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act.15 海と月と

海宝島の海岸に船が着く。順番に降りていき、荷物をすべて下ろし終わると船はその姿を大きな亀へと変じた。というより亀が船に変化していたのだ。さゆりが驚いたままの顔で亀が海底に向かって潜っていく様をみていると、さゆりの手荷物を運ぼうとする手に気づいた。浅黒く大きなその手にはごつごつと沢山の指輪がはめられている。

「あ、あの…」

「お持ちします」

「ありがとうございます」

「…亀爺の手伝いをしています、道良(どうりょう)といいます」

「わたしは山上さゆりです。よろしくね、良くん」

さゆりが笑顔を向けてみると、良はふいと目線を逸らした。金と青の瞳が逡巡してから再びさゆりを見る。その視線は何か熱味を帯びていた。

「待った!ストーップ!」

「さゆり、目を逸らせ!」

佳澄が良とさゆりの間に割り込み、太郎がさゆりの目のあたりを手で覆った。二人は茶化すように声を上げてみせる。

「さゆり、浮気すんなって!」

「浮気!?な、なにそれ!」

「そーだぜ?オレらに水着見せてくれる約束だろ?早く海で遊ぼうぜ」

「う、うん。じゃああの良くんも一緒に…」

「いーね!良くんだっけ?オレ、佳澄。一緒にあそぼ!」

良は頷いてからさゆりたちを案内すると歩き始めた。後ろで佳澄も太郎もそれぞれホッと息を吐く。さゆりは自覚がないらしいが、その瞳には魅了の力が込められている。最近その力が特に強くなってきた。魔女という特性なのかもしれないが、さゆりは特にそれが瞳に強く表れている。良が人間ではないことも薄々感づいていた二人は、さゆりとの出会いに直感で危機を覚えたのだった。

案内されたのは昔ながらの日本家屋だった。旅館のような造りのそこには何人もの女性も男性もいて忙しなく働いている。どうやら白雪が来たことにより、もてなしの準備をしているらしかった。白雪は黒鉄と同室だし、男子と一緒に寝るわけには行かないのでさゆりは一人部屋になった。一人、和服の女性が旅館の仲居のようにお茶を淹れてくれている。

「このあと海で泳がれるんですか?」

「あ、はい!3時に水着に着替えて集合なんです」

「そうですか。手の空いてる人魚もたぶん海にいますから一緒に遊んでやってください」

「はい、是非」

涼音と名乗るその女性は自分も人魚だと教えてくれた。この海宝島には人間は住んでいないのだとも教えてくれる。良と名乗る彼も人間ではなかったのかと、さゆりは内心驚いていた。

やがて3時近くになるとさゆりは荷物から水着を取り出した。夏休みに入る少し前に千代と買ったものなのだがビキニタイプは初めてなのでどうにも恥ずかしい。意を決して服を脱いで着てみたがやはり恥ずかしくてどうしたらいいかわからない。そんなこんな格闘していたら襖の向こうから佳澄が呼んでいる。

「どうした?具合悪い?」

「う、ううん。ちょっと…その…恥ずかしくて…」

「…へ?」

「み、水着が恥ずかしくて…その…変だったらすぐ言ってね!?」

「…いいから出てきなよ。早くしないと日が暮れちゃうよ?」

「うん…」

 さゆりが思い切って襖を開けると、佳澄はその姿を見て目を見張った。白と紺のチェックの柄のビキニなのだが、さゆりの肌の色に映えてなんとも可愛らしい。

「可愛い」

「…え?」

「本当だよ。オレ、嘘つかないの知ってるでしょ?」

「佳澄…」

「さ!行こ!」

 佳澄がはにかんで笑ってからさゆりの手を引いた。佳澄の温かい手がさゆりを優しく包み込む。さゆりは照れくさそうに笑ってうんと頷いた。

 砂浜では太郎がやはり水着姿で待っていた。最初は水の中で3人でビーチバレーをしていたのだが、佳澄の力が強すぎてボールが破裂してしまったので、ビーチフラッグ対決に変わった。

