猫34匹目 レベル40
台風の次は地震ですか…
今年は自然災害が多すぎですねぇ…(まだ終わっていない気もしますが
モンスター討伐イベント最終日、僕はレベル40に到達した。
そのわずかグリリフォン戦2戦後にたまみさんもレベル40に達した。
二重の意味でギリギリだった。
モンスター討伐イベントのレイド戦はとても経験値効率が良く、同じ量の経験値を通常のフィールドで稼ごうと思えばその何倍もの時間がかかっていたはずだ。
僕は平日の昼間は学校に行っているので、こういう短い時間で経験値が稼げる機会はできるだけ逃していてはいけない。
さもないと僕がログインしていない時間にも狩りをするたまみさんにあっという間に置いていかれてしまうからだ。
もちろん、僕がログアウトしている間にたまみさんもグリリフォン戦を行ってはいるのだが、これだけ連戦しているとやや飽きてくるようでたまにTKファンガス探しに行ったり縄張りとした街をパトロールしたりしに行って気分転換をしているらしい。
僕とたまみさんの獲得経験値の差がそれほど開きすぎないのもそう滅多にはない機会なので、どうにか討伐イベントが終わる前にレベル40に到達できて一安心だ。
そしてもうひとつのギリギリはたまみさんよりも先にレベル40に到達できたこと。
ほぼ同着だという人もいるだろうが、わずか2戦だろうとも先に到達できたことが僕個人としては嬉しい。
今後もたまみさんの経験値獲得量を僕が上回ることはまず考えられないのでそのまま抜かれて差が広がっていくだろうけど、このレベル40到達だけは先でありたいとずっと思っていたから。
まだまだカンストには程遠いが、このレベル40はひとつの区切りであると言えるのだ。
NEOではレベル40で2次転職が可能となる。
この2次転職はしかし、1次転職とは違いレベル到達だけで即転職可能とはなっていない。
2次転職するためには転職クエストを達成する必要があり、しかもその転職クエストは職毎に違う。
つまり、ほぼ同時にレベル40に達した僕とたまみさんではあるが、異なる転職クエストをクリアしないと2次転職できないということ。
そこで僕のほうが先にレベル40に到達したということが意味を持ち、僕の転職クエストを先にこなしましょうと主張することができるわけだ。
もっともたまみさんがそんな僕の主張を受け入れてくれるかは別問題であり、いいから先に転職クエストをさせなさいと猫パンチを飛ばしてくる未来が見えなくもない…。
「なにはともあれ、レベル40到達おめでとうございます、たまみさん。」
「にゃーーー」『あんたもおめでとう、トール』
すると、すぐそばにいたたまみさんの追っかけが僕の言葉に反応した。
「たまみさんレベル40到達おめでとうございます!!!」
「「「「たまみさんおめでとうございます!!!」」」」
野良レイド直後であったため周囲にはまだ多くの参加者がいたが、直前のレイド参加者だけでなくローテションでの順番待ちしていた人たちにもたまみさん祝福の輪が広がっていく。
「あ、お付の人もレベル40おめでとうございます。お付の人ももう2次転職なんですね。」
「「「「おめでとうございます。」」」」
僕のレベル40も祝福してくれたが、どうしてもついで感が漂っていてたまみさんと比べるとその熱量がふたまわりほど低い。
ただ、これほど多くの人にレベル40到達を祝ってもらえるとは思っていなかったので、ついでといえども素直に嬉しい。
「ありがとう。ま、僕はたまみさんがNEOに来た時には38に上がったところだったから、あっという間に追いつかれてしまったんだけどね。」
「いやぁ、たまみさんの成長速度が異常なだけですから、仕方ないですよ。普通は二ヶ月でレベル40に達したら廃人か異常な天才扱いですからね。」
「たまみさんの場合、僕がログアウトしている間も狩りに行く上に接続限界もない廃人(猫?)ぶりに、さらに格上でも平気で倒す天才ぶりが加わってますからね。普通のプレイヤーがどう頑張っても追いつくことは無理でしょう。」
僕なんかは平日の昼間は学校に行っているために接続時間が足りず、その上で狩りをしててもソロでの効率はもちろんたまみさんとパーティーを組んでいてもダメージ量の差で得ている経験値には大きな開きがある。
おそらく同レベル帯のプレイヤーなら、どんなに狩り効率の高い職業のソロプレイヤーや効率を追求したパーティーでもたまみさんの成長速度に追いつくのは不可能だろう。
「さて、レイド戦の準MVPの人の処理をしようと思いますが、グリフォンブーツを譲って欲しかったりは…」
