キオクノスープ
こんにちは!麦畑だよ( ^ω^ )
夏休み明けで浪費癖が付いてしまっている…。ところで、蟹味噌とか海老味噌って美味しいと思わない?
めでたし、めでたし。
「…じゃ、ないでしょ!!」
裏返った声だった。
「ただいまー!」
徐々に伸びる髪を纏めながら、私は声の主に帰還の旨を伝えた。
「速っ!?いつの間に戻ってきたの??」
「今さっき。見てたでしょ?」
肩をすくめてみせる。
「ほら…。『仕事終わったから帰りたいなー』って思ってたら、目の前に大きなゲーセンのクレーンが〜。」
言葉を飛ばし、どことなく上がり調子で指を振ってみると、その先から光の粒子が舞い散った。
「…正気?」
「おっ!なんか出た。」
正気なわけがないだろう。語りたくもないチュートリアルで散々尊厳破壊etcされたからな。だからこそ、私は無視を決め込むつもりだ。
「はぁ。いや、この際もう良いよ。一応はノルマ達成してるし。一応。」
愚かで哀れな神様は自己暗示をかけることしか出来ないようだ。
「ノルマ、って。それだとなんだか【会社員】みたいだな?」
ニヤニヤが止まらない。神を相手に人権などを考慮する必要はないので爪の先まで揶揄ってやろう。
「誠に遺憾です。ワタシの初めてを奪ってくれちゃってさ。」
残念ながら神サマはご自慢のフレーズを使えるくらいには元気らしい。
「初めて…って。お前、本当に神サマなのか?今まで罪深き人類相手によくやってこれたな…。」
最早、私はアストラに対し畏怖の念よりも呆れの感情が大きくなっていた。
「えー。そんなこと言われたら冷めちゃうよー。冷めすぎてリンネちゃんのことをバラしちゃうかもー。」
サラリと言う彼女の目は笑っていない。
「神というよりヤクザだな。そのバラすのが私の記憶だったら嬉しかったんだけど。」
溜息を吐く私の身体は四肢がもがれて胴体が雑に転がされていた。
「驚かないのね。」
「何でもありなんだろう?此処。現に、私は生首でもお前…貴方と会話出来てるわけだし。」
アストラは目を細めた。
「理解が速いねぇ。いい子だ。」
現在私達が居るのは【罪と懺悔の間】。ここは想像さえ出来れば何でも出来ると言っても過言ではない場所なのだ。そして、アストラの方が経験が多いからなのか創造対決をすると大抵の場合アストラが勝ってしまう。実際、私はアストラの許可なく彼女を触れられないが、アストラは私に幻影を見せることが出来る。なんと不平等な。これが経験の差というやつか。
「まあまあ!いずれかはキミの経験値がワタシの経験値を上回るかもしれないじゃない。それに、その前にこの空間を越えられるかもしれないし。」
彼女は私の頭へ手を伸ばしてきた。
「止めろ!忌々しい。」
私は彼女の手を払いのけた。ここで身体が透けるのではなく、あくまで軽快な音が鳴り響くだけだったのが余計に私を苛立たせる。
「いくら神でも横暴だっ。勝手に思考を読んだような口ぶりで、私のことを理解したフリをして!そんなんだから私如きに馬鹿にされるんだ。」
感情の波が押し寄せてくる。
「貴方は、に」
結局、肝心な所が創造者の元から離れることは無かった。生首の私はそれ以上バラバラにはならない。
「あ、が、ぐ、ぐぅ」
「中々に度胸のある奴だ、まったく。」
突っ込まれたアストラの指はリンネの口内で律動している。
「足りない。そう、足りないの。何が足りない?」
唾液腺から銀色の液体が吹き出し、唇を伝って闇へ溶けていく。舌は上へと押され続けて、遂には脳に到達する。水分を求めなくなったはずの身体は渇きを覚えて震える。声が出ない。考えられない。私は今、どうなっている?
足りないのは情報。混乱する頭を処理する為の情報が足りない。ムカつく神を、アストラを殺す方法。チュートリアルを傷なしでクリアする方法。記憶を取り戻す方法。
「いや、違う。」
アストラに標準を合わせ直す。そして、できる限りの力で彼女の指にかぶりついてやった。
「痛ッ!?」
アストラは思わず指を抜いてしまった。私はそれを好機と捉え、飛び出した舌をバネにして跳躍する。着地こそ上手くはいかなかったが、元々肉体なんてものは無いので痛みは感じなくできた。
「焼き加減をミスったトマトはケチャップに集約され、最終的に美味しいピザになるって知ってたか?」
溶けた身体を雪だるま式に再形成したリンネは新しい装いで挨拶した。革製のような長靴に膝ぐらいのスカート。袖が長く丈は短めの黒いローブの上は変わらずの銀髪。
「流石に、元の姿なんて覚えてないからリンネからは外れられないけど。まあ、クール・ガール程度にはなったかな。」
隠れたオッドアイを探し出そうとしたリンネだったが、しゃがんだ瞬間に足を取られてしまった。
「うわっ!?」
慌ててスカートの中が見えないように手で押さえつける。その結果、リンネはその場で膝から崩れ落ちざるをえなかった。
「すっかり女の子だねぇ。でも、美少女なワタシに噛み付く凶暴性もある。リンネちゃんのエッチ!」
アストラは意気揚々と彼女に抱きついた。当然、彼女は抵抗した。抵抗はしたのだが、調子を取り戻した神様に勝てる気はしなかった。
「クソッ!この人間野郎が。骨の一部でもへし折って貴様にぶっ刺してやりたい。」
「フフフ。ワタシには人間にはない可愛いうさ耳があるのだよ。」
攻防の勝者は敗者の頭を撫でる。否、刺した。
「ぐえっ」
「ちょっと、血の気を抜きましょうね〜。」
脳みそをちゅうちゅうされている。どうやら唾液腺から出た例の液体は、実は脳から出発していたらしい。
「なん…コレ?絶対、マズイやつぅうぅんああ」
わけが分からない。何が罪人。何がミライ改変だ。記憶喪失の女かも分からない人間に背負わせることじゃないだろう。ヤツの耳を引きちぎってやりたい。しかし残念なことに、自らの薄れる意識とは対照的にアストラに殴りかかる気力が残っていないことは明白だった。
▲▲▲▲▲
妙な感覚だ。
「あーっ!!課題エグすぎぃぃ。」
少女は背もたれに思い切り寄りかかる。
「それ、いつも言ってないか?」
男は少女を見やって半ば興味がなさそうに言う。慣れた光景なのだろう。彼はソファで横になりながらスマホからドーパミンを摂取するのに夢中らしい。
「うるさい。学校が会社なら絶対にブラック企業だよ。そんでワタシはブラック企業に勤める可哀想な会社員!あー。半沢●樹みたいに倍返ししたい。まずは教師陣をボコボコにして…。」
少女は投げやりに呟く。少女の傍では女が皿とコップとスプーンを並べている。
「そんなこと言わないの。先生達だって大変なのよ。さっ、そろそろご飯ができるわよ。」
少女が女の方を見つめる。部屋の明かりに反射して顔が見えない。
「今日の夕飯は何?」
女の動きが一瞬止まる。…変なことでも聞いただろうか。そんな心配はしたのだが、数秒後には女はまた皿を並べ始めた。
「オムライスよ。」
女は何でもないことのように答えた。
世紀末ワールドのテツの話は次話に書く予定だよ!




