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吸血の勇者〜自分を疎んじていた家族により最凶最悪の迷宮に追放された少年魔術師は、唯一無二の職業と固有魔術の力で最強へと上り詰める〜  作者: シャイ
第三章

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第71話 タレス領の霊騒動③ —決着—

 ソフィは集中攻撃されないよう、動きを止めずに戦っていた。


 死角から足元に弾が命中し、霊の動きが止まる。

軌道弾(オービット)】だ。

 あらかじめ設定した起動をなぞる弾で、術者は軌道をひいて好きなタイミングで放てばいい。


 ソフィはこれと【魔力弾(マジカル・バレット)】、【操縦弾(ドミネーション)】、【薄円斬(スラッシュ)】、【爆裂砲(エクスプロージョン)】——つまりは主な遠距離技すべてを、時に融合させつつ臨機応変に使い分けていた。

魔眼(まがん)】で戦況を読んでいるベニートは感心しきりだった。


【軌道弾】の使い方も【操縦弾】の精密さもそうだが、一つ一つの技の完成度が段違いだ。

 最大限まで効率化されている。


【操縦弾】や【爆裂砲】は消費魔力が特に多いが、それらを何発も高強度で放てているのは、総魔力量以上にその熟練度のなせる技だろう。


 しかし、感心ばかりしてはいられなかった。

 霊の触手がソフィの頬をかすめ、赤い線が走る。


「リーダー!」

「あなたは自分のことに集中して!」


 トンマーソを一喝するソフィの表情に余裕は感じられない。

 いくら一つ一つの技が洗練されていようと、ソフィと霊では一撃の強度が違いすぎるのだ。


 ソフィの高強度の攻撃が霊に大ダメージを与えることはまずない。

 一方、霊の攻撃が直撃すればソフィは無事では済まないだろう。


 そんな圧倒的に不利な状況で、全身に傷を作りつつもほとんどベニートの助けも借りずに一人で霊を相手取り続けたソフィの努力は、決して無駄ではなかった。


「ベニート様!」


 トンマーソの叫び。

 彼の必殺系固有魔術【星突剣(スターズ・スラスト)】の準備が完了したのだ。


 ソフィがポイントの上に乗る。

 ベニートはすかさず彼女を霊から一番遠いポイントへと転移させた。


 転移するや否や、彼女は【魔力弾】を放った。

 触手の網をすり抜け、霊の本体に命中する。

 速度、強度ともにこれまでで最高の一撃だった。


 霊の目がソフィを捉えたその瞬間、ベニートは再び足元の転移陣に魔力を流し込んだ。

 霊の背後にトンマーソを転移させるために。


 ソフィに意識が向いていた霊に、突如として背後に現れた敵に対応することは不可能だった。


「——【星突剣】!」


 トンマーソからとてつもない速さで突きが繰り出される。

 四連撃目が入ったところで霊が絶叫した。


 それでもトンマーソの剣は止まらない。

 五連撃、六連撃、七連撃。

 触手が次々と切断され、霊の本体もボロボロになっていく。


 八連撃目でコアが姿を現し、十連撃目でついにコアがむき出しの状態になった。


 トンマーソが目いっぱい剣を引く。

 そこに絶叫し続ける霊の触手が襲いかかるが、トンマーソの周囲に生成された無数の【角状結界(バリア)】が、彼に対する一切の攻撃を(はば)んだ。


「——ラスト!」


 トンマーソが最後の一撃を繰り出した。

 その剣先は、水色の結晶——コアの中心を寸分違わず正確に貫いた。


 一際大きな絶叫を最後に、霊は消滅した。




◇ ◇ ◇




「今回は本当にありがとうございました」

「マジでサンキューな」


 ソフィとリカルドからお礼を言われて、トンマーソはむず痒さを覚えた。

 親しくしている人たちから改まって礼を言われるとくすぐったくなるのは、きっとトンマーソだけではないだろう。


「特別手当てです」


 ソフィからお金の入った袋を渡される。


「おっ、ありがたい」


 トンマーソは躊躇(ちゅうちょ)なく受け取った。

 今さら、一回お断りを入れる間柄でもない。


「マジで助かったけど、守秘義務のことは忘れんなよ? その中には口止め料も含まれてんだから」

「そういうことって普通は口にはないだろ」


 トンマーソは苦笑した。

 守秘義務が課せられたのは、ベニートの諸々(もろもろ)の転移魔術についてだ。


「どこかに洩れ出していたら問答無用で殴るからな」

「待て待て。殴るのはせめて俺だと確定してからでいいだろ。いや、そもそも洩らさねぇけど」

「いいや、洩れた時点で犯人はお前だ。開発者本人のベニート様はもちろん、俺とリーダーが口を割るわけないからな」

「いや、リーダーはともかくお前は違うだろ。むしろ、俺よりお前のほうが口を滑らせそうだけどな」

「同感です」


 ソフィがウンウンとうなずいた。

 真面目な表情のまま、彼女は続けた。


「夜の店で三回戦くらいした後に誘導尋問に引っかかって機密情報暴露しそうな顔してますから」

「どんな顔だよ」


 トンマーソは吹き出した。

 その上品な見た目と真面目な表情で、唐突な下ネタを打ち込まないでほしい。

 ギャップが面白すぎるから。


 意外と下ネタもいける——というより自分からぶっ込んでくる——ところも、彼女が冒険者たちに慕われている理由の一つだろう。

 知らんけど。


「あー、笑った……それじゃあ、俺はこの辺で失礼しようかな」

「おう、じゃあな」

「また——お会いしましょう」


 陽気に手を振るリカルドに対して、ソフィの顔には意味深な笑みが浮かんでいた。


 あぁ、やっぱり彼女にはバレているのだろう。

 トンマーソが近日中に再び冒険者ギルドを訪れることを。

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