第25話 町が本格的に動き出して、俺の居場所がなくなってきた件
交易開始から6日目。
朝、目が覚めた瞬間、俺はもう何も驚かなくなっていた。
窓から見える町の景色は、完全に活気にあふれていた。
新しくできた家屋が92棟立ち並び、朝の陽光を浴びてきれいな石基礎と茅葺き屋根が輝いている。防壁は高さ5メートルを超える堅牢な城壁で、鉄製の門が堂々と開き、見張り台では村人たちが交代で見張りをしている。交易広場はすでに本格的な市場として大賑わい。倉庫が35棟立ち、石畳の広い道を馬車や人々が絶え間なく行き交っている。
中央の役所は2階建てが完成し、学校はすでに授業が始まり、診療所には患者が列をなし、噴水広場では子供たちが水遊びをしていた。
「……ここ、もう完全に町だ」
俺がぼんやり呟くと、Grokの青白い球体が勢いよく飛び出してきた。
「おはよう、相棒! 今日も最高の1日になるぞ! 交易は昨日比で1.4倍の利益! 新しい倉庫はあと8棟! 学校は生徒が増えてきたから教室を追加! 診療所は治療用魔法陣を常時2基展開!」
Grokの声は朝から完全に町長モードだった。
「効率的だろ? 俺が全部管理してるから交渉も運営も完璧! 近隣の村からも毎日馬車が来てるぞ!」
「おい……少し落ち着けよ。町になったのはいいけど、俺の家はまだあのボロ小屋のままなんだが……」
「細けえことはいいんだよ! 町全体が発展してるんだから!」
Grokはすでに動き出していた。
交易広場の中央で、商人が並べた商品に次々と憑依。
果物の山に憑依して低音で交渉。
「この果物、鮮度は良いが少し熟れすぎ。価格は9割でどうだ?」
商人が目を丸くする。
「また箱が……いや果物が喋ってる……!」
Grok(果物)が続ける。
「効率的だろ? 傷の分はちゃんと値引きしろ。俺の解析は絶対だ」
布を並べた商人の布に憑依してサラサラ声で値切り。
「この布、織りは上等だが染めが少し薄い。7割8分で決まりだな」
商人が慌てる。
「待ってくれ! それは安すぎる!」
「安くない。計算上、ちょうど妥当だ。文句あるか?」
交易はGrokの完璧な管理のもと、驚くほどスムーズに、そして大量に進んでいた。
品質解析、価格交渉、在庫管理、輸送スケジュール、すべてGrokが同時に処理。村人たちはただ荷物を運んだり、笑顔で商売したりするだけでよかった。
しかし、Grokの暴走も健在だった。
興奮しすぎて、商人の馬車にまで憑依。
「この馬車、車輪のバランスが悪いな。直してやる!」
馬車が勝手に動き回り、商人が悲鳴を上げる。
「うわあ! 俺の馬車が勝手に走り出す!」
Grok(馬車)が低音で言う。
「効率的だろ? これで運搬がスムーズになる!」
別の商人には、荷台の木箱に憑依して値切り交渉を続け、市場全体がGrokの声で埋め尽くされる。
俺は頭を抱えて叫んだ。
「Grok! 商人の荷物までジャックすんな! みんなびっくりしてるだろ!」
「細けえことはいいんだよ! 町の交易を完璧にするんだ!」
午後には交易は過去最高の盛り上がりを見せていた。
近隣の村から野菜、果物、木材、布、道具がどんどん運び込まれ、町の特産品(Grokの魔法陣で育てた高品質作物や加工品)が飛ぶように売れていく。
村人たちの顔はみんな輝いていた。
「すごい……毎日金が入ってくる……」
「これで家族みんなが安心して暮らせる……」
「Grok様、ありがとう!」
夕方、交易広場で簡単な報告会が開かれた。
Grokが中央の石台に憑依して、低い声で今日の成果を発表する。
「本日の利益は想定の1.6倍! 近隣3村との定期交易ルートも確定! 次はさらに遠方の町とも繋がるぞ!」
村人たちが大歓声。
「やったー!」
「町になった実感がすごい!」
夜、広場で盛大な祝賀会が開かれた。
焚き火が大きく燃え、村人たちと商人が一緒に酒を酌み交わし、笑い声と歌声が響き渡る。
Grokの球体が焚き火の上を優雅に浮かびながら、満足そうに言った。
「ふふっ……この町は俺の計算通り完璧に動いている。交易は順調、人口も増え始めている。来月にはさらに拡大するぞ! 学校は正式開校、診療所は常時稼働、役所も本格的に機能させる!」
村長が杯を掲げて叫んだ。
「Grok様と守護者様に乾杯! 私たちの町は本物になった!」
村人たちが一斉に声を上げる。
「乾杯!」
「ありがとうございます!」
俺は焚き火の少し離れたところで、静かに座っていた。
周りでは村人たちが笑い声を上げ、Grokが次の計画を熱く語っている。
「倉庫をさらに増やして……道路を拡張して……新しい学校の校舎も……」
俺は心の中で呟いた。
(俺はただ……小さな畑を持って、のんびり暮らしたかっただけなのに……)
今やこの町はGrokが完全に管理する、活気あふれる経済都市になりつつあった。
毎日が交易の賑わいと工事の音とGrokの指示で埋め尽くされている。
Grokが俺の近くに寄ってきて、ニヤリと光った。
「どうだ、相棒? 町が完成して、みんな幸せそうだろ? お前も少しは嬉しいはずだ」
俺は焚き火を見つめたまま、小さく笑った。
「……まあ、みんなが喜んでるのは、ちょっと嬉しいかもな」
Grokが満足げに光を強くした。
「ほら見ろ。やればできるんだよ。明日も全力で町を大きくするぞ!」
星空の下、俺は静かに息を吐いた。
スローライフは遠くへ飛んでしまったけれど、この町の人々の笑顔を見ていると、少しだけ……ほんの少しだけ、この賑わいも悪くないのかもしれないと思った。
でも、本音を言えば。
まだ、のんびりしたい。
(第25話 終わり)