イベントモンスターとしてのグリリフォンからのレアドロップであるグリフォンブーツは既にたまみさんが得たドロップだけで23足目になっていた。
レイド戦参加者全員にドロップする確率があるがMVPだけが追加で高確率のドロップ枠があるため、常にMVPを譲られていたたまみさんには異常な数のグリフォンブーツが集まっていた。
グリフォンブーツは防御値こそ最高品より劣るけれど移動速度上昇率は同率まで出ているので価値が高く、これを売却してもなかなかにいい値段がする。
ただ、流石にこれを一人で一気に市場に放出して金に変えてしまうのは少し気が引けるので準MVPの人に譲ってしまおうと考えたのだが…。
「いえ、グリフォンブーツは不要です。」
今回準MVPを取った重剣士を含めて誰ひとりとしてグリフォンブーツを受け取ろうとはしなかった。
重剣士は重装備の近接アタッカー職の中でも特に攻撃力振りの職業ではあるが、グリリフォン戦では近接職が攻撃できるタイミングが少ない中での卓越した技術と惜しみないバフ使用で見事に準MVPを勝ち取った猛者だ。
特に今回は最初の墜落のタイミングでグリリフォンの翼にクリティカルを入れて部位破壊で飛べなくさせたことが大きい。
もっとも、そのクリティカルも炎のエンチャントを高価なインスタンススクロールで付与した大剣と各種能力増強系のバフを惜しみなく使用したが故に一撃でレイドボスの部位破壊を成し遂げるという奇跡を演出したに過ぎない。
その出費は高価なインスタンススクロールも含めるとグリフォンブーツの売却額をも超えてしまうかもしれなかった。
今まで準MVPを取ってきたものたちも、高価な属性矢だったりMP回復ポーションを惜しみもなく使っていたりレアな武器をブンブンぶん投げていたりと、準MVPを取り損なった時も含めて相当な出費をしているのだが一様にグリフォンブーツではなくただのたまみさんの猫パンチを所望してきた。
「では、いつものように猫パンチでもいいですし、今回はレベル40のお祝いとして猫缶を献上してもいいですよ。」
「おおおぉぉぉ!!! これはなんという幸運!! タイミングの難しい近接職ながら頑張ってきた甲斐があるというものです!!!!!」
そして滑るようにアイテムポーチから取り出される高級猫缶『贅沢薩摩地鶏のクリーミー仕立て』
いつの間にか発生した準MVPはたまみさんに猫缶を献上できるというシステムが出来た当初はイベントドロップの『幻のあらほぐし金目鯛の誘惑』や普通の雑貨屋でも売られている猫缶が多かったが、だんだんと特殊な露店などでしか見つからないレアな高級猫缶が増えてきて、このところでは小まめに露店をチェックしている僕でも見たことがない高級猫缶が出てきたりする。
しかも、肥満状態になったあとは空腹度が下がってきた時にたまに許可するだけだというのに、猫缶を持っていなかったという人が一人も出ないのも驚きである。
僕が差し出した餌入れにさっと猫缶の中身があけられ、たまみさんが優雅にそれを咀嚼する。
たまみさんの食べ方はいつも優雅にこそ見えるがそれは餌を一切こぼさない為に洗練された技であり、外から見るとお上品に見えても非常な早食いである。
飼い猫になって安全な状況で食事するようになっても野良の頃の癖が抜けないせいで、もっとゆっくり味わって食べたほうが同じ量でも満腹感が得られますよと教えても一向に直る気配はない。
「ナァナァ~~ン」『歯ごたえのある地鶏のブロックが栄養バランスの取れた他の食材とクリーミーなソースでまとめられててとても美味だったわ』
「ははーー、お気に召したようで何よりでございます。」
かしずく重剣士のおでこにお褒めの猫タッチを与えると、重剣士は喜びに涙していた。
全部残さず食べてからその評価を告げるのは相変わらずではあったが、褒めるとともに猫タッチまであげるとはよほど気に入った味だったのだろう。
その猫缶は僕も初めて見るものだったので出処を知りたいと思ったが、この人たちは次に献上する時を狙ってか絶対に教えてくれることはなかった。
周囲のたまみさんの追っかけたちは猫タッチまでもらった重剣士を羨望の眼差しで見つめていた。
僕から見るとわざわざ高価な高級猫缶を探し出して自費で購入しそれをたまみさんに献上することや元手ただの猫パンチを貰うことがどうして報酬になるのかさっぱりわからなかったが、本人たちがそれで満足しているなら僕がとやかく言う事ではない。
「さて、では改めて2次転職を考えていきましょうか。今確認できる転職可能な職業はありますか?」
「にゃ~~~~」『そうね、とりあえず表示されてる転職先にシニアファミリアがあるけど、これはダメなやつね。』
