猫35匹目 祝勝会
少し広めに間が開いてしまいましたね
これも地震の影響…と言えなくもないかな?(相変わらずの言い訳w
モンスター討伐イベントが終了した。
NEOの定期メンテナンスは平日の昼間に行われるので僕が大学から帰ってきてINした時には結果が出ていた。
ただ、いつもはさらりと流してしまうイベントの順位を必要以上に意識させられたのは、INした直後にドライの街の中央広場で行われていた祝勝会に巻き込まれたからだ。
「あ、お付の人、ちわっす! 今、祝勝会が盛り上がっているとこですよ!」
広場で陽気に騒いでいたプレイヤーの一人がINしてきた僕に気づいて声をかけてきた。
たまみさんのおまけで僕まで知名度がうなぎのぼりになってきているが、僕が名前を広められるのを嫌がっていることも伝わっているために僕の呼び方が”お付の人”で定着しつつある。
「祝勝会? 一体誰のです?」
「もちろん、たまみさんのですよ。
モンスター討伐イベントのイベントポイントランキング一位を取ったんですよ。
他にも野良レイドに参加していて上位に入賞した人がいますが、我々にとって一番うれしいのは効率重視で上位を狙ってた効率厨たちを押しのけてたまみさんがランキング一位を取ったことです。
誰はともなくたまみさんの一位をお祝いしようと言い出して、いつの間にかこんなに大きな祝勝会になったっすよ。」
ドライの中央広場には100人近いプレイヤーたちが集まり、賑やかに祝杯をあげていた。
その多くがグリリフォンの野良レイド戦で見かけたことのある顔ぶれだ。
これだけの人数になると大きめの酒場でもなかなか入りきれる場所はないので、広場で祝勝会をやるのもまだ仕方のないことだろう。
だがその広場の中央に特設ステージを作り、そのど真ん中でたまみさんがふんぞり返っているのはちょっとやりすぎだと思うんだが…。
「にゃ~~~」『あら、トール、やっと帰ってきたのね。』
「たまみさん、なんです、祝勝会って? 討伐イベントのポイントランキングってあくまで個人の順位だけだったと思うんですが?」
「にゃにゃにゃ?」『確かにあたし個人の成績だけど、皆の協力があってこその一位じゃない? だから、みんなが祝いたいっていうのは受け入れるべきじゃない?』
「これはたまみさんのポイント獲得一位を祝う祝勝会であり、それと同時に我々たまみファンたちの勝利を祝う宴でもあるんですよ。
順位のあるイベントの上位というのは普通はその順位だけを目指して効率だけを求めた廃人たちに独占されるものなんですが、たまみさんはその効率厨たちを退けてダントツで一位を獲得しました。
さらにMVPをたまみさんに譲ってもほかの参加者たちの獲得ポイントも結構なもので、ローテーションで交代しながらでもなおランキング上位に何人か食い込むことができました。
これもすべて、たまみさんのターゲットを固定させる攻撃力とタゲられても当然のように回避する敏捷性、そしてローテーションしながらでも常にバランスを取れるほどのレイド参加者を集める求心力によるものではないでしょうか?
故に我々はたまみさんのランキング一位獲得を祝い、我々の勝利を祝い、祝勝会をしているのですよ。」
「にゃーーー!」『そういうことなのよ、トール!』
「そんな調子のいいこと言って、単純にご馳走目当てじゃないんですか?」
特設ステージに作られたたまみさんの特等席の周りには様々な猫缶や食べ物が所狭しと並べられていた。
ただ、並べられたものを全て平らげてしまうと食べ過ぎなのはわかっているのか、その一部だけをちょいちょいつまんで残りを周囲で待機しているドライの街に住んでいる猫や犬たちに分け与えるシステムが出来ているようだ。
「さすがに全部は食べられないとわかってはいるようですね。
空腹度も100%になっちゃってますが、飽食状態にはまだなっていないようですし。」
「にゃ!にゃ!にゃ!!」『それはこれだけの量はあたしでも食べきれないってわかるわよ! だから、仕方なく周りの子に分けてあげてるの! 残念だけど仕方なく!!』
未練たらたらではあるが、いくら食い意地の張っているたまみさんでも物理的に全てを平らげることが不可能なので諦めたらしい。
ただ、その後ろでやや不穏な会話がなされている。
「なぁ、猫缶って人間が食べても大丈夫だよな?」
「そりゃ、人間が食べられない食材は使ってないんじゃないかとは思うけど、猫缶だぞ?
猫用の食べ物に手をつけるのは、人としてどうかと…」
「でも、たまみさまが手をつけられたものを下賜してくださってるんだぞ?
