第28話
かなり長いです。
ルディは執務室の主人椅子に座り、シルキー達の名簿を作ったり、シフトを考えていた。その横ではガドがスキルを使いながらルディの計画書にアドバイスをだしていた。ある程度一段落ついた頃にはかなりの時間になっていた。
「失礼します。主様、ガド様、紅茶を入れました。一杯いかがですか?」
どうやらシルキーが紅茶を淹れてくれたようだ。
「あぁありがとう。ガド貴方も頂きなさい。」
「ありがとうございます。ですが、お気持ちだけ受け取っておきます。」
「そうですか。」
ルディはシルキーが淹れてくれた紅茶を口に含んだ。何とも言えない良い香りがルディの精神的な疲れを癒してくれた。
「ふぅ、良い香りですね。」
「ありがとうございます。なにしろ上質な茶葉が沢山ありましたので。それにしても今回の職場は良いですね。屋敷全体が魔導具のようですよ。数日前置きに《清掃》が発動するので掃除はあまりしなくても大丈夫ですし、住んでいる方々がほとんど生理現象を起こさない魔力主体タイプの魔物ですから、食糧の補給も当分私達の分だけで済みます。防衛も外にいる《青蜥蜴人》と《岩石蜥蜴》達で十分ですからね。全体的に気楽に仕事が出来るんです。」
彼の言う《青蜥蜴人》と《岩石蜥蜴》とは、ダンジョン能力で召喚したダンジョンモンスターでこの地底湖周辺の警備にあたらせている。
「そう言われると嬉しいですが、その内忙しくなりますよ。私達は人間の街へ繰り出すつもりなのですから。」
「そうことですか。その時には私達も何名か、お供させて頂きます。このままでは仕事が無いシルキー達で溢れそうですし。」
「そう言ってくれると助かりますよ。」
ルディはそう言うとカップに入っていた紅茶をまたすすりながら、しみじみとしたこの空間を楽しく感じていた。しかし、その空気は長くは続かなかった。
『主!緊急事態です!ちょっと不味いことになっています!』
突然《眷属念話》が入り、ルディは一気に今までののほほんとした気持ちを切り替えた。ガドやシルキーもそれに気が付き、部屋の空気は緊張に包まれた。
「落ち着きなさい。貴方の担当は何番ですか?」
『失礼しました。私は眷属番号0015、担当はダンジョン入り口の警備です!』
「確認しました。それで?何があったんです?」
『ダンジョンの入り口に数多くの魔物が集結しています!その数およそ500は越えているかと。種族もバラバラです。しかし、奴等はまだこちらに攻撃はしてきません。』
「変ですね。彼等は何者なんでしょうか?」
その時に、一緒に聴いていたガドがある一説を立てた。
「主よ、彼等は恐らく《群れ》ではないでしょうか?」
「《群れ》?何ですそれは?」
「たまにいるんです。《統率》や《軍隊結成》と言ったスキルを持った魔物が、多種多様の魔物を従えて移動したり、蹂躙したりすることが。恐らく今回は主が持っている《称号》が関係していると思われます。」
「ふむ、貴方の言いたい事は大体分かりました。つまり、私が持っている称号である《リールの森の支配者最終候補》を持った別の魔物が、何らかの方法で私を探知して群れを率いてやって来た。貴方はそう言いたいんですね。」
「はい。」
「成る程。では行きましょうか。」
「『えっ!?』」
さっきからずっと待っててくれた0015とガドは驚いた声を上げた。
「別にそこまで驚かなくても。向かって来るのであれば、こちらに喧嘩を売るのであれば叩き潰す。当然でしょう?丁度試したいスキルもありましたし、久しぶりに森の魔物を狩るのも悪く無いでしょう。」
ルディは楽しそうに顔を歪めながら言った。端から見ればその顔は獲物を見つけた餓えた肉食獣のようであり、ガド達は味方と判っていながらも背中に冷たいものが流れたような感覚を覚えた。
