12 救出 1
視点:ルーク・アルダン(長男)。
リュカが捕まった。
俺は、初めて人を殺して落ち込み、初めて戦いに勝ったことに少し浮かれた。
もっと早く立ち直っていればという後悔もある。
自分が情けねー。
大声で泣きじゃくるララに、かける言葉も見つからない。
それでも、俺は長男だ。
兄弟が全員下を向いているのなら、俺が先頭で顔を上げなきゃならない。
「みんな聞いてくれ。俺たちが今やることは、泣いて立ち止まることじゃない。リュカを救うために全力を尽くすことだ。キキ、聞きたくないだろうが、リュカが今どういう状態になっているか音を流してくれ」
「ずっと聞いていたわ、でも……あたしが内容を紙に書いてみんなに見せるのは、どお?」
「キキ、お前一人が背負うモノじゃねーだろ」
リュカが置かれている状況は、よくないのだろう、キキの表情は暗い。
「分かった。リュカ兄が捕まった辺りから音を流すわ、ただ……」
キキの視線は泣きじゃくるララの背中に向けられていた。彼女が聞いた音は、声は、十歳のララにとって残酷なモノなのかもしれない。
サキも、キキの表情を見て、俺と同じことを感じ取ったようだ。
「レアン、ララ、あなたたちは聞かないほうがいいと思うの。ここは私とルークとキキに任せて」
「嫌だ、おいらも一緒に聞く。おいらたちは兄弟なんだろう、仲間なんだろう。バーディガン王国は貧乏だ。三人目、四人目に産まれた子供は、名前も与えられず、愛情も貰えない、商品としてただ買い手が付くのを待つだけだ。……何年も何年も我慢した。そこから救い出してくれたドワーフには感謝している。それ以上においらは、兄弟になってくれたお前らに感謝しているんだ。目を背けたくないんだ。一緒にいさせてくれよ」
レアンの両目から涙が落ちる。
「ララも一緒が良い。リュカ兄ちゃんの痛い痛いの声、聞いたら泣いちゃうと思う、苦しいと思う、でも聞かなきゃダメなの」
二人の意思は固い。
キキは、辛くても目を背けず、ずっとリュカがいる空間の音を拾っていたのだろう、キキの魔法によってリュカが捕まってからの音が流れる。
キキの音魔法は、少しだけ拾った音を保管しておくことが出来る。
「俺はバンデル・ノワス、この部隊の隊長だ。痛い目に合うのが嫌なら、俺の質問には正直に答えた方がいいぞ」
「正直に答えたら、解放してもらえるんですか」
「いや、お前を解放する気はない。だが、正直に答えることで、お前の寿命が少しだけ延びる。それに、出来るだけ苦しまないよう殺してやる」
「僕にメリットがあるようには思えませんが」
その後、リュカが殴られる音が続いた。その後、無音が続く。
何が起きたんだ。リュカは無事なのか、と俺をはじめ兄弟の表情には、焦りの色が見える。
ようやく、音が流れ出す。
「おいおい、顔を蹴るなって、鼻が折れちまったじゃねーか。きったねー鼻血出過ぎだろう」
「やり過ぎたか。気絶かよ弱っちいーな、まっ、水でもぶっかければ起きんだろ」
兵士たちが、クスクス笑う声が流れる。
ララは自分の口を両手で抑えながら泣いていた。
それでも逃げずに、この場にとどまり続ける。
鏡がないから分からないが、きっと怒りで俺の顔は、鬼のようになっているだろう。
その後も、俺たちはリュカが眠るまで、最後まで音を聞いた。
悔しいだろう、ムカつくだろう、それでもみんなの顔は、もう下を向いてはいない。
「レアン、リュカが話していた安全地帯ってあそこのことか」
「うん、仕込み済みだし、あそこだろうね。まったく捕まってもまだ計画を進めようとするんだから、リュカは本当に頑固だよね。向こうがリュカの狙いに乗ってくるなら、最低三十分は、ホーンウルフは一機になる、おいらたちはやれることをしよう」
「当然だ」
「あのさ、ルーク兄、サキ姉、あたしとララにも出来ることはないかな?」
キキは、十分働いているだろう……と言いそうになったが、彼女の真剣な表情を見て、俺は、その言葉を飲み込んだ。
「出来ることねえ、うーん……ねえ、ルーク。
クロショウキには、ルーク、リュカ、レアンの三人が乗る予定だったでしょ。でも、リュカを助けるためには、一機でも多くのマシンドールが必要だと思うの、キキとララにマシンドールとの同調を試してもらうのはどうかしら」
「二人を戦わせるのか」
「あたし、やる」
「ララも、やるの」
キキとララは、やる気十分といった感じで、俺との距離をグイグイ詰めてくる。
みんなには、人は殺してほしくない……人殺しは俺だけでいい。
どうする?