ここは人としての矜持よりもたまみさまのご褒美じゃないのか?」
「うーん、でもあまりやりすぎるとたまみさんから引かれちゃうんじゃない?
そこはある程度の節度を守ったほうがいいわよ。」
「まぁ、魚の刺身はもちろん、鳥ササミや馬刺しの残りは大丈夫だろう。
問題は猫まんまはいけるかどうかだな…」
「あら、今でこそ外見は猫まんまだけど、これは人間用の料理を組み合わせたものだから大丈夫よ。
単純なご飯と味噌汁でこそないものの、スーの街の高級中華料理店のチャーハンとドライの街の王室御用達の店の高級スープを組み合わせたものだもの。」
「現実では猫と食べ物を共有するとばい菌が問題になったりするけど、ゲームの中じゃ関係ないしな。」
「いや、わかんねぇぞ? NEOは変なところがリアルだったりするから、病気系の状態異常になるかもしんねぇ…」
「仮にそれで病気をうつされたとしても、それがたまみさんのものなら本望さ…」
僕はそんな彼らのふざけた内容の真剣な議論を、そっと聞かなかったことにした…。
それにしてもとたまみさんの周囲を見回すと色とりどりの猫缶や刺身や生肉、猫まんまのようなものとなど様々な餌が置かれていた。
僕が見たことがない高級猫缶やキャットフード、そして猫が食べそうな食材や料理を苦労して集めてきたのが見て取れる。
しかしながら、たまみさんはリアルの頃から相当な悪食で本来は猫に食べさせてはいけない食材でも平気でばくばく平らげていた。
僕がキャットフードや猫缶をあげていたのはコスト的な問題からで、エサ代や健康面を無視するなら普通に人間たちの食べているものを与えても問題なしだった。
ただ、リアルでの話をするとなぜたまみさんがゲームの中にいるのかが説明できないので、そんな話をわざわざするつもりはない。
「にゃーー」『難しいこと考えちゃダメよ。』
たまみさんはさまざまな食べ物を少しずつ満遍なく食べながら、とてもご機嫌だった。
「さて、それでは改めてモンスター討伐イベントのランキング一位の報酬についてですが…」
僕たちは祝勝会は程々で切り上げて、今後の相談をすることにした。
祝勝会の方はこれから二次会だということで三々五々に分かれて酒場に繰り出していったが、僕たちは遠慮させてもらったのだ。
二次会となればお酒がメインとなるのだが、元よりたまみさんはお酒が飲めなかった。
猫は人間のようにはアルコールを分解できないので飲ませてはいけないし、仮にたまみさんならば大丈夫だったとしても酔っ払ったら暴れる未来しか予想できなかったのでリアルではたまみさんには絶対にお酒を飲ませなかった。
そして、ゲームの中ならいろいろと違うかも知れないけれどもやはり酔って暴れられると危険なので、絶対にお酒はダメだと口を酸っぱくしていた。
当然、お酒を飲みに行く二次会は却下である。
「にゃー?」『そうね、チャーハンの猫まんまも良かったけど、一番はハマチっぽい魚の刺身かしらね?』
「いえいえ、祝勝会で出た食べ物の話じゃなく、イベントそのものの報酬の話です。」
まだまだ食い意地が一番に来ているたまみさんの頭を切り替えさせる。
「モンスター討伐イベントは物的な報酬はモンスターからのドロップが中心となっているので、順位の報酬はお金と名声、そしてギルドの貢献ポイントが中心となります。
ランキング一位だったたまみさんは当然相当な金額やポイントを貰いましたので、冒険者ギルドのランクをDに上げることが可能になりました。
さらにはCランクに上げるために必要な貢献ポイントや昇格クエストを始めるために必要な名声値も満たしてはいますが、まずはDランクに上げて転職可能な職業を確認しましょう。」
「ニャニャ~~?」『Cにいきなり上げちゃダメなの? それに名声って?』
「冒険者ギルドのランクをCに上げるためには、ランクDにあげた上で偉い人からの指名クエストをこなす必要があるんですよ。
その前提としてのクエストを受けるために偉い人と接見するために名声が必要となるんですが、そこも今回のイベント報酬でクリアはしています。
ですがその前提クエストは常時受けられるものではないので、ランクDにあげた上でクエストが発注されるタイミングを待つ必要があるんですよ。
まぁ、戦争イベントや大規模襲撃イベント、スタンピートイベントなどの突発イベントで優秀な成績を上げれば前提クエスト無しでもCランクに昇格できたりしますが、そっちはより一層発生が少なくてタイミングが難しいですからね。
普通は指名クエストのルートでランクCに昇格しようとします。」
「なぁ~~ん…」『ふーーん、いろいろムズカシイのねぇ…』
