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吸血の勇者〜自分を疎んじていた家族により最凶最悪の迷宮に追放された少年魔術師は、唯一無二の職業と固有魔術の力で最強へと上り詰める〜  作者: シャイ
第一章

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第21話 監獄迷宮での生活④ —新たな出会い—

 振動を感じて、サーナは目を覚ました。


「ずいぶん寝とったのぉ」


 祖父のアンドレアが呆れたように笑った。

 窓から見える景色の流れが早い。

 馬車でロット領に向かっている最中であることを思い出す。


「サーナ様、お口から聖水が湧き出ていらっしゃいますよ。お望みなら私が吸い取って——」

「遠慮しておくっす」


 差し出されたハンカチを受け取り、聖水改めよだれを拭き取る。


「今どのあたりっすか?」

「もうすぐロット領に入ります」


 サーナは拳を握りしめた。

 いよいよ、レオを救うための戦いが始まるのだ。


 自らの力で監獄迷宮に挑むのか、金と実績を(ひっさ)げて勇者パーティーに頼み込むのか、はたまたそれ以外の選択肢か。

 いずれにせよ、まずは冒険者として成り上がる必要がある。


 大丈夫。

 レオは必ず生きている。


 ただ、いくら彼でも一人でずっと迷宮にいるのは寂しいはずだ。

 だから、なるべく早く迎えに行ってやらないと——。


 肩にそっと手が置かれる。

 アンドレアだ。


「もっと肩の力を抜くのじゃ。今から気張っていては身がもたんぞ」

「……はい」


 サーナは深呼吸を繰り返した。

 冒険者として成功する一番の近道は近道をしようと思わないこと——。


 ロット領で冒険者をすると決めた日からアンドレアに口酸っぱく言われていることだ。

 元SSランクの祖父の言葉には説得力があった。


「そうですよ。それにあのレオ様のことですから、なんやかんや迷宮生活を楽しんでいますよ。見たこともない魔物を(あぶ)ってうめえうめえ言っているはずです。まったく、こんなにもサーナ様の心を揺さぶっておいて、イけない(ひと)でございますね」