「わ、分かりました。では直ぐに仕度します。」
『了解です!』
二人はそう言うとそれぞれの持ち場に向かっていった。ルディも顔に仮面を着けた。そしてゆっくりと規則正しい足音をならしながらダンジョンの入り口へ向かっていった。
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門番はその頃、ダンジョンの壁に隠していた警報装置を起動させ、緊急事態を他の眷属達に知らせていた。
知らせを受けた眷属達は装備を身につけ、入り口の外に整列していった。
森の魔物達はその頃には目視できる距離まで近づいており、ダンジョンを包囲するような陣形を取っていた。
「うわぁ!沢山いるなぁ。」
「これ、大丈夫か?」
「ガド様から何か連絡はあったか?」
「ぬわぁああん疲れたもぉおおおん。」
と言ったような声が上がったが、ガドやルディからは何の連絡もない。まさか自分達だけで対処しなければならないのかと思った軍団長達は冷や汗をかいた。
「ガド様から何か連絡は?」
「無い。」
「主からは?」
「・・・・無い。」
「では私達が指揮を取り、対処するしかあるまい。」
「仕方がないですね。」
「・・・・では。皆、御武運を。」
そう言って軍団長達は会議を解散しようとした丁度その時、森の魔物達の中から一際大きく、強大な力を感じさせる魔物が一体、こちらに向かってきた。
その魔物は大きな猿のような魔物で、鍛え抜かれた身体はその剛毛からでもわかるほど発達しており、特に両腕は棍棒のように太く硬くなっているようで、眷属達の脳内ではあれは危険だと警鐘をならしていた。
「我は未来のリールの森の支配者に成る者だ。名をバグドール言う。諸君らを無闇に襲うつもりはない。今回は君たちが住んでいるあの洞窟、あの洞窟に我と同じ《称号》を持った奴がいるようなのだ。そいつを倒す為に来た。だから、その称号を持った魔物を連れてきてくれないか?そうすれば我がこの森を支配した暁には、この森の魔物達に君たちを襲わないように言って上げよう。どうだ?」
軍団長達はその言葉に対する返答に困った。
「どうした?まさか我に戦いを挑むなぞ馬鹿のすることだぞ?お前らごときには我を傷つけることは絶対に無理だからな。最終警告だ。《称号》を持った奴を連れてこい!」
軍団長達はどうするか困り果てた。自分達には元々荷が重すぎる案件であり、逆らったら何をされるかも分からない。かと言って立ち向かっても勝てる自信はない。ではどうするか?簡単ではない。しかし、早く答えねば最悪の事態になりかねない。その後、色々相談した軍団長達はある結論をだした。
「我々はそんな魔物知りません。」
「何ぃ!?」
「我々はそもそもこの洞窟の入り口付近にしか拠点を作っておらず、また奥へ何度も調査を出しましたが、結果は何も無かったそうだ。つまり、我々は貴方に協力できそうにありません。」
「む、グヌヌ。では仕方がない。我自ら、その洞窟の奥へ向かい確かめてやる。」
(ふぅ、上手く誘導できたぁ。)
軍団長達は化物には化物をぶつける方針を取ったのだが、これはかなりの賭だったので成功した時には、飛び上がって喜びたくなった程だ。しかし、彼等の作戦は良い意味でも悪い意味でも失敗した。
「いや、その必要はありません。」
洞窟の奥からそんな声が響き、後から規則正しい足音を響かせながら何がやって来きた。眷属達はその声から正体を見抜き、ガタガタと震え始めたり、壊れた人形のように振り向き、いそいそと道を開け始めた。
「!やはり、いたか!我と同じ《称号》持ちが!」
