第27話
今回は胸糞が悪くなるかもしれません。一応注意です。
「ふむ、こんなもんですかね。下品と思うところはありましたが、以外と綺麗に纏まるものなんですね。」
新たなダンジョンの最奥にある屋敷の一室で姿見の前に立ちながら、身に付けた服を確認している男性はそう楽しそうに言った。男性は青いスーツのようなものを身に付けており、頭にはシルクハットを被っていた。姿見に映る優しい印象を一切感じさせない厳しい顔は人を寄せ付けない、危険なオーラを放っているようであった。
「大変良くお似合いです主、《人化》はやはり便利なものなのですね。」
「ありがとうガド。しかし、確かに《人化》は便利ですが決して万能ではないですよ。例えばほら、この紋様とか。」
そう言って男性、《人化》を使ったルディは自分の頬にある真っ赤な紋様を指差した。これは、魔物が人化した時に身体の一部に出るもので、この紋様を街などで見られたとしたらいくら《人化》を使っていたとしても魔物には変わらない為、冒険者達に追い回されることになる。身体だったら服で隠せるが、ルディは顔に出ている為、街に出ることが出来なくなると焦ったが、丁度管理からの贈り物の中に仮面があった事を思いだし、事なきを得たのだった。
「しかし、ガドはまた・・・予想通りの結果になりましたね。」
ルディの目の前には、真っ黒な燕尾服を着て片目にモノクルを掛けた初老の男性が立っていた。白い長髪と青い目が特徴的なこの執事風の男性はガドが《人化》したものだ。ステータスをあらかた見終わった後、ルディは約束通り《眷属強化》を行い、ガド達を強化した時にガドは《人化》を習得したのだ。ガドはその他にも《博識》が《知識の大辞典》になったり、新たな指揮系統のスキルを習得した。
ルディにとってこれは、嬉しい誤算だった。ガドが人化出来るようになったということは、情報収集がかなり効率的になる。というのも、最初はガドに首輪でも着けて従魔ですよー。とでも言って誤魔化そうと思っていたのだ。ガドには指揮系統のスキルが沢山揃ってあるので、街中での眷属達の動きがかなり楽になる。街へ行く時には一緒に連れていく予定だったのだ。
「でも、貴方が《人化》を習得してくれたお陰で、私は非常に助かりますよ。」
「恐縮です。私の他の眷属達も強化していただきありがとうございます。」
「いえいえ、魂が余っていたので丁度良いかなと思っていたんですよ。ダンジョンコアを吸収した時にかなりの魂が流れ込んできましたからね。今じゃ数え切れない程ですよ。」
「それだとしてもです。我々眷属は貴方様の役に立つことだけを至上と思っているのです。その為、主からの施しを受けるのは眷属達にはとても名誉な事なんです。」
ルディは約束通りに他の眷属達に強化を施した。殆どが狼種の眷属達だったが、数人程人間も混じっていた。《眷属強化》で強化された狼達は黒かった毛並みが、さらに黒く光るようになり《隠密》などのまさに情報収集に打ってつけの種である《影狼》に進化をした。
人間型の眷属達はあまり外見は変わらないが、頭から犬のような耳が生え、臀部からふさふさの尻尾が生えた。今まであった耳は消えてなくなったようで、獣耳から音を拾っているそうだ、本人達は以前よりも音が聴こえやすくなったと喜んでいた。
獣人にも見える姿だが、実際は《人狼》である。獣人でも追い付けないようなスピードとドワーフに勝る力強さを兼ね備えている強力な種族だ。ルディはこの人狼達を部隊長に任命し、一先ず今は部下の育成に務めるよう命令した。ガドにもこの話は通してあるので、何かあったらガドが対処をしてくれるだろう。
ルディは身だしなみを整えると、部屋を後にした。屋敷の廊下には前には居なかった数人のメイドや使用人が掃除や荷物を持って行き来していた。彼等はルディやガドがいることに気がつくと仕事を一時中断し、頭をさげながら道をゆずった。ルディやガドはそれを当然と言わんばかりに歩き去った。
彼等はルディの《等価交換》と《召喚魔法》を使って呼び出した家妖精だ。彼等は人とあまり区別はつかない外見をしているが、見た目からは予想できない程の能力を誇る魔物だ。
男性型は近接戦闘、女性型は魔法に特化したステータスになっており、総合危険度はAランクに匹敵する魔物である。
ルディはこのシルキー達を屋敷の警備兼使用人として雇ったのだ。《等価交換》とはダンジョンの機能の一つであり、ダンジョンエネルギーを使用し、そのエネルギー量にあったダンジョンモンスターや道具を精製するスキルだ。これに《召喚魔法》を併せて使うとダンジョンモンスター以外の魔物を召喚出来るのだ。
ダンジョンモンスターは便利なのだが、ダンジョンの外には行けなかったり、緊急時には言うことを聞かなくなったりとデメリットが大きいのだった。その為、多少手間が掛かるが普通の魔物を呼び出した方が後々に動き安くなるだろうと、判断したのだ。彼等の仕事に対する報酬はこの屋敷に住まわせることと、1日に三回の食事を提供することだけだったのでルディは即座に契約を結んだ。
