第34話 孤児院
2018年最後です
結局少女の方も匂いに負けて買ってきた牛串を食べてしまった。
よほど腹が空いていたようであっという間になくなった。
この2人は姉弟のようで、姉の方は14歳でリアン、弟のセイルはまだ9歳だという。
幼くして両親を亡くし、その後孤児院に入ったそうだ。
リアンが気まずそうにこちらを見ながら言った。
「…食べ物はありがとう…お腹空いてて…。お礼はどうしたらいいの?」
顔色は悪く、足も棒のように細い。
孤児院にいる子供全員がこんなだったらと思うとイライラしてきた。
「お礼なんていらないわ。その代わり話が聞かせてほしいの。あなた達の孤児院について、本当の事を。」
レヴィが単刀直入に切り込んだ。
姉弟2人の顔が強張った。
この反応からして外では話すなとでも言われているのだろうか。
『おそらくそうかと思われます。言った場合には酷い目に合わせる、といった事も言われているかと。』
リーヴも同じ考えのようだ。
2人は顔を強張らせたまま俯いている。
「…だったらこうしよう。俺がひとまず2人を引き取る。その後話を聞かせてくれ。そうすれば孤児院とは関係なくなるだろう。」
「え、ちょっと!急すぎない⁉︎」
レヴィが驚いて言うがしょうがない。
急すぎるも何も急を要する事なんだから。
「あなたが私達を引き取る…?本当に⁉︎本当にそうしてくれるの⁉︎」
リアンが身を乗り出して言った。
「あぁ、本当だ。2人とも引き取る。設定としては俺の知り合いの老人に引き取りに行ってもらおう。2人が帰った頃を見計らって行ってもらうから一度孤児院に帰ってくれ。」
そう言うとセイルが弱々しくきいてきた。
「そのまま見捨てたりしない?」
「大丈夫、絶対迎えに行くから。安心して、大丈夫。」
レヴィが優しく言った。
その言葉に2人とも安心したようでそのまま一度帰って行った。
2人の背中を見ながらレヴィがため息をついた。
「ハァ…一難去ってまた一難ってまさにこの事ね。2人とも引き取るって言ったけど大丈夫なの?」
「大丈夫だ。俺が初めてこの世界に来た時に出た所はかなりのスペースがあったからな。そこに家でも建ててしばらくはそこに住まわせる。」
「知り合いの老人ってのは?本当にいるの?」
「そんなもんマモンに行ってもらえば良いだろ。」
▽▽▽▽▽
「では、儂がその子供2人を迎えに行けば良いのですかな?」
「その通り。頼んだ。」
広場から離れた路地裏でマモンを召喚して頭には【創造】で作ったシルクハットを被せた。
うん、どこからどう見てもただの老紳士。
手に持ってるのが実は杖じゃなくて仕込み刀ってとこ以外はただの老紳士。
「それでは行ってまいります。そのままお屋敷まで連れて行きますので先にお戻りになってください。」
そう言ってマモンは孤児院へと向かった。
屋敷に【瞬間移動】してコーラスに説明した。
この時点でレヴィはいない。
いつ消えた?
「わかりました。それではお風呂を沸かしておきます。」
数十分してからマモンが2人を連れて戻ってきた。
扉をくぐった2人は中を見て固まっている。
「割とすんなりいきましたな。何も疑われる事なく。」
シルクハットを脱いだマモンが言った。
似合ってるからそのシルクハットあげるよ。
「リアン、セイル、とりあえず風呂が沸いてるから入ってきたら良いよ。」
これにも2人は驚いていた。
この世界では風呂を持っているのは貴族ぐらいで、その他の人は湿った布で体を拭いたり水浴びをするらしい。
元日本人の俺としては風呂がある事が当たり前だったから嬉しかった。ナイス陛下。
2人が風呂に入っている間にサラを召喚して子供の服を買いに行ってもらった。
2人が着ていた服はボロボロで汚かった。
レヴィがいれば一緒に行ってもらってたんだけど、本当にどこに行った?
