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骸廻様 ―遺体探し屋―  作者: アサキ
サキちゃんの場合
1/10

 人は死ぬと呼吸を止める。心臓が止まる。体が動かなくなる。冷たくなる。何も話してくれなくなる。

 人が死へ至る道筋は、事故や病気、加齢といって様々だ。各々の喜怒哀楽と共に、人生の背景がある。

 けれど共通しているのは、生命活動を止めた体は、やがて朽ち果てるという流れ。腐って崩れ落ちた肉体は、言い方が悪いが不衛生だし、恐らく本人だって見られたくないはず。


 だから人が死ぬと、葬式をあげて、近しい人に別れを告げた後、早いところ骸廻様がいかいさまの元へお返しする。


 骸廻様は各都道府県、県庁所在地に最低お一()は常駐されている。交通の便が悪い地方でも困らないよう、遠方出張もなさる。たまに野良の骸廻様もいらっしゃるが、その個体はまた話が別。野良の骸廻様の場合、腹に納められたご遺体とは、基本的に再度の面会が叶わない。調教された骸廻様とは違って、あの方々はあちこちを自由気儘に動き回るし、腹の中を整頓する概念が無いからだ。



――神様、仏様、骸廻様としておきながら、調教された骸廻様とは何ぞや。



「先生。五十万の案件、来た」

「おーありがと。メッセージ、全然見てなかったわ」

「見ろよ」

「無理だぁ。俺、SNS見るのは出来ても、やるのは苦手だし」


 珍しく彼から掛かってきた電話を受けながら、そんな事を考えた。





 待ち合わせ場所は、病院一階に併設されているコーヒーチェーン店の一角。


「何でいつもここ」

「こことだと、遅い時間なら人が程良く居なくなるし。監視カメラが出入り口にあるから、何かあっても最悪どうにかなりそうじゃん?」


 彼と知り合った当初も、よくここを使っていた。それが懐かしいから……という本音もあるが、恥ずかしいから本人の前では言わない。


「病院に関係無い人が入って良いの」

「俺、一応関係者だから。俺に合わせてって事で」


 彼は怪訝な顔をするが、俺は気にせず自分のスマホを触った。


「で、久々に五十万のお仕事だね。遺体調査は二十万、遺品回収は三十万っと」

「思ったけど、高くない?」

「多少割高かもね。でもその分、真っ当にお仕事しているから」


 へらへら笑ってみせると、隣に座る彼から、今度は若干冷たい視線を感じる。


「自分で言うと胡散臭い」

「胡散臭くないの、イツキくんが一番分かっているでしょ」

「さあ」


 素っ気ない返事に俺は少し肩を落とす。だが彼は気にしない様子で、アイスコーヒーをずずっと啜った。


「今回の案件、俺は受けるのが疑問だし」

「あー……この人? アサヒナさん」

「四十五歳。男。前科持ち」

「前科ある人も、たまに居るじゃん。俺の患者さんの中にも、逮捕歴ある人居るよ」

「その内容。最近は殺人未遂だけど、その前は児童買春、強制わいせつ罪。いわゆるロリコンのおっさんが、わざわざ五十万払って、女の子のご遺体に会いたいとか」

「ねー」

「ねー、じゃねぇ」

「経歴詐称した段階で、うちは受けないって謳っているのに、正直に記載して送ってきたんだからさ。まぁ話を聞いてみようよ」

「他人に興味無い癖に」

「確かに、その人自身に興味は無いけど、どうしてそう思ったのかには興味あるよ」

「動機だろ」

「行動原理って言って欲しいよ」

「同じ。嫌な性格」

「イツキくんも、俺と似たようなモンだと思うけどなぁ」


 うーんと唸っていると、やがてそれらしき男性の姿が見える。この病院へ来るのは始めてなのか、エントランス付近をうろうろとしている。

 座ったまま決して動こうとしない彼を置いて、俺は男性の元へ向かった。



「はじめまして! モリタニです」

「どうも……」


 男性を連れて、先程まで座っていた席へ戻る。俺が挨拶を済ませても、男性は妙な顔をしていた。どうやらイメージしていたものと俺が違ったらしい。


「ご連絡ありがとうございます。早速ですが、内容確認に移らせてください」


 イツキくんはそっぽを向いているが気にせず、俺はそのまま男性の向かい側に腰掛けた。


「……アンタ等、二人だけですか?」


 男性はやはり疑いの眼差しで、俺と隣に座る彼を交互に見つめた。


「主に動いているは、そうですね。まぁまぁ。心配されるお気持ちも分かりますが、この業界、見た目が安心出来る奴ほど、胡散臭い連中の集まりですよ。資格も揃っていないのに、口先だけでやっている同業者も居ますからね」


 高い金を要求する分、嫌疑的な目で見られる事はある。これまでにも何度か同じ説明をした経験があるので、俺の口からはさらさらと言葉が出てくる。


「とは言え、何処を選ばれるのは貴方のご自由です。別にこの場で、キャンセルされても――」


 とやかく言う人なら、こちらも早めに撤退した方が良い。

 そう考えていたが、男性は俺が話す途中にドンッと札束をテーブルに置いた。


「いえ。お願いします」


 男性が手を引くと、一番上にシワの付いた一万円札が見える。束の中にくしゃくしゃになった札が混ざっているせいで、銀行から下ろしたてのような均一感は無かった。


「マジか」


 黙って座っていた彼が、ぽろりと口から零す。スマホでゲームをしていた手も止まっていた。

 あからさまに驚く彼は面白い。けれど笑うのをぐっと堪えて、俺は差し出された札束を引き寄せた。


「ありがとうございます。イツキくん」

「ん」


 渡された札束を、そのまま彼に前に置く。彼がお金を数えている間、俺は男性を改めて見つめた。


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