第58話 レオの葛藤
コンソラータは、Cランク以上かつ霊を視認できるという条件こ該当者がレオとサーナ、そしてフラヴィオであったことを、ギルド長のステファノに報告した。
「その三名に任せよう」
ステファノは苦々しい表情こそ浮かべたものの、ほとんど迷わなかった。
「……逆に危険ではありませんか?」
「いや、霊の強さがわからない以上、人数が多いほうが望ましい。フラヴィオも最近はおとなしくしているし、自身にも危険が及ぶ可能性があるんだ。下手な真似はしないだろう」
「……わかりました」
コンソラータは引き下がった。
ステファノの意見も一理ある。
感情論を除けば、反論材料は見当たらなかった。
職員を走らせる。
まずフラヴィオ、続いてレオとサーナがやってきた。
レオは、最初は肉を食べたかったとブー垂れていたが、人命に関わる話だとわかった途端、真剣な表情を浮かべた。
これだから、彼のことは憎めないのだ。
こういう側面があるからこそ、貴族の次男で、追放されて半年ほど行方不明だったという、なんともとっつきにくいキャラであるにも関わらず、彼は皆から受け入れられるのだろう。
ギルド長直々の要請を、三人は快諾した。
フラヴィオが了解の意を示したとき、声にならないざわめきがギルドを包んだ。
「一度APDの調整をしてきてもいいすか?」
「あぁ、もちろんだ」
サーナの要求を、ステファノは了承した。
コンソラータにその経験はないが、魔物と霊ではアプローチが大きく異なるらしい。
使用する技も変更する必要があるのだろう。
「こちらに戻ってくる必要はない。調整が終わり次第、現地に向かってくれ」
「わかりました——レオ、意見がほしいので、ついてきてもらって良いっすか?」
「おう」
「フラヴィオさんは、お手数ですが、先に現場付近へ行って情報収集をしていただいても良いっすか?」
「わかった」
他人に指示されたというのに、フラヴィオは嫌な顔一つしなかった。
その表情は、いっそ穏やかといえた。
「レオ君にこっぴどくやられて、フラヴィオさんもおとなしくなりましたね」
「……ええ」
後輩職員のイラーリアの耳打ちにうなずく。
しかし、コンソラータの胸に巣喰った不安が消えることはなかった。
◇ ◇ ◇
サーナのAPDの調整を終え、フラヴィオとおちあい、霊が出現したとされるカーボ迷宮に入る。
フラヴィオ曰く、一つのパーティーがまだ中に入るかもしれないとのことだった。
真面目に情報収集をしていたようだ。
彼が改心したのか、しぶしぶやっているだけなのか、はたまた他に意図があるのかわからないが、レオにとってはどうでもいいことだった。
中の魔物は強くてもCランクだったため、足止めをくらうことはなかった。
第三層に降りると、悲鳴が聞こえた。
一斉に駆け出す。
一目見て強敵だとわかる霊が、一人の男の【球状結界】を破ろうとしていた。
「あれだ!」
レオは【魔力弾】を放った。
速度重視の攻撃だったが、霊は素早い反応で回避した。
「大丈夫っすか?」
サーナが男に駆け寄る。
「仲間が、仲間がいきなり死んで……!」
「大丈夫。落ち着いて」
取り乱す男を、サーナがなだめる。
そちらは任せ、レオは霊に意識を集中させた。
相手は、おそらくキアーラの霊以上。
すでに【第一の扉】は解放しているが、一人で相手をするのは骨が折れそうだ。
フラヴィオと組んだところで足手まといにしかならないし、魔力を節約しつつサーナを待つべきだろう。
レオが最初に攻撃をしたためか、霊はレオに狙いを定めたようだ。
好都合だ。
【魔力弾】と【薄円斬】を放つ。
足止めには十分な量だと思われたが、霊はそれをかいくぐってレオに突撃してきた。
「おお、マジか!」
先端の鋭い触手に【角状結界】で対応する。
防ぎきれないものは【意操剣】で切り捨てた。
「この距離はあぶねーな」
【爆裂砲】で吹き飛ばす。
近くで見ても、霊の根源であり弱点であるコアは見当たらなかった。
体の最奥にでも隠しているのだろう。
「こりゃ、厄介そうだな」
先程よりも多くの【魔力弾】と【薄円斬】を生成する。
「加勢する!」
突然、フラヴィオが霊に斬りかかった。
構わずレオは射出した。
フラヴィオが巻き込まれてもいいと思ったわけではない。
参戦のタイミング的に、フラヴィオにはレオの攻撃を避ける算段があってしかるべきだったからだ。
しかし、フラヴィオは被弾した。
【薄円斬】が腕をかすめたのだ。
致命傷ではないが、流血している。
「あいつ……わざとか?」
普通に考えてありえないが、レオにはフラヴィオが故意に自分の攻撃を受けたようにしか見えなかった。
一連の行動はあまりにも不可解だ。
しかし、考察を巡らす暇を、霊は与えてくれなかった。
フラヴィオが退くのを横目で確認して、レオは彼のことを頭から追い出した。
霊に襲われていた男が、サーナに支えられる形で立ち上がる。
少し落ち着きを取り戻したようだ。
「フラヴィオさん。この人——ジャンルカさんをギルドまで連れて行ってくれないっすか?」
「わかった」
存外素直にうなずくと、フラヴィオはジャンルカを伴って、第二層へ続く階段へと歩き出した。
サーナが走ってきて、レオの隣に並び立つ。
「お待たせっす」
「おう——行くぞ」
「はい」
レオは【意操剣】を構え、サーナは【操縦弾】を生成した。
◇ ◇ ◇
戦いは、キアーラの霊と対峙したときと同じような展開になった。
押してはいるが、決め手に欠ける。
しかし、一点だけが決定的に異なっていた。
コアだ。
キアーラのときはコアがむき出しになっていたので、倒そうと思えばいつでも倒せた。
しかし、今回の霊はコアをしっかり覆っているのだ。
人であったころの記憶が完全になくなるにつれてコアに対する攻撃への警戒が強まる、という話を聞いたことがある。
原理はわからないが。
攻防の中でコアのおおよその位置だけは判明していたが、けずり切るには現状では火力が足りなかった。
【第二の扉】を解放すれば、おそらく倒せるだろう。
しかし、レオはその決断を下せなかった。
【第二の扉】の解放は、魔力の消費が激しい。
霊を倒すことはできても、魔力が尽きてしまうかもしれない。
魔力がなくなること自体が怖いわけではない。
レオが恐れているのは、魔力切れによって引き起こされる可能性のある、吸血の勇者の血の暴走だった。
以前、ソフィがその可能性を指摘していた。
もし、ここで【第二の扉】を解放してガス欠を起こしたら、吸血の勇者の血に支配され、サーナを傷つけてしまうかもしれない——。
その危惧がレオの判断を、ひいては動きを眠らせていた。
「ぐわっ⁉︎」
サーナが霊の攻撃を受けて吹っ飛ぶ。
「サーナ!」
「だ、大丈夫っす」
サーナが素早く立ち上がり、体勢を整える。
その表情には若干の疲労が見られた。
対して、迷宮内の魔力をフル活用できる霊はピンピンしている。
見た目以上に厳しい状況だ。
ちくしょう。どうする。どうすればいい——。
葛藤するレオの耳に、サーナの声が届いた。
「レオ、一旦霊の相手を任せていいすか?」
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