後編
彼氏目線。
これで完結ですΨ(`∀´#)
ある日、学校でこんなろくでもない噂が広まった。
俺の可愛い彼女、川崎美咲は、学校一イケメンな江口颯斗のキープちゃんである、と。
そんな呆れた噂に俺は笑う。
「凄いね、もうこんなに噂が広まるなんて」
クスッ、
その日、とある教室が女子の発狂する声と、とある1人の男子の野太い声でギャーッ!と発狂した叫び声があった。
いきなりだが、俺の彼女、川崎美咲は普通に可愛い。周りは普通って言うけれど俺は可愛いと思っている。
恋は盲目とはよく言うけれども今の俺は正にそうだろうね。
彼女とは通っていた中学校が一緒で委員会で知り合った仲だった。
当時から優等生だった彼女はなにやら当時もイケメンだとモテはやされていた不良の幼馴染みに疲れていたようだ。
そんな美咲と委員会で過ごし始めて俺は彼女の素直で、でもどこかサッパリとした悪く言えば淡白なところに惚れ、彼女も俺の裏表隠さない腹黒さに惚れたと中学3年になると同時に交際がスタートした。
俗にいうちょっと変わったカップルが誕生した瞬間だった。
と、いうか俺の場合は一目惚れだったんだけど。
高校受験の前期に落ちた美咲、逆に前期で受かった俺、彼女は後期で必ず受かると意気込んで勉強を頑張った。俺も影ながら応援した。 後期を受かって嬉しさのあまりに泣き出した美咲は不謹慎だけど可愛かった。
高校に入学して、俺は弓道部に、美咲は生徒会に所属。そしてなぜか志望校が違った筈の美咲の幼馴染みの江口颯斗は高校でまたハーレムを形成していた。
別に俺達に支障がないならスルーしてやったんだけど、何を思ったのか江口颯斗は毎日のようにそのハーレムを引き連れては美咲の教室に通っていた。
それは2年に進級しても変わらなかった。しかも新しい奴を加えて、だ。
皆、アイツのハーレムにいるのが美少女だとか美女とか言ってたけど、見た目はどうであれ、あの女共中身が最低じゃん。
そして、江口颯斗は明らかに美咲に好意を寄せているのが分かった。
ハア…幼稚なやり方で美咲の気を引こうなんて無理だよ。美咲は直球で攻めないと振り向いてすらくれないよ。経験者は語るってやつだね。
「さて、そろそろ美咲を迎えに行かないとね」
学校中に広まった美咲と江口颯斗の話。でもそれは面白がって話されているが誰も信じないよ。
だって生徒会長の美咲と弓道部所属の俺は学校公認のラブラブカップルなんだし。
今頃、江口颯斗のハーレムが美咲の元に居て、江口颯斗が急いで向かってるんだろうね。
ああ、ワクワクするなぁ。江口颯斗は美咲に彼氏がいることを知らない。
長年片想いしてる相手がとっくに恋人を作ってたなんて知ったらどんな顔をするんだろう。
美咲は鋭いようで鈍いからなぁ。江口颯斗のやり方ではアイツの気持ちすら気付かないし。
「ま、気付いたとしても今の美咲は俺の彼女だしね」
あの噂、実は俺が流した噂話なんだよね。なんでって?江口颯斗に美咲には彼氏がいるってことを刻み付けるに良い舞台になると思ったからだよ。
こんな話を美咲にしたら嫌われるかな?でも美咲はこんな腹黒さに惚れたんだからそれはないか。
そして俺はそんな性格をした美咲に惚れたんだし。
俺は良くも悪くもいい性格をしているとよく言われる。俺もそう思う。
直せとも言われた。でも俺は直すつもりはない。素直に生きた方が楽だから。
そうこうしていると美咲の教室に着いた。
ドアが閉まっているのに漂っている殺伐とした空気を、敢えて読まずに俺はドアを開けた。
