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ギルド嬢の大罪無双〜平凡な受付嬢は禁断の力で世界を駆ける〜  作者: 柴咲心桜
第35章 節制の継承者・アルモネア編

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【特別編】こどもの日と、ちょっとだけ特別な距離

ルメリアの朝は、いつもより少しだけ賑やかだった。

 街のあちこちに掲げられた色とりどりの旗。

 風に揺れるそれは、どこか見慣れない形をしている。


「……あれ、何?」

 ギルドカウンター越しに外を眺めながら、ルリが首を傾げる。

「ん? ああ、今日は“こどもの日”ってやつらしいよ」

 書類に目を通しながら、サティは淡々と答えた。

「こどもの日、ですか?」

「子供の健やかな成長を願う日……とかなんとか。正直、私は詳しくないけど」

 興味なさげに言いつつも、サティの視線は一瞬だけ外へ向く。

 ――小さな子供たちが、はしゃぎながら走り回っている。


「……いい日、だね」

 ぽつりと呟いたルリの声に、サティは少しだけ目を細めた。


「そうかもね」

 その日の昼過ぎ。


「ねぇ!お姉ちゃんたち!」

 ギルドの扉が勢いよく開いたかと思うと、数人の子供たちが雪崩れ込んできた。


「依頼!? それとも迷子?」

 即座に仕事モードに入るサティ。


「ちがうちがう! イベントのお願い!」


「……イベント?」

 差し出された紙には、こう書かれていた。

 ――『期間限定:家族ごっこクエスト』


「……は?」


「今日だけね、“家族役”をやってくれる人を探してるの! 先生が言ってた!」

 満面の笑みで言い放つ子供たちを前に私とルリは沈黙する。


「……断っていい?」


「ダメだよ!」

 即答したのはルリだった。


「なんで!?」


「だって……困ってるみたいだし。それに、楽しそうじゃん」

 少しだけ頬を緩めるルリ。

 その表情を見て、サティは――小さくため息をついた。


「……はぁ。わかったよ。期間限定だからね」


「やったー!!」


「じゃあ決まりね! お姉ちゃんたち、夫婦役!」


「待って」


「え?」


「そこはせめて姉妹とか――」


「ダメ! もう決まってるの!」

 完全に主導権を握られている。

 サティは顔を覆った。


「……最悪だ」


「……よろしく、お願いします」

 対照的に、ルリはどこか嬉しそうだった。

 それからしばらくの間。

 二人は“家族”として子供たちと街を回ることになった。


「お母さん! これ買ってー!」


「誰がお母さんだ」


「サティさん、ほら……」


「……はぁ。今回だけだからね」

 結局、財布を出すサティ。


「優しいね、お父さん!」


「誰が父親だ!!」

 即座にツッコミが飛ぶ。

 その様子に、ルリはくすっと笑った。

 日が傾き始めた頃。

 子供たちは満足したのか、元気よく手を振って帰っていった。


「ありがとう、お姉ちゃんたち!」


「……お疲れさま」

 静かになった広場。

 風だけが、少しだけ優しく吹いていた。


「……疲れた」

 ベンチに腰掛けながら、サティがぼやく。


「でも、楽しかったよね」

 隣に座るルリは、穏やかに微笑んでいた。


「……まぁ、否定はしない」

 少しだけ視線を逸らしながら、サティが言う。

 沈黙。

 でも、不思議と気まずくはなかった。


「……さっきの、だけど」


「ん?」


「“夫婦役”……嫌だった?」

 少しだけ不安そうに尋ねるルリ。

 サティは一瞬だけ固まり――


「……別に」

 短く答えた。


「そう、ですか」

 ほっとしたように息をつくルリ。

 その表情を見て、サティはほんの少しだけ言葉を続ける。


「……ただ」


「?」


「悪くは、なかったよ」

 ぽつりと。

 それだけ。

 ルリの頬が、ほんのりと赤く染まる。


「……私も、です」

 風に紛れそうなくらいの小さな声。

 空には、どこか誇らしげに泳ぐ旗。

 子供たちの笑い声はもう聞こえないけれどその余韻よいんは、確かに残っていた。


「……帰ろっか」


「はい!」

 立ち上がる二人の距離は、ほんの少しだけ近づいていた。

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