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【連載版】ダンジョン最深部の黒猫様は極上のカリカリをご所望です  作者: あずきまんま


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第14話:東方の巫女と、至高の蜂蜜焼きカリカリ

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第一章:最深部の快適日常と、倒れ込む訪問者

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地下100階層------【奈落の淵】。かつては人類の足を踏み入れることを固く拒み、重苦しい死の気配と不吉な硫黄の匂いだけが立ち込めていた絶対不可侵の絶望空間。しかし今、その冷たく暗い大理石の岩肌に漂っていたのは、まるで春の陽だまりの中に身を置いているかのような、どこまでも穏やかで至福の空気であった。


「ふぁああ......ぁ......」


静寂が支配する空間に、小さく可愛らしい欠伸あくびがひとつ響き渡る。最深部に鎮座する巨大な暗黒竜ヴァルグ。その山のように巨大な頭部、漆黒の極上鱗が敷き詰められた角と角の間の特等席で、一匹の黒猫------クロがゆっくりと前脚をぐーっと伸ばし、お尻を高く持ち上げて伸びをしていた。尻尾の先端だけが雪のように白いその毛並みは、まるで夜空の一片を切り取ったかのように艶やかに輝いている。


(ふぁ〜あ、今日もぽかぽかで気持ちいいニャ......。ご飯も美味いし、寝床もふかふかだし、至れり尽くせりだニャ〜)


クロはご機嫌そうに「ゴロゴロ、ゴロゴロ......」と喉を鳴らした。クロの前世は、路地裏を泥だらけで駆け回っていた冴えない野良猫であった。寒さと飢えに耐えかねて息を引き取った後、神様から授かった「うまいカリカリが食えて、暖かい場所で寝られればいい」という願いの通り、この異世界で最高に気ままな生活を満喫している。


そして最近、この最深部の居心地はさらに跳ね上がっていた。


「クロ様、お目覚めになられましたか?毛並みの手入れをさせていただきますね」


透き通るような銀髪を優しく揺らし、極上の笑顔を向けたのは、奴隷の黒い首輪から解放されて以来この最深部で暮らすハイエルフの少女------セリアであった。彼女は丁寧に手入れされた特製の獣毛ブラシを手に持ち、暗黒竜の巨大な頭の脇にしつらえられた台座の上に腰掛けている。セリアが優しくブラシを滑らせると、クロの背中の毛並みが整い、溜まっていた抜け毛が気持ちよく取り除かれていく。


「ニャ〜〜〜ん......(そこそこ、背中と首の後ろがすっごく気持ちいいニャ〜......)」


うっとりと目を細め、セリアの膝へともたれかかるクロ。その足元では、山と見紛うばかりの巨体を誇る暗黒竜ヴァルグが、微動だにせず息を殺していた。


『......ぬうう......黒猫様がハイエルフの娘の手によって至福の境地に達しておられる......!我が不用意に呼吸をして頭部を揺らしては、黒猫様の快適なブラッシングの邪魔になってしまう......!絶対に......動いてはならん......ッ!』


SSSランクの絶対者として世界から恐れられる暗黒竜は、巨大な眼球だけを必死に動かしながら、クロの邪魔をしないよう全身の筋肉を硬直させていた。セリアはクレープのような柔らかい布でクロのお皿や爪研ぎ岩をピカピカに磨き上げ、最深部をあたかも「超高級猫カフェ」のような快適空間へと塗り替えていたのである。


------その時であった。


ズズズ......ッ!


穏やかだった最深部の空間に、突如として不吉な波紋が広がった。大理石の床がミリ単位で微振動を起こし、空気が激しく捻じれ曲がる。


『ぬ......!? この空間変動は......上層からの転送陣か!?』


暗黒竜ヴァルグが警戒の眼光を向け、セリアも驚いてブラッシングの手を止めた。空間の裂け目から、光の粒とともに一人の少女が崩れ落ちるように吐き出されてきた。


「はぁっ......! くっ......ハァ......ッ......!」


転送された人物は、東方に伝わる伝統的な白と朱色の巫女装束に身を包んだ少女------ミコトであった。彼女は冷たい石床に両手を突き、肩を激しく上下させながら必死に息を吐き出している。その身からは、一国の霊脈を支える者にふさわしい清廉で気高く高貴なオーラが漂っていたが------現在の彼女は、文字通り「完全に霊力を使い果たした枯渇状態」であった。