みんなにはサポートに回ってもらい、俺が前線に立つように動くか。
「分かった、試そう」
こうして俺たちは、五人揃って『黒小鬼』を隠したダンジョンへと向かった。
「まずは、おいらから試すよ」
レアンは、そう言うと『黒小鬼』の操縦室から垂れる、等間隔に結び目が付いたロープを握り「ぐっ、うー、キツ」と声を出しながらも登っていく。
魔導巨兵と契約して人形遣いになれば、身体能力が跳ね上がるので楽に登れるようになるのだが、何もない状態だとそこそこキツイ。
ようやく登り切った時には、少し息が切れていた。
「ねールーク兄、あたしとララは、アレを登れるかしら」
「キキとララは、俺がクロショウキを使って操縦室まで運んでやる、問題ない」
「ずっけーぞルーク、シスコン滅びろ」
ようやく操縦室に辿り着いたレアンが、口を尖らせる。
「いいから、さっさと確認しろ」
「鬼、悪魔、ひとでなしー」
文句を言いながらレアンは、『黒小鬼』の操縦席に座った。
心の中で叫ぶ〝リュカを助けるために力を貸してくれ〟、レアンの願いに応えるように、蔓が伸び、レアンの頭、手、足に絡まっていく。レアンと『黒小鬼』が同調した。
四つの瞳に赤い光が宿る。
「よし、上手くいった!前回はダメだったからな、『呪いの首輪』様様だ」
「レアンは、そのままダンジョンの中でも歩いて操縦に慣れておけ」
次は、キキとララだ。
いつもなら、この時間、ララはとっくに夢の中なのだが、リュカのことがあったからか、そういった素振りは一切見せない。
キキを先に操縦室に運んだ。
キキが操縦席に座っても、『黒小鬼』は、目を覚まさなかった。
人形遣いに興味がないと思っていたのだが、操縦室から出る際のキキの表情は悔しそうだった。
次は、ララの番だ。「ララ、がんばる」フンスと鼻息荒めに操縦席に座ると、「おー、なんか来た」というララの言葉に合わせて、蔓が頭、手、足に絡まりはじめる。
同調した。
ララは、大きくなった自分の分身の手の平をまじまじと見る「おおきい、ゆびろっぽん」……「しゅごい」、歩こうとして足を前に出した途端、転んだ「いたい」。
同調が成功したからといって、思うがままに動かせるかどうかは別である。
俺が出来たのは、ジジイから貰った力のお陰だしな。
「あたしも、首輪が外れる瞬間、リュカ兄を助ける力が欲しいって願えば良かった……」
動く『黒小鬼』を、キキは悔しそうに見上げた。
以前の彼女なら、ここで裏方に回っていただろう。
今回の彼女は違った、その目は、広場の隅に置かれた巨大な狼に注がれる。
「サキ姉、あの狼あたしに頂戴。あたしもリュカを助けたいの」
キキは、戦うことを決意した。
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