13 救出 2
視点:キキ・アルダン(次女)。
敵はまんまと、リュカ兄の思惑通りに動いた。
リュカ兄を先頭に、兵士二人、『鋼鉄の一角狼』の順番で森の中へと入っていく。
「キキ、本当にやるの」
「当然でしょ、そのためにあたしはライダーになったのよ、もしかしてレアンは逃げたかった」
あたしの挑発に、レアンは眉間にしわを寄せる。
「ハッ、何言ってんの、おいらよりマシンドールを動かすのが下手なくせに。キキこそ、足を引っ張るなよ」
「レアンは、ホント生意気ね」
弟は、負けず嫌いだ。
この遣り取りで、少しだけ気が紛れた。
それでも、作戦の時間が近づくにつれて、心臓の音がどんどん大きくなっていく。落ち着かなきゃ。
ララが眠ってから、ルーク兄と話をした。
「これは戦争だ。俺たちは、この地に来た敵を全員殺さなきゃいけない。一人でも逃がしてしまえば、俺たちがマシンドールを持っていることも、ライダーであることも知られてしまう。そうなれば、今度はもっと沢山のマシンドールが、俺たちを殺しに来るかもしれない。
それが分かっていても、人を殺すのは簡単じゃない、殺った後、心がめちゃくちゃ痛むんだ。後悔するんだ。
だから、人殺しは俺だけでいい。お前らは、俺をサポートしてくれ」
そう話すルーク兄の顔は苦しそうだった。辛そうだった。
「何言ってんだよ?この次は、もっと強い敵が来るかもしれないんだろ。その時、殺すのを躊躇ったら、それこそ終わりだ。今回みたいに、確実に勝てる相手で、人を殺すことに慣れておくべきだろう」
「レアン……だけど俺は、お前にも、みんなにも人を殺してほしくないんだ」
「ルークはバカだわ。あなたが私たちに人を殺してほしくないように、私たちもあなたに人を殺してほしくないの、見損なわないでよ。どうせ私たちは、遅かれ早かれ、師匠からの依頼で人を殺さなきゃいけないの、王殺しよ、歴史に残る大罪人よ」
「サキ……でも俺は」
レアンとサキ姉の言いたいことも分かる。
もちろん、ルーク兄の優しさだって嬉しい。
みんな難しく考え過ぎなのだ。あたしたちは、やらなければならない。
「ハイハイハーイ、決めた!工房にいるホーンウルフは、あたしとレアンで倒しましょう」
「急に何を言い出すんだよ、キキ」
「もしかしてレアン怖いの」
「怖くなんかないよ」
「そ、なら二人で頑張りましょう。いいでしょうルーク兄、みんな覚悟は出来ているの。ね」
「分かった。でも危ないと思ったら、すぐに助けにいく」
ルーク兄は、また苦しそうな顔をする。
ルーク兄、あたしたちは家族なんだよ。
こうしてあたしは、レアンと二人で、『鋼鉄の一角狼』を倒すことになった。
リュカ兄たちが、森の中に入るのを確認してから動く。
シルビルード軍が、第六魔導巨兵工房に来てからずっと、あたしは彼らの音を拾い続けた。
お陰で、彼らの動きが手に取るように分かる。
重装歩兵、魔導巨兵を持たない一般兵は、倉庫……建物を中心に調査する。彼らは、休憩する以外、建物から外に出ることはない。
人形遣いは、『鋼鉄の一角狼』で敷地内を交代で巡回する。
約半数の兵が、リュカ兄と一緒に森の中に潜っても、彼らのルーティンは変わらなかった。
隊長さんがいない分、息抜きは多めかな。
『鋼鉄の一角狼』も巡回をせず、昼寝でもしているのか、朝からひとつの場所に止まっている。
あたしが考えた作戦はこうだ。
あたしが乗る『ホーンウルフ』をレアンの『黒小鬼』が追いかける。
そのまま、仕事をさぼる『鋼鉄の一角狼』の目の前に出現、あたしを守るように動くなら、背後に回り、あたしとレアンで挟み撃ち。
怪しんで動かないなら、あたしとレアン、二人でフルボッコにする。
この作戦を聞いたレアンは、呆れた顔をしていたが、『ホーンウルフ』が目の前に来たら、間違いなく敵か味方か迷うでしょ!
