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我が覇道を讃えよ ~尊大不遜な元傭兵、辺境で勝手に建国して成り上がる~  作者: エノキスルメ
第一章 我は王である

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第一話 僕は王になろうと思う 


中世初期ヨーロッパ風の建国戦記譚です。

楽しんでいただけるよう頑張ります。

 永遠に繁栄する国家はない。エルシオン大陸西部とその周辺地域を広く支配し、神々に選ばれし至上の国などと呼ばれたロドニア帝国も、ついには栄華の終焉を迎えようとしていた。

 経済は停滞し、社会は不安定になり、格差は拡大。皇帝の権勢を支えるべき官僚機構は腐敗し、帝国軍は質と数の両面で弱体化。さらに、帝国領土の南東側に台頭した新興の大国が国境地帯を脅かし、北東からは異民族が無秩序な侵入を続けている。

 内憂外患の結果、帝国が完全崩壊するのも時間の問題である。いや、もはや帝国は実質的に崩壊している。そのように語られて久しい、混沌とした情勢の中で――ある青年が、今後の生き方について一大決心をしていた。


「僕は王になろうと思う!」


 帝国北部にある交易都市の酒場。ぬるいエールをあおり、力強い声で言ったのは、漆黒の髪を長く伸ばして後ろで一つに結んだ青年だった。宣言と共に杯が勢いよくテーブルに置かれ、揺れたエールが少し零れる。

 名をエドウィンというこの青年は、弱冠二十一歳にして総勢三十人ほどの傭兵団を率いる立場にある。決して屈強な質ではないが、戦闘時の判断や平時の交渉事において発揮される聡明さ、そして自ら先頭に立って敵に斬り込むことを厭わない勇敢さを仲間たちから評価され、初代団長である父が三年前に盗賊との戦いで死んだ後、皆の支持を受けて二代目団長の座に就いた。それ以来、頭脳と度胸を活かして配下たちを率い、亡父に倣って仕事をこなしてきた。

 そして、帝国社会が日に日に混乱していく中で、このような決意を抱いた。


「……王ですか。また随分と思いきりましたね」


 大胆な宣言を前に、特に驚くこともなく返したのは、テーブルを挟んでエドウィンの向かい側に座る長身の男。名をジェラルドという彼は、エドウィンの亡父の戦友であり、若くして団長となったエドウィンを側近として支えてくれている。


 エドウィンたちが拠点としているこの都市は、帝国北部と南部の交易における主要な流通拠点のひとつで、商人たちの同業者組合が実質的に支配している。組合は商品を安全に運ぶための護衛としていくつもの傭兵団を雇っており、エドウィンたちもそのひとつとして働いてきた。エドウィンの亡父の代から、二十年以上も組合のために仕事をしてきた。

 しかし、ここ最近は東から侵入してくるゴドロワ人と呼ばれる異民族のせいで、帝国北部の治安が崩壊しつつある。そのために商人たちの活動には大きな支障が出ており、エドウィンたち傭兵に割り振られる仕事も日に日に減っている。

 まともに商売ができない土地に商人たちがいつまでも留まり続けるとは考え難い。実際、組合の商人たちの中には、帝国北部での商売に見切りをつけ、まだしも安全な西部や帝都のある南部に逃げるように引っ越す者も増えているという。

 帝国の衰退と崩壊が、現実的に実感できるかたちで自分たちのもとにもじわじわと迫りくる。そのような状況の中でエドウィンが思いついたのが、この「王になる」という企みだった。


「どうにも脈絡がないように聞こえますが、頭の良い若様のことですから、何か具体的な道筋を考えた上での宣言なんでしょう?」


 自身もエールの杯に口をつけ、ジェラルドは言葉を続ける。彼をはじめとした傭兵団の配下たちは、初代団長の息子であるエドウィンのことを、親しみを込めて「若様」と呼ぶ。


 帝国の住民にとって、国の支配者と言えば皇帝を指す。しかし一方で、周辺諸国の支配者が王と名乗っていることは帝国民の間でも知られている。また、帝国に征服される前はいくつもの王国が並んでいたこの北部では、そうした時代の歴史も昔話として語られている。どうやら帝国の支配者層はそのことを快く思っていないようだが。