「佳澄は飛ぶの禁止な。あとスキップ」

「ちょっ…オレだけハンデ多くない!?」

「お前のパワーが並はずれてんが悪いんだろ」

「足の速さは普通ですー!」

 そんな風にはしゃぎながら何回か対決していたが、どちらもさゆりからみれば足が速くて拮抗してるように思えた。砂浜で座ってみていたさゆりの隣に座ったのは良だった。

「二人とも楽しそうですね」

「良くんもやってみる?」

「いえ私は今夜のために体力を温存しておくように言われていますから」

「…今夜なにかあるの?」

「…ご存じないのですか?」

 さゆりだけではなく、佳澄も太郎もその良の言葉に同時に首を傾げた。



「オレは反対だ」

 夕食の時に黒鉄にそう言ったのは太郎だった。内容はさっき良に聞いた今夜の予定についてである。

 今夜、この海宝島の結界張り直しの儀式が行われるのだという。それは50年に一度行われる大がかりなもので、結界を一度壊して張り直すためにその壊れた一瞬を多くの妖たちが狙って攻撃をしかけてくるらしい。いつも戦争のようになるのだと聞いたと良は言っていた。

「さゆりはまだ自分の防御もできない状態だ。実戦の場にいていい状態じゃない」

「オレもそう思う」

「…さゆりさんには私の後ろで私のサポートをしてもらうわ。この島で一番安全な場所とも言えるの。それにあなたたちもいるんだもの、大丈夫よ」

「でも…」

 それまで沈黙を保っていた黒鉄が、煙草を灰皿に押し付けてため息をついた。

「どっちにしろ、もうこの島にいるんだ。今更帰るわけにもいかねぇんだから雪の言うとおりにしろ」

「黒鉄さん!」

「じゃあいつになったらいいんだ?5年後か?10年後か?」

 黒鉄の言葉に太郎と佳澄は黙らざるをえなかった。さゆりは今も一歩一歩魔女の能力を高めている。いつになったらでは遅い。今、この瞬間もさゆりを護らなければならないのだ。太郎は舌打ちをして大広間を出て行く。さゆりは所在なさげに手の中の緑茶の入った湯呑みを覗きこんでいた。後ろにいた涼音が風呂に入ったらどうかと勧めてくれる。どうにか頷いてさゆりは部屋に戻ると、着替えを持って大浴場へと急いだ。客人用の女湯は勿論誰もおらず、貸し切りのような状態に遠慮したほうがいいのではと思い、無意識に端を選んで入っていた。しかしふと目を閉じれば最初に思い出すのは実家の神社の大浴場。ここまでは大きくもなかったとはいえ、一般の家庭の家よりは大きい風呂だった。日替わりでいろいろな巫女がさゆりを風呂に入れてくれた。次に思い出すのは五陵の桜寮の大浴場。いつも蓮華と千代と一緒に入るのだが、他愛もない話をしているうちに3人とものぼせて肌が真っ赤になってしまうのだ。思い出してくると心がほんわりとしてきて、さっきまでの緊張が少しだけほぐれてくるような気がした。

 そう、緊張していた。さゆりにとってこれが初めての実戦。先日街でアリシアに出会った時も戦ったというよりはただおろおろしていただけだった。だけど今夜は違う。敵がくるとわかっていてそれを迎え撃つのだ。それが恐ろしい。一体何が起こるというのだろう。

「…お背中、流しましょう」

「涼音さん…」

「さあさ、こちらにおいでくださまし」

 涼音に導かれるがまま、さゆりが湯船から上がると椅子に座らされて背中を洗われていく。ふと顔を上げると月が綺麗に光っていた。満月には少し足らないが、ほとんど丸のそれは黄金色に見えた。

「…さゆり様はおひい様の学校で学ばれているんですよね?」

「はい」

「おひい様はとても立派な方です。おひい様がこの国を護ってくださっているおかげで、私たち人魚も安全に暮らしていられるのです」

「…そう、なんですか」

「おひい様は長い間生きなくてはならなかった。死ぬわけにいかない。そのための薬は私たちだけが作りだせるんです」

「それが…禁断の実…?」

「おや、ご存じだったんですね。それを作り出せることは人魚の誇りです。私たちがおひい様の命を支えてる。忘れないでくださいましね、おひい様のやっていることは正しいんだってことを」

「…はい」

 意味はすべてさゆりには伝わらなかったのかもしれない。でもさゆりは涼音に向かって確かに頷いていた。涼音がまた背中をこすると、さゆりが消え入りそうな声で『がんばります』と答えたのだった。



続く

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