Scene2-9
「そろそろこいつも読めるかな?」
今僕は【木漏れ日亭】に取った自分の部屋に帰ってきている。夕飯の親子丼を食べ終え、再度FLOの世界にやってきた僕だけど、やはり露店通りにメイド服でPCが出現したわけで。いきなりメイドが出現したことと、なによりソレを着ているのがプレイヤーと言うことで注目を浴びたが、質問が問いかけられる前に逃げ出すことに成功したのだ。SSは撮られているかもしれないけど、そこまではどうにも出来ないし仕方ないと割り切っている。
その後にも、【木漏れ日亭】に帰ってきた時にルミーレさんに「その服で客引きしませんか?」と割と本気の眼で誘われると言う事件もあったが、それは忘れてしまおう。ただでさえ、夕飯前に注目をあびてしまったのだ。今日はもうこれ以上人前に出たく無い。
「えっと、『<魔導機>の仕組み:基礎』と『<魔導機>の組み合わせ:中級』か。『中級』はまだ僕のレベルにあっていないからインベントリに戻して、今はこっち。」
インベントリに仕舞ってあった4冊のうち、背表紙のタイトルが読めるようになっていた2冊を目の前に並べていた。今僕が作りたいのは内部機構の部品だ、なのでこっちの『中級』は再びインベントリに収納と。
「時間を忘れないようにタイマーをセットして、と。」
僕は『基礎』の書の内容を読み解いていく。最初に如何にして完成に至ったのかという説明やら愚痴やらが数ページ入り、その後は実際の実験結果が書き綴られていた。その記載を読んで頭に入れつつ、必要なページを探していく。
「あった、ここだ。」
本の真ん中を越えた位のところにそれは載っていた。内部機構の大まかな配置と、それぞれ必要な部品の数だ。参考に1つしか載っていなかったらどうしようかと悩んでいたけど、ご丁寧に武器の分類ごとに載せられていたのでそこは杞憂だったと言える。
「あれ?僕の可変武器だけ何処にもない・・・色々と複雑だから、基礎じゃ載ってないのかも。」
思い返せば、僕の武器だけ可変でありジョーとリィーナの手に入れた武器は1形態固定のものだった。それなら自分の武器の手入れはまだ良いだろう。失敗してユニーク武器が消滅しました、とか洒落にならない。僕にはユニーク武器と言う以上に、友達との思い出としての補正が強いのだから。
となるとどちらの武器を先に強化すべきかを考える。リィーナのはブロードソードを主とした近接武器だ、当然その威力は武器の状態に左右されるだろう。一方ジョーの杖はあくまで魔法の補助としての意味合いが強い。それにあの杖はメンテナンス以外にも能力強化が出来る事がある、と僕とジョーの中では考えが揃っている。
なのでちょっと前にジョーからは――。
「俺の武器は一番最後で良いぞ?多分だけど、こいつの性能が上がるのは嬉しいが他に揃える物が有るからな。」
と、出来るほうからやってくれと言われている。
こうなると選択肢は一つしかない。
「リィーナの<プルトン>か。」
僕はいくつかページを戻し、直剣の項目を開いて部品数を確認する。同時に、その機能も確認することとなった。
直剣タイプの効果は単純で刀身の強化と属性付与、それに指定した魔法の使用可能と言うものだ。やはり強いのは強化と付与で、強化は単純に武器の鋭さを上昇させ、刃毀れを起こしにくくさせる。
また今のままでは無理だが、特殊加工したものを用意すれば魔力で刀身部分を形成できるようになるらしい。もちろん出し続けている間は装備者の魔力を消費し続けるので、使い勝手はプレイヤー次第だろうけど。
属性付与はそれぞれ組み込まれている回路に従い、固定の属性を刀身に付与するものらしい。こちらの方は消費魔力も少なく、効果時間も長めと使い勝手が良いように作られている。属性の入れ替えが出来ないのが欠点のようだが、それは実際にその場面に出会わないとどうすべきかはわからないと思う。
そして、僕がずっと疑問に思っていた部分。
「―――<解放形態>。」
一言で説明するのなら『フルパワーモード』だろうか。<魔導機>のコアに溜まっている魔力を全て消費し次の攻撃を格段に強化すると言う、特撮ヒーローの必殺技が思い浮かんだ。その分使用に制限がかかっており、多用するとコアに深刻なダメージが残るらしい。武器が壊れるのを防ぐため、一定以下の状態のコアでは発動できないようにロックされているそうだ。
「この使用不可ってそういう意味だったんだ。」
ならば、今回のメンテナンスで上手く事が運べば1回位は使えるようになるんじゃないかな?コアの魔力を使うっていうことは、もしかしたら属性付与の効果も付随しているかもしれない。
手数で攻めるリィーナに必殺の一撃が加わる、これは良いと思う。そう考えた僕は直剣型<魔導機>の内部装置に必要なものを数えていく。
「ギア(大)が4個、ギア(小)が9個。そして装甲部分とコアか。」
説明部分を見ていくとギアのそれぞれのレア度は3、これなら今の僕でも十分作れるはずだ。材料がちょっと不安だけど、今の錆びた金属よりはずっとましな筈だよね。【鉄】と【魔力水】も大目に確保できているから、リィーナの武器1個分位は部品が作れると思う。
「――よしっ!」
頬を1回叩いてやる気を注入!失敗したらまた材料を採りにいけば良いんだから。南の洞窟以外にね!
