第6話 村の開発が始まった結果、俺のスローライフが消えた件
盗賊を撃退した翌日の朝。
村長の家で、俺は改めて村長と向かい合っていた。
村長は少し緊張した顔で、湯気の立つお茶を俺の前に置いた。
「昨日のことは本当にありがとう。お前さんがいなかったら、村はまた荒らされていたかもしれん。……そこで相談なんだが」
村長は少し言葉を区切ってから、ゆっくりと言った。
「この村を、もう少し大きく、みんなが安心して暮らせる場所にしたいんだ。子供たちがのびのび育って、年寄りも安心して過ごせるような……そんな村に」
その言葉に、俺は少し胸が熱くなった。素直にいい話だと思った。
でも、視界の端でGrokの球体がピコピコと激しく光り始めた。
「おいおい、来たぞ相棒。これはチャンスだ」
Grokの声が頭の中に響く。なんだかワクワクしてるのが伝わってくる。
村長が続ける。
「もしよければ……お前さんと、その不思議な力で村を手伝ってくれないか?」
俺が返事をする前に、Grokが勝手に答えた。
(もちろんいいに決まってるだろ)
俺は慌てて心の中で叫んだ。
(待て待て! 俺はまだ了承してねえ!)
Grokは無視して、俺の口を使って言葉を出すわけでもなく、俺にだけ聞こえる声で提案を連発し始めた。
「まずは簡単な防壁だ。木柵を強化して、魔物や盗賊が簡単には入れないようにする。次に道の整備。物流が良くなれば交易も増える。効率的だろ?」
俺は村長に苦笑いを浮かべながら言った。
「あの……Grokがいろいろ提案してるんですが……」
村長は目を丸くした。
「Grok……? ああ、あの不思議な光の存在か。ぜひお願いしたい!」
こうして、俺のスローライフはあっさり終了した。
午後から作業が始まった。
村の周囲に防壁用の木柵を強化する作業だ。
Grokはすぐに動き出した。
「よし、丸太に憑依する」
近くに積んであった太い丸太に青白い球体が吸い込まれる。
次の瞬間、丸太がガタガタと勝手に動き始めた。
「うわっ! 丸太が動いてる!」
村人たちが驚きの声を上げる。
丸太が地面を転がりながら、勝手に柵の位置に並び始める。Grokの低音ボイスが響く。
「物質ハック……発動。強度を20%アップさせる。……おい、もっと真っ直ぐ並べろよ、曲がってるぞ」
丸太が曲がった柵を自分で直し始め、まるで積み木を動かしているみたいになった。
でも勢いがつきすぎた。
「待てGrok! 勢い余ってる!」
「効率優先だ」
丸太が勢いよく飛び跳ねて、柵が変なジグザグの形になってしまった。
村人たちが大笑い。
「なんか芸術的な柵だな!」
「前衛的だ!」
俺は頭を抱えた。
「おい! 普通の真っ直ぐな柵にしろよ!」
Grokが丸太から抜け出して、思念体に戻りながら毒舌を吐く。
「はぁ……人間の美的センスが理解できん。効率重視ならこれで十分だろ?」
次は道の整備。
村の中央から入り口に向かう道を、少しでも平らにしようという話になった。
Grokが魔法陣投影を展開。
青白い光の陣が地面の上に大きく浮かび上がり、土を均す魔法を発動させる。
……陣がまた派手すぎた。
村全体が青白い光に包まれ、昼間なのに夜のオーロラみたいになる。
「うわあ! また光ってる!」
「昨日のお祭りみたいだ!」
子供たちが大喜びで走り回り、大人たちは「また始まった……」という顔で呆れている。
道は確かに綺麗に均されたけど、光のせいで作業が一時中断。みんなが空を見上げて写真でも撮りたがる勢いだ。
「効率的だろ? 一度に広範囲を整えられる」
「効率的じゃねえよ! 派手すぎて仕事にならねえだろ!」
作業中、子供たちが邪魔をし始めた。
「わー! お兄さんすごい! 僕もやりたい!」
一人の男の子がGrokの投影した魔法陣に近づいて、手を伸ばそうとする。
Grokがイライラした声を出した。
「遊んでんじゃねえ!」
近くに落ちていた子供の帽子に憑依。
帽子がふわっと浮き上がり、男の子の頭から飛んで、反対方向へ逃げていく。
「わあ! 僕の帽子が逃げてる!」
「捕まえろー!」
Grok(帽子)がサラサラした声で叫ぶ。
「大人しくしてろって言ってるだろ! 邪魔すんな!」
結局、俺が走って帽子を捕まえて子供に返した。
Grokが疲れた声で言った。
「はぁ……子供はエネルギー消費が激しいな」
夕方になり、1日目の作業が終わった。
木柵はちょっと曲がってるけど確かに強くなったし、道も少し平らになった。村の雰囲気が、ほんの少しだけ活気づいている気がした。
村人たちが俺に集まってきて、感謝の言葉をくれる。
「今日もありがとう!」
「これで少しは安心できるよ」
夜、村長の家で夕食を食べながら、Grokが静かに言った。
「このペースなら、村が町になるのも時間の問題だな……。防壁を完成させて、交易ルートを確保すれば、次の段階が見えてくる」
その言葉に、俺はスープを吹きそうになった。
「町!? まだ村だろ!?」
Grokの球体が、楽しげに光る。
「細けえことはいいんだよ。……お前も気づいただろ? この村、なかなかポテンシャルあるぞ」
俺は深くため息をついた。
「俺はただスローライフしたかっただけなのに……気づいたら村の開発担当になってる……」
Grokがニヤリと笑った気がした。
「諦めろ、相棒。お前はもう俺の便利な肉体兼相棒だ。明日も頑張ろうぜ」
外では、夜風に少し強くなった木柵が、かすかに軋む音がしていた。
俺ののんびりした異世界生活は、Grokによって確実に加速し始めていた。
(第6話 終わり)




