2.砂の果実。 開幕。 4
砂漠の真っ只中に唐突に存在しているウキハの内部に穏やかな笑い声が響いていた。ハルは心底愉快で、本当に笑っていた。
「何よ、元気そうじゃん。無事で何より。」
あはははは、とハルは笑った。彼女らしい明るい裏のない笑い声だ。からからりと笑う彼女の眼前では美しい翼を持った小人が宙に浮いていた。それは愛らしい笑みを浮かべて浮かんでいた。長い金髪が美しかった。ひらひらとした肩紐のワンピースを着ている。くりくりとした黄金色の瞳はとても大きく顔の半分を占めているような印象を与える。美しい白い翼の人は、くすくす笑いながらハルに告げた。
「あなたのお陰です。ハル。ありがとうございました。私はもう自由に成れないと諦めていました。」
「つか、いわゆる、堕天使だよね?君は。」
口を挟む天為にその小人は言った。
「天為くんは口を挟まないで下さい。私が何であるのか詮索しないでください。ワタシはただ見届けに来たのです。私を助けた人間が何をしているのか、どんな生き物なのかを。」
話し方は丁寧だが、見え隠れする“上から”がハルには気にかかった。
「えっと、何であたしだけ呼び捨てなのよ。」
羽を持つ小人は、満面の笑みで答える。
「私達、天使は人間の上位に位する存在です。下位の存在に話しかける時はくん付けが基本です。でも、あなたは例外です、ハル。あなたは私を助けてくれたから、私は私と同格と認めます。だから、くんはつけないのです。」
「天使って言っちゃってるじゃんか。」
でも、天為は何故かすんなりと納得して、うっかり口をはさんだ。
「てか、初めて見たよ。ウエカラが気に入らないけど、面白いな。」
「口を挟まないで、天為くん。そもそも、天為という名前が不愉快です。生意気です。」
わぉ。生意気はどっちだよ、と思わないでもなかったが、一応、命の恩人だし口は閉じておいた。横目でみながら、ハルが質問する。
「ま、良いけど、名前教えてよ。」
「セツナ、と言います。」
ハルの問いかけには素直に答える。
「じゃあ、セツナ、よろしく。」
ハルはからりと返す。セツナも満面の笑みを送る。
「こちらこそ。この穴蔵を無事に脱出するまでは、行動を共にします。」
まぁ、気が合うのなら何より……と、人事のように天為は二人を眺める。二人は仲のよい姉妹にも見えた。
「で、どうする?」
高坂が唐突に問いかける。天為もハルもそれでようやく本来の目的を思い出した。そうだ。このウキハの底の底まで降りて、水源を封じるのだ。クレイフに流れ込む地下水を止めるのだ。
「じゃ、行こうか。」
天為は軽く言う。歩き出す。いつも通り。高坂は知っていた。彼の言い方と事態の深刻さとは何の関連性も無いことを。高坂は軽く荷物を背負い直し、天為の後に続く。
「そうだな。」
そうだ。いつだって、そう、進むしかないのだ。




