異界封じの剣、覚醒する刻印
「いくよ――《連鎖式反転陣・起動》!」
サティの足元に描かれた魔導陣が、青白い光を放って輝き始めた。
地中に散らばる魔導石の粒子が集い、空間全体に逆干渉の波動が走る。
「フィーネ、そこから退いて!」
だがその瞬間――
ズガァァンッ!
異界の魔影が咆哮を上げ、地を這う霧が陣にまとわりつき、激しく跳ね返した。
「くっ……干渉率が高すぎる! 通常の封術じゃ足りない……!」
「じゃあ、やるしかない!」
フィーネは剣を振り上げる。
“あの時”のように――少女エイルを救ったあの瞬間のように。
「第三式・真解放――《刃紋・穿》!!」
シュバァァッ――!
霧を裂き、魔影の中心を貫いた一撃。
だが次の瞬間――
フィーネの右手に、**赤黒い光の“紋”**が浮かび上がった。
「っ……!」
刻印だった。
異界の魔力に長く晒された影響か、あるいは黒鏡の事件で彼女が受けた魔力干渉が引き金になったのか――
フィーネの体内に、封印されていた“記憶”のようなものが、蠢く。
> 『力を求めたのは、お前だろう?』
幻聴――いや、記憶の奥に潜む何かの“囁き”。
剣の奥から震えるように聞こえるその声に、フィーネの視界がぐらつく。
***
「フィーネ!! 目を覚ましなさい!!」
サティの声が、霧を裂いた。
その瞬間、フィーネの胸元に吊るされた銀のペンダントが淡く光る。
《精神安定の符石》。
ルメリアの学院長から託された、かつての守護具。
「……っ、大丈夫。まだ……戦える」
フィーネは意識を取り戻し、魔影の核心に向けて跳躍する。
「ならば、決める!」
サティの封陣と、フィーネの剣閃が交差した。
> 「――《封刃・終章》!!」
斬撃と陣が共鳴し、魔影の体に裂け目が生じる。
次の瞬間、そこから溢れ出した“黒き霧”は霧核を残し、蒸発するように消え去った。
***
静寂が戻る。
倒れ込んだフィーネの手には、まだ刻印が微かに光っていた。
「……これって……」
サティが駆け寄り、顔をしかめる。
「おそらく、霧との共鳴による“魔印の共振”。あなたの中に“何か”が残ってる」
「私……異界の汚染を受けた?」
「そう断言はできないけど……正直、普通じゃないわね」
フィーネは、少しだけ笑った。
「“普通”だった覚え、ないから」
サティはため息をついたあと、彼女の肩を支えながら呟いた。
「……あんたが闇に呑まれたら、今度は私がぶっ飛ばしてでも正気に戻すわよ」
「ありがとう。……頼りにしてる」
ふたりは、互いに支え合うように立ち上がった。
***
数時間後。
鉱区は一時閉鎖され、霧核はサティの手で封印保管された。
ヴァイス将校が報告を受け、フィーネに敬礼する。
「やはり、あなたは只者ではない。ですが、この地の問題はまだ終わっていないと思われます」
「ええ。……“始まり”を感じるわ。何かが、もっと奥にいる」
フィーネの掌には、今も刻印がかすかに灯っている。