 そのため「王」という言葉の意味については、エドウィンが説明せずともジェラルドも当然に理解している様子だった。


「もちろんだとも。聡明なこの僕が、勝算もなくこんな宣言をするはずがない。僕たちの未来を切り開く名案、順序立てて詳しく説明してあげよう……去年、帝国軍がアロナ島から完全撤退しただろう?」

「ああ、そんなこともありましたね。散々話題になったからよく憶えてますよ」


 アロナ島は、エルシオン大陸西部の北西に位置する大きな島。俗に「世界の北西の果て」と呼ばれる辺境で、今より二百年ほど前にロドニア帝国に征服され、帝国領土の一部となった。

 大陸の帝国北部と同じように、元々はいくつもの王国に分かれて暮らしていたアロナ人たちは、帝国による侵攻時に王族や戦士などの支配者層の大半を殺され、以降は駐留する帝国軍の支配下で税を収めるばかりの生活を送ってきたという。しかし、彼らの状況は昨年に一変した。


 帝国が最盛期を終えて衰退の時代に入ると、帝国軍も弱体化の一途を辿ってきた。そのような時代の流れに合わせ、アロナ島に駐留する帝国軍も徐々に規模を縮小させてきた。

 そんな中で、大陸の帝国本土では北東からゴドロワ人が侵入を続け、南東からは新興の大国が攻めてくる。ますます兵力が不足する状況で、当代皇帝は一人でも多くの兵を――アロナ島に置いている兵力までをも東へ充てることを決断し、とうとうアロナ島を完全に放棄した。

 アロナ島に駐留していた帝国軍は全軍が撤退。アロナ人たちはよく言えば「帝国による支配から解放」され、悪く言えば帝国社会から捨てられた。

 帝国によるアロナ島の放棄は、本土でも大いに話題になった。「世界の北西の果てまでをも支配する帝国の偉大さ」を国内外に誇示するため、得られる利益は少ないが半ば見栄として支配が維持されていた辺境の島。それをついに捨てるほど、この国の崩壊は進んでいるのかと皆が噂した。


「それじゃあ、帝国が放棄した後のアロナ島がどうなっているかは知っているかい?」

「……いや、それは聞いてませんね」

「僕は知っている。この前護衛した商人たちと世間話をしていて聞いたんだ。その商人たちは、帝国軍が撤退した後もアロナ島との交易を細々と続けている商人から聞いた話らしいんだが、それによると島内は酷い混乱状態らしい。二百年も島内社会の支配者層を構成していた帝国軍が突然いなくなって、残されたアロナ人たちの社会には昔の王国時代の名残なんて全くと言っていいほど残っていなくて、そんな大昔のことは誰も詳しく知らない。結果、彼らは統治者のいない島で、誰からも守られることなく、ひどく不安定で無防備な状況で心細く暮らしているらしい」


 エドウィンはそう語り、そして満面の笑みを浮かべる。


「これは好機だよ。千載一遇の好機だ。強い支配者のいない今のアロナ島に渡って上手く立ち回れば、僕は広い土地と多くの民を支配下に置ける。もはや帝国の支配下にない地で、誰も支配していない空白の地で、新たな支配者になった者が何と呼ばれると思う? 王だ! 自分よりも上位の為政者を持たず、その地における絶対的な支配者として君臨するのなら、それは王だ! 僕はアロナ島で自分の国を作るんだ! 僕が王になれば、僕に付き従う者たちにも存分に良い思いをさせられるだろう! もちろん君にも!」


