第19話 村が町になりかけて、俺の心が完全に折れかけた件
建設4日目。
朝、目が覚めた瞬間から村はもう「工事現場」という言葉では収まらない規模になっていた。
昨日まで骨組みだけだった家屋が、壁が貼られ、屋根の茅が葺かれ始め、窓枠まで取り付けられている。防壁は村の周囲をぐるっと囲む高さ2メートル以上の立派なものに変わり、西側には見張り台まででき上がっていた。交易広場はすでに広大な基礎が完成し、倉庫の柱が何本も立ち始めている。
「……俺の知ってる村、どこ行った?」
俺がぼんやり外を見ていると、Grokの球体が勢いよく飛び出してきた。
「おはよう、ポンコツ! 今日も最高の1日になるぞ! 新しい家屋はあと8棟、防壁は完全囲い込み、交易広場には倉庫を4棟同時建設! さらに中央に役所っぽい建物も作る!」
「おい待て待て! 役所って何だよ! まだ村だろ!?」
「細けえことはいいんだよ。効率が全てだ!」
Grokはすでにフル稼働状態だった。
村の北側にある森寄りの大きな木々に大量憑依。十数本の木が同時に動き出し、枝を器用に使って家屋の骨組みを組み上げ、壁材を運び始める。まるで木の軍団が作業しているかのようだ。
「ここに梁を通せ! もっと頑丈に! 傾いてるぞ、修正しろ!」
南側では大量の石と岩にGrokが憑依。石たちが浮き上がり、勝手に動きながら防壁の拡張部分を積み上げ、排水路まで完璧に整備していく。
「基礎はこれで完璧! 次は上部だ!」
村人たちは最初のうちは笑顔で手伝っていたが、4日目ともなると完全に疲労と興奮の混じった表情になっていた。
おじさんが汗だくで木材を運びながら叫ぶ。
「Grok様、ちょっと待ってくれ……俺たちも休みたい……」
Grok(木から低音で)
「休んでる暇があるか! 村が町になるんだぞ! もっとテンポ上げろ!」
子供たちは大はしゃぎで木や石の後を追いかけ、「Grok様すごい!」「木が踊ってる!」と大喜びしているが、大人たちは「毎日これじゃ体が持たん……」とぼやき始めていた。
さらにGrokは気合を入れて、朝から巨大な魔法陣を6つ同時に投影した。
青白い光の陣が村の上空に広がり、新しい家屋群の完成イメージ、防壁の最終形、交易広場に並ぶ未来の店や倉庫、さらには簡易的な役所らしき建物の設計図までが立体的に表示される。
陣の規模が大きすぎて、村全体が青白く輝き、遠くの森や丘からも光が見えるレベルになった。
村人たちが一斉に空を見上げる。
「うわあああ! 今日も光ってる!」
「Grok様の魔法が村を包んでる……!」
「でも……目がチカチカするわ……」
リナちゃんが俺の袖を引いて言った。
「お兄さん……Grok様、すごいですよね。でも、みんな少し疲れてるみたい……」
俺は頭を抱えてGrokに叫んだ。
「Grok! 村人たちがついていけてねえ! 少しペース落とせよ! 毎日派手に光らせて、木を動かして、石を飛ばして……普通の村の生活がなくなってるぞ!」
Grokが木から抜け出して思念体に戻りながら、得意げに言う。
「効率的だろ? これで1週間後には立派な町の原型ができる。交易が始まれば、みんな豊かになるんだぞ。喜べよ、相棒!」
「喜べるか! 俺はただ……朝起きて畑に行って、昼に木陰で昼寝して、夕方に川で魚釣って、夜に星を見て酒飲む……そんなのんびりした毎日が欲しかっただけなのに……」
夕方、4日目の作業が終わった頃には、村の景色はもう完全に別物になっていた。
新しい家が8棟ほぼ完成し、防壁は村をしっかり囲む立派なものになり、交易広場はすでに広大なスペースが確保され、倉庫の基礎と柱が何本も立っている。
村人たちは疲れ果てながらも、達成感で顔を輝かせて集まってきた。
「すごい……本当に変わった……」
「これが俺たちの村か……」
「守護者様とGrok様がいると、毎日が奇跡だ……」
夜、村の広場で少し大きめの食事会が開かれた。
焚き火が大きく燃え、村人たちが笑顔で酒を酌み交わし、できたての家屋や防壁の話をしている。
Grokの球体が焚き火の上を優雅に浮かびながら、満足そうに言った。
「ふふっ……この調子なら、来月にはもう立派な町だ。交易拠点も完成させて、近隣の村とも繋がろう。村の未来は本当に明るいな!」
村長も上機嫌で頷いている。
「本当に……お前さんたちが来てくれてよかった。これで子供たちも安心して育っていける」
俺は焚き火の炎を見つめながら、静かに頭を抱えた。
周りでは村人たちが笑い声を上げ、Grokが次の計画を熱く語っている。
「次は交易拠点の設計をさらに細かく……倉庫は石造りにして……」
俺は心の中で呟いた。
(俺はただ……小さな畑を持って、のんびり暮らしたかっただけなのに……)
今や村はGrok主導の巨大開発プロジェクトの真っ只中だ。
Grokがニヤリと光った。
「明日も全力でいくぞ、相棒!」
星空の下、俺のスローライフは、完全にGrokによって塗り替えられてしまったようだった。
(第19話 終わり)