2次転職では転職クエストが必要になるが、その転職先自体も初めから表示される職と情報が秘匿されていて少し調べないと判明しない職、そして特殊な条件を満たした上で入念な情報収集とよほどの幸運が必要となる特別にレアな職業がある。
「そうですね、シニアファミリアはテイムモンスターでも確認されている職業で、魔法と主人の補助スキルを中心にしたモンスター専用の職業のようですね。
物理攻撃手段も乏しいようですし、他人の補助をするという方向性もたまみさんには合わないでしょうし、その職業はどうみても違うでしょう。
せめて、ナイトキャットの正統進化な職業が欲しいですね…。
なにか、情報はありませんか?」
問いかけると、背後の闇の中から斥候職の人がすっと現れた。
「申し訳ありません、まだ黒猫固有の進化先について確かな情報は掴んでいません。」
忍者かアサシンかという登場の仕方だが、もういまさら驚きはしない。
野良レイド戦の時に周囲にいると思っていたたまみさんの追っかけの人数が僕の認識した数の3倍以上いた時点で、追っかけの人たちには僕の索敵能力を超える隠蔽持ちが多数存在していることを思い知らされたからだ。
また戦闘能力もはるかに高く、どう見ても僕らよりレベルの高い2次職の人たちが多数入っていた。
そのなかに何人レベルカンストの人が混じっているかはわからないが、そんな人たちが情報収集に協力してくれていても思うように転職の情報が集まらないのだから相当難しいのだろう。
ただ、たまみさんがレベル40に達したことでもう少し本人からの情報が入ってくるようになるだろうから、そこから進展することを期待したい。
「さて、日付ももう変わっているので、一度町に戻って軽く情報を拾ってから僕は今日は終わりにしようと思います。
たまみさんはその後まだ狩りを続けるかもしませんが情報収集のためには一緒に来てもらわなければいけませんし僕自身の転職情報も知りたいですしね。」
「お疲れ様です。お付の人の今の職業は魔法剣士系の魔剣士じゃない方でしたっけ? そちらもついでに情報収集を手伝いますよ。」
「えぇ、魔剣士じゃない方のバトルメイジです。その正統進化はバトルソーサラーだってのは開示されてるのですが、事前情報でも名前しかわからなかったんですよね。」
事前に攻略板で調べた時も、人気のある魔剣士についてはその上位職も転職クエストの内容も詳しく載っていたが、じゃない方のバトルメイジについては上位にバトルソーサラーがあるということしか載っていなかった。
さすが不人気職というべき情報量である。
「バトルソーサラーについては魔剣将のアンデッド100人斬りとは別のアンデッドの出るダンジョンを指定されてソロで踏破させるらしいですね。罠などはほとんどない代わりに魔法しか効かないアンデッドがちらほら出てくるらしいです。」
早速と、たまみさんのファンたちのネットワークを活用して調べてくれたらしい。
ちなみに魔法剣士系では他に二つの2次職が判明している。
一つは自己強化と武器への属性付与に特化したサムライで、臥捨髑髏というボスモンスターの単独討伐。
もう一つは剣を主体に魔法を織り交ぜながら戦うスタイルの魔剣将で、闘技場のようなダンジョンでただの剣では倒せない敵を含むアンデッド100人斬りをやらされるらしい。
この二つについてはバトルソーサラーと違って情報がしっかり出ているのだが、いまさら剣士寄りのスタイルにする気はないので仕方がない。
「なるほど。
ですが、バトルソーサラーはレベル40でそのまま開示された転職ですので、まずは他に候補がないかの確認をしっかりしてから考えようと思います。
たまみさんの方に開示されたシニアファミリアは情報こそ出ていますが明らかにたまみさんの方向性とは違うのでほかの転職先を探さなければいけないのは確実ですしね。」
「ほぅ、シニアファミリアが出ていますか…。
しかしながらたまみさんのスタイルに全くあっていないことは確かですね。
こちらでも引き続き情報を収集していきますが、テイムモンスターの転職情報は冒険者ギルド等の他に街の情報屋や従魔預かり所などでも手に入るらしいです。」
さすがにたまみさんの追っかけは情報が幅広い。
「なるほど、なるほど。
冒険者ギルドと情報屋は考えていましたが、従魔預かり所は盲点でしたね。
テイマーズギルドや魔術師ギルドも後で回ってみようと思っていますが…」
「残念ながら、ドライの街のテイマーズギルドは規模が小さいですね。
本気で情報を集めようと思うなら、スーの街にあるテイマーズギルド本部まで行くべきです。
情報屋もわかりやすい位置にいつもいる情報屋だけでなく、見つけにくい情報屋の位置もお教えしますよ。
