scene3
ふ、とオレを引き離そうともがいていたモンスターハンターの男から力が抜けた。
「……?」
とたんに抵抗感のなくなった体に、オレは「あれれ?」と訝しく思った。
よく見ると、男の顔が真っ青になっている。
「お前ら……。オレを間に挟んで、よくそんな歯の浮くようなセリフを言い合えるな」
さむい、とばかりに身体を震わせている。
「やめたやめた。なんか急にバカらしくなってきた。なんか、オレが悪者みたいじゃないか。ヴァンパイアを退治する救世主のつもりできたっていうのに」
「……?」
どうやらこの男、本気でヴァンパイアが悪者だと思っていたらしい。
まあ、オレもシーラに会うまではそう思ってたけどね。
背後から掴むオレを見やりながら、モンスターハンターの彼はシーラに言った。
「お前は、本当にこの男が好きなんだな」
その瞬間、シーラの顔が真っ赤に染まった。
「な……バカを申すな!!」
「そして、この男もお前を死んでも守りたいほど好きなようだ」
「は……?」
男はなんだか自分一人で納得したかのようにうなずくと、とんでもないことを言い放った。
「いいな、愛する者同士って」
「へ……?」
突拍子もない言葉に、シーラは頭から蒸気を放ちながら叫んだ。
「こ、こ、こ、殺す……!!八つ裂きにして、バラバラにして、ギタギタにしてやる!!」
そ、そんなに嫌ですか?
しかしシーラは剣で串刺しにされているため、ジタバタとその場でもがくだけだった。
「きいー」とか「くうー」とか言っちゃってるし。
ふ、とオレの力も抜けたところで、男はオレの腕を振りほどくと、オレを床に叩きつけた。
「ぎゃ!」
い、痛い……。
小さくうめくオレを無視して、男は暗幕の張られた窓に突進していった。
「今日のところは、人間の彼氏に免じて見逃してやる。だが、もし他の人間に危害を加えるようなことがあったら、容赦しない」
「それはこっちのセリフじゃ」
シーラの言葉に男は笑った。
「じゃあな」
そう言うと、男は暗幕の向こう側にある窓からするりと帰っていく。
「………」
「………」
オレたちは、しばらく放心状態だった。
なんだったんだ、いったい。
この世界にいろんなモンスターがいるのは知ったけど、モンスターハンターもいるなんてびっくりだ。本当にすごい世界だ。
「はあ、助かったあ」
男のいなくなった窓を見ながらオレはつぶやいた。
「おい」
シーラの言葉に振り返って、オレは改めて気が付いた。
そういえば、彼女はまだ串刺しにされている状態だったっけ。
「あ、ごめん」
つかつかとシーラの前に近付いていく。
剣が根本まで突き刺さっていた。改めて見るとすごい光景だ。
オレがズボッと彼女に突き刺さっている剣を引き抜くと、ドサッとシーラが床にへたり込んだ。
さすがの彼女も、疲れ気味の顔をしている。
「だ、大丈夫か?」
そういって手を差し出す。
「う、うむ」
そんなオレの手を握って立ち上がったシーラと目が合った。吸い込まれそうな赤い瞳に、オレの心臓がトクンと高鳴る。
あれ、なに、この気持ち……。
シーラもオレの顔を見て静止してるし。
なんか気まずい雰囲気……。
「………」
「………」
「……あー、えーと」
そんな気まずい空気をふり払おうと、オレは口を開いた。
「あれ、本当?」
「……何がじゃ」
「オレが死んだら、一番悲しむって……」
シーラはカアッと顔を赤く染めて言った。
「あ、当たり前じゃ。おぬしが死んだら誰がわらわとポーカーの相手をしてくれるというのじゃ!!」
そっちかよ。
「おぬしに愛だのなんだのといった感情など、これっぽっちもないぞ。勘違いするでない!!」
「オ、オレだって、シーラが死んだらこの世界にいられなくなるから、困っちゃうって意味で助けただけだからな」
「ふん。わらわが死ぬわけなかろう。あんな輩に」
「殺されそうになってたくせに」
「あれは、ちと油断しただけじゃ。そもそも、ユータローを助けようとしなければ、ああいう無様な姿を見せることはなかったのじゃ」
必死に言い繕う彼女の姿に、オレは「ふふふ」と笑った。
よかった、いつものシーラだ。
「な、何がおかしい!?」
「いや、別に」
とぼけるような顔を見せるオレにイラッとしたのか、彼女はちょっと怒り気味に言った。
「もう今日は眠る気がせん。ユータロー、わらわを危険な目に合わせた罰として、明日の朝までポーカーをするぞ。つきあえ」
「い、今から?」
「今からじゃ」
明日の朝まであと何時間あんだよ。
「眠くても寝かせんからな。覚悟しておけ」
そう言いながら、寝室へと向かって行く彼女。
そんなシーラに付き従いながらオレは思う。
彼女となら、何時間でもつきあえそうだと。
おわり
最後の最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
もともとこの作品は結末のないネバーエンディングストーリーにしようと思っていたので、結局ユータローは元の世界へは帰らず終わっています。たぶん、帰りません(笑)
今までシリアス路線を書き続けていたので、少し肩の力を抜いてコメディーを書こうと思い、始めました。
連載物のテンプレ作品は初挑戦だったのですが、あまりの難しさに肩の力を抜くどころか頭をフル回転させてしまいました。
結果、「これテンプレ?」みたいになっちゃって。そこは作者の実力ということで。
テンプレ作品を書いていらっしゃる他の作者様方のすごさに、脱帽です。
最後まで、本当にありがとうございました。またどこかでお会いできたら嬉しいです。




