Scene3-4
惑星マキナまで出勤してたので遅くなります。
僕たちがブリッツアントレスを倒ししばらく休憩していると、別れて戦っていたリィーナ達が帰ってきた。その姿は別れる前と同じ、とはいかなかった。どうやらむこうも結構苦戦をさせられたらしい。
「ただいまー、私達も休憩貰っていいかな?」
リィーナが代表として声をかける。これに断る理由は無いが、何時襲われるかもわからない森の中で、それも夜に全員で固まっているわけにはいかないだろう。
「それなら僕とジョーで警戒をしよう。僕は遠距離攻撃が出来るし、ジョーの<探索球>で周りの様子も確認できる。今なら多少光っても問題ないだろう?」
休憩中の今は暖をとる意味も含めて焚き火をおこしてある。この場で料理をしようと考えたけど、匂いでモンスターがこちらに釣られる場合を考え僕の中で却下しておいた。
どちらにせよ焚き火の明かりが目立っている今なら、ジョーの魔法発動の発光も大して問題ないだろう、と全員の意見も一致し2人に警戒をお願いする事で決定した。現在は夜の10時、長く止まれても30分だろう。<瞑想>で5分あれば魔力は大体回復するから、実際の休憩時間は10分くらいになると思うけど。
「はぁー、あったかい。」
「リィーナ、ちょっと力が強いです。」
「おっと、ごめんね。この位?」
焚き火に行けばいいのにリィーナは僕に抱きついて暖をとっている。普段なら引き剥がすのだけど、今回はブリッツアントレスの1匹と戦ってもらったのだから許している。ついでに早く回復して欲しいのでインベントリから作り置きしてあるサンドイッチを出し、千切ってからリィーナの口に運ぶ。目を閉じて美味しいと呟きながら咀嚼し、次のを待つ姿は小動物のようで僕としても癒される。
外から見ればただの餌付けだけど。
そんな状態の僕たちに近付いてくる足音が一つ。顔を上げると槍を携えた平均よりは高いだろう女性がいた、確かリィーナの知り合いの一人だったかな。
「リィーナの頼みとは言え、まさかいきなりこんなに消耗するとは思ってもいなかったわ。」
「こっちもですよ?まさか居ると見ているボスの前で中ボスとは考えていませんでしたから。」
苦笑いを顔に出しながら、彼女は槍を押さえているのとは反対側の手を僕のほうへと差し出した。
「自己紹介の時間が鹿に取られちゃったからね。私はミナギ、<槍>をメインにしているわ、よろしく。」
ミナギさんは一言で言うとスタイルが良い。綺麗な黒色の長髪をうなじ部分で紙でまとめた、巫女さんがしている髪型だと思う。それを言うと確かに巫女さんのする髪のまとめ方だけど夜だからそう見えるだけで、本当は瑠璃紺色と言う暗めの青色の髪だと教えてくれた。どうやら一番拘った部分がこの髪の色なんだとか。
「リィちゃんばかりずるいですねえ、私もその子を抱いてみたいんですが。」
「だ~め~、ピンクさんは男の人に興味無いでしょ?」
「ん~~、悔しいけど男性じゃ諦めるしかないわねえ。」
僕からは見えないけどリィーナが誰かと話している、僕の背後で。振り向きたいけど振り向いてもリィーナの胸しか見えないから意味が無いんだよね。と考えていると、どうやらその話し相手が僕のほうへ回りこんできてくれたらしい。
なんていうか、大きい人だった。毛先にウェーブのかかった鴇色のロングボブ、それと同じようなピンク色の瞳とオーラ。ピンクのオーラを放っているけど僕が危険を感じないのは多分、先ほどのリィーナの一言のおかげだろう。
「ま、挨拶位はね?<治癒>魔法を上げてます、ピンクお姉さんって呼んでね?」
「え・・・あの、名前、は?」
「教えてもピンクさんかお姉さんとしか呼ばれたくないのよ。」
呼ばれたくないのよ、じゃなくって!