「後半なに言ってんのかわからないっすけど、前半部分は十分あり得るっすね」


 レオがリスのように頬をパンパンに膨らませている姿が容易に想像できて、サーナは笑みを漏らした。

 握りしめていたはずの拳は、いつの間にか解けていた。




◇ ◇ ◇




 まさか自分がサーナたちの想像通りのことをしているとは知らないまま、レオは炙った魔物を頬張っていた。


「おっ、うめえ!」


 縦長の胴体に何本もの足が生えた、虫のような見た目の魔物だ。

 レオは見たことがないものだったが、これがなかなかに美味しい。


 三匹目にかかろうとしたとき、魔力の気配を感じた。

 ゆっくりと近づいてくる。


「食事中はやめてくれよー」


 さっさと片付けてしまおうとAPD(エーピーディー)——魔術発動補助機器——に触れたその瞬間、水色の弾が飛んできた。


「えっ? ——うわっ!」


 咄嗟に【角状結界(シールド)】で防ぐ。

 間髪入れずに次弾が飛んできた。


「わったった! なんだ⁉︎ 魔術を使う魔物か⁉︎」

「——えっ?」


 高い声が聞こえた。

 人間の女の子の声だった。

 弾の雨が止む。


「おーい、誰かいるのかー?」


 レオは警戒体制は緩めないまま呼びかけた。

 壁の向こうからそろりと姿を現したのは、オレンジ髪の女の子だった。


「お前、人間か? 魔物が化けてねーよな?」

「そっちこそどうなの?」

「俺はこいつで証明できるぞ。さすがに魔物は持ってねーだろうし、自分以外は使えねーからな」


 レオはAPDを掲げた。


「たしかに……それを言うなら私もだよ」


 女の子が左手を掲げる。

 レオと同じように、その手首にはAPDが巻かれていた。


「まさか人と会うなんて……そこでなにをしていたの?」


 距離を保ったまま、女の子が尋ねてくる。


「飯食ってたところだ。お前は?」

「探索だよ」

「そっか。飯食うか? 少しなら余っているぞ」


 レオは自分の背後を示した。

 ナンパではない。

 情報共有は大事だし、久しぶりに人と話したいというのもあった。


「遠慮しておくよ。監獄迷宮で出会った見ず知らずの他人から食べ物をもらうなんて——」


 グゥ〜。

 間の抜けた音が響いた。


「——あっ」


 女の子の顔が真っ赤に染まった。


「なーんだ。腹減ってんじゃんか!」

「っ……!」


 女の子が赤面したままワナワナと拳を振るわせた。

 しかし、レオはそれに気づかない。


「なら遠慮すんなよー。迷宮では食えるときに食っとかねえとやべえぞー」

「……じゃあ、いただくわ」


 女の子が恐る恐る近づいてくる。

 そこでようやく、レオは彼女の頬が赤いことに気づいた。


「どうした? 顔赤ーぞ。熱でもあんのか?」

「違うよ!」

「なんで怒ってるんだよ?」


 レオは左右の手で一匹ずつ魔物の炙りを差し出した。


「……ありがと。でも二本は悪いよ」

「おん? 違うぞ。どっちか選べ」

「あぁ、そういうこと」

「お前、迷宮で食いもんもらうの初めてか?」

「えっ? うん。普段あんまり潜らないから……なに、これ冒険者では当たり前のルールなの?」

「おう。お前に選んでもらって、残ったほうを先に俺が食べる。そうすりゃ毒が入ってねえことの証明になんだろ?」

「なるほど……じゃ、こっちいただきます」


 女の子がレオを見ながら片方を受け取った。

 当然どちらにも毒は入っていないので、レオは残ったほうにかぶりついた。


「うん、うめえ!」


 レオがためらいもなく口にしたことに安堵したのか、女の子も食べ始める。


「……あっ、美味しい」


 無我夢中で食べた後、女の子はごちそうさま、と手を合わせた。


「ありがとう。めっちゃ美味しかった。なんの魔物?」

「名前はわかんねーけど、あれだ」


 レオはまだ炙っていなかった魔物の死体を指差した。

 すると、


「……キャアアアア!」


 甲高い悲鳴がこだました。


「おわっ、な、なんだ⁉︎」

「ねえ!」


 女の子がレオにずいっと顔を近づけた。

 胸ぐらを掴まれる。


「なにあれ⁉︎ なにあれ⁉︎ ほぼほぼむ、ムカデじゃない! あんな気持ち悪いの食べてたの⁉︎」


 力任せに前後に揺らされる。


「ちょ、き、気持ち悪くなっからやめろ!」


 ——それから半狂乱の女の子が正気を取り戻すまで、かれこれ十分ほどを要した。




「ごめんなさい、取り乱しちゃって……あと、さっきのことも。いきなり襲っちゃってごめん。ここ魔物強いから、やられる前にやらなきゃって思っちゃって……」


 ミアと名乗った少女はぺこりと頭を下げた。


「いいよ別に。どっちにも怪我はなかったんだし、迷宮じゃその心構えじゃないと本当に死ぬかんな」

