2.砂の果実。 果実。 3
「だが、在るのはただの地底湖だ。ここは調べ尽くしている。」
コットスは、広場の噴水の直下にある……隠し扉付きの……地底湖に天為達を案内しながら、話した。
「ここから水は流れ去って行く。地下水として、クレイフの周囲に流れて行く……だが、水源が無いのだ。何処からも水は湧き出していない。水はただ、ここにあり、流れるが……無くならないのだ。減らないのだ。この地底湖の水は。」
「明かりをつけるわよ。」
言ってハルは月光の術を行使した。光の核を先の暗闇に投げる。それは、大人しく進んで輝いた。視界が広がる。不思議な景色だった。開いた扉のすぐ先で、地底湖が始まっていた。水面の高さは地下道ときっかり同じ。想像するにそれは真球と思われた。地底湖は直径100メートルの円を描いていた。天井は美しく孤を描き、半球を形どる。澄んだ水の底を見る限り、湖底も球を成していた。
「怪しさ……満点じゃんか。」
天為は半笑いでコメントする。喜ぶ天為をセツナは不快に思っていた。
(敵なのか、仲間なのか……。)
ざわつく気持ちをセツナは、そっと、隠した。何も言わず、何も行わない。ゆらりと羽を揺らせて、全てを見守っていた。
「確かに怪しい。だかな、天為。何もないのだ。ここには。謎、以外は。」
恐らく、多分、長い間ここは砂の果実の在処として疑われながら、証明出来なかった場所なのだ。知る人ぞ知る、的な。だが、それが、ソモソモの間違いだと天為は気付き、自身の仮説を確信した。こういった最後の瞬間、生と死を分かつその境界、正誤の区切りは賢者がつけるものではない。わかる者だけにわかる事実なのだが、その区別は、わかる者にしかわからない。百億の人間が百億万年かけようと、気づかないのだ。逆にわかる者であれば、一瞬だ。そして、この場で真実を把握しているのは、はい。そう。天為だけだった。
「あのあたりかなぁ。果実は。」
オハヨウゴザイマスとか、イイテンキデスネとか、そんな雰囲気で彼は告げた。コットスは、あぁ、そうなのか。これが現実なのか、と愕然とした。天為の指先は湖面の中心部、澄んだ湖の底を指していて、その底の更に底を掘り起こすのだと告げていて、コットスはあぁ確かに、湖底は調べたが、そんなに深くは掘り下げなかったと後悔して、反省して、天為の洞察力の深さに感心する自分を想像したが、そうならなかった。天為の指先は、天井を指していた。
「いやいやいや……
コットスは混乱した。そう、水はどこからかやってきている。魔術師が調べても解らないような、太古の呪術が水を引き寄せているとコットスは考えていた。果実から、水があふれている可能性を考えていた。だから、それは、当然、地底湖の中にある……あぁ、そうだ、ソウイウ、思い込みだ。下らなくでも、強力で一度捕らえられたら、絶対に脱する事の出来ない底なし沼だ。あぁ、オモイコミだ。解っている。解っている。そうだ。解っている。コットスは爆笑した。あぁ。そう。私が知る限り、誰も天井は調べていない。コットスは初めて、生まれて初めて、畏怖の念を持って、他人を見つめた。
……何者なのだ、この、天為という……男は。
硬直するコットスを余所に、彼らはそれを探して……そして、これまで誰も成し得なかった、事を成し遂げた。遂に、それを見つけたのだ。
……砂の果実、を。