「ピンクさんで良いのよ?覚えやすいし、判りやすいでしょ?」
「はあ・・・良いんですか?」
「良いんです。男の子なら尚更名前よりはこっちで呼んで欲しいわ、ごめんなさいね?」
「いえ、無理強いするものでもありませんから。よろしくお願いします、ピンクさん。」
男性にはどうしてもピンクさんで呼んで欲しい理由は、可愛い子にしか名前で呼ばれたくないからだそうで・・・そんな事だろうとは思ったけどさあ。
「ついでに紹介しておくわね。向こうの緑色の子がナギサ、攻撃魔法をメインに上げている子ね。その傍にいる大きな武器を腰に提げた子がアカネ。<両剣>って言う珍しい分類の技能がメインよ。」
ミナギさんの指差す方には確かにその言葉通りの少女が二人、焚き火の近くで食事をとっている。見た目で判断するのは失礼だと思うけど、多分リィーナと同じくらいの歳じゃないかな。
魔法使いのナギサさんは緑系の髪を短めのツインテールにしている。武器は短杖を持っているみたいだけど、その反対側には直剣が携えてるのが見えた。魔法剣士でも目指しているのかもしれない。クラス制のゲームみたいな優劣はそこまで表に出ないし、魔法と技の組み合わせで魔法剣みたいな技が使えるようになるかもしれない。
ミナギさんが珍しいと言っていた<両剣>使いのアカネさん。髪の色は赤系でナギサさんとサンドイッチを食べさせあっているのを見る限り、2人の仲はかなり良さそうだ。
<両剣>とは柄の両端に刃の付いた武器で、何故かMMOでは中々見ない武器だったりする。珍しい理由は2つ有り、1つは<両剣>の武器を作るのが難しいと言う事。特にバランスが取れた完成品が中々作られず、露店で見ても他の武器と比べて高額なことが多い。
もう1つの理由――こちらが主に<両剣>使いが珍しいと言われる理由だが、純粋に動きが難しいのだ。リーチが長めで複数の敵を巻き込めると言うのは長柄武器のメリットであるが、両端に武器が付いた<両剣>は扱い方を間違えるとすぐに自分が傷だらけとなってしまう。自分だけでなく、周りにも視線を向け他人を巻き込まない位置を取り攻撃を続ける必要があるのだ。
今アカネさんが腰に着けているのは片側ロングソードと同じ長さだと思う、それを組み合わせた両剣をこの障害物の多い森の中で扱えるような人はそうそう居ない。
「アカネさん、腕が良いんですね。」
「当然、βからずっとあの武器を使っていますからね。さすがに森の中では厳しいみたいですが、ある程度広い場所なら問題ありませんよ。」
武器の形状故狭い場所では戦えないといわれるが、ものによっては中心で分割し折りたたんでおけるものがある。今のアカネさんがしているように。あの武器なら最悪の場合片手武器としても扱えるので、狭い場所でも戦えないと言う事は無い。<両剣>の技能が反映されない為、両剣本来の戦いで出せる威力は与えられないが。
「あ、そうだ。」
ジョーからもボルトさんからも何も連絡が無いって事は、今はまだ安全と言うことだろう。ならば今のうちに確認しておきたいものがある。
インベントリからアイテムを取り出し、僕の手のひらに実体化させる。
「ん~どうしたの?」
「さっきの鹿との戦いでアイテムが変化したみたいで。」
その言葉を聴いて近くに居た3人が僕の手を覗き込んでくる。
「一体何をどうすればそんな事になるんですか。」
「えーと・・・奇跡的に?深い考えなしで行動したもので・・・。」
呆れた顔で訊ねてきたミナギさんに僕も呆れ顔で返す。僕の手に実体化したのは先ほど雷攻撃に向けて防御用に投げたインゴット、その砕けなかった唯一のものだ。
「さて、何がどうなったのやら・・・。」
期待せずに見たアイテムの説明は、予想外の変化を迎えていた。
――――――――――
