Scene1-9
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ジョーから渡された手帳を読んでみる。この家に住んでいたのははぐれの錬金術師で、未だこの世に無いものを創ることに生涯をかけていたらしい。そして試作品として出来上がったのがあのゴーレム。普通のゴーレムが中身が空洞なのを見て、何か仕掛けを体内に仕込めるのではないかと思い、研究していたらしい。その辺の失敗談や成功までの実験結果も書かれているけど、今はそこは割愛。
幾つか頁を進め、ほぼ手帳の最後の辺りにその事が書かれていた。
『ついに作り出すことに成功した!前からずっと疑問に思っていたのだ、武器と一緒に魔法が使えないかどうか。こう言うと周りの奴はなにいってんだ?って顔をするが、世界のどこかには私と同じ考えをしている人物が居る筈だ。それもそうだ、【魔法銀】を材料に使えば、<魔力操作>で長時間武器に魔法効果を付加する事が出来る。だがそうじゃない!こいつはそんな面倒なことしなくても済む!』
クローズドの時にこれは身をもって実感している。このメンバーだとリィーナがそうだが、武器に魔法を纏わせて置くのは短時間しか出来ない。更に、その為には一度<魔力操作>で武器を持っていない手に集中させ、そこで魔力を変換しつつ、武器の許容量以上に魔力を込めないようにしないといけない。込めすぎたらどうなるか?そんなの武器が壊れるにきまってるじゃないですか。
【魔法銀】というのは見た事がないが、この辺はどのゲームも共通だな、と思いつつ使って見たい気持ちが溢れてくる。今ではもう慣れたものだが、此処に来るまでにリィーナは武器を数十本壊している。壊すたびにこちらに涙目で謝りに来るので、僕としても胃に辛かったりした毎日だった。
『魔力結晶を材料に、持ち主が注いだ魔力を一度武器内で受け止める機関を組み込み、そこから必要量だけ引き出して使う術式を刻み込んだ。これで武器が壊れる心配はないし、誰でも扱える武器になる。今回は内部の重要機関分しか確保できなかったので外装や刀身は鋼だが、いつか全部を【魔剛石】で統一したいものだ。硬くて軽く、魔法との親和も言いとこいつらにはバッチリの素材なんだが、創るだけで金がなくなるのが欠点か。』
魔力結晶は文字通りの物質で、魔力濃度の高い場所から発見される事がある。武具の素材として取引されたり、魔力を貯蔵しておける為、魔法使いの人達に高額で買われたりしている。ただし消耗品。
【魔剛石】は【魔法銀】と同じくまだ誰も見たことが無い鉱石だ。名前としては有名だけど、創るって書いてあるって事は発掘されるものじゃあないって事だろうか。
頁をめくると、どうやら此処が最後の内容らしい。
『この地域で研究できることはし尽くした、次は何処で研究をするか・・・。材料が心もとないから、一度鉱山に行くのも良いかも知れない。このゴーレムにはこの家を守っていて貰おう。いつか此処に帰ってくるかもしれないし、なによりこの試作品を悪用されない為にも。』
『結局【魔剛石】での統一は出来なかったが、更なる改良は施すことが出来た。鍵を手に入れた者に託す事としよう、つまりあのゴーレムを倒せたという事だから。
カバンの中には、私が作った【魔導機具】がバラバラの状態で保存されている・・・ああ、何もここから組み立てろって事じゃないぞ?鍵を開けた瞬間、その持ち主に相応しい武器に組みあがるからな。一応、容器に<保存>の魔法はかけて置くが、中身の具合はまあ期待しないでくれ。もしかしたら結構なメンテナンスが必要かもしれないな。それをどう使うかは私の知った事ではないが、それを持った人物が訪れたなら、メンテナンス位はしてもいいかもしれない。』
これは他のMMOで言う受けた職業で報酬が変わるタイプのものと同じなのだろう。自分の装備出来るものが貰える、というのはありがたい。使わない武器だったりすると、PT内に使う人物がいればいいが、居なければ売るか捨てるかしかない。売ろうにも使う人を捕まえないといけないので手間がかかって僕は嫌いだ。
「自分にあった武器、か。用は一番高い武器スキルが反映されるのか?」
「じゃあ問題ないじゃん、早く開けようよ~。」
子犬のように僕を見つめてくるリィーナ。なんでこっち見るの。
「わかっていますよ。それじゃ、全員一緒に。」
「おう。」「やたっ!」
それぞれの手に鍵を実体化させ、カバンの錠前に差し込む。実は違いました、なんて事も無く錠前が解除され、カバンの隙間から光が漏れる。多分、開けたPCに合わせて部品を組み立てているのだろう。少し待つと光が消えたので、カバンを開ける。僕の目の前に現れたのは、1本の短剣。それと――。
「・・・銃?」
銃に見えたけど、実際には銃ではないみたい。造りはエアガンと同じ感じなんだけど、カバンの中に弾丸は見当たらない。それに、銃身の下部には銀色のものが見え、さらにその根元の作りから察するにこれは。
「1対の銃剣だ。こんなものまであるなんて――あれ?でもスキルに<銃>なんて無かった筈・・・・・・うん、やっぱり無い。」
どうすれば短剣になるのか、と悩んでいると自動的に下部に設置された刃が跳ね上がり、握りと銃身の傾きが無くなる。どうやらプレイヤーが強くイメージした方に切り替わるらしい。しばらく実験のように銃と短剣を切り替えてみる。間違い無さそうだ。
ジョー達はどんな武器になったのかな?