 自身の言葉に酔ったように、エドウィンは上機嫌で語る。


「……なるほど。若様の成り上がりの夢がついに叶うってわけですか」


 最初のエドウィンの宣言と話が繋がったことで納得した様子で、同時に少しばかり呆れたような顔で、ジェラルドは言った。


「その通り! 亡き父との約束であり、我が少年時代からの野望である成り上がりを、今こそ実現するんだ!」


 一介の傭兵団長を超える偉大な何者かになる。それはエドウィンにとって、子供の頃から抱いてきた人生の目標だった。

 祖父は一大決心の末に故郷の村を離れ、傭兵として身を立てた。傭兵稼業を継いだ父は、自分の傭兵団を作り上げた。父はよく自分に「俺を超える偉大な人間になれ」と語っていた。自分が一匹狼の傭兵だった父親を超えて何十人もの傭兵たちの長になったように、自分の息子もまた父親を超える人間になることを望んでいた。

 父から事あるごとに語られた望みは、やがてエドウィン自身の望みとなった。息子が成長するにつれて野心を抱いていくことを父は喜び、そんな父から「賢いお前なら必ず成し遂げられる」とも言われ続けたエドウィンは、野心と同じくらい大きな自信を抱く青年となった。いずれ成り上がって己の野心を満たし、己が偉大な人間であると世に証明したいと考えるようになった。


 自分が成人して早々に父が不運な戦死を遂げたことで、若くして傭兵団長の立場を継いだエドウィンは、いよいよ父との約束である成り上がりを果たすことを目論み始めた。帝国が崩壊していく現在の情勢は、エドウィンにとっては喜ぶべきことだった。社会が崩れていく今ならば、どこかの土着の権力者に取り入って重用されるなり、あるいは適当な土地を実効支配して自分自身が権力を握るなり、混沌のどさくさに紛れて成り上がる方法がきっとある。そう考えながら、周辺地域の情報を集め、何か具体的な道筋を模索していた。

 エドウィンがそのようにして今後の立ち回りを考えていたことは、側近のジェラルドも当然知っている。


 そんな中で知ったアロナ島の現状の噂は、エドウィンにとって実に興味深いものだった。帝国から見捨てられて以降まとまった勢力も存在しないという今のアロナ島に乗り込めば、小規模な戦力しか持たずとも権力の土台を築くことはおそらく叶う。成り上がりを果たすにも自分の立場では集められる戦力に限りがあるのが懸念点だと考え、具体的な行動を起こす道筋を立てられずにいたエドウィンにとっては、弱くて無防備なアロナ島は最良の舞台だった。

 アロナ島で国を作り、王になる。この案を閃いたとき、なんて素晴らしい考えだろうとエドウィンは思った。エドウィン王、なんと甘美な響きだろう。その呼び名が欲しい。どうせ成り上がるのならば、自分の国を持つ王にまで上りつめたい。王にまで成り上がれば、偉大な人間になるという父との約束も文句なしに果たしたことになるだろう。

 これほどの妙案を考えつく自分は天才だ。やはり自分は偉大になり得る人間なのだ。エドウィンはそう確信している。


「多分、この好機は今だけのものだ。アロナ人の中にも勇敢な者や賢い者がいるだろうから、そういう人間が僕と同じようなことを考えて、その中でも上手く立ち回った者はそれぞれ支配域を築いて王なり何なり偉そうな称号を名乗るようになるだろう。だけど今なら、島内にはそれぞれ孤立した人里があるばかりだ。まとまった規模の勢力はまだいないはずだ。そんな場所に乗り込んで自分の国の礎を築くために、きっと数十人も兵力があれば事足りる。数十人程度なら僕にも用立てられる。アロナ島に渡り、まずは上陸地点の周辺を支配し、服従させた民から税を集め、その税を使って力をつけ、どんどん支配域を広げるんだ。僕は王として君臨し、そして僕と共に島に渡った者たちは、王に仕える家臣になる。僕の国の支配者層として、子々孫々に至るまで繁栄するんだ。どうだい? 天才的な計画だろう?」