「……レオさんって、ちょっと変だけど優しいよね。食べ物もありがとう。ごめんね、もらっておいて気持ち悪いとか言っちゃって」

「別に気にしてねーよ。それよりミアはこっからどうすんだ?」

「私はとりあえず上に——」


 ミアがハッと振り返った。


「どうしたんだ?」

「しっ、なにか来る」


 ミアが口元に人差し指を当てた。

 レオはまだなにも感じられない。


 どうやら、気配を察知するのはミアのほうが得意なようだ。

 迷宮にはあまり潜っていないとのことだったので、感覚が養われているわけではないはず。

 天性の才能か、そういう固有魔術を持っているのかもしれない。


「——あれだ」


 間もなくして敵の姿が露わになった。

 レオの記憶にはない姿形をしていた。


 人間がそのまま肥大化したような胴体に、何本もの長い触手がゆらめいている。

 先端は尖っており、中には五メートルを超えているものもあった。


「あれはさすがに攻撃していいよね?」

「あぁ」


 二人同時に【魔力弾(マジカル・バレット)】を放つ。

 触手に弾かれた。


「なにあれ、防御もできるの?」

「みてーだな。ならこれは——やべっ!」


 レオとミアは同時に飛び退いた。

 二人がいた場所に触手が突き刺さる。


「っぶねえ〜」

「伸びてくるとかあり⁉︎ あの漫画のゴム主人公かよ」

「ミア、なに言ってんだ? 怖くて頭おかしくなったか?」

「おかしくなってない! でもどうする? あいつ、相当強いよ」

「だな」


 今の一撃と向かい合ったときの感じでなんとなくわかった。

 この相手は、前に戦った人語を解するヒュージ・リオンより強い。


 レオはAPD(エーピーディー)に指を滑らせた。


「【第一の扉(ファースト・トリガー)】解放!」

「えっ?」


 目を丸くするミアを残して、剣を片手に敵に突っ込む。

 触手が進路を阻むが、【第一の扉】を解放したレオにとっては足止めにもならない。


 敵に魔力の弾が襲いかかる。

 ミアの援護射撃だ。


 弾はまるで生きているかのように空中を自在に飛び回り、触手の防御をかいくぐって胴体に攻撃をする。

 おそらく【操縦弾(ドミネーション)】だろう。

 完璧なコントロールだ。


「サンキュー、ミア!」

「無茶するなぁ、レオさんは!」


 無茶もなにも、これがレオのもっとも得意とするスタイルなのだから仕方がない。


 ミアの助けもあり、あっさり敵の懐に侵入することができた。

 襲いかかってくる触手を足場にすれば、ゆうに三メートルはあろうかという敵の首に到達することも容易だった。


「悪いな、一対二で」


 水色の瞳に向かって謝罪してから首を切り落とす。

 たしかな手応え。


「ふう……ミア、ナイスアシスト——」

「レオさん、まだだ!」

「——えっ?」


 レオは背後を振り返った。

 二つの水色が、ギョロリとこちらを見下ろしていた。


 触手が襲いかかってくる。


「おおっ⁉︎」


 回避と防御を織り交ぜ、なんとかミアのとこまで駆け戻る。


「レオさん、大丈夫⁉︎」

「あぁ、ちょっと腕かすっただけだ。それよりどうなってんだ? 俺、ちゃんと切り落としたよな?」

「うん。首はちゃんと落ちたよ。けど……新しい首が生えてきたんだ」

「マジか……」


 さすがのレオも絶句せざるを得なかった。


「……そんな再生力ある魔物いたっけ?」


 基本的には、再生できるとしても四肢くらいのものだ。

 頭を再生できるものなど聞いたことがないし、だからこそレオもわざわざ首を切り落としたのだが——、


「あいつ……多分、霊じゃない?」

「えっ、霊?」


 存在は聞いたことがある。

 しかし、


「霊って王都の迷宮にしか出ねえんじゃねーの?」

「一般的にはそうだけど、でも、あの再生力はっ——!」


 ミアが息を呑んだ。


「——危ねえ!」


 レオはミアを抱えて転がった。

 頭上に風が吹く。

 触手だ。

 間一髪だった。


「ミア、大丈夫か?」

「う、うん。ごめん、ありがとう」


 ミアを素早く立ち上がらせる。

 霊からの波状攻撃がくる。


 レオは自分とミアを囲うように【球状結界(バリア)】を張った。

 なんとなく、今のミアを一人で戦わせてはいけない気がした。


 基本的に【球状結界】は【角状結界】よりも強度が落ちるが、【第一の扉】を解放している今なら問題ない。


「ミア、マジで大丈夫か?」

「うん、大丈夫」

「なら、さっきみたいにもういっちょ——」

「レオさん」

「おん?」


 レオはミアを振り返った。

 彼女の瞳には決意の光があった。


「レオさんはもう先に行ってくれていいからさ。あの霊の相手は私に任せてくれない?」

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