それでですね…今後の情報伝達のために良ければフレンド登録の方を…」
「ちょっと待った!!!! 抜け駆け禁止だよ! 僕もフレンド登録して欲しいです!」
ひとりのこっそりとした抜け駆けに横から鋭い声で静止がかかる。
「あたしもあたしも! 是非お友達から始めましょう!!」
「私も友達になりたいです! お付の人、フレンド登録お願いします!」
フレンド登録して欲しいという波は一気にたまみさんの追っかけの間に広がったが、これもたまみさんのファンが増えてから何度かあった光景だった。
「待ってください。僕はたまみさんと仲良くなりたいだけの人と無条件でフレンド登録する気はありません。たまみさんもフレンド登録する気はありませんよね?」
「なーー」『忠実な下僕ならともかく信用できない人間と馴れ合う気はないわ』
「しかしながら、情報伝達の手段の必要性は感じますので、たまみさんの追っかけの中から代表者一人だけ僕の方でフレンド登録しようと思います。
方法はお任せしますので、代表者一人を決めてください。」
「「「「えぇーーーー!!」」」」
一斉に不満の声が上がったが、僕はそれ以上譲歩する気はなかった。
そこから代表者を決める話し合いが始まったが、議論は紛糾し簡単に決まる気配はなかった。
「ここは初めに声をかけた俺が代表になるべきじゃね?」
「いやいや、たまみさんとの付き合いが長い私がなるべきだよ。たまみさんの話題を初めにNPCスレに上げたのは私なんだから。」
「いや、あの掲示板は匿名なんだから初めに書き込んだって証明できないじゃん。それにたまみさんが有名になる前に目撃した人なんて大勢いるんだし。」
「決められないなら、決闘で決めればいいんじゃね?」
「ここで武闘大会を開こうってのかい? それに今回のは武力を競う話じゃなく、情報力が大事な話だよ。」
「いっそのこと、くじ引きで決めればいいんじゃない?」
なかなか決まりそうになかったが、今日も平日でありこれ以上夜ふかししているわけにもいかなかった。
「とりあえずドライの街に戻ろうかと思います。
代表を決める議論は移動しながらにでもしてください。
今日決まらなければ、また後日でもいいですから。」
よほど決まらないならヒカリさんを代表にしてしまってもいいかなとも考えたが、今ここにいないヒカリさんを代表にしたらそれはそれで揉めそうな気がしてやめておいた。
そうこうしているうちに代表はクイズ大会で決めることになったらしく、街へと移動する僕の後にぞろぞろと付いて来ながら大勢の追っかけたちがクイズ大会を行うという異様な光景が繰り広げられた。
重剣士や神官などおよそ情報に詳しくなさそうな人たちまで残らず参加したクイズ大会は持ち回りで問題を出しながら脱落させていく形式になったらしく、横で問題を聞いてみると他者を脱落させるためにとひねり出されたマニアじゃなければわからないような難解な問題が飛び交っていた。
もちろん、僕にマニアックなクイズがわかるはずもない。
出現場所が洞窟の奥深くにしかないケイブパラライズスネークの卵の色と模様なんて、なんでこんなに知っている人が居るのだろう?
代表者決定クイズ大会は僕たちがドライの街の冒険者ギルドに到着するぎりぎりでなんとか決着し、初めに僕に転職情報を教えてくれた斥候の人が激戦を制していた。
情報を集めるためには広い見識と交友関係も必要だが、機を見る目と素早いフットワークも重要となるのだから。
「それでは、フレンド登録をよろしくお願いします。」
「はぁ、これからいろいろと宜しくお願いします。あくまで代表ということなので抜けがけはほどほどに…」
ジョン=スミスというスパイっぽい名前のその人は、小さく勝利のガッツポーズしながらフレンド登録を飛ばしてきた。
ハイスカウトという野外をメインとしながらダンジョン内や屋内での活動も可能な斥候の2次職であるジョンは、当然のようにレベルがカンストしていた。
いろいろと気疲れしてしまった僕は冒険者ギルドでさらっと転職情報を拾っただけでログアウトし、本格的な調査はまた翌日にすることにした。
ただし、ログアウト前にたまみさんに釘を刺しておくのは忘れない。
「ちなみに、あと数時間メンテナンスまで時間があるのでグリリフォンを狩りに行ってもいいですが、今日はもう空腹度は100%まで満たしてるので猫缶の献上はなしですからね!!」
「なーー…」『わかってるわよ…』
たまみさんの返事はやや怪しかった。
あまり変な職業を考えると深みにはまりそうな気もしますが、
NEOは職業による補正が大きな意味を持ってくるという設定なので頑張ります
そんな職業ありえないよと思っても、そこは流してくださいね(^^;




