第57話 いいコンビ
「ソラさーん!」
明るい声が聞こえ、コンソラータは顔を上げた。
予想通り、レオがブンブンと手を振りながら近づいてくる。
サーナも一緒だ。
それぞれ、魔物の死骸を乗せた荷馬車をひいている。
Sランクの魔物も混じっていた。
「相変わらずイカつい登場ですね」
Sランクの魔物、グリベアを倒したことで、二人のパーティー【ホワイト】、そして各々の個人ランクはすべてSランクに上がった。
そのため、緊急事態でなくとも合法的にSランクを狩れるようになったのだ。
魔物の査定をして、コンソラータは報酬を提示した。
おお、とレオが瞳を輝かせる。
「お疲れさまでした」
「おう、サンキュー! さーて、次は——」
「レオ。今日はここまでにするっすよ」
依頼掲示板に突撃しようとするレオを、サーナが襟首をつかんで止める。
「えー、まだ戦い足りねーんだけど」
「そのくらいでやめておくのが大事なんすよ」
「おーん……」
レオが渋々といった感じで引き下がる。
明らかに不満そうだ。
「そういえば、いつも通っている肉屋の主人が、今日はいい肉が手に入ったって言ってたっすよ」
「おい、サーナ。早く行こうぜ!」
レオがサーナの手を引いて、小走りでギルドの出入り口へ向かう。
実年齢以上に幼く見える無邪気な笑みをたたえるその口元からは、よだれが垂れていた。
依頼を受けたがっていたはずの彼の脳内は、すでに肉のことで埋め尽くされているのだろう。
彼に引きずられるようにしてギルドを出て行くサーナの顔には、あきれたような苦笑が浮かんでいた。
◇ ◇ ◇
「なんだ、戦い足りねーって」
コンソラータの隣を歩くアレッサンドロが苦笑した。
彼には現在、レオたちの荷馬車を運ぶ作業を手伝ってもらっている。
頼んだわけではない。
自ら申し出てくれたのだ。
正直、一人で運ぶのは少し面倒だったので——それだけ二人がたくさんの魔物を倒したということだ——、その厚意に甘えている。
「なんでSランク複数体とやりあった後に、体力と気力が残ってやがるんだ」
「まあ、あの二人ですから」
「その一言で納得しちまうのがむかつくよな」
アレッサンドロの悪態が止まらない。
他の人、それこそサーナなどが聞いたら、普段よりも口が悪いと驚くだろうが、コンソラータの前では常にこんな調子だ。
「なによりむかつくのが、あいつらがどっちもいい子だってことだ」
「それでむかつかれたら、彼らもたまったもんじゃないでしょうね」
レオとサーナがいい子だというのには、コンソラータも全面的に同意だ。
レオも、サーナと同様に第一印象は良くなかったが、心根の優しい少年であることはすぐにわかった。
今思えば、フラヴィオたちを徹底的に潰したのも、復讐心を抱かせないためだったのだろう。
「あいつら、いいコンビだよな」
「そうですね。活動的なレオ君と、冷静なサーナちゃん。能力的にも性格的にもバランスが取れています」
「実戦でも生活でも、完全に何も考えずに突っ込む前衛と冷静に舵取りをする後衛だもんな。だっつーのにレオ君だって油断はしないし、サーナちゃんも臆病ってわけじゃなく、度胸や決断力はちゃんとあるからな」
アレッサンドロがこれ見よがしにため息を吐いた。
「あいつらがずっといてくれれば、ロット領は安泰なんだけどなー」
「けど、そうはならないでしょうね。あの二人は霊を視認できる。あんな逸材を、国防軍がいつまでも放っておくとは思えません」
「だよなー……国防軍からの要請があったとして、断れねえの?」
「本人たちが拒否しない限りは、まず無理でしょうね。基本的に、国防軍は冒険者ギルドより立場が上ですから」
それに、コンソラータは付け加えた。
「最近は、王都に出現する魔物や霊も強くなっているそうですから。王家や有力な貴族の後ろ盾のある国防軍には勝てませんよ」
「魔物が強くなってるのはどこもそうだけどなぁ。それこそ、グリベアだって、今まで生息していなかった場所に現れたんだし。あの二人がいなかったら、かなりの被害が出ていたぞ」
「そうなんですけどね……でも、こっちに霊は出ませんし」
「まあなー……」
アレッサンドロが、頭の後ろで手を組んだ。
理解はしているけど納得もできない、といった感じだ。
「彼らがいなくなったときには【グロリオサ】が当ギルドの中心になるでしょうから、頼りにしていますよ——アレックス」
「ちょっと荷が重いな」
全国的に見ても数少ないSランク冒険者パーティー【グロリオサ】のリーダーであるアレッサンドロが、燃えるような赤髪をかいて苦笑した。
受付に戻ると、なにやらギルド内がざわついていた。
「本当なんだ!」
大声が聞こえる。
一人の冒険者が騒いでいた。
ギルド職員や他の冒険者がなだめているが、興奮が収まらないようだ。
加勢に行こうとすると、肩を掴まれる。
「待ちたまえ、コンソラータ君」
「ギルド長……⁉︎」
彼が表に出てくるのは珍しい。
なにかあったのだろう。
「これはどういう状況ですか?」
「端的にいうと、カーボ迷宮で霊が出現した」
「なんですって⁉︎」
コンソラータは思わず大声を上げてしまった。
カーボ迷宮はロット領内にある迷宮の一つで、その難易度は中くらいといったところだ。
主に出現する魔物のレベルはCランク以下で、最高でもBランクまで。
Aランク以上が出ることはまずないし、ましてや霊が出現するなどありえないはずだった。
ギルド長であるステファノが、取り乱している冒険者に目を向けた。
「彼のパーティーのリーダー、エマヌエーレが一刀両断されたようだ。遺体を見たが、きれいに胴体を真っ二つにされていたよ」
「まじかよ……!」
アレッサンドロが驚愕の表情を浮かべた。
驚いているのはコンソラータも一緒だった。
エマヌエーレは知っている。
堅実なことで知られるBランク冒険者だ。
レオやサーナのせいで感覚が麻痺そうになるが、Bランク冒険者も充分実力者の部類に入る。
「彼の取り乱し方も異常だ。よって、私は本件を霊の仕業と認定した。コンソラータ君。至急、霊を視認できる者を集めてくれ。最低でもCランク以上、できればBランク以上が望ましい」
「わかりました」
ギルドのカウンターの奥へ向かい、地下へと続く階段を駆け下りる。
地下室の扉を開け、奥に設置されているパスコンを起動させる。
いずれは謎に高性能すぎるこの機器の仕組みも解明したいが、今はそんなことはどうでもいい。
「霊が視認できてCランク以上……と」
条件を絞り込んで検索をかける。
三名ヒットした。
「レオ君とサーナちゃんと、あと一人は……なっ⁉︎」
最後の一人の名を見て、コンソラータは愕然とした。
フラヴィオ・カランドラ——!
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