↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
35/76

穢れた心

 

 思いがけない告白だった。


 オーナーは私に嘘を吐いたという。

 それは一体いつ、何を、なんのために?


「僕は……魔法を使うには代償が必要だと、君に伝えた。魔法を使ったらその代わりに、しばらく眠りについてしまうと。でも本当は、僕の魔法が未熟でなければ、代償を払う必要はないんだ」


 そう説明する彼の瞳は、どこか不安げに揺れていた。


 魔法が未熟でなければ、代償を払う必要はない。

 その言葉の意味を、私は頭の中でゆっくりと咀嚼(そしゃく)する。


「それは、つまり……魔法の代償を払わなくても済む方法があるってことですか?」


 私の問いに、彼はこくりと頷く。


 彼の言う『未熟』というのがどんな程度のものなのかはわからないし、彼がなぜこんなにも不安な顔をするのかもわからない。


 ただ私には、彼が今口にしたこの事実は、むしろ朗報ではないかと感じられた。


「では、その魔法のスキル? を上げることができれば、魔法の代償のことを心配しなくても済むってことですよね?」


 たとえそれがどれだけ難しいことだったとしても、達成できる可能性はゼロじゃないはず。

 そう思うと、先ほど話したカフェのことも、オーナーのこれからのことについても、希望の光が見えてくる。


 しかし浮き立つ私とは対照的に、オーナーの表情は未だ晴れない。


「スキル……とは、少し違うかもしれない。僕の魔法が未熟なのは、僕の心が(けが)れているからなんだ」


「え」


 心が穢れている。

 およそオーナーのイメージからはかけ離れた言葉だった。


「ど、どういうことですか? 穢れているって……」


「文字通りの意味だよ。僕の心は穢れている。自分勝手で、本当の意味で人に優しくすることができない。だからこそ、僕の魔法は未熟なんだ」


「そんな。優しくできないなんて、そんなはずはないです。だってオーナーは、いつも私やルナさんたちのことを大切に扱ってくれますし……それに魔法だって、いつも自分のためではなく人のために使っているとルナさんも言っていましたし」


 心が穢れている人というのは、自分の利益のことばかり考えて、他人を簡単に傷つけてしまうような人のことではないだろうか。


 オーナーは、その対極にいる人と言ってもいい。

 少なくとも私の目に映る彼はそうだった。


 彼は常に自分のことよりも、他人のことを優先する。

 そんな思いやりのある人の心が穢れているだなんて、私には到底思えない。


「何かの間違いじゃないですか? だって、以前私の前で魔法を使ったのだって、私のためを思ってのことだったんでしょう?」


 先日、メイド服の袖を汚して泣いていた私を見て、彼は魔法を使った。

 それはまぎれもなく、彼自身ではなく私のための行動だった。


「……確かに、魔法を使うのは『誰かのため』だよ。僕ら一族の魔法はもともと、人の願いを叶える形で発動するものだから」


「そうなんですか?」


 だったら尚更——と言いかけた私を遮って、オーナーは続けた。


「でも、『誰かのため』というのはただのきっかけにすぎない。僕が魔法を使うのは『誰かのため』でもあり、同時に『僕自身のため』でもある。心が穢れた僕は胸の内で、自己満足に浸っているんだよ」


「自己満足?」


「エゴなんだよ。僕は自分じゃない誰かを救ったつもりで満足しているけれど、実際には本当にその人のためになったかどうかなんてわからない。僕は僕の一方的な善意を、無理やり相手に押し付けているだけなんだ」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。