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お菓子の材料

 

          ◯



 北野異人館街にあるお店は、どこもお洒落な所ばかりだった。

 私たちが訪れたスーパーも例外ではなく、カラフルな彩りの建物に珍しい輸入品などが並んでいる。


 あらかじめリストアップしておいた商品をカゴに入れていくと、なかなかの量になった。

 カゴは私が持つつもりでいたものの、オーナーが自分が持つと言って譲らなかったので、結局は甘えることにした。


「さて。ルナに頼まれていたのはこれで全部かな。後は……」


 オーナーは一度私と目を合わせてから、今度は斜め前にある棚へ顔を向けた。

 横長の棚に並んでいるのは、袋や瓶に詰められた製菓材料だ。


「この辺りも買っていこうか。いずれまた必要になるだろうし」


「これって……」


「前に絵馬が作ってくれたお菓子、みんなにもすごく好評だったからさ。できればまたデザートを頼みたいと思ってるんだ」


 先日、私が作ったパウンドケーキ。クロが美味しい美味しいと言って食べてくれたそれを、他のメンバーたちも気に入ってくれたらしい。


 それ自体はすごく嬉しい。

 もともとパティシエを志望していた私にとって、手作りのお菓子を褒めてもらえるのはこれ以上にない名誉だ。


 それに、今ここでたくさんの材料を買ってもらえれば、より多くの種類のお菓子を作ることができる。


 ただ、


「……本当に、私がまた作ってもいいんでしょうか」


 先日のオーナーの反応を思い出すと、自信がなかった。


 あの日、私のケーキを口にしたオーナーは「おいしい」と言ってくれた。けれどその顔はどこか晴れなかった。

 普段から優しげな笑みを浮かべている彼が、私のケーキを食べた途端に表情を曇らせたのだ。


「絵馬、どうかした? もしかして、お菓子を作るのはあんまり好きじゃない?」


「そ、そんなことはないです! お菓子づくりだけは、子どもの頃から大好きなので」


 仕事でお菓子を作れるなんて、願ったり叶ったりだ。自分の好きなことに没頭できて、しかもお金がもらえるなんて、それ以上に幸せなことはない。

 けれど、オーナーにあんな顔をさせてしまうようなものをこれ以上提供するのはさすがに気が引ける。


「絵馬。また何か、僕らに気を遣ってる?」


 確信を持った様子で彼にそう聞かれると、もう逃げられなかった。

 

「その……」


 言いにくい内容ではあったものの、最終的に私は白状した。


「私のケーキを食べてくれた時のオーナーは、難しい顔をしていたので……もしかしたらお口に合わなかったのかなと思って」


 すみません、と私が頭を下げると、オーナーは寝耳に水とばかりに目を大きく見開く。


「僕、そんな顔してた?」


 どうやら自覚はなかったようで、見るからに慌てた様子で彼は弁明する。


「違うんだ。あの時は、ちょっと考え事をしていて……だから、ケーキが美味しくなかったわけじゃないよ。むしろ、美味しいと思ったからこそ、色々と考え込んでしまったんだ」

 

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