残念な兄妹
「あなたも女性から大人気じゃない」
「なんででしょう。神殿でおばさまの名代してる時、黄色い悲鳴がちらほらと」
「あなたってとっても格好良く見えるんだもの。おっぱいのついたイケメンって言ったかしら」
「おばさま、結構色々俗世間の言葉仕入れてきてますよね。どこで」
「この歳でも乙女小説が大好きなの。夫が居た時も、可愛らしい趣味って微笑まれたわ。今でも思い出せるくらい」
「おばさまの乙女小説の蔵書数、軽く古本屋開けそうですもんね」
「神殿の若い女神官の皆も、お金を使わない健全な娯楽として、借りに来るのよ」
「もはや小規模の図書館だった」
「図書館で借りるのが恥ずかしいって子、多いのよ? 神官が乙女小説なんてって思って我慢してた子もいたくらい」
「乙女小説くらいがですか。そんな事言ったら私の冒険小説趣味どうするんですか」
「あなた執筆友達とリレー小説書いていたけれどあれはどうなったの?」
「結末まで書き上がって、誰かが推敲して、誰かが校閲して、神殿の週報の端っこに連載する許可もらうって言ってました」
「あなた達の行動力の方が驚きだわ」
大神官のおばさまにそう言われても仕方がない。何しろ自分達でなんでこんなに行動力があるんだろうと、笑った執筆仲間達なのだから。
職業も様々年齢層も様々、そんな私達は神殿の掲示板での言い出しっぺが掲示した、執筆仲間募集の広告で集まった集団だ。
人数は八人。その中でも一番に職業がおかしいのが残念ながら私だ。
まさか、次期大神官ほどの方まで、と顔合わせの時にものすごく驚かれた。
その際に
「暴れる趣味を持っちゃいけないって大多数から止められちゃって」
なんて言ったら、私が大神官の跡取りになる前の、ギルドの受付時代にやった大立ち回りその他を知っていた人が、納得した調子で頷いた。
「あれ、未だに金の鵞鳥亭で語り継がれてますからね」
「酔っぱらいの剣士と武闘家三人を相手に、ギルド受付嬢に対して性的発言を繰り返した彼等を足技だけで叩きのめして頭から酒を被せたという」
「あれほどの攻撃能力の高いやり返しは今まで誰も受付が行わなかった、と」
当時ですら、事の次第を聞いた私の王様から
「あまり派手に暴れすぎてはいけない。そもそもお前の身に何かあったらどうするんだ」
とあの表情筋の固まった顔の中いっぱいに、呆れたという色をにじませた事を言われて、落ち込んだ。
未だにそれを蒸し返されると、なんと反論したらいいかわからないのがこの大立ち回りだった。
「冒険小説を書くのに、あなたの人生経験って何かネタになったかしら」
「えーっと、夜の森の中を孤独に歩く心情や描写がとっても現実的って褒められました」
「それっていい事なのか悪い事なのか微妙ね」
「でも、あの時にあの道を一人で頑張って歩いて、バロに出会えたから今の私がいるんです。そう思うと、あの時の怖かった気持ちや心細かった気持ちも、軽くなる気がしますね」
「……」
おばさまは小さな子供がひどい目に遭う事をとても嫌っている。それはおばさまのお子さんが、とても小さい時にとばっちりを食らって、亡くなってしまったから。
そしてその時に、おばさまはお子さんを守り切ろうとしたけれど、出来なかったのだ。
その際に受けた傷や毒の結果、おばさまはご自分の子供が望めなくなったというのも、小さな子供を守るという気持ちを強めている理由だろう。
なんで神様は、こんなに優しくて暖かくてすばらしい性質のおばさまに、そんな試練を与えたんだと言いたくなる時が、私にはたまにある。
「でも、あなたの話を聞いて今度の広報誌が楽しみになったわ。二ヶ月前に連載小説が大団円で完結して、新しいものが来ないかしらって、若い子達と話していたんだもの」
「あの人気作家の後という事もあって、若干期待が大きすぎる気もしますが、きちんと素人のリレー小説だという事は明記します」
「あら、知っている? 人気作家も最初は素人なのよ。それにあの広報誌の小説の始まりは、文字を覚えたい人が興味を持てるようにという事で、素人も素人、神官の見習いの人達が始めた事なの。そう考えると、あなた達のリレー小説は近いのよ」
安心していいのか。しかし、別に印税などをもらうわけでもないし、ちょっと余白を埋めるだけのものだから、そんなにビクビクしなくてもいいんだろうとこの時思った私だった。