ルーク兄とララは、あたしたちより遅れて行動開始。兵士たちのいる『2』の数字が書かれた倉庫を急襲する。一般兵四人に魔導巨兵二機は、オーバーキルだし、兵士たちがほんの少し気の毒になる。
でも、リュカ兄に、あんなことをした相手に容赦するつもりはない。
開始時間だ。深呼吸をする。
「ポチ、一緒に頑張ろう」
『ホーンウルフ』と同調して、確か名前はケインと言ったか、彼の『ホーンウルフ』がいる場所へと、レアンと鬼ごっこをしながら向かう。
近くまで来ているのに、敵はまったく気付かない。
気付く素振りもない。
障害物も無いし、すこし頭を後ろに動かせば、丸見えなんだけど。
気を抜きたくなるのも分かる。
彼らからしてみれば、第六魔導巨兵工房にいるのは、戦う力を持たない子供たち。魔導巨兵が必要な敵など、想定していないだろう。
それでも、気を抜き過ぎじゃない?今なら、あたし一人でも勝てそうだよ……いやいやいや、油断大敵、無理はよくない。
でもさ、ケインくん……あなたサボり過ぎだよ。二百メートル、百メートル、五十メートル……狼の頭は森の方向をじっと見たまま動こうとしない。
原初の魔導巨兵は分からないが、魔導巨兵は、通信用魔道具を使うことで、周りには気付かれずに内緒話をすることが出来る。
全ての魔法を拒絶する魔導巨兵も、操縦室だけは例外なのだ。
まっ、あたしは魔道具なしでも内緒話が出来るけどね。
やっと気付いたね!ケインくん。
「おいホープス、応答しろ」
距離にして約三十メートル。
ようやくケインくんは、あたしらの接近に気が付いた。
通信用魔道具を意識しながら必死に叫ぶ、「ホープス、後ろのマシンドールはなんだ」なんだって、敵にしか見えないだろうに、平和ボケか!いや……戦時だよね、いま。
「ホープス、てめー、俺の声が聞こえているんだろ。返事をしろ」
『鋼鉄の一角狼』の口から声が漏れる、返事がないから切れたの?別にどうでもいいんだけどね。
あたしは、その横を通り過ぎた。
ケインくんの目の前には、レアンの『黒小鬼』が迫る。
『鋼鉄の一角狼』の最高速度は、魔導巨兵の中でもトップクラスだ。とは言っても、停止状態からすぐに最高速度が出せるわけではない。
大きな衝撃音と共に、二機は激しくぶつかった。
重量の軽いケインくんの機体が、後ろに吹き飛ぶ。
あたしは速度を落とさずU字に沿って方向転換。倒れているケインくんの機体に狙いを定め、角型の槍を向けて突っ込んだ。
サキ姉から、『鋼鉄の一角狼』の装甲の接合部にある隙間の位置は、一夜漬けでみっちり叩き込まれた。
「いっけえぇぇぇぇーーー」
「ゴツン」「いたたた」角が突き刺さった瞬間、額の辺りがひりひり傷んだ。それでも、前に進む。
「いてえ、脇腹がいてえー」
魔導巨兵が受けた痛みは、人形遣いにも伝わる。
伝わるのはあくまで痛みだけで、傷は別だ。
痛みは多少軽減されるのだが、それでも、脇腹に角を刺されたまま、二十メートル近く押され続けたのだ。
暫く転げ回る程度には、ダメージを受けただろう。
あとは、レアンが止めを刺すだけなんだけど、様子がおかしい。
「レアン、早くしてよ」
「腕が痛い……腕が痛いんだ」
レアンの乗る『黒小鬼』を見る。右腕が変な方向に曲がっていた。
どうやら、激突の瞬間ショルダータックルをお見舞いしようとして自爆。腕からぶつかってしまったと……あくまで同調するのは、痛みだけだけど、〝アホ……ドジ〟と心の中だけで非難する。
角を突き刺してる間は、操縦者の痛みは続くはずだ。あたしは頭をぐりぐり動かして時間を稼いだ。
ようやく動き出したレアンが、左手一本で操縦室の扉を引き剝がす。
蔓に絡まれる操縦者の姿。
レアンの『黒小鬼』は、左手に短剣を握り、剣先を操縦者に向ける。
音魔法を通して、レアンの荒い息遣いが聞こえた。
人を殺そうとしているんだ。迷わなきゃオカシイ。
「あたしが殺ろうか?」
「うるさい、おいらが殺る」
戦いは終わった。あたしたちの勝利だ。
建物の中にいた四人の兵士は、ルーク兄が殺した……殺したと思う。
ルーク兄は、中に四人いることを確認すると、『黒小鬼』で建物を崩し、崩れた建物の上を何度も何度も踏み付けた。
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