ダンジョン探索
私と――いや、今は“妹のユリア”として同行しているユーリシア様とともに、冒険者ギルドを訪れていた。
目的は、ダンジョン探索のための即席パーティとの合流だ。今日初めて会う仲間たちと、冒険に出ることになっている。
「どんな人が来るのかな?」
ユリアは、少し緊張した様子で辺りをきょろきょろと見回す。
「真面目な人たちだといいけれど……」
そんな会話をしていると、一人の女性が私たちに歩み寄ってきた。
「あなたが、サティさんですか?」
活発そうな短髪の少女。軽装に鋭い目つきが印象的だ。
「はい、私がサティ・フライデーです。あなたもパーティの参加者ですか?」
「うん、ティナって言います。索敵が得意で、隠れてる魔物とか罠とか見つけるのが得意!」
「よろしくお願いします。こちらは――」
言いかけたところで、さらにもう一人が駆け込んできた。
「遅れてすみません! エミリです。弓使いで、遠距離支援が得意です!」
彼女は知的な雰囲気を持つ、背中に弓を背負った優等生タイプの女性だった。
二人の視線が、隣にいるユーリシア様へ向かう。
「サティさんは分かったけど……そっちの子は?」
「私の妹の、ユリアです」
即答する。王女だと知られれば、ややこしいことになる。だから、妹という設定を貫くしかない。
「よろしくお願いします」
「よろしくね!」
「姉妹で冒険者やってるんだ~」
「ええ、そうなんです」
慣れない設定に内心ヒヤヒヤしながらも、堂々としていれば案外どうにかなる――そう信じていた。
「じゃあ、ダンジョン探索の依頼を受けようか」
「ティナ、受付お願いできる?」
「任せて!」
ギルドのカウンターには顔なじみの受付嬢がいる。私が出向けば、「サティさん!?」と大騒ぎになるのは目に見えている。だから、今回は他のメンバーに任せた。
* * *
第1階層。じめじめとした石の回廊を進みながら、ユリアが尋ねる。
「ここって、何階層まであるの?」
「不明だよ。5階層より下には、まだ誰も到達してないみたい」ティナが答える。
「サティさんは行ったことありますか?」
「私はないわ。ここはあまり魔物も出ないし、深部を目指す人も少ないの」
「魔物と戦いたかったなぁ……」
エミリが少し寂しそうに言うと、私は微笑んで答えた。
「焦らなくていいわ。上達すれば、きっと戦えるようになる」
「はいっ。頑張ります!」
その日は第2階層の入口まで探索し、切り上げることにした。戦闘はまだなかったが、奥へ進めばきっと雰囲気も変わっていくはずだ。
* * *
帰り道、ギルドの外で次の予定を立てる。
「次はいつがいい?」
「3日後の午前なら空いてる!」ティナが即答し、他の2人も同意した。
そのまま、ギルド近くのレストランで夕食を取ることに。4人での食事は賑やかで楽しく、自然と笑顔がこぼれた。
会計のタイミングで、私は言った。
「お金は私が出すから、みんな先に帰ってて」
「ありがとう!サティ!」
3人が帰っていく中、ふいに後ろから懐かしい声が届いた。
「先輩?」
振り返ると、そこにはルリの姿があった。
「……久しぶりね、ルリ」
「本当にお久しぶりです。最近、お仕事お休みされてるって聞いたので……」
「ちょっとね。でも、元気よ」
彼女の笑顔を見るだけで、気持ちがほどけていくのが分かった。
「また今度、ご飯食べましょうね?」
「もちろん。そのときは私の奢りね」
「やった!約束ですよ?」
そう言って手を振るルリに、私は笑って返した。
ギルドの喧騒の中で、ふと心が穏やかになる瞬間。
彼女とこうして話すと、自分の原点を思い出す。
……忘れていた、あの頃の自分を。




