第9話 魔法の知識
邪龍がカトルに瞬殺されたので、カトルの魔法講座が始まった。
「シドさんの事だから魔法を使うのに実は詠唱が必要ないことは知っていますよね?」
「あぁ、本を読んだら勝手にわかった。」
「なら話は早いです。それでは今から私が持っている魔法についての知識をシドさんに全てインプットします。インプットした後は情報の処理が追いつかなくてちょっと苦しいかもですけど、その辺は頑張ってくださいね。」
どういうことだ?
そう思っているとカトルが手を俺の頭に置いて呟いた。
「【強制知識収納】」
そう言った瞬間頭の中に膨大な量の情報が雪崩のように入り込んできた。
「ウッッ………!」
さっき言った少し苦しいというのはこの事のようだ。
少しなんてものじゃ無い。
頭が割れるように痛い。
堪らず膝をついた。
「悪いけど頑張ってくださいね?今使ったのは私のスキルで【知識強制収納】って言います。これは自身の持っている知識を他の人に与えるものです。今のシドさんは私の持っている魔法の知識が全て頭の中に入り込んで行っている状況です。」
そういうことか…。
本来なら少しずつ少しずつ得るべき知識を一瞬にして得るのだ。
情報処理が間に合わなくて当然だ。
そんなことを考える余裕も無いような痛みがまたもや襲ってくる。
すると昨日も聞いた電子音声。
『スキル【知識強制収納】を会得しました。』
今かよ。
そんな痛みが5分ほど続いた所でようやく痛みはおさまった。
「はぁ、はぁ………。」
「スゴイですね、私が200年かけて得た知識を僅か5分足らずで理解してしまうなんて…。」
感心したような、あるいは呆れたようにカトルが言う。
この瞬間俺はあることを決心し、そして言い放った。
「お前がしたことをコーラスに報告して、その上3日間豆以外の食事無し。」
「えぇぇ⁉︎確かに楽しようとしましたけど酷く無いですか⁉︎」
…楽しようとしたのかよ。
「ただし!俺がこの知識を使いこなせるように教えてくれると言ったらそうはしない。」
「さぁ!本格的な魔法講座を始めましょう!」
切り替え早すぎだろ。
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「早速ですが、それでは魔力のコントロールをしてみてください。」
「急すぎないか?」
「理解できているなら問題ないはずです。杖もいらないことがわかりましたよね?」
「一応は。」
そう、実は魔法を使うのに杖は必要ない。
自身の身体を杖と同じように考え、手に魔力を集め、使用する魔法を思い浮かべて魔法名を言う。
その際に魔力を全力で使うのではなく、身体の内側に魔力を引っ張るような感覚で使うのだ。
「【火球】」
手のひらに小さな火の玉が現れ飛んで行った。
着弾すると前とは違い、小さな穴が空いただけで済んだ。
カトルが感心するように言う。
「覚えが早いですねー!もう私いらなくないですか?」
「俺に絶対魔法を使わせるんだろう?」
とは言ってもすでに先ほどの【知識強制収納】で絶対魔法についての知識も得たので使おうと思えば使える。
「とか言ってもう使えるんじゃないんですか?」
この娘勘がいい。
「バレたか。」
「私は勘がとってもいいんで…。え…、ほんとですか…?」
「え、あぁ。多分使えるけど、なんで?カトルも使えるんだろ?」
そう言うとカトルはまた呆れたように俺を見てきた。
「使えません。っていうか私には無理です。魔力が足りないんで。いつか使いたいと思って知識だけは持ってたんですけど…。まさかそれまで使えるとは…。」
「カトルはどこまで使えるんだ?」
「私はさっき使った幻級魔法までが限界です。今はもう魔力すっからかんです。」
どうやら魔力の底が見えない俺だからこそ使えるらしい。
が、今ここで使う気は無い。
ここで使ってこの平原が消滅したら俺はどうすればいい?(【時間魔法】を使えば良い)
俺を見ていたカトルが嬉しそうに言う。
「さてこれでカトルの魔法講座は終了です!今までお疲れ様でした!」
「始まって30分で終わるとかシャレにならんぞ。」
知識のインプットが終わってからここまで30分で俺は魔法をマスターした。
人外と言われても頷ける。
「流石に早すぎました?」
不思議そうに聞いてくるカトル。
「当たり前だ。お前は俺に魔法の知識を一瞬で流し込んだだけだろう。」
「しょうがないですねー…、なら何か召喚でもしてみます?」
「さっきあった情報か。」
「はい。ちなみにシドさんの読んだ魔導書には載っていませんよ。アレかなり昔の物なんで。」
「そうだったのか。」
どうりで表紙が古ぼけていると思った。
どうせなら最新版用意しろよ。
「どうします?召喚魔法、やってみます?」
「……。いや、今はいい。」
「え、そうなんですか⁉︎シドさんなら食いついてくると思ったのに!」
正直な所、召喚にはとても興味がある。
しかしカトルの【強制知識収納】で得た知識によっていつでもできる。
街に出て違和感がないと判断したらやってみよう。
「そうですか。わかりました。でも、いつかやったら必ず見せてくださいね⁉︎」
「あぁ、わかったよ。そろそろ昼食にしようか。」
空を見ると太陽は既に頭上にあった。
「そうですね。じゃあコーラスの作ってくれたお弁当をありがたく頂きましょう。ちなみに…私の食事の件は…?」
「許しましょう。」
「ありがとうございますッッ!」
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昼食を食べ終わってゆっくりしていると、カトルが話しかけてきた。
「今後はどうするんですか?」
「あぁ、もうしばらくしたらここを出て近くの国に行こうと思う。ずっとここにいても仕方がないからな。」
先程【マップ】を見るとこの山を下りてしばらくすると、グランテスト大国、という国があることがわかった。中々に大きな国で、人も多い。最初の国としては合っている。
「そうですか。そういえばスッカリ忘れてましたけどヘスティア様がこのスキルを渡せ、と。今から私が付与しますね。」
そういうとカトルの手から光が出て、俺の身体に吸い込まれていった。
またもや電子音声。
『スキル【隠蔽】を会得しました。』
「そのスキルはそのまんまですが、自身のステータスを能力はそのまま、書き換えることができます。入国する時や身分登録する時はステータスの検査が必要になるので、必ず使ってください。」
「あぁ、わかった。ありがとう。」
確かにこのままで入って魔力や速さを見られれば大騒ぎになる。
その辺は気が利いているな。
「あの…本当に教えること無くなっちゃったんですけど…どうします?」
「…じゃあ、早いけど帰ろうか。」
そう言って俺とカトルは【瞬間移動】で家に帰った。