そして1度、江口颯斗であろう奴に視線を向けてから、美咲を見て白々しく言う。
「美咲、帰ろう」
「オーケー匠悟、今行く。じゃ、そーいうことで」
「……っぁ!ま…待てよ美咲!」
そう言って美咲が俺の元に去ろうとしたのを引き留める奴。うーん、実は今日初めて江口颯斗を見たけどコイツ、見た目は不良なのに中身は女々しいな。
美咲の幼馴染みだから、ちょっと期待してたけどダメだね。
只の顔が良くて勉強が出来るだけの小心者じゃない。
「……誰だ、その男は」
「だからさっき言った付き合って3年目のマイダーリン」
「オレはそんなこと聞いて」
「アンタ関係ないから当たり前じゃん。なんでいちいち、たかが、幼馴染みというカテゴリーに収まってるだけの、アンタに、あたしの彼氏とか恋愛事情とか話さなきゃならんのさ」
そう区切りながら言った美咲を前に顔を赤くしたり青くしたりと大変な江口颯斗。
うん、惚れ直したよ美咲。
パシリと、何気に掴んでいた腕から奴の手を払いのけた美咲は普段はしないのにちょっと大胆に俺の腕に絡みつく。
「江口颯斗君よ、そこまで聞きたいのならば紹介しよう。この人があたしの彼氏でマイスイートダーリンの橋本匠悟だよ」
「えぐちはやと…ああ、美咲がよく話す幼馴染みでウザイ奴等の核だね?初めまして俺は橋本匠悟、弓道部の副主将で美咲の彼氏だよ」
友好的な笑顔向けつつ俺は江口颯斗に毒づく。
さりげなくもう片方の腕を美咲の腰に回して目の前で目を丸くしている江口颯斗とハーレムに見せ付ける。
「と、言うわけであたしはアンタのキープちゃんでもないしアンタのことが好きでもない。あの噂はデタラメ、むしろアンタ眼中にないし。正真正銘の匠悟の彼女」
「…へぇ、そんな噂が流れてたんだ。俺と美咲が中学3年の頃から付き合ってるって知ってると思ってたんだけど」
俺が流した噂だから知ってるけど知らない振りをして相づちを打つ。
「生徒会長のあたしと匠悟がラブラブだっていうことも一緒に公表してるしね」
江口颯斗に笑顔でいう美咲。確かに、美咲が生徒会長に就任しての自己紹介で開口一番が
「弓道部所属の橋本匠悟君と中3からお付き合いをさせてもらっています川崎美咲です。この度生徒会長に就任致しました、至らぬ点もあると思いますが宜しくお願いします」
さすがの俺もこれには度肝を抜かれたよ。やっぱり美咲は面白いなぁってますます好きになったけど。
こんなことがあり、俺と美咲は校内一のバカップルとしても知られているのにそれを知らなかった江口颯斗君、君ってある意味幸福者だよね?
「――…美咲、」
「なに匠悟」
チュッ、
「キャーーッッ!!」
「…ハァッ!?」
俺の唇に当たる美咲の柔らかい唇。
クラスの皆の前で恥ずかしいのだろうけど、これであの噂が消えてくれたら別にいいか、と思ったんだろう美咲はたどたどしく答えてくれる。
江口颯斗は固まっている。お前、間抜け面の方が似合うんじゃない?って言いたくなるような間抜けな顔をしている。
「じゃ、帰ろうか美咲」
「うん、帰ろうか匠悟」
教室で茫然とする江口颯斗とハーレムを放置して、俺は美咲と恋人繋ぎで帰るのだった。
教室から出る際、もう1度、江口颯斗の方を見て
「 ば か な や つ 」
と口パクしてから俺は今度こそ美咲と帰った。
ホント、馬鹿な奴。そんな回りくどいことをせずに直球で攻めてたら美咲は君に惚れたかも知れないね。
ま、そのおかげで俺は美咲と付き合えてるんだから小心者の君には感謝しないとね。
ハッ、ざまぁっ。イケメン君。