ミコトは東方の地において、大地のエネルギーそのものである『龍脈』の暴走を自らの身をもって押し留め続けてきた巫女であった。何年もの間、不眠不休で膨大な龍脈の奔流を自らの霊力で抑え込み、東方の万物の命と国土を守り続けてきたのだ。


だが、長く龍脈と向き合い続けてきたミコトには、一つだけ不可解なことがあった。


本来、大地を巡り万物を育むはずの龍脈が、なぜこれほどまで荒れ狂うのか。


暴走のたび、龍脈のさらに深い場所から、清浄な霊気とは似ても似つかぬ黒い濁りが一瞬だけ混じることがあった。まるで大地の血流の奥底に、何者かが小さな異物を埋め込み、そこから毒を流し込んでいるかのように。


何度探っても、その正体までは掴めない。そして暴走を止めるだけで精一杯だったミコトには、それ以上深く潜る余力も残されていなかった。


しかし、人間の霊力には限界がある。ついに限界を迎えた彼女の体内からは、一滴の魔力・霊力すら残っておらず、全身の細胞が激しい飢餓感と強烈な疲弊によって悲鳴を上げていた。指先一つ動かすことすら苦痛であり、視界は真っ白に霞み、意識は今にも暗闇へと沈み込んでしまいそうであった。


「あ......あぁ......ここが......世界の最果て......最深部の......神域......ッ」


ミコトは途切れ途切れの声で呟き、恐る恐る顔を上げた。視界に飛び込んできたのは、部屋を埋め尽くすほどに巨大な漆黒の巨竜------暗黒竜ヴァルグの圧倒的な威容であった。一口で一国を呑み込みそうな鋭い牙、世界を焼き尽くす灼熱を秘めた赤き瞳。その絶対的な生物としての格の違いに、ミコトの背筋に冷たい汗が吹き出す。


しかし------その恐ろしい巨竜の頭上で、ハイエルフの少女に気持ちよさそうにブラッシングされている一匹の黒猫の姿を目にした瞬間、ミコトの全身に雷が落ちたような衝撃が走った。


(な......なんだ......あのお方は......!?巨竜すらも自らの『寝床』として従え、ただ存在するだけで世界の大地そのものを包み込むような......途途もない慈愛と神威......ッ!?)


霊力を完全に失い、感知能力が研ぎ澄まされていたミコトにとって、クロが無意識に放っている『絶対不可侵の神聖オーラ』は、まさに太陽そのものであった。自らの命が尽きかけ、希望を失っていた東方の巫女は、震える手で懐から一つの小さな木箱を取り出した。


「神よ......東方の......至宝たる神......黒猫様......ッ。どうか......我が命が尽きる前に......この貧しき献出品をお納めくだされ......ッ」


ミコトは涙で視界を濡らしながら、震える両手で木箱の蓋をそっと押し開けた。





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第二章:ほんのり甘い香り&初めてのビスケット食感

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「ニャ......!?」


セリアに顎の下を気持ちよく撫でられていたクロが、ピクッと耳を躍らせた。鼻先をヒクヒクと動かす。最深部の冷たく澄んだ空気の中に、これまでの肉や魚、出汁スープとは一味も二味も異なる、甘く香ばしい香りが漂ってきたのだ。


(んニャっ!?なんだか......すごく甘くて香ばしい、とっても良い匂いがするニャ......!)


クロは即座にセリアのブラッシングから抜け出すと、暗黒竜の巨大な頭の上からトトトッと軽快な足取りで降りてきた。巨大な尾をフリフリと揺らしながら、倒れ込むミコトの手元にある木箱へと近寄っていく。


木箱の中に納められていたのは、一口サイズに丁寧にカットされ、黄金色に焼き上げられた一口ビスケット風のカリカリであった。それこそは、東方にしか生息しない『龍脈の神木』に数年に一度だけ咲く幻の秘花から採れた、最高級の熟成蜂蜜。そして厳選された極上の小麦を練り込み、直火で丹念に焼き上げた名品------『至高の熟成蜂蜜焼きカリカリ』であった。


これまでクロが食べてきたものは、SSランク魔獣の熟成干し肉や、出汁の効いたスープ、燻製肉、干し魚など、主にお食事系のしょっぱいメニューが中心であった。だが、今回目の前に出されたのは、甘い蜂蜜の香りと、小麦が香ばしく焼けた優しいフレーバーを纏った「甘味・焼き菓子系」のご馳走であった。


(くんくん......クンクン......! 香ばしくてほんのり甘いニャ!クッキーみたいな匂いだニャ! 美味そうニャ〜!)