【吸放鉄】
レア度:5 許容魔法:初級、中級
説明:【劣化魔法銀】が急激に大量の魔法を受けたことにより変貌した金属で、この金属が属性を帯びているわけではない。魔法の吸収と吸い取った魔法を純粋な属性の力として放出が出来るが、許容限界以上の等級魔法を受けると即座に砕けてしまう。時折見つかった時には、剣の刀身に使われることが大半である。
――――――――――
強力な雷にぶつけたから、もしかしたら<雷>属性の武器が作れるのでは?と考えていたけれど、その考えも甘かったのだろうか。いや、普通はこんな良くわからない金属になるとは思わないって。
「なに、これ。」
「ナギサが見たら欲しがりそうな素材ですねえ。」
「どうしよう・・・。」
覗いていた3人にもアイテム情報が確認出来たのは、これが素材アイテムと言うことと、実体化させてあるものだからという理由がある。他人のインベントリの中を見る事は出来ないが、実体化させたアイテムなら<鑑定>の効果で情報を見ることが出来るという訳。
見せた理由は、反応をみてこいつの処分を決めたかったから、としか言えない。
今のところ偶然の産物の為、量産しようにも条件がわからない。いや、量産する気はないんだけど掲示板に情報を上げるのも躊躇ってしまう。鉄も値上がりしそう・・・って言うかその前に【劣化魔法銀】の製法も必要だから、【アノネナイト】の物価が上がる・・・?
「よし、見なかったことにしておきましょう。」
鉄の値上がりでも厳しいのに、【アノネナイト】が掘りつくされるのは正直困る。【劣化魔法銀】はまだ僕たちも沢山使いそうだし、【魔力銀】や【魔法銀】、それにまだわからない【魔剛石】だってあるのだ。他に【アノネナイト】が採掘できる場所が出るまでは、自力で製法に到達してもらいたいのが僕の本音だ。
「まあ私は別に良いけどね、別の武器はあるから。」
答えたリィーナにはその通り、この鉄を使った武器は<プルトン>があれば全て事足りる範囲である。でも<プルトン>を使っていないとき用に、耐久度を下げない用の武器としてはありじゃないだろうか?
そう考えるとさっきとは違い、この【吸放鉄】の製法を確認するのは僕たちに損は1つも無いのではないだろうか?
「・・・失礼かもしれないけど、君は<鍛冶師>なの?」
最初に断ったのは他人のプレイスタイルを探るのはマナー違反と言われているから。自分から言っていくのは何の問題にもならないけど、無理に探るのは常識的に見ても失礼だろう。
ミナギさんは<鍛冶師>と聞いたが、FLOのプレイヤーに職業は無いのでプレイヤーが勝手に言っているものだけど。
「いいえ、違います。育ててはいますけど、それメインでは無いので。」
「そう・・・。」
何か言いたそうだけど言わない、こっちを考えて無理を言わないように引いてくれたのだと思う。専属鍛冶師に、と言われたりしても困るだけだしね。
「戻ったぞー、そろそろ出発しないか?」
「だな。周囲に変な気配もないし、今ならすぐに進めると思うよ。」
タイミング良く警戒に出ていたジョーとボルトが戻ってきてくれた。僕も時間を確認すると既に15分位はここで休憩していたことになる。体力も魔力も問題ない、他の人達も問題ないみたいですぐに立ち上がり準備をしている。
何か考えているみたいだけど、リィーナがお世話になってるし・・・話を聞くだけなら良いかな。今は無理だからそれもあわせて。
「すみません。この続きはまた、時間をとってということで。何か言いたい事があるんですよね?」
「いえ、時間をとって貰えるだけで十分です。続きは今度、ですね。」
全員の準備が済んだのを確認して、ボルトさんが焚き火を消す。
時間は10時30分。さあ、後半戦に突入だ。




