最終決戦 : 契約剣 vs 禁忌理論
空間が裂ける。
《霧核》の中心に広がるその領域は、もはや“世界”の体をなしていなかった。
天も地も存在せず、漂う霧がすべてを構築している。
そしてその中心――虚空に浮かぶ“玉座”に、ザイデンは座していた。
> 「ここは“選択されなかった未来”の残骸だ。
私が守り続けてきた、もうひとつの世界」
「……どういうこと?」
フィーネが問うと、ザイデンの仮面が崩れ落ちる。
現れたのは、年若くもどこか人間離れした美しい顔。
だが、その瞳には深い疲れと絶望が刻まれていた。
> 「かつて……この世界には、もうひとつの“選択”が存在していた。
エリシア、お前が“扉を閉じた”あの日までは」
「……扉……?」
ザイデンは静かに語る。
「《異界》とは、本来、世界の“可能性”の集積地だった。
ある世界が滅びれば、別の世界が生まれる。
だが――お前が“可能性の門”を閉じたことで、この宇宙は“再生”を止めた」
サティが息をのむ。
「それって……新しい世界が生まれなくなるってこと……?」
「そう。滅びた世界は“記憶”として霧に変わり、
それを私が、この《霧核》で“保管”し続けていた」
ザイデンは立ち上がる。
その身体から黒銀の霧が噴き出す。
「だが限界だ。
このままでは、すべてが霧に飲まれて終わる。
私はそれを回避するため、もう一度、“扉”を開けねばならない」
「それで世界中を“霧”にしたのね……?」
「そうだ。記憶を霧として集め、“可能性の核”へと還元する。
そのために必要なのが――《契約者》の魂。つまり、お前だ」
ザイデンの右手に、黒い剣が出現する。
「お前の魂を《霧核》に融合すれば、“再起動”が可能となる。
滅びを超えた世界が再び生まれる」
「……あなたの理論、間違ってはいないのかもしれない。
でも、私は――今を生きてる人たちを踏みにじる理屈なんて、認めない!」
フィーネが《契約剣・ルクレシア》を抜く。
霧の空間に剣光が煌めいた。
「私は、誰かの命を“材料”にした再生なんて望まない。
今ある未来を、私たちの手で築くために戦う!」
ザイデンは、うっすらと悲しげに笑った。
「やはり君は変わらない……。だから私は、君に賭けられない」
次の瞬間、空間が震えた。
ザイデンの剣とフィーネの剣が、互いに空間そのものを削り合う。
> ――ギィィンッッ!!
「フィーネ、後方は任せて!」
サティが防御陣を展開、霧の反響を打ち消す。
「ありがとう、サティ!」
霧と記憶と空間が交差する異界の最終決戦――
その幕が、いま開かれる。