「マモン、孤児院の様子はどんなだった?」
「見かけは普通の孤児院じゃったが、中は酷いものでしたな。子供達もあの子達に限らずみんな同じようでした。しかし大人は綺麗な服に身を包んでいる、やはり性根が腐っているのでしょう。ついつい斬ってしまいそうになりましたな。ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。」
間違っても斬るなよ?大事件になるから。
まぁマモンだったらバレないほど細かく斬っても不思議じゃないな。
「オバラ伯爵ってどんな奴なんだ?」
「そうですな…一言で表すならクズですな。私利私欲のために周りを捨てていく、その様はクズの一言に値しますな。」
マモンがここまで言うのなら本当にそうなのだろう。
額には細く青筋が立っている。
こちらも笑ってはいるものの目は笑っていない。
怖。
「マスター、今帰りました。」
サラがいくつかの服を持って帰ってきた。
そのまま服は脱衣所に置いてもらった。
それから少しすると2人が風呂から出てきた。
サラが買ってきた服を着て、湯気の立つ頭をタオルで拭きながらリアンが尋ねてきた。
「こんなに大きなお屋敷にお風呂って…あなたはこの国の貴族なの?」
「まさか。まぁいろいろあって成り行きでこうなっただけだよ。」
正直俺もなんでこうなったと訊かれたらはっきりとは答えられない。
「さて、じゃあ話してもらおうかしらね。で、孤児院は実際のところどうなの?」
急にレヴィが尋ねた。
「えっ⁉︎いつ、どこから入ってきた⁉︎」
「細かい事は気にしないの。で、どうなの?」
俺の質問をスルーして質問を続ける。
マモンを見ると首を左右に振っていた。
この追求意味無いの?
「孤児院…私たちのいた孤児院では私たちにはほぼお金をかけてないのーーー」
リアンの語った話は怒りを感じさせるものだった。
まず国から出される孤児院の運営金はオバラ伯爵にいき、そこから孤児院にまわされる。
普通ならその金は子供達の為に使われるはずの金だが、実際は孤児院を運営する大人がほぼほぼ使っているらしい。
賭博、遊び、酒に金を使って子供達には使わない。
そのせいで新しい服も無く、食事も微々たるものらしい。
話終わったリアンの横ではセイルが椅子に座ったまま眠っていた。
2人以外は全員がイライラしている。
と言うよりかはイライラを越えてブチ切れている。
「…反吐が出そうですね。マスター、今すぐ潰しに行きましょう。」
コーラスがこちらを向いて言った。
過激メイド、ここに現る。
「俺も今すぐそうしたい所だけど俺たちが証言しただけだったら十分じゃない。その場を抑えて国に潰してもらう。オバラ侯爵も同時にな。」
「それだったら今がチャンスっすね。さっき見てきましたけどいい大人が5人、酒飲んで騒いでましたよ。」
気づくと後ろにフェゴールがいた。
だから、いつ、どこから入ってきた?
あと仕事が早いな。
「助かった。ありがとう、フェゴール。レヴィは王城に行って陛下かまともな貴族にその事を伝えてくれ。フェゴールはオバラ伯爵の家に入って他の不正の証拠を探して王城に持って行ってくれ。俺が行くまでは待機。それでよろしく。」
不正の証拠なんかわんさか出てくるだろう。
「あー、そうだ、主、外で騎士団の人が待ってますよ。主の名前出したらすんなり来てくれました。じゃ、俺は行ってきます。」
そのままフェゴールは窓から出て行った。
あんなのでも仕事が早いんだな。
それともあらかじめこうなるってわかってたのか?
「私が王城に行く必要あるの?」
そう言いながらもレヴィも出て行った。
ごめん、そんなに意味無い。
ローブを羽織って外に出ると騎士団の先頭にはミエラがいた。
「シド殿、行きましょう!私も許せません!隊のみんなも同じ気持ちです!」
ミエラも額に青筋が立っている。
後ろの騎士達も相当興奮している。
「ありがとう、じゃあ行こう。」
騎士団と俺は孤児院へ向かって夜の街を出発した。
あと2日で2019年です。
良い年明けをお過ごしください。
今年はありがとうございました。




