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チェイサー 〜真実を追う者〜  作者: 夛鍵ヨウ
第一章 消えた村人達
9/100

アルマ村1日目⑤

 村長の屋敷を出て、中央広場から歩き易い森の道へと向かった。この後は山を下りてカラック村で宿をとり、アルマ村の情報を集める事にする。

 

 雑草を踏み倒しながら、今日一日の事を振り返る。

 様々な疑問が見つかっただけでまだ何も解らない。

 明日やるべき事を頭の中で並べて行く。

 

 鶏小屋の下を掘り起こす事。“貯蔵庫”と刻まれた真鍮の鍵が何処の物か探す事。 森番の机に刻まれていた謎掛けや、日記の中でサイモン医師が慌てていた理由も少々引っかかる。だがそれ以上に、この村に訪れた旅人の名前や、その後何処へ行ったのか追跡が出来れば……。

 村長が暖炉で燃やした物がそれに関わっている気がして、深い溜め息が出た。

 その時。



 低い唸り声が背後から響いた。



 振り向く。生い茂った雑草の向こうに黒い四つ足の影が見えた。

 薄暗い夕闇の中、その両眼は見た事も無い程赤く光っている。

 カイは視線をそのままにして、片足を軸にゆっくりと体の向きを変え、その影と対峙した。同時に腰の剣に手を掛ける。

 

 黒い影はあからさまな殺気を漂わせ、荒い息を吐きながらカイとの間合いを詰めて行く。

 カイは剣を抜き、構えた。正式に剣術を習ってはいないが、実践は過去に数回こなしている。街の郊外に出たコボルドやゴブリンの討伐隊に必ず参加し、時には運送の依頼の途中で流しの盗賊を撃退した。しかし。

(……四足歩行の生き物は動きが素早く勘も鋭い。加えて足下の状況はこちらにかなり分が悪い。……一瞬も油断出来ないな)


 集中しつつ、周りの音に耳を澄ます。この影が狼であるならば、群れが近くにいるかもしれない。そうなると一人で立ち向かうのは無謀だ。

 落ち着いて耳を澄ます。草むら、建物の陰、背後の森からも何も聞こえない。気配も特に感じられなかった。

 こいつは一匹だけのようだ。

 そう考えた瞬間、影が飛びかかって来た。

 

 カイは斜め前に一歩出るようにして攻撃をかわしつつ、剣を影の首目掛けて下から斬り上げた。

 腕に掛かる重い衝撃に耐えてそのまま振り切る。直後に草を薙ぎ倒す音が背後で聞こえた。

 素早く二撃目を構えて振り返ると、影は地面に倒れ動きを止めていた。

 カイの一撃が急所に入ったらしい。

 

 思ったよりも早く決着がついて内心ほっとする。型を習っていない分、戦闘はいつも己の勘が頼りだ。呼吸を整えて絶命した影に近づく。

 影は狼ではなかった。真っ黒い毛の大きな犬……野犬だろうか。

 対峙した時は気が付かなかったが、ただの野犬にしてもあんな動きが出来たのが不思議なくらい、体の至る所に傷を負っている。傷と言うより欠損と呼べる箇所もあった。それらが全て赤黒い血で固められており、痛々しいと言うよりも(むし)ろ禍々しいものに見えてしまう。

 

 一匹だけで何故こんな所に、と考えを巡らせた瞬間、とても嫌な予感が頭を(よぎ)った。

 周囲の草むらに目を凝らす。

(ああ……やはり……)

 カイの剣が首を斬り上げたその時に切れて飛んで行ったのだろう。

 赤黒く染まった革の首輪。文字の焼き印が押してあった。

 “トビー”

 誰かの飼い犬。


 何故こんな姿に?


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