第22話 監獄迷宮での生活⑤ —ミアの真意—
「レオさんはもう先に行ってくれていいからさ。あの霊の相手は私に任せてくれない?」
——あーあ、なに言ってんだろ、私。
ミアは自分自身に呆れていた。
レオと二人なら確実に倒せる。
監獄迷宮で他人に気を遣う余裕なんてないはずなのに。
「なんでだ?」
「ちょっとね。試してみたいことがあるんだ」
「新技か?」
「ま、そんなところ。だからレオさんは先に行ってくれていいよ」
パーティーメンバーでもない相手に手の内を見せたくないという魔術師は多い。
これでレオも引き下がるだろう——、
「嘘だろ」
「——えっ?」
「新技を試すって、嘘だろ」
ミアはじっとレオの顔を見た。
だめだ。完全に嘘だって見抜かれている。
「……なんでわかったの?」
「なんとなくそうじゃねーかって思ったんだ。なにかを試そうとしているやつの表情じゃなかった。そういうやつは大抵テンション上がってっかんな。で、なんでお前一人で戦おうとしてんだ?」
レオが鋭い視線を向けてくる。
ミアは観念した。
「……あの霊を助けたいの」
「助ける? 元の人格を引っ張り出すってことか?」
「うん。まだ完全には悪霊化していない。今ならまだ間に合う」
霊は、本来はあの世に行くはずだった魂が強い想いや感情とともに現世に残った状態だ。
今回の敵のように大抵は悪霊化してしまうが、完全にそうなっていない限り、元の人格を引っ張り出すことは可能だ。
「悪霊化し切ってねえってわかるのか?」
「うん」
ミアは自信を持ってうなずいた。
あの霊にはまだ人間の心が残っている。
直感や第六感などというあやふやなものではない。
わかるのだ。
そういう固有魔術を持っているから。
【自意識過剰】。
それがミアの固有魔術の名称だ。
相手が自分に向けている感情がわかるというものだ。
最初にレオに出会ったときに攻撃してしまったのも、彼から攻撃の意思が伝わってきたからだった。
さすがに相手の考えまで読み取ることはできないが、それが自分に向けられた感情であるならば、大抵のものは感じ取れる。
そしてミアは感じ取ってしまった。
霊の心の奥底にある深い悲しみを。
悲しみはこちらを襲うたびに増大した。
相手はすでに死んでいるのだと自分に言い聞かせても、どうしても消滅させることに抵抗を覚えてしまう。
正義感が強いわけではない。
優柔不断で決断力がないだけだということは、ミア自身が一番わかっていた。
だからこそ、レオを付き合わせるわけにはいかない。
出会ってからここまで、彼には色々と助けてもらった。
今だって守ってもらっている。
これ以上、迷惑をかけるわけにはいかない。
「けど、これは単なる私のわがままだからレオさんは——」
「よし、やるぞ」
「……えっ?」
ミアは目を丸くさせた。
今、なんて?
「たしか、霊を攻撃し続けたら元の人格を引っ張り出せるんだよな?」
「え、うん……って、ちょっ、ちょっと待って!」
レオのペースに飲まれそうになり、ミアは慌てて制止した。
「これはあくまで私の勝手な自己満足だから。レオさんには関係ないよ。こんなことに付き合わせるわけにもいかないし、先に行っていいよ。というか先に行って」
「いやだ」
レオは間髪入れずに首を振った。
「いやだって——」
「お前が自己満であの霊を助けるなら、俺は俺の自己満でお前を手伝う。それなら良いだろ?」
レオはニカッと笑った。
ミアは反論できなかった。
固有魔術【自意識過剰】により、彼の言葉がすべて本心であるとわかってしまったから。
この少年は、相手を疑うということを知らないのだろうか。
「よし、じゃあやるぞ」
レオはやる気満々だ。
ミアは説得をあきらめ、隣に並んだ。
ここで押し切られてしまうのも自分の弱さなのだろう。
ミアは自己嫌悪に陥った。
今だって「レオがやると言ったんだから仕方ない」と自分に言い訳をしている。
……いや、よそう。
今は目の前の敵に集中するんだ。
「霊はすべてコアを持っている。体の中心に水色の結晶があるはずだから、まずそれを探そう。うっかり壊したら元の人格ごと消滅しちゃうから」
コアは霊の核となる部分だ。
それを壊せば霊は消滅する。元の人格とともに。
「わかった」
レオがAPDを操作して、剣を持ち替えた。
持ち手には二つのボタンがついている。
「まさか……【意操剣】⁉︎」
衝撃だった。
魔力で生成できる剣には、スタンダードの【並魔剣】以外にも、刀身の長さや強度を自由に変えられるものがある。
その中でも、特に扱いが難しいのが【意操剣】だった。
強度や長さをすべて自由に調節できる代わりに、調節に失敗するとただのナマクラになってしまう諸刃の剣。
実際、調整に失敗してしまう魔術師は多く、その隙に魔物に殺される事故は過去に何件も起きている。
ついたあだ名は「使い手殺し」。
まさか、その使い手に出会えるとは。
「っと」
ミアは首を振った。
感心している場合ではない。
剣を生成し、レオの斜め後ろに立つ。
「よっしゃ、やるぞ!」
「うんっ」
レオが一直線に霊に突っ込んでいく。
ミアもその後に続いた。
「面白い!」「続きが気になる!」と思った方は、ブックマークの登録や広告の下にある星【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくださると嬉しいです!
皆様からの反響がとても励みになるので、是非是非よろしくお願いします!