クロの丸く黒い瞳が、期待にキラキラと輝いた。ミコトは息も絶え絶えの状態で、震える手でお皿へと焼きカリカリを盛り付ける。


「お......お納め......ください......。東方の地で採れた......最後の......恵みにございます......ッ」


「ニャ〜〜〜ン!(いただくニャ〜!)」


クロは待ちきれない様子で皿に顔を寄せると、黄金色の焼きカリカリを一口でパクッと咥え込んだ。


サクッ......!


一口噛みしめた瞬間、最深部に軽やかで心地よい咀嚼音が響き渡った。


バリバリッ! ボリボリッ! モグモグ......!


(んん〜〜〜っ!? サクサクでバリバリだニャ!!)


クロの脳内に、雷が落ちたような衝撃と歓喜が走った。口の中に広がるのは、硬すぎず柔らかすぎない絶妙なビスケットのサクサク食感。そして噛み砕くたびに、練り込まれた熟成蜂蜜の上品でほんのりとした甘みと、焼き上げた小麦の芳醇な香ばしさが、口いっぱいに広がっていく。


(甘いニャ! でも、くどくない上品な甘さで、後味がすっごく香ばしいニャ!お肉も美味いけど、こういうサクサクしたお菓子みたいなカリカリも最高だニャ〜〜〜!!)


「ボリボリ! バリバリ! モグモグ!」


クロは夢中になって皿に顔を突っ込み、夢中で焼きカリカリを貪り食った。夢中で食べるクロの背中では、尻尾が嬉しさのあまりピンと垂直に立ち上がり、先端の白い毛がパタパタと楽しげに揺れている。


ミコトは息を呑み、その神々しくも愛くるしいお食事風景を凝視していた。


「あぁ......なんというお姿......。世界を統括される至高の神が、私が命を賭して捧げた蜂蜜菓子を、あれほどまでに歓喜して召し上がってくださっている......ッ!」


「サクッ! ガリガリッ! モグモグ......ペロリ!」


あっという間に一皿分の焼きカリカリを完食したクロは、お皿の底に残った蜂蜜の香ばしい甘みを最後の一滴まで逃すまいと、ピンク色の小さな舌でペロペロとピカピカに舐め上げた。


(ふぅ〜〜〜、食った食った!初めての甘いビスケットカリカリ、大満足だったニャ〜!)





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第三章:気まぐれな毛繕いと、大地の調律

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お腹がいっぱいになり、心も体も大満足となったクロは、「ふにゃ〜」と幸福感に満ちた喉を鳴らした。前脚で顔をゴシゴシと洗い、食後の毛繕いを始める。


(美味しいご飯をくれた親切なニンゲンには、ちゃんとお礼をしてやるのがノラ猫の流儀だニャ)


クロはトトトッと小さな足音を立てて歩み寄ると、霊力が完全に枯渇し、床に倒れ込んだまま動けないミコトの目の前で立ち止まった。そして何の躊躇もなく、ひょいとミコトの華奢な膝の上へと飛び乗った。


「っ......!? く、黒猫様......!?」


身体が固まるミコト。クロは「ごちそうさまのおアフターサービスだニャ」とばかりに、ミコトの汗と疲労で濡れた額へ顔を近づけると------


ざらり。


ペロリ、ペロリと、温かい舌で優しく一舐めした。


その瞬間------!


ドクンッ......!!!!!!


ミコトの全身の細胞が、歓喜の悲鳴を上げた。クロの唾液に含まれていたのは、神様から授かったあらゆる事象を凌駕する『絶対不可侵・創世の神聖魔力』であった。


その温かな光の激流が、クロの舌が触れた額からミコトの全身の経絡(魔力回路)へと一瞬で雪崩れ込んでいく!