 エドウィンが身を乗り出すようにして問いかけると、ジェラルドはしばし考える素振りを見せた後に口を開く。


「確かに、何ともそそられる話ですが……賭けの要素がかなり強いようにも思えますね」

「まあ、大きな賭けであることは否定しないさ。土地勘もない辺境の島に渡って成り上がりを目指すのが、かなり挑戦的な試みであることは僕も当然理解している。だけどこんなご時世だ。これまで通りの人生を送るのはもはや難しいと考えざるを得ない状況だ。これから僕たちがどう立ち回ろうと、それが賭けの要素を孕むことは避けられない」


 椅子の背に体重を預け、偉そうに足を組みながら、エドウィンは語る。


「今後もゴドロワ人の侵入は続いて、この帝国北部はどんどん治安が悪化していくだろう。そんな土地で生きるとなれば、きっとひどく苦労する。傭兵を続けていても今までのように安定して稼ぐのは難しくなる。ゴドロワ人と戦って死ぬ羽目になる可能性も高いし、仕事も居場所も失って野垂れ死にすることもあり得る。かといって帝国南部に移動したところで、あっちの方はキラケス人への風当たりが強いから、割の良い仕事はロドニア人傭兵に独占されて、僕たちはろくな仕事を得られないだろう。せいぜい南東部国境の戦地に送り込まれて使い捨てにされる運命だ」


 ロドニア帝国は、大陸西部の南側に位置するロドニア半島で誕生し、周囲へ領土を拡大することで成長した国家。帝国社会において、古来からの帝国民であるロドニア人は、征服を受けて帝国民となった他地域の民族よりも優越的な立場にある。

 エドウィンたちは、現在の帝国北部、キラケス地方に住むキラケス人。この地においては多数派だが、ロドニア人の多い帝国南部に渡れば、差別的な扱いを受けるのは目に見えている。


「一部の商人たちがそうしているように帝国西部に逃れる手もあるが、土地勘もない辺境という点では西部もアロナ島と変わらない。新たな人生を築くことに失敗する確率はアロナ島と大差なく、その上でアロナ島ほどには成り上がりの機会がないのであれば、選択肢としては魅力に欠ける……となると、隙だらけのアロナ島を夢の新天地と定めて海にくり出すのが最善だ。それなりに勝ち目があって、当たりがいちばん大きな賭けだ。この賭けに勝って国を築けば、僕たちはもう二度と傭兵として不安定な生き方をする必要はない」


 エドウィンの問いに対し、ジェラルドは再び思案の表情になり、間もなく深いため息を吐く。


「……さすが若様は賢い。こうして話を聞いていると、確かにアロナ島に渡るのが名案に思えてきましたよ」

「はははっ! 分かってくれたようで何よりだよ」

「まあ、俺はあんたの親父にでかい恩があるし、あんたには娘の命を救ってもらったこともありますから、これからも若様に付き従いますよ。他の連中が何と言うかは分かりませんが、付いていきたいと言う奴もそれなりにいるでしょう」


 ジェラルドの言葉に、エドウィンは深く頷く。


「僕もそう思うよ。自分で言うのも何だけど、僕はそれなりに配下たちの信頼を得ているからね。全員とはいかずとも、僕に運命を委ねてくれる者は一定数いるだろう。その上でさらに戦力を増やすために、他のキラケス人傭兵たちにも一緒に来ないか誘う。そしたら、アロナ島で足場を固めるのに必要な程度の兵力は集まるさ……多分」

「最初の兵力集めの段階から、賭けは始まるってわけですか……まあいい。若様がそう決めたのならそれで決定だ。まずは団の連中に伝えましょう」

「それでこそ我が頼れる側近だ。これからもよろしく、ジェラルド。僕が王になったら、君を王に仕える戦士団の長にしてあげよう」


 忠実な側近の言葉を受けて、エドウィンは満足げに笑った。

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― 新着の感想 ―
モデルケースはローマ撤退後のブリタンニアかな? ボウディッカ期待(´・ω・`)wktk ガリア戦記からゲルマーニアへ
お、これまでの主人公は"ひねくれた優等生"的なキャラが多かったが、今回は"天真爛漫な悪ガキ"かな? 楽しみです。
これまでの作者さんの作品の主人公にはいなかったタイプ! 自信も野心も満々! これは楽しみだー
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