「主よ、何処に向かうのですか?」
「シルキー達の食堂を用意しようかと。そろそろお昼時でしょう?流石にヴィヴィアンが毎日作る訳にはいきませんからね。貴方も毎日あの料理は嫌でしょう?」
「う……た、確かに。あれはとても料理とは言いたくないものでしたからね。」
ガドは嫌な事を思い出したと顔を青ざめながら言った。ルディが最初は作ろうとしたのだか、ヴィヴィアンがどうしてもと言うので昨日は彼に任したのだ。しかし、それは大失敗だった。
彼の作ったそれらは見た目は普通なのだが、それを食べたシルキー達は泡を吹いて倒れ、食べなかった他のシルキーは逃げようとしたが、その料理達がいきなり飛び上がりシルキーの口の中に自ら飛び込んできたりしてきたので、食堂は一時大パニックになった。
味見をしたルディも一瞬で気を失い、気が付いた時には阿鼻叫喚の世界が広がっていた。シルキーの殆どは泡を吹いて失神しており、生還した残りシルキー達はルディにもっとまともな料理を出すように泣いて哀願してきたのだ。何も知らないルディは何があったのか彼等に聞いたが、泣いたりガタガタ震えるだけで何も言わなかった。それだけでどれ程恐ろしい事が起こったことは想像できた。
「一応、ヴィヴィアンにはもう厨房に行くなと伝えていますから大丈夫だと思いますよ。」
「では、誰に料理をさせるつもりなのですか?」
「信吾くんが適任かと私は今のところ思っています。彼は戦闘方面では役に立ちそうにありませんし。」
「成る程。確かに一理あるかと。しかし、彼はあの女を失ってからキ◯ガイになってしまっているはずですが・・・・。」
「大丈夫ですよ。私に考えがあります。」
そう言うとルディはガドに計画の内容を話した。ガドはそれを聴くと満足そうに頷きながら賛成の意を示した。
「では行きましょうか。」
ルディ達が向かったのは、かつてヴィヴィアンが閉じ込められていたあの地下礼拝堂だ。階段を下って廊下に出ると、壁に掛けられたランタンが一気に点灯していき、廊下を照らし出した。ルディ達はその廊下を真っ直ぐに進み、やがて大きな扉の前に到着した。
ガドが率先して扉を開けると、礼拝堂の中はかつて一人で来た時から驚くほど様変わりしていた。ボロボロに朽ちていた長椅子は全て新しい物に交換されて、剥げかけた壁土は綺麗に修復されていた。柱にはランタンや蝋燭が立てられて、礼拝堂を明るく照らしており、中央にある御神体がキラキラと輝きを放って、以前よりも神聖さを感じさせる空間へと様変わりしてあた。
「えーと、あぁそこにいましたか。」
そこには礼拝堂の中央にある祭壇の前に膝まずきながら祈りを捧げている信吾がいた。あの日から2日程経っているが、ここはまるで時間が止まってしまったような錯覚を感じた。それもそのはず、彼はこの礼拝堂に自ら閉じ籠り、この2日間は飲まず食わずの生活を送っていた。一晩中泣いていたのであろうか、両目には涙の後がくっきりと残り、顔には隈ができていた。
「大丈夫ですか?あまり眠れていないようですね。少し休んだ方が良いでしょう。」
ルディは信吾に近寄ると、彼を長椅子に座るように勧めた。信吾はふらふらしながらもルディの後に付いていき、長椅子に一緒に座り込んだ。
「今回は貴方にお話があります。」
「・・・・・・・・」
信吾は何も答えなかったが、その虚ろな目は話を続けるように諭していた。
「貴方の失った彼女のことについてです。」
「っ!何故それを!」
信吾はその言葉に反応したのか隈が酷い顔を歪めながらこちらを睨んだ。
ルディはそれを無視して話していく。
「貴方がある仕事をしてくれるのなら、貴方の願いを聞き届けるのも藪かさではありません。」
「・・・・あんたは一体誰なんだ?」
「おや?・・・そうですね私のことは一先ずハットマンとでも呼んで下さい。」
信吾はどうやら人化したルディを知らなかったようだ。
「・・・ハットマンさん。僕はある魔物に全てを奪われた。」
「よくあることですね。」
「その魔物は僕の大切な、大切な人をまるで害虫のように叩き殺したんだ。僕はただそれを見ているだけしか出来なかった。僕はとても悔しかった。悔しくて悔しくて堪らなかった。」
「ふむ、それで。」
「僕は弱点を見つけようと、奴のステータスを盗み見た。だけど、無かったんだ。」
「弱点がですか?」
「そうだ。弱点が無かった。あるのは理不尽な性能を持つスキルと耐性のみ。その時僕は悟ったんだ。『こいつには勝てない、化物だ。』てね。彼女が勝てなかったのも仕方がなかったのかもしれない。」
「確かにそうですね。」
「だけど!諦められないんだ!」
信吾は立ち上がると怒鳴り声を上げた。
「彼女の笑顔が!彼女の仕草が!あの日の記憶が!今でも忘れようとするとするほど忘れられなくなる!そうなると僕は、僕は・・・・・・。」
「これでもどうぞ。落ち着いて下さい。今日はその為に来たのですから。」
