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世界が生まれ変わる物語。  作者: ゆうわ
第二章 砂の果実。
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2.砂の果実。 邂逅。 3(後編)

 「私の牢獄とは思えない無秩序さだ。誰だ?この時間の責任者は。」


 ぴかぴかの革靴で石牢の床をかつかつと削りながら事務屋コットスは喧騒の中心に進む。コットスの周りではバタバタと人が倒れていく。見えない重圧に押しつぶされたかのように。コットスの問いには誰も答えていない。答えられないのだ。その結果何が起こるのか、彼らはイヤというほど知っているのだから。


 「あー、多分ソイツじゃね?」


 天為は、無視されるコットスが可哀想で、つい答えてしまった。天為は指差していた。コットスのすぐ足元で、倒れこんで身動きが撮れなくなっているあの衛兵の事をしっかりと指差していた。天為にチクラレタあの衛兵は、衝撃を受けて、目を見開いた。自分が責任者ではないことを主張しようとして、でも声を出せずに顎をかくかくさせていた。


 「そうか。こいつか。ありがとう、客人よ」


 言い終わるか否かの絶妙なタイミングで、コットスは足を上げ……口の端で、笑い……撃ち落とした。衛兵の頭蓋骨に。

 コットスは、スイカを割るように容易く衛兵の頭を潰した。彼のぴかぴかの革靴は石畳にめり込み、血と地にまみれた。コットスは、天為に向かい直る。


 「すっかり、体調が戻ったようだな客人。しかも、手練れのドラフだ。どうだ?たった今、衛兵に一人欠員が出た。私の下で働かぬか?私は事務屋。実務者が必要なのだ。」


 冷静で事務的な口調だ、が、その声は内蔵に響く力を備えていた。一瞬の間にコットスがこの場を石牢の騒乱を支配し、鎮めてしまっていた。


 「踏みつぶされるだけの簡単なお仕事って?やだね。」


 天為は相変わらずの調子だ。軽く上っ面を滑り、だが曲がらない信念を隠している。一方で、


 ……何だ?この男の力は。


 高坂はコットスの気迫に臆することなく、状況を観察していた。その事務屋と名乗った男の周囲2メートルの人間が、倒れ込み、喘いでいる。重圧に押しつぶされているかの様に……いや、


 ……力を抜き取られているようだ。


 まるで、大病に取り憑かれ息もままならない枯れた病人のようだった。倒れ込んだ衛兵達は一様に呼吸が弱く、目が虚ろで閉じかけていた。その死の領域から、逃げだそうと、足掻く様子がない。


 ……うむ。近づかない方が賢明だな。


 高坂は結論した。ここでこれ以上の観察や考察は不要。相棒の天為は既に出口の近くに、コットスを挟んだ向こう側にいた。天為の視線が高坂とぶつかり、接続した。


 にやり。


 天為は馬鹿っぽい、素直な笑みを見せた。高坂はぎょっとなる。天為のそれは何かを理解し、とんでもない……止めてくれと高坂がお願いするような……事を仕出かす前振りだ。


 「ちょ……


 「やだね。」


 高坂の制止の声がかかる前に天為は、拒否した。彼の所持品の中の長い杖にも見える、大長尺の古刀を抜き放った。天為は、淀みなく、力みなく動いた。それは、さりげなく当たり前過ぎて、ここにいる全ての人物達が何か行動するきっかけにならなかった。何の注意を引かなかった。それは、木々が風に身を揺らしているかのよう。ただの風景だった。踊るように天為は古刀呼雪を振るった。それは、砂漠の乾いて熱を帯びた大気を切り裂いて凍らせた。


 妖刀呼雪。


 それは魂を喰らって切れ味を増す呪われた刀。それは斬るもの全てを凍らせる死神の鎌だった。呼雪が切り裂いた大気は凍りついた。その凍結した刀筋は、爆発し飛び散って石牢を埋め尽くした。氷の欠片に豹変した大気は光を燦爛し、彼等から視界を奪った。誰もが身を守ろうと、一瞬動きを止めた。世界が凍り付く。


 「かはははは!」


 天為の乾いた馬鹿笑いを合図に凍り付いていた世界は、溶けて燃えて動き始めた。天為が地上へと抜ける。囚人達はこの機を逃さない。

 この天為の悪戯で傷だらけになった高坂は、コットスが天為の方に振り向く動きに合わせて彼の視界の端を走った。天為が地上に逃れたことを察したコットスは素早く向き戻るが、彼の視線の動きと逆方向に移動する高坂は、コットスにとって相対的に数倍の速度となり、事務屋は高坂を背後に回してしまった。一瞬、


 ……やれるか?後ろを取ったぞ。


 高坂は逡巡する。危険な男だ。高坂は理解していた。天為の言葉だ。


 「プレイヤーは少ない方がいい。」


 時々、天為は底のない冷酷な言葉を吐く。だが、それは真理だった。この救いのない残酷な世界の中では。悩む高坂をとは対照的に、コットスに迷いはなかった。

コットスは振り返る時間を省き、そのまま、力を解放する。彼の周囲の衛兵達から一気に気が抜き取られ、失神する。コットスはマイトを抜き取られ、動きを止めている背後の高坂に当てずっぽうの拳を繰り出す。凄まじい気が込められた、文字通り岩を砕く、致死の拳だ……が、それは空を切った。高坂は既に居ない。彼は逡巡したが、コットスを背後から襲うことはせずに天為の後を追ったのだ。


 「ふむ。良い判断だ。」


 コットスは素直に関心した。部下に欲しいな、とさえ思った。衛兵の悲鳴と轟音が響く。修行僧達が地上へ逃れようと石牢の天井を吹き飛ばしたのだ。


 「術者か。」


 呟くとコットスは突進した。力は解放したままだ。衛兵達は巻き込まれ、次々と気を失い倒れ込んだ。石牢では、男の修行僧……ウーがストクフを担ぎ上げ、穴の空いた天井から、抜け出す所だった。


 「先に!」


 女の修行僧……アンが叫ぶ。ウーは行動で答える。振り返りもせずに地上へと抜けた。アンはコットスに向けて魔性の息を吐く。青い炎が地下を蹂躙する。死んだか?いや、気を感じてアンは見上げる。コットスだ。天井に指をめり込ませて、ぶら下がっていた。常人の握力ではない。コットスは天井を引き抜き、アンの頭蓋に叩きつけた。アンは多量の血を流しながらも踏みとどまり、反撃を……倒れ込んだ。コットスの死の領域に捕まったのだ。


 「こ……殺せ。」


 「断る。」


 そのコットスの声を最後に長身の女の修行僧は気を失った。


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