(な......なに......これ......っ!?温かい......凄まじい密度の霊力が......魂の底から溢れ出してくる......ッ!?)


ミコトの目が見開かれた。枯渇し、干上がっていた彼女の魔力回路に、まるで恵みの雨どころか巨大な大滝のような聖なる霊気が満ち渡っていく。疲労で壊れかけていた体内の全細胞が瞬時に細胞分裂を起こし、生まれたてのようにフレッシュで瑞々しい状態へと超回復を遂げていく。


それだけにとどまらない。


ゴォォォォォ......ッ!


最深部の空間全体が、澄み切った黄金色の霊気によって満たされた。ミコトの背後には、かつて東方の古代神話にのみ描かれていた伝説の聖獣------『金龍』の巨大な幻影が揺らめき立った。


クロの神聖唾液を通じて流れてきた膨大な神のことわりが、ミコトの脳内へ直接叩き込まれる。それは、東方の地で暴走する「龍脈(大地のエネルギー)」を力任せに押さえつけるのではなく、大地と一体化し、龍脈の流れそのものを完璧に調律・制御する神代の最高位秘術------『龍脈大調律りゅうみゃくだいちょうりつ』の完全なる開眼であった!


(見えた......! 龍脈は荒ぶる敵ではない......大地を育む命の血流......!黒猫様の唾液が......私に龍脈を束ねる『真なる理』を教えてくださった......ッ!!)


その瞬間だった。


神代の視座へと引き上げられたミコトの意識が、遥か東方の龍脈、その最深部をほんの一瞬だけ捉えた。


清らかな黄金の流れの底。そこに、針の先ほどの小さな『黒い核』が沈んでいた。


ドクン――。


まるで心臓のように、それが一度だけ脈打つ。


「......っ?」


だが、ミコトがその正体を確かめるより早く、覚醒した霊力が遥か東方の龍脈へと流れ込んだ。


神代の秘術『龍脈大調律』によって整えられた黄金の奔流が、大地の奥底まで一気に駆け巡る。


その流れが『黒い核』へ触れた瞬間――。


ピシッ。


核の表面に、一本の亀裂が走った。


続いて二本、三本。


そして。


パキン――。


『黒い核』は、黄金の光の中で粉々に砕け散った。


同時に、長年龍脈へ混じり続けていた黒い濁りが、嘘のように消えていく。


(いま......何かが......?)


ミコトには、それが何だったのか分からない。


ただ一つだけ分かった。


荒れ狂っていた龍脈が今度こそ、本来あるべき清らかな流れへ戻ったのだと。


ミコトの全身から放たれる霊気は、すでに一国の巫女という枠組みを超え、東方の地を永久に護り続ける『現人神』そのものの神威を纏っていた。枯渇していた霊力は以前の百倍以上にまで膨れ上がり、体調の不調や疲労感など微塵も残っていない。


「あ......あぁ......っ......!霊力が......命が......満ちていく......ッ!!」


ミコトは己の手を見つめ、ぼろぼろと大粒の歓喜の涙を床へこぼした。


一方、お礼の毛繕いを終えたクロといえば。


(よし、お礼のペロペロもしたし、お腹もいっぱいで眠くなってきたニャ......)


仕事アフターサービスをやり遂げたクロは、「フンッ」と満足そうに鼻を鳴らすと、トトトッと踵を返した。セリアの足元へ近づくと、「ニャ〜ン」と喉を鳴らして足首に頭をすりすりと擦り付ける。


「まぁ、クロ様......! お甘えになってくださるのですか?もう一度暗黒竜様の上まで抱っこして差し上げますね」


「ふにゃ〜(よろしく頼むニャ〜)」


セリアに優しく抱き上げられたクロは、再び暗黒竜ヴァルグの巨大な頭の上へと送ってもらうと、一番居心地の良いポジショニングでくるりと丸くなり、幸せそうに目を閉じたのだった。





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第四章:感謝の平伏と、東方への誓い

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「感謝......感謝いたします、黒猫様......ッ!!」


