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超醒の救世者  作者: ミライ
一章
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23/29

覚悟  ーその2-

「なるほど……」


 誠志(せいじ)裕哉(ゆうや)に、自分の超能力をすべて話した。

 あらかじめ、愛月(まなつ)から話を聞いていたのだろう。考えていた時間はわずかで、すぐに口を開いた。


「誠志、君が取れる手はただ一つ。学生治安維持委員会(S M C)に入ることだ」

「やっぱり、そうですよね」


 誠志が裕哉に自分の超能力を話したのは、試験の時に超能力がないと合格が厳しいと思ったからだ。超能力を公開してもいいのか、どう公開すれば問題が起こらないのか。それを知ることが、今の誠志にとって大切なことだった。

 しかし裕哉が言うには、それをするためには学生治安維持委員会(S M C)に入る必要があるとのこと。つまり、結局試験で超能力は使えないのだ。


「裕哉、前に連絡した通り誠志と来たのは、試験で超能力を使うためよ。今の話じゃ、それは難しいの?」

「ん~そうだね……全部は無理かな。誠志の超能力は、僕の超能力と違って勝手がよすぎるからね」

「北陽さんの、超能力?」

「そういえば、まだ言ってなかったね。僕の超能力は『スペシャルアビリティ:アクティベーション』僕の体内にある『ナスラ』を活性化させられるんだ」


 北陽裕哉の超能力『スペシャルアビリティ:アクティベーション』は、裕哉の体内にある『ナスラ』を活性化させることができる。この活性化させた『ナスラ』は、裕哉の体内を巡らせることも出来れば、体外に放出することもできる。この、放出した『ナスラ』を取り込んだ超能力者の超能力を一時的に強化することができる。

 しかし、そう上手くいくわけではない。例えば、普通の超能力者の『ナスラ』を水に、裕哉が活性化させた『ナスラ』をオレンジジュースとしたとする。裕哉が放出した『ナスラ』を取り込むことを、水に少量のオレンジジュースを入れると考えれば、それからオレンジの味を感じるのは難しいだろう。

 つまり、裕哉の活性化させた『ナスラ』を効率よく使うことができないのだ。


「それじゃぁ、どうすれば……」

「"奪う力"についてはどうなんだ?」

「それは、まだ推測の域を出ないのですが……」


 裕哉は、誠志があまり話さなかった"奪う力"に目を付けた。その実態は、(あつむ)の件でなんとなくわかっていた"分け与える力"と違って、愛月はおろか誠志も知りえなかった。そのため、推測の域を出ないと言ったのだ。

 それから、誠志は自分の予測を二人に話した。


「なるほど……わかった、今実際に試してみよう。誠志、愛月に触れてみて」

「今、ですか?」

「いいわよ。ほら」


 そう言って、愛月は右手を差し出した。誠志は、ためらいながらも左手でその手を取った。


「いくわよ……」


 愛月は、机の上に置いてあったペンを持って、空中で手放した。愛月の手から解放されたペンは、重力に引っ張られて、机の上に落ちた。カタカタッ、という音が鳴り響くと、裕哉は状況を確認してうなずいた。


「愛月、どうだ?」

「無理ね、超能力が発動しなかったわ」


 このことから、誠志が左手で触れていれば、その超能力者は超能力を使えないということだ。これ自体は、誠志が予測した通りだった。ここからさらに、裕哉の考えを試していく。


「次は、あらかじめペンを固定した場合にどうなるかね」


 そう言って、愛月は再び机に落ちたペンを拾い上げると、今度は誠志が触れていない状態で手放した。すると、誰も触っていないにも関わらず、ペンは空中に浮いたままだ。

 誠志は、左手で愛月が固定したペンに触れた。しかし、ペンは浮いたままで超能力が解除されるようなことはなかった。


「霧河さん、どうですか?」

「そうね……超能力は問題なく発動してるし、特に変化はないわ」

「つまり、一度発動してしまえば、消すことはできない?」

「その可能性は高いね。それをしっかり確認するために、最後の検証だ」


 そう言って、裕哉は机の上にあった消しゴムを愛月に手渡した。愛月はその意図を理解して、ペンの横に消しゴムも固定した。

 なぜ、裕哉が消しゴムを用意したのか。それは、手で全体を握りしめることができるからだ。つまり、手で触れていても、一部が出ていれば超能力の影響を受けるかどうかを、裕哉は検証しようとしていた。

 そして、誠志はまずペンを握った。しかし、全体を包むことはできなく、誠志がペンを動かそうとしてもびくともしなかった。


「……動きません」

「よし、次は消しゴムだ」


 裕哉の指示にしたがい、誠志は消しゴムを手に取った。今度は、完全に手の中に収めることができた。


「どう?誠志」


 先ほどはびくりともしなかった誠志の腕が、小刻みに震えている。そして……。

 誠志がつかんだ消しゴムは、愛月の支配を逃れて動かすことに成功した。それを二人に見せようと誠志が手のひらを広げると、再び消しゴムは空中に固定された。


「愛月、超能力は?」

「解いてないわ、まだは発動してる」

「なるほど……」


 超能力の知識が浅い誠志に代わって、裕哉が今の検証から考察を行う。その間に、立っていた誠志と愛月はペンと消しゴムを片付けて、椅子に座った。

 数秒後、なんとなく考えがまとまったのか、裕哉が口を開いた。


「誠志、君の"奪う力"は、端的に言って触れている超能力者の超能力を使えなくするものと捉えてよさそうだ。そのほかの結果については、正直この検証だけじゃ足りないかな」

「それじゃぁ……!」

「うん、似たような超能力者はまぁまぁいるから、こっちなら公開しても問題ないと思うよ」

「ありがとうございます!」


 誠志は、頭を深々と下げた。正直、"分け与える力"はサポート特化能力で、個人戦になる試験ではあまり使えないと思っていた。そのため、"奪う力"が敵を封じるデバフ系の超能力で、助かったと思っていた。

 二人は、改めて裕哉に礼を言って二人は立ち上がった。部屋から出る途中、裕哉が愛月を呼び止めた。


「愛月、連絡は確認した?」

「えぇ、明日の緊急召集のことでしょ?」

「分かってるならいいんだ。今月は、定例会議もないしね」


 廊下で待っていた、誠志と共に愛月は第十三区画支部を後にした。

 希望が見えた誠志とは対極に、緊急招集に不信を募らせる愛月がいた。明日の会議が誠志の将来を左右することになるとは、この時は誰も思っていなかった。

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