バグドールは精一杯の気力を持って近づいて来る敵を見定めようと踏ん張っていた。多くの魔物を従えてきたバグドールでさえ気を抜いたら意識を失っしまうのではないかと思わせる程の殺気を放ちながらやがてそいつは姿を表した。蒼色の髪をした仮面の男で、一見人間に見えたが、バグドールはそうではないと見抜いていた。
「ようこそ、私のダンジョンへ。私はこのダンジョンの支配者をしておりますハットマンと申します。」
「チぃ、やはりお前はダンジョンを取り込んでやがッたか!」
「えぇ。お陰で素晴らしい力を手に入れたましたよ。貴方はまだそれに気付いていないようですが。それで?私の領地に勝手に入り込んだ理由は何です?」
ルディのその問いにバグドールは笑いながら答えた。
「当選お前の命を奪い、リールの森の支配者となるためだぁ!おらよ!」
そう答えると同時に、バグドールはルディの顔を狙って力一杯殴り付けた。しかし、確かに殴られた筈のルディは平然としており、身体もその場から動いていなかった。
「!?有り得ん。ならばこれならどうだ!《豪腕雷撃》!」
バグドールの腕が電気を帯びてバチバチと音を鳴らして帯電しているのが、良く分かった。バグドールはそれでルディに殴り掛かったが、先と同様に謎の力によって塞がれてしまった。
「ふん、そんなものさっきの通り私には効かないですよ。では今度はこちらから行きますよ。《悪夢の闇鎖》」
月明かりに照らされたルディの影から現れた何本もの鎖がバグドールを襲った。バグドールは腕や持ち前の身体能力で鎖をいなしていたが、全ての鎖は捌ききれず、何本か身体に巻き付かれてしまった。しかし、その程度でやられるバグドールではない。腕に力を込めて鎖を引きちぎりはじめた。
「ウググググ、なんのこれしき!」
「流石にこれだけじゃ足りませんか。仕方ありません、これでケリをつけましょう。」
そう言うとルディは片手を上げて一気に振り下ろした。振り下ろされた指から五本の斬撃がバグドール目掛けて飛んでいき、身体中を切り刻んだ。バグドールは鎖の解除を優先していた為に、飛んでくる斬撃に気付くのが遅れてしまっていたのだ。
「ギャアアアオオオオン!!いだい!いでぃよぉ!」
バグドールは鎖に巻かれながらも、痛みで辺りを暴れ回った。
「何ですか。もう終わりですか?張り合いが無いですね。あのティーナとか言う竜の方がまだ静かに耐えてましたよ?さぁ、もっと私を楽しませて下さい。《悪夢の闇鎖》《闇の小刀》。」
ルディから出た沢山の闇の鎖が、バグドールの身体に幾重にもなって巻き付き、真っ黒なナイフが合間を抜いて身体中に突き刺さっていった。バグドールは悲鳴にならない悲鳴を上げていたが、段々と静かになっていった。
「も、もう止めてください。降参、降参しますから。お願いです!これ以上やられると死んでしまいます!」
「仕方がないですね。ではここで新しいスキルを試してみましょう。《魂之吸収》。」
バグドールは全身から何か失ってはいけない物が段々抜けていっているのを感じた。
「!?っま、まさか!止めろ!それはやってはいけない!命を冒涜することは禁忌の筈だ!」
バグドールは全身の力を振り絞って叫んだ。
「ハーハッハッハッハッハ!良いですねぇ。貴方の意外と純粋な魂!非常に美味ですよ!」
ルディの言葉を聴いてバグドールは初めて、死の恐怖を味わった。こいつはヤバい。化物だ。もとから勝てる相手では無かったのだ。
「グゥ、このままでは・・・奴に、魂を奪われるぅ。・・・・耐えなきゃ・・・でも・・・・なんか・・・変な・・・気分に・・・・。」
「そろそろですかね。貴方の魂を吸い取った後の脱け殻は有効活用してあげますよ。では、さようなら。」
バグドールはその言葉を掛けられた時には、もう息を引き取っていた。