ルディはそう言うと懐から、葉巻を取り出し信吾に咥えさせ火を着けた。信吾はそれを吸うと幾分か落ち着きを取り戻した。
「つらいのはわかります。私もそんな事は幾度も経験してきましたからね。自分にとって一番大切な人は、居なくなってしまってから解ったりするものですから。何時までもあると、つい錯覚してしまうんですよね。」
そんな事をなぜ言ったのかはルディも分からない。しかし、それはある意味信吾の心を動かすきっかけになったのだった。
「ハットマンさん・・・貴方も・・・・ですか?」
「・・・・はい、昔ちょっとやらかしました。そのせいで・・・。」
「・・・・同じですね。悲しいものだと思いますよ。」
「いえいえ、貴方はまだ希望があります。私はその為に今日ここに来たのですから。」
「ハハッさっきから何回目ですか。そんな事は有り得ないですよ。」
「では諦めるんですね。」
「・・・・・・・・。」
「貴方、さっき私に言いましたよね?彼女を諦めきれないと。」
「・・・・・・・・・。」
「しかし、私がこんなにチャンスを与えているのにもかかわらず、何故それを叩き潰すような言動をするのですか?」
「・・・・・・・・・。」
「わかりますか?貴方は甘えん坊なんですよ。怒るかもしれませんが、聴きなさい。私からしてみれば貴方は彼女を失なった悲しみを他人に訴えて周りから同情を買おうとしている悲劇の少年を演じているのですよ。」
「・・・・・・止めろ」
「貴方が本気で彼女を愛しているならば、どんな手を使ってでも甦らせようと尽力するはずでしょう?それをしないってことは貴方はそこまで彼女を愛していなかったのではないですか?」
「・・・もう止めろ、分かった。頼む。」
「ではもう一度聞きますよ?貴方の彼女を甦らせたいですか?」
「そんな事が!・・・・・いや、甦らせたいさ!頼むよ!」
「ではここにサインを。」
「えっ、それは・・・?」
「私が貴方に求める対価ですよ。」
信吾が見た紙切れの内容は、この屋敷の厨房で働く事についてだった。
はっきり言ってあまり自信はないがそれで彼女が帰ってくるならば、やってやると内容をよく確認せずにサインを書いた。信吾がサインをすると、紙切れはぽうっと光り契約が成立したことを示していた。
「では、明日から頼みますよ。貴方は今日はもう休みなさい。私がいろいろと準備しますから。・・・・クククッ。」
「?分かりました!ではお休みなさい。」
そう言うと信吾は礼拝堂の奥にあるベッドルームへと歩いて行ってしまった。ルディは椅子から立ち上がると、笑いを堪えながらガドが開けてくれた礼拝堂の扉をくぐり、階段を登り部屋に戻った頃にはもう二人は限界だった。
「ククク・・・・ククク・・・・・ハーハッハハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」
「いやはや、あんなに上手くいくとは予想外でしたよ。」
「そうですね。主が同情したように声を掛けた時のあの顔ったら!阿保面過ぎて話になりませんでしたね。」
「しかもですよ。ちょっと耳の痛い話を聴いただけで、その行動が駄目なんだとよく考えもせずにやってしまう傾向がありますからね。己が愛する者の為ならば何でもする覚悟を決めるべき的な話をすればあの通り。ちょっとだけ先生方の考えを読めた気がしましたよ。確かに子供は騙しやすい、ってね。」
「ではこれで私達の食事事情は改善されるんですね。」
「そうですね。良かったですよ。良い奴隷が手に入りそうです、ほら。」
そう言うとルディはさっきの契約書を見せた。
「何ですか、それ?」
「契約書ですよ。よく見て下さい。」
「あっ!」
ルディはその契約書をペリペリと剥がしていった。そこには一枚目の契約書とは全く別物である隷俗契約書とも言える内容が書いてあった。そう、この契約書はノーカーボン用紙のような構造をしていたのだ。その為二枚目の契約書にも信吾の名前が書かれていた。
「しかも、お楽しみはこれからですよ。」
そう言うルディが指し示した一枚目の契約書のある欄にはこう書かれていた。
───『本書を紛失した場合、契約は自動的に解除されるものとする。』
そして二枚目には、
───『本書を紛失した場合でも、契約者の両方が納得しない限り契約は持続するものとする。』
「こ、これは!」
「分かりましたか?ではこれを、こうです。」
そう言うとルディは二枚の契約書を暖炉の中にくべた。契約書はパチパチと音をたてながら燃えていき、灰と化した。
「これで私は彼に対価を支払わなくても良い事になりました。」
そう言うとルディは気品のある動きで紅茶を口にした。もはや信吾は只の奴隷と化した。しかも彼はその事を知らない。
(せいぜい私達の為に必死で働いて貰いますよ。)
ルディはそう思いながら、紅茶を飲み干した。紅茶のほんのりと甘い感覚がルディの舌を楽しませた。
いつもコメント、誤字報告ありがとうございます。




