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第80話 救いの手

 神の訪問の後、私はすぐさまアルジェント侯爵に舞踏会への出席を懇願した。しかし、結果は――。


「いい加減にしなさい! 許可できるわけないだろう」

「でも、お父様……どうしても、どうしても行きたいんです!」

「流石に今回は諦めなさい」


 何度も粘ったものの、答えは変わらなかった。冷静に考えれば当然のことだ。私は公然と『天使の鏡』を盗んだと告白し、今は自宅謹慎中の身。そんな私が貴族たちの集う舞踏会に出席できるはずがない。それでも……。


(舞踏会に行けば、レオンは踊ってくれるかもしれないんだから。だったら死んでも、行くしかない!)


 それに、この周回はまだ終わっていない。つまり、レオン攻略の可能性が完全に潰えたわけではないのだ。もし舞踏会で会話のチャンスを掴めれば、まだ1000万円獲得の可能性がある……!



 微かな希望を胸に、私はアルジェント侯爵への説得を諦め、自室へ戻った。そして、屋敷を脱出する方法を考え始めた。しかしそれは、想像以上に難題だった。


 自室から一歩でも出れば、すぐにメイドが飛んで来る。お手洗いに行くにも誰かが付き添い、屋敷の周囲には衛兵が隈なく配置されている。窓からの脱出も試みたが、シーツを結んで垂らしたところですかさずセバスチャンが現れて私を制止してきた。


(セバスチャンを泣き落とすか……いや、逆効果よね。お父様に報告されて、さらに警備が厳しくなりそうだし)


 机に肘をつき、考えを巡らせる。しかし、妙案は浮かばない。ただ焦りが募るばかりだった。


 そんな時、扉をノックする音が響く。


「何かしら?」

「お嬢様。紅茶とお菓子を持ってまいりました」


 どうやら、午後のお茶の時間のようだ。


「ありがとう、入って」


 そう返すと、扉は静かに開かれ、誰かが部屋に入ってくる気配がした。

 カップに紅茶が注がれる音がして、ふわりと華やかな香りが漂い、机の上に紅茶のカップとケーキスタンドがそっと置かれた。


「レティシアお嬢様、どうぞ」


 低めの声が耳に届く。


(ん? ……男の人?)


 セバスチャン以外に私の部屋へ入る使用人は皆、女性だったはず。そう思いながら、私はお礼を言うために顔を上げた。そして、次の瞬間……目を疑った。


「ルージュ?!」


 そこに立っていたのは、使用人の格好をした赤髪の男――ルージュだった。


「ようやく気が付いたな」

「ど、どうしてここに?」


 驚きと混乱のあまり、声が裏返る。対するルージュは、何もかも計算済みといった顔をしていた。


「貴族の屋敷に忍び込むのは得意なんでね」

「でも、騎士団に拘束されたって聞いたけど……?」

「そんなの、すぐに抜け出したさ」

「あ、そう……」


 相変わらずの軽い調子に、思わず肩の力が抜ける。そして、不意に込み上げる安堵感に、気付けば 涙がこぼれていた。


「お、おい、どうした?」


 ルージュは分かりやすく慌てふためく。


「もう会えないかと思っていたから、無事が確認できて安心したのかしら……驚かせてごめんなさい」

「……まあ、いいけど」


 そう言いながら、ルージュは照れ臭そうに視線をそらした。


「それで、どうしてここに?」


 ルージュは仕切り直すように咳払いをしてから、低く呟いた。


「一言、直接礼を言おうと思ってな……オルディス侯爵の件、道連れにされるとは思わなかったが、助かった」

「そんな……こちらこそ、色々とありがとう」

「それと……お嬢様が困っていると聞いて、ひと肌脱いでやろうと思ってな」

「え?」

「舞踏会、行きたいんだろ?」


 その言葉に、私は思わず息をのむ。心臓が大きく跳ね、反射的に身を乗り出してしまった。


「ルージュ、なんでそれを?」

「あんなに大騒ぎしてお父様にお願いしてれば、筒抜けさ」

「だ、だって、必死で……レオン様が、舞踏会に来たら踊ってくれるって言うから!」


 つい興奮気味に答えると、ルージュは 盛大にため息をついた。そして、ティーセットの乗ったワゴンの下から、何か包みを取り出し、私に手渡す。


「これは?」

「この屋敷のメイド服だ」

「え?」

「明日の夕方、またここに迎えに来る。明日の16時までにこの服を着てろ。屋敷から出してやる」


 私は包みを開き、中身を確認する。確かにこれは、屋敷のメイドが着る衣装だ。これさえ着れば、メイドになりすまして屋敷を抜け出させるかもしれない。


「なるほど……流石ルージュ! ありがとう!」


 目いっぱいの笑顔で礼を言うと、ルージュは 苦笑しながら肩をすくめた。


「どういたしまして……それじゃあ、そろそろ行くわ」

「ええ、よろしく頼むわ」


 そして、ルージュは部屋を出ていった。私はメイド服の入った包みを両手で抱えながら、ふわりと胸が弾むのを感じる。


(これで、明日舞踏会に行ける……。そして、レオンと踊ることができれば……1000万円が手に入るかも……!)



 私の副業、最後の大勝負が始まる――!

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