床に激しく額をこすりつけ、号泣しながら平伏するのはミコトであった。彼女の全身からは、覚醒した神聖な金色の霊気が神々しく揺らめき、最深部の暗闇を美しく照らし出している。


「愚かな私は......ただ己の命を投げ打ち、最後の悪あがきとしてここへやってまいりました......!しかしあなた様は、至高の慈悲と『至高の焼きカリカリ』への深いお応えをもって、我が命を救い、東方の地に満ちる万物の命をも救う権能を賜ってくださった......ッ!!」


ボロボロと流れる感動の涙が、大理石の床を濡らす。


「誓います......!このミコト、生涯をかけて黒猫様の大恩にお報いいたします!すぐさま東方の地へ戻り、荒ぶる龍脈を完璧に調律して万民を救い......そして!神木から採れる至高の蜂蜜と特選の小麦をあまねく集め、毎日......毎日あなた様へ『至高の熟成蜂蜜焼きカリカリ』をお届けすることをここに誓いますッ!!」


狂信と情熱を瞳に宿し、熱弁を振るう東方の巫女。


だが------当の黒猫様といえば。


「スースー......ふにゃ......むにゃ......」


暗黒竜のふかふかの頭の上で、すでに完全な二度寝の夢の中であった。ミコトの熱い誓いなど、爪の先ほども耳に入っていない様子である。


「静かにしなさい。クロ様はすでにお休みになられていますよ」


セリアが口元に人差し指を立て、「しーっ」と静かに注意した。足元では暗黒竜ヴァルグが、再び呼吸を極限まで殺し、微動だにしない置物と化している。


『......ぬうう......見事だ東方の巫女よ。クロ様のお気に召す新たなカリカリを持ち込んだ功績は認めよう......。だが、クロ様の睡眠を妨げるような大声を出せば......我の息吹ブレスで灰燼に変えてくれるぞ......』


暗黒竜の恐ろしい念話が頭の中に直接響き渡り、ミコトはハッと息を呑んだ。


「ひ......非礼をお許しください......ッ!それでは、私はこれより地上へ戻り、約束の焼きカリカリを量産する体制を整えてまいります......ッ!」


ミコトは深々と、何度も何度もクロに向かって平伏すると、覚醒した『龍脈大調律』の力で自ら時空の扉を開き、光とともに晴れやかな表情で東方の地へと帰還していった。


数日後。東方の地では、長年国土を脅かしていた龍脈の暴走が、巫女ミコトの『神の如き手腕』によって一瞬で完璧に鎮められたというニュースが世界中を駆け巡った。


誰もが、災厄は完全に去ったのだと信じた。


ミコトもまた、覚醒の瞬間に見えた『黒い核』が何であったのかまでは分からなかった。


ただ――あれが砕けた瞬間、龍脈から長年感じていた不自然な濁りまで完全に消え去った。


その事実だけが、彼女の胸の奥に小さな違和感として残った。


そして彼女は、まだ知らない。


自らの覚醒した力によって砕いたものが、何者かによって龍脈の奥深くへ埋め込まれていた『呪核』であったことを。


そして、その呪核が一つ失われたことを――遥か遠くで感知した者がいることを。


『東方の龍脈を鎮めた奇跡の源は、最深部の黒猫様へ献上された「蜂蜜焼きカリカリ」であった......!!』


『肉や魚だけではない!黒猫様は香ばしい焼き菓子ビスケットもお好みだぞ!!』


『急ぎ東方から最高級の蜂蜜と小麦を輸入せよ!黒猫様へ捧げる新ジャンルのお菓子カリカリ開発ブームの到来だーッ!!』


ギルドの冒険者や各国の王侯貴族、さらには一流の製菓職人たちまでもが、「黒猫様が歓喜する至高の甘味カリカリ」の開発に参入するという、未知なる空前の大狂乱が巻き起こることとなる。


そんな地上の喧騒など、知る由もない地下100階層。


(う〜ん......今度はカリカリ(お肉)と、焼き菓子サクサクのどっちが来るかニャ〜......)


セリアに優しく毛並みをブラッシングされながら、黒猫のクロは幸せそうに喉を「ゴロゴロ」と鳴らし、今日も長閑に次のご馳走を待つのだった。


(第14話 完)


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