謁見
「なぜユーリシア様が、私の部屋にいるんですか!?」
目を覚まして最初に見たのは、窓辺で紅茶を楽しむ王女――ユーリシア・レーネ・エルディアだった。
昨日の任務後、たしかに彼女は王城へ戻ったはずだ。
「メイドには伝えてきたから大丈夫ですよ」
「……なんて伝えたんですか?」
「これからは戦士の家で暮らすと」
……それ、絶対に大丈夫じゃない。
「と、とりあえず今から城に戻りましょう」
「信じてないですね?」
「信じてます。でも、皆さんの誤解を解かないと」
「誰も誤解なんてしてませんよ」
「……行きますよ」
* * *
城へ向かうと、案の定だった。
「ユーリシア様はどこですか!?」
メイドたちが、慌ただしく廊下を駆け回っている。
「すみません」
私は近くのメイドに声をかけた。
「はい、どうされました?」
「ユーリシア様を、お連れしました」
「そうですか……って、今なんと?」
戸惑うメイドに、私はきっぱりと繰り返した。
「ユーリシア様を、ここにお連れしました」
「……ありがとうございます。昨夜から戻られず、心配していたのです。それで、あなた様は?」
「サティ・フライデーと申します」
「私はエルナと申します。姫様、お部屋に戻りましょう」
「もう、サティは私の戦士なんだから。一緒に暮らしたっていいでしょ?」
「サティ様。今の姫様のお言葉、事実でしょうか?」
「……はい。事実です」
「なんと……! それは陛下にご報告しなければ」
「え、王に……ですか?」
「はい。姫様には今まで、戦士がおられませんでしたから。これは王国にとって大変喜ばしいことです」
まさかそんな大ごとになるとは思わなかったが、従うしかなかった。
* * *
王宮の謁見室には、貴族たちがずらりと並び、玉座から王が私を見下ろしていた。
「其方が冒険者サティか。我が名はアーノルド・エルディア。エルディア王国の王である」
私は片膝をつき、恭しく頭を垂れた。
「表を上げよ」
「ありがとうございます」
王の隣にはユーリシア様、そして姉と思しき気品ある女性の姿も。
「此度、其方が愛娘ユーリシアの戦士となったと聞き、どのような人物か見てみたくてな」
「畏れ多きお言葉です」
「この後、宴を開く。楽しんでいってくれ」
「私などのために……恐縮でございます」
「そう堅くなるな。もっと気楽にせよ」
「陛下、冒険者が国王に気楽に話すのは難しいかと」宰相が進言する。
(本当にその通りです……)
私は心の中で深く頷いた。
「わしは其方と親しくなりたいのだ。堅苦しいのは嫌いでな」
「……わかりました、王よ」
「それで良い。アーノルドで構わんぞ」
「……アーノルド、ですね」
* * *
宴では、見たこともない豪華な料理がテーブルを埋め尽くし、私は目を輝かせていた。
そこへ、二人の男女が近づいてくる。
「はじめまして」
「僕は第一王子、ウィン・エルディア」
「私は第一王女、アイリス・エルディアよ」
「ご丁寧にありがとうございます。冒険者のサティ・フライデーと申します」
「君が噂の《死神》だってね」
「ウィン様も……ご存じなのですね」
「まあね。宴は楽しんでるかい?」
「はい。料理が素晴らしくて」
「それは良かった。では、また会おう」
「またね」
ふたりは優雅にその場を去っていった。
(この国の王族って、みんな……意外と親切なんだな)
温かい気持ちのまま、私は再び食事に集中する。
* * *
宴のあと。
お土産を抱えて帰宅した私は、明日から始まる護衛任務に備えて早めに床についた。
「宴の翌日に護衛仕事……さすがにきつい。次からはスケジュール、ちゃんと見ておこう」
そんな反省とともに、私はベッドに潜り込む。
* * *
翌朝――
「おはようございます」
「おはよう、サティ!」
新しい一日が始まる。
ユーリシア王女の戦士としての、私の任務もまた。