そして、
─────【リールの森の支配者が確定しました。これより特典が送られます。】
そう聞こえたような気がした後、ルディは自分の力が更に強化されたことを感じた。ルディはその事に気分が乗ったのか、《人化》を解いていった。
「素晴らしいですねぇ。この新しい力は、気を付けないとこちらが使われてしまいそうですよ。」
本来の姿に戻ったことで、バグドールを慕っていた多くの魔物は我先にと逃げた。しかし、今のルディにはこの森にいる限り何処に行こうと探知されてしまう。それに───
「逃がすわけ無いでしょう。《支配者の審判》《魂之吸収》。」
ルディの口から白い靄が飛び出し、森に溢れていった。靄は形を変えていき、蛇の頭や骸骨の頭や肉食獣の頭となって逃げ惑う魔物達を飲み込もうと、襲い掛かった。
腕に覚えがある魔物達は魔法やスキルで応戦したが、命中しても直ぐに再生し、逆に飲み込まれてしまった。飲まれた魔物は糸が切れた操り人形のように倒れ、そのまま動かなくなった。そう、奴等は飲み込んだ魔物の魂を喰らうのだ。
「ギャアアアアアアアアア!(もう駄目だ!逃げろぉ!立ち向かおうとするな!死ぬぞ!)」
それを見た他の魔物はもう立ち向かおうとはしなかった。我先にとかつての仲間をはね除けて前へ前へと少しでもあの靄から離れようと全力で走った。
それを高い岩山から見ていたルディは既に《人化》して、シルキー達に持ってこさせた椅子に座りながらワインを傾けていた。
「全く、少しは慈悲を見せぃ。」
そう、言いながら《人化》したヴィヴィアンがやって来た。人化したヴィヴィアンは強面の老紳士だ。他にも変形出来るらしいが今夜はその形態でやって来たようだ。
「おやヴィヴィアン。貴方も来ていたのですか。」
ヴィヴィアンはルディとテーブルを挟んで向かい合わせに座ると、来るときに、準備してきたのか、後ろにつまみを持ったシルキーを何人か従えていた。
「まあな。お前は儂の息子のようなものじゃ。子の行動を確認するのは親の定めじゃろ?」
「貴方の子供になるなんてまっぴら御免ですよ。」
「なんじゃと!まぁええわい。」
「私は良くありませんがね。で?何しに来たんです?」
「いやな。お前なら気が付いていると思うが、何か嫌な気配を感じてな。」
「あぁ。その事ですか。それならさっきから私達のステータスをなんとかして覗こうと躍起になっていますよ?ほら、あそこです。」
ルディはとある岩を指差した。一見何の変哲も無い岩だ。ヴィヴィアンは予め探知系の魔法を使っていたが、何の反応も無いのですっかり安心しきっていた。その為、ルディから近くにいると言われてヴィヴィアンは何か馬鹿にされた気がした。
「ええい!《落雷》!」
ヴィヴィアンは八つ当たりのように《雷魔法》の災害級魔法を叩き込んだ。魔法は岩場もろとも吹き飛ばし、ルディやシルキー達は咄嗟に張った障壁やスキルで耐えた。
「えっ!?ちょっ!キャアアアアアアアアア!」
そんな声が岩場から響き、ルディが指し示していた岩の影から、一人の少女が飛び出してきた。少女は所々雷魔法を食らった為かプスプスと煙を上げていた。しかし、服や肌には一切傷がついて無かったので、かなりの実力者だと伺える。少女はこちらに大きく跳躍してくると、ヴィヴィアン目掛けて飛び掛かって来た。
「このぉ!危なかったじゃない!一体私を誰だと思っているの!?」
「いや、儂お主のようなガキ見たこともないぞ?」
「ガ、ガキィ!?私のような淑女をガキ扱いとは!もう許さないぃ!!」
そんなことを言い争いながら二人は醜い争いを始めた。ルディは完全に蚊帳の外だった。
しかし、その少女により、ルディ達の運命は変わり始めていたが、それはまだ誰も知らない。




