して、がっしりと、手を握ってくる木尾に対し、俺もがっしりと握り返した。



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