「ルミーレさん、僕は共同工房の方へ行ってきますので。」
部屋の鍵をあずけ、さあ行くぞと扉を潜り――。
「その格好のままでですかー?」
抜けることなく、ルミーレさんの一言で今の自分の姿を確認。その場で崩れ落ちる事となった。
その後いつまでもこのままという訳にも行かず、顔を真っ赤にして工房まで走るメイド服の白髪の女の子?が大勢の人に目撃されたとか何とか。
「やっほー、おっちゃん。4時間くらいでお願い。」
「おうぼうぶっ!?お前なんて格好してるんだ!」
そりゃそんな反応されるよね、工房のおっちゃんはちゃんと僕が男だって判っているし。
「知り合いの鍛冶師に<鑑定>を依頼しまして、手持ちが無かったので働くことに・・・。」
「お、おう。大変だったな・・・。」
4時間分の料金を渡し、おっちゃんに挨拶して工房へと入っていく。今回もやる事が事なので個人部屋で。
まずは前と同じ手順である程度不純物をなくした鉄鉱石を炉に入れ、【アイアンインゴット】を作成。ある程度大きな入れ物を用意し、【魔力水】を1個分いれインゴットを浸しておく。
その間に僕はインベントリから【魔溶鉄】を取り出し一度熱する。さすがに歯車を作れるとは思っていないので、メニューのオプションからシステムアシストの設定をONに変更。
「さ、それじゃあやってみようかな。」
感覚を掴む為にも、この1回は練習でしかない。だから失敗しても大丈夫失敗しても大丈夫・・・よし!自分に言い聞かせて不安をとりあえず置いておき、僕は鍛冶鎚を熱して赤くなったインゴットへ振り下ろす。
金属同士がぶつかる度に甲高い音が室内に響き渡る。鍛冶用の個室は初めて使ったけど、熱さが半端無いよ!炉との距離が近いのもあるけど、部屋全体が狭いから空気が温まるのも早い。それでも休むことはせず、アシストでポイントの出る部分をリズム良く叩いていく。
時たま手汗で鎚が滑りかけたり、眼に汗が入りそうになったりして順調とは言いがたい。次にするときはしっかりとタオルを用意しよう。いや、それよりもこの服が邪魔なのでは?個室だし脱いじゃう・・・?
「―――今はこいつに集中しよう。」
きっと暑さで少し考えがおかしくなっているに違いない、きっと、メイビー。着替えるのはこれを仕上げた後にするとして、今は作ることに集中集中っと。
叩いて叩いて、冷めてきたら炉に入れて熱を戻す。そしたらまた叩く。この作業を続けること約4分――。
「――ふう。」
一息ついた僕の手にはある程度形になった歯車の原型が置かれている。後は噛み合わせ部分を綺麗にすればいいのだけど、どうすれば良いんだろう?研ぎ機は形状的に使えないだろうし・・・と工房内を見渡していると1個目に付いたものがある。工業用の、目の粗い板やすり。
さすがにボブ盤は世界設定的に無理だったのだろう、これで削れって事だろうか?
「・・・・・・めげない、まだこの位なら!」
単純作業は嫌いじゃない、これしかないって言うのならやってやる!
そう意気込んで作業に入ったものの、アシストでどの位置まで動かして削ればいいかはわかるものの時間はどうしてもかかってしまう。歯車一つ作るのにかかった時間はなんと30分だ。これを後12回繰り返す。
「根競べ、だね。」
それからしばらくの間、僕は鍛冶をし続けていた。やっぱりまだ作業に手間取り、途中で時間が切れ掛かったりしたけど延長料金を払ってそのまま作業をすることにした。時間も足りてなかったしね。
そこからはひたすら同じ作業の繰り返し、叩いて、削って、やること自体は簡単に見えるけど少しでもミスりたくないから手は遅くなってしまう。歯車が全て出来上がったのは予想より少し遅めの、開始7時間後の事だった。
「つ、つかれたぁあ。」
もう腕を振り上げるのもきつい。でも完成までにまだ作らなければいけない部品がある。
「コアは大事な部分だから明日に回して、今日は装甲を作ったら切り上げよう。」
装甲版ならレシピからアシストをもらえばすぐに作れる。疲れきった身体に頬を軽く叩いて気合を入れなおす。
そう考えていたのだが、甘かった。先ほどの<解放形態>時は表面装甲が規定の場所へ移動し、排熱や魔力放出がしやすいよう、1枚に見えてその実複数枚の組み合わせだったのだ。とはいっても1枚1枚はそんなに手間のかかるものではない。ただ、ようやく終わりの見えた僕にはその道が延びた、という一点が精神的にきつかった。
結果部品はすぐに出来上がった。しかし気合でこの熱い中作業していた僕は時間超過で降りてこないのを不思議に思い、工房のおっちゃんが様子を見に来るまで気絶していた・・・らしい。
ご迷惑をおかけしました・・・。おっちゃんは笑って「あまり詰め過ぎるなよ!」と背中を叩いてくれたけど。いつかちゃんとお礼しないといけないね。