恐らく半分も理解せずに丸投げ態勢に入ったと思われるが、とりあえずいきなりCには上がれないということだけわかってくれればいい。
ちなみに、僕はBランクに昇格するための名声とギルド貢献ポイントは貯まったが、Bランク昇格のためにはグランド国外へ出る必要があるためにまだまだ前提が足りない。
「とりあえず、冒険者ギルドに行きましょう。」
「にゃー」『わかったわ。』
快い返事とともに颯爽とたまみさんは歩き出す。
しかしながらドライの街に来てから何度か通っているはずの冒険者ギルドの場所をたまみさんはいまだに覚えておらず、まるで違う方向へ歩き出したたまみさんの進行方向を慌てて修正しに行くのだった…。
「はい、確かに闘技大会のベスト8以上、指定ダンジョンの20階到達、レイドボス戦でのMVPの三つの条件と冒険者ギルド貢献ポイントを確認しました。
たまみさんのDランクへの昇格を承認します。
おめでとうございます、たまみさん。」
受付の美人のおねーさんがパチパチと手を叩いて祝福してくれるが、その顔は若干引きつっていて冷や汗が流れている。
どこかで見た顔だな?と思ったが、どうやら闘技大会の受付の時の人らしい。
あの時は臨時で闘技大会の受付を手伝っていたのだろう。
なんで猫をEランクに昇格させたんだと文句を言っていたあとにその猫が闘技大会で優勝してしまい、さらにそこからあまり時間が経たぬうちに今度はDランクに昇格してみせたのだ。
受付嬢にしてみればあの時の失礼な発言を覚えてやしないかとヒヤヒヤしているのだろう。
たまみさんはその他大勢のモブな人間の顔などはいちいち覚えていないのが常であるが、自分を馬鹿にした人間のことはしつこく覚えてたりするので、どちらかは半々といったところ。
僕はそれなりに人の顔を覚えているほうなので気付いたが、不要な波風を立てる必要はないので気づいていない振りだ。
「ところで、たまみさんもレベル40に達したので2次転職させようと思っているんですが、転職先について情報はありませんかね?
シニアファミリアという2次職の情報はあるんですが方向性が違うので、ほかの転職先を探してるんですよ。
せめて今のナイトキャットの正統進化な2次職の情報が欲しいんですが…」
実はこれと同じ質問を昨日別のギルド職員にしたばかりではある。
そのときは別の職があるらしいということだけで詳しい情報は何一つ出てこなかったが、今はランクDに昇格したあとなのでもう少し情報が出てくるだろうと思っている。
本当ならランクなど関係なしに情報を提供してくれてもいいのだが、NEOの冒険者ギルドは相手のランクによって露骨に情報の質が変わったり対応が変わったりするのだ。
「えぇ? 黒猫の転職情報ですか?
というか、黒猫がレベル40にまで上がったことを驚けばいいのか、2次転職もしていないのに闘技大会を制したことを驚けばいいのか……。
と、ともかく、転職に関する資料を確認してまいります、少々お待ちください!」
受付嬢は慌てて奥の小部屋に駆け込んでいく。
ちなみに昨日質問した職員は少し冴えない中年男性で、たまみさんの転職情報については特に資料を調べもせずにぼそりと他の2次転職はあるはずだが詳細は知らないと答えただけだった。
それが黒猫を含むすべての転職情報についてある程度把握しての態度だったのか、ただ単にめんどくさかっただけの態度なのかははっきりしない。
「…はぁ…はぁっ…お待たせしました。
ギルドの資料によりますと、猫系の従魔には使い魔系ともうひとつの2次職があるという記録がありますが、黒猫の場合の職業の名前は記録されていません。
当然、転職クエストの内容についても記録が残っていないようです。
ただ、これらの記録の原本はスーの街にあるテイマーズギルド本部には残されているらしく、そちらに行けば詳しい資料があるかもしれません。」
「なるほど、テイマーズギルドですか…」
昨日聞いた情報とほとんど同じとも言えるが、その情報源がテイマーズギルドにあるらしいというだけでもひとつの進展と言えなくもない。
「ランクDに上がったこともありますし、本格的にエリアボスを倒してスーの街に行く事を考えるべきかもしれませんね。
そのためにはまず準備をしなければいけませんしまた助っ人を頼むことも考えなければいけません。
その前にもう少し情報収集をしましょうか。
それに僕の2次転職の情報のこともありますし…」
「ニャ~オ?」『トールの転職の情報も見つかっていないの?』
「バトルメイジの正統進化であるバトルソーサラーについては詳しく聞くことができたんですけどね。
