第14話 マンチーニ家攻防戦⑤ —実力差—
22時半に第15話を投稿します!
「そら、そら!」
「くっ……!」
ソフィはディエゴの拳を、なんとか受け流した。
いや、そのフリをしてみせた。
「どうしたどうした! 威勢が良いのは口だけか。俺の速すぎる攻撃に、手も足も出ないようだな!」
ディエゴが右、左、とリズム良く拳を繰り出してくる。
顔面や腹は隙だらけだが、防御に手いっぱいなソフィとエドアルドに反撃する余裕などないと思っているのだろう。
ここまできて、ソフィは確信した。
——この男は弱い。
エドアルドと目を合わせた。うなずき合う。
同じことを思っていたようだ。
APDを操作し、【身体強化】のレベルを上げる。
「所詮貴様らは平民なのだ。たとえ二人がかりでも、貴族である俺に勝てる道理など——へぶっ⁉︎」
意気揚々と語るディエゴの腹にエドアルドの蹴りが入る。
巨体は呆気なく吹っ飛び、地面に数度バウンドした。
「が、はっ……!」
ディエゴが血を吐く。
「まさか、反撃をくらうはずがないとでも思ってたのか? だとしたら、マジでおめでたいヤツだな」
エドアルドが鼻で笑った。
ディエゴが慌てて立ち上がった。
巨体に似合わぬ素早さだ。
もちろん固有魔術の賜物だろう。
「ふ、ふん! たまたま当たっただけで調子に乗るな!」
ディエゴがエドアルドに向かっていく。
「貴様らなぞでは所詮、俺の攻撃には対応できな——はっ?」
エドアルドに渾身の拳をあっさりと受け止められ、ディエゴが間抜けな声を漏らした。
隙だらけだ。
ソフィは腹を思い切り蹴飛ばした。
「うぐっ……!」
ディエゴが再び地面に転がる。
「あんま俺らを舐めんじゃねえぞ」
エドアルドが、ディエゴを見下ろした。
「たしかに速さは戦いにおいて重要なファクターだが、それがすべてじゃねえ。速いだけのヤツなんて、慣れちまえば怖くもなんともねえんだよ。お前みたいな固有魔術頼みの素人なら、なおさらだ」
「このっ……!」
ディエゴが目を怒らせる。
エドアルドは、口調こそ悪いが性格は悪くない。
こんなにも挑発しているのは、それが有効な相手だからだろう。
……それでいうと、やはり性格は悪いのかもしれない。
「ソフィ。あんた今、失礼なこと考えていただろ」
「まさか」
そして、あえてディエゴを無視してエドアルドと笑い合ってみせる自分も相応に性悪なのだろう。
しかし、敵に目の前で談笑されているにも関わらず、ディエゴは笑みを浮かべた。
——煽りが通じなかったのか?
そうではなかった。
「そうか。貴様ら、禁術を使ったな?」
「はっ?」
素の疑問の声が漏れる。
「禁術? なんのことです?」
「ふん、誤魔化す気か」
ディエゴが勝ち誇ったような表情を浮かべた。
「防戦一方で手も足も出ていなかった平民の貴様らが、貴族である俺の攻撃にいきなり対応し始めた。それを可能にするものなど禁術しかなかろう。大方、先程APDを操作していたときに発動させていたのだろう?」
どうだ、と言わんばかりのドヤ顔。
ソフィとエドアルドは同時にため息を吐いた。
「自信満々だったので奥の手があるのかと思いましたが……」
「ただ弱すぎただけみてえだな。けど、仕方ねえよ。実力差がありすぎると相手の実力を把握するのは難しいからな」
「ですね」
ソフィとエドアルドは、小さく笑い声を上げた。
「フン、卑怯者どもが——」
煽り返そうとするディエゴを、エドアルドの【魔力弾】が襲った。
◇ ◇ ◇
「くそっ! はぁ、はぁ……!」
ディエゴは、荒い息を吐いていた。
「いつになったら効果が切れるのだ、ヤツらの禁術は……!」
何度やられても、ディエゴはソフィたちが禁術を使っていることを疑わなかった。
貴族である自分が平民に負けるなど、普通ではあり得ない。
本気でそう信じ込んでいたからだ。
禁術は一瞬の火力は凄まじいが、反動も大きい。
タイムリミットが来るまで耐えれば良い、とディエゴは思っていた。
しかし、そのタイムリミットが訪れることはない。
ソフィとエドアルドは、ただ様子見のために制御していた力を解放しただけで、禁術など使っていないのだから。
「そろそろ現実を見ろよ。今の俺らとお前の差は、ただの実力差だ」
「フン。現実を見るべきは貴様らのほうであろう。禁術を使って勝ったとて——なっ⁉︎」
ディエゴの目の前で弾が曲がった。
「【操縦弾】……!」
慌てて背後から迫ってくる魔力の弾に対処する。
意識を正面の二人に戻した瞬間、顔面に衝撃を覚えた。
体が壁にめり込む。
「がはっ……!」
地面に血だまりができる。
それが自分のものであると理解するのに、少し時間がかかった。
「さて、と。そろそろ終わりにするか」
「ええ」
エドアルドとソフィの目つきが鋭くなる。
殺されるかもしれない——。
生存本能に根付いたその恐怖は、ディエゴに最後のプライドをがなぐり捨てさせた。
相手は禁術を使っているのだから、勝てなくても仕方がないだろう——。
心の中で言い訳をして、ディエゴは叫んだ。
「ヴァレリオ!」
◇ ◇ ◇
「ヴァレリオ!」
ディエゴの突然の叫び。
ソフィとエドアルドは、サーナたちと交戦しているマンチーニ家騎士団長を見た。
彼は後方に跳び、サーナたちから距離をとった。
その指がAPDをすべる。
攻撃は来ない。
「しまった、陽動だ!」
ソフィは慌ててディエゴに視線を戻し——、
「なっ……!」
絶句した。
四肢と口を縛られた女性がディエゴに抱えられ、首元に剣を突き立てられていた。
一体どこから現れたのか。
そんな疑問は、女性の顔を見ると吹っ飛んだ。
「……フラ⁉︎」
見間違えるはずがない。
目に怯えと涙を浮かべているその女性は、ソフィの幼馴染のフランチェスカだった。
「お前……!」
ソフィはディエゴを睨みつけた。
マンチーニ家の当主はニタァと笑った。
「面白い!」「続きが気になる!」と思った方は、ブックマークの登録や広告の下にある星【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくださると嬉しいです!
皆様からの反響がとても励みになるので、是非是非よろしくお願いします!