「お、やっぱり杖か。鍵を手に入れた時点で、PCのスキルを読み取ってるんだろうな。宝石が1個だけ嵌ってるって事は、残りをどうにかすれば完成系ってところか?」
「おー、長さと刀身の広さからみてブロソベースかな?でもブロソにしては妙に刀身が分厚い様な・・・それにこのモールドはなんだろ。」
ジョーが杖、ワンドじゃなくてロッドと呼ばれる分類の身長より長いもの。リィーナは刀身の幅と長さからブロードソードみたいだけど、言っているように刀身が普通のよりも分厚い。
「カナタはって、なんだそれ銃剣か?そんな珍しい武器までプログラムされてるんだな。」
「僕もびっくりですよ。でもコレを持っても<銃>のスキルが手に入った訳じゃないみたいで。」
と、話していると目の前にウィンドウが表示される。
『ユニークウェポン入手おめでとうございます!』
『GET:魔導複合機【ウェンティ】』
「「「ユニークウェポン(だと)(ですって)!?!」」」
僕たちは声を揃えて大声で叫んだ。
「ど、どうしましょうジョー君!初探索のお宝がこんなレアなもので良いんでしょうか!?」
「い、いや待て落ち着け。これはユニークだがいわゆるゴミレアかもしれない。」
ユニークウェポン、それはこのFLOにおいて一つしか存在していない武器の事。しかし、1つしかないからユニークウェポンとして分類されているのであって、それが全て強力な武器と言う保証は無い。と言うのも、強力な武器とは限らないと言う情報すら公式からのアナウンス情報であり、未だに発見報告が出ていないからだ。そんなアイテムが、こんな簡単に僕たちの手に?慌てるなって言うのが無理なことだ。
だから、まず手に入れたアイテムの性能を見て、それからいいものかどうかを考えよう、って話に落ち着いた。初めはジョーの手に入れた杖から。
「すぅー、はぁー。良し、開くぞ?」
【魔導機杖≪オーロラ≫】 耐久:30/30
攻撃+8 INT+2 MP+5%
レア度:9 製作者:???
状態:欠陥
宝石:<ガーネット><無><無><無><無><無><無>
付与能力:<限定取得:ブレイズピラー><火属性魔法威力+20%>
解放形態:使用不可
説明:レムールの遺跡で手に入れた魔導武具、そのシリーズの杖。しかし長年放置されていた為に各部の状態は最悪に近く、また宝石も粗悪なものが一つしか組み込まれていない。本来の性能を出す為には、何度かのメンテナンスと残りの宝石を組み込む必要があるだろう。
「あまり強くない、よね?」
確かに、このデータを見る限りだと基礎補正値は強くない。でも――。
「いや、十分強い。粗悪な宝石でも威力+20%だぞ?メンテナンス、って言葉から考えても、こいつは何回か強化してからが本番の装備だ。」
「RPGだと一番厄介なタイプですよね、その時までインベントリを1枠ずっと埋めているんですから。」
「でもその価値はあるだろ?<限定取得>って言うのも宝石のランクで変わるのかどうか・・・ヤバイな、確認したいことばかりだ!」
「それじゃ、次は私の番って事で。」
【魔導機剣≪プルトン≫】 耐久:30/30
攻撃+28 AGI+2 MP+3%
レア度:9 製作者:???
状態:欠陥
付与能力:<限定取得:ヘイルストーム><氷属性威力+8%>
解放形態:使用不可
説明:レムールの遺跡で手に入れた魔導武具、そのシリーズの剣。しかし長年放置されていた為に各部の状態は最悪に近く、制御コアも魔力漏れの危険がある。本来の性能を出す為には、何度かのメンテナンスと新しい制御コアの組み込みが必要となるだろう。
「これも同じような説明文ですね。」
「うーん、刀身は大丈夫そうだけど他が錆が酷いよ~。あ、でも速度型としてAGI上昇は嬉しいな。」
「制御コア?こっちは宝石じゃなくてそれを作る必要があるのか、後で本を漁り直すしかないな。」
「じゃあ最後に僕の武器ですね。」
【魔導複合機≪ウェンティ≫】 耐久:30/30
攻撃+19 DEX+2 MP+5%
レア度:9 製作者:???
状態:欠陥
付与能力:<限定取得:詠唱不要><物理威力+3%><魔法威力+3%>
形態変化:<短剣><銃><???><???>
解放形態:使用不可
説明:レムールの遺跡で手に入れた魔導武具、その万能機。しかし長年放置されていた為に各部の状態は最悪に近く、制御コアも魔力漏れの危険がある。またパーツの歪み等で幾つかの機能が使えなくなっている。本来の性能を出す為には、何度かのメンテナンスと新しい制御コアの組み込みが必要となるだろう。
「うわぁ、銃だけでも凄いのに複数変化武器?どれだけロマンを詰め込んだ武器なの!?」
「決まりだな。こいつ等はある程度修理できないと使えない武器だ。色々と必要なものが多すぎるし、<鍛冶>スキルで修理できるかも怪しい。」
「ですね、そもそも材料が作れるかどうか・・・。<鍛冶>だけじゃ無理な気がします。」
「ねえ二人とも、悩むのはいいけどキャンプの準備しない?もう外暗くなりかけてるよ。」
「「あ。」」
慌てて武器をインベントリに収納し、そこから大急ぎで野営の準備に取り掛かる羽目に。準備が整った頃には、もうすっかり辺りは暗くなっていました。