それと、もう少し剣士寄りの魔剣将についても、条件をいくつか満たせば転職できるという話も聞きました。
ですが、僕としては名前だけ出てきたあと二つの2次職、『探求者』と『求道者』っていうのが気になっているんですよね。
どちらも器用貧乏な職業の匂いがしますが、僕が求めている方向はそちらにあるような気がするんですよねぇ…」
それから僕たちはドライの街で手に入るだけの情報の収集と、ジョン=スミスを通じたたまみファンとの情報交換を行った。
ドライの街のテイマーズギルド支部は小さな交番ほどの大きさしかなく、そこにある情報も完全に空振りであった。
街の情報屋達に聞いても、黒猫の2次職は他にあるらしいというだけで具体的な話は全く出てこなかった。
しかしながら、ジョン経由で入ってきたスーの街のテイマーズギルド本部に探りに行った有志の話によると、猫系のファミリア以外の転職情報については当事者でないと見せられないと言われたらしい。
見せられないということは、情報自体は持っていると言い換えることができるかもしれないため益々テイマーズギルド本部の重要度は上がったが、それ以上はたまみさん本人が行かなければ進展はなさそうだということらしい。
さて、僕の方の2次職の情報だけれども、外部の攻略掲示板には全く情報が出ていなかった。
しかしながら、ジョンが集めてくれた情報では、そのどちらかの職に過去に就いた人間がいたらしい。
ただ、あまりに中途半端な職であったためにしばらく後に課金アイテムを使って職業の再選択をしたらしく、さらにその後に情報を残さないまま引退してNEOをやめてしまったらしい。
「どっちの職だったかははっきりしませんが、中途半端な職業なのは確かなようですね。」
「まぁ、僕が目指しているのはたまみさんと二人だけで冒険が成り立つようにするための器用貧乏な職なので、そういう話でも仕方ないですね。
ともかく、もう少し情報を集めてみないと何とも言えませんね。」
その後、ジョンたちの情報にあったドライの街の情報屋をいくつかハシゴする中で、もう少し具体的な話がわかってきた。
二つの職はともに近接武器と攻撃魔法と神聖魔法の三つを併用する2次職で、その中でも『探求者』は攻撃魔法寄り、『求道者』は神聖魔法寄りの職業であるとのこと。
ただ、どちらも元から認められた器用貧乏職であることは確かなようだった。
「まぁ、僕の好みから言ってもたまみさんとの組み合わせから言っても、どちらを選ぶかといえば攻撃魔法寄りの探求者の方でしょうね。」
たまみさんの少ないHPを考えれば神聖魔法の威力の補正などは必要はないし、求道者のほうを選んでもリザレクトなどの高度な神聖魔法は元より使える見込みはない。
それならば、攻撃魔法の威力に補正が聞くほうがいくらかましというものだ。
「それと探求者への転職クエストはドライの街周辺でのチェーンクエストになっているらしいですね。」
「にゃ?」『あら? すぐにスーの街に行くんじゃないの?』
「スーの街に行くためにはエリアボスを倒さなければいけないので助っ人が必要なのもありますが、前回のサイクロプスのように移動にそこそこの時間がかかります。
最短距離がセカンの街からになりますが、前のペースでも移動だけで片道7時間ほどはかかるので助っ人抜きに考えても平日は僕には無理です。
ドライの街に来るときにどうして週末にだったか、もうすっかり忘れてるようですね?」
「ニャニャーー…」『そ、そんなことないわよ…』
たまみさんが一ヶ月近く前のことなど忘れてしまっていることも、それを誤魔化そうとして口笛を吹く真似をするけど音など一切でないことも、セットでいつものことだった。
「では僕の探求者への転職クエストを先に始めますね。」
「にゃ!」『わかったわ!』
ちなみに、探求者への転職クエストは同じようなものがスーの街周辺にもあるらしいという情報もあったが、ドライの街でやってはいけないという話もなかったので気にしてはいけない。
僕のほうが少しだけでも先に2次職になっておきたいという気持ちはあるが、こちらが先になることは不可抗力であるのだから…。
器用貧乏な職業の名前で少し色々と悩みました。
もっとかっこいい職業名があったかもしれませんが、どうもスッキリ出てこなかったんですよね…
(残念な器用貧乏の段階でかっこよくありませんがw
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じわりとしたポイント上昇が作者の燃料になって更新が早まる…かもしれませんw




