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クレイジーフォーユー

 ここはどこだ。


 誰もいない。


 真っ暗で何も見えない。


 意識だけがある。


 私はどうしてしまったのだろう?


 先ほど殺気を感じたが、その物に命を奪われたのか?


 じゃあ、サタ子おばあちゃんは。


 私の近くにはいない。


 どうやら私は誰一人守ることの出来ない無力な人間だった訳か。


 悔しい。


 激しい憤りがこみ上げてくる。


 怒りは心理的に絶望をも乗り越える力があると言われている。


 ここはどこなのか?分からないが、意識はある。


 そして絶望を乗り越えられるという怒る気持ちがある。


 だから私は二人を守れなかったことに対して憤りを鼓舞した。


 誰なんだ?私たちが何をしたんだ。


 私はただ小説家として、サタ子おばあちゃんと近所の涙さんと幸せに暮らしているだけだ。


 何者かの笑い声が聞こえる。


 私が望む怒りがこみ上げるような笑い声だ。


 そして、


「何なんだよいったい」


 と叫びながら、私は意識を取り戻したみたいだ。


 辺りを見渡すと目の前に水槽があり、ピラニアが泳いでいる。


 私にスポットライトが照らされ、歓声が響く。


「レディースアンドジェントルマン。今宵は勇者の小林良理君が主役だ」


 私は訳が分からず、そのふざけた司会に、


「何のまねかは知らないが、涙さんとサタ子おばあちゃんを返せ」


 と叫んだ。


「はーい」


 するとピラニアの浴槽の上に涙さんとサタ子おばあちゃんがつるされている。


 その光景を目の当たりにして呼吸がまともに出来ないほどの動揺に気がおかしくなりそうになったが、ここは自分に落ち着けと言い聞かせて、


「やめろー」


 と叫んだ。


 すると、


「小林君」


 この声は向井の声だという事が分かった。


「やっぱりあんただったのか?」


「すまない」


 なぜ謝罪するのかと思い、三つ目のスポットライトが照らされた。


 するとピラニアの浴槽の上に逆さ吊りにつるされた向井誠の姿だった。


 そして四つ目のスポットライトがピラニアの浴槽の上につるされている達彦の姿だった。


「助けてくれよ。命だけは助けてくれ」


 と見苦しくも懇願していた。


 達彦はともかく、なぜ向井が?


 と疑問に思っていると、観客の中央の席から、


「小林君」


 マイク越しに私に訴える面識のない人物。


「誰だお前は」


「申し遅れたよ。私は向井誠様の息子の向井一と申します」


「息子が?」


 向井の方を見る。


「私は父にこの上ない恨みがありましてね。私の父はもう命も残りわずかだ。だから父の大事な物を目の前で・・・無惨に・・・ピラニアに」


 想像したくないが涙さんとサタ子おばあちゃんがピラニアが入った浴槽に落とされたことを考えると、


「やめてくれ」


 私は向井の息子に懇願する。続けて、


「もう俺たちの事はほおっておいてくれよ。親子のいがみ合いなら、余所でやってくれ」


「それと私は君に興味があってね」


 それを聞いた時、こいつらは人の命を物としか考えない輩だと、とにかく刺激を与えないように冷静になることを心がける。


 向井の息子を見ているとこの上ない怒りがこみ上げてくる。


 その怒りを増長させるように、どこから来たのか狂った観客達が歓声を上げている。


 私はただ普通に平和に生きていたいのに、おもしろ半分に人の幸せを踏みにじり、その狂った好奇心にかられて人を陥れる事を嗜む。


 連中の目的が分かった。


 ただの狂った好奇心だと。


 そんな連中に言葉など通じない。


 その狂った考え方に憤ったら奴らの思うつぼなのだ。


 向井の息子がどんな生涯を送ってきたかは分からないが、周りからもてはやされて恵まれていたが、そこに大切なものを諭されていなかったことが分かる。


 その大切なもの欲しさに子供が、手に入らないおもちゃを、だだをこねてねだる気持ちと変わらない。


 向井は見た目は紳士に見えるが、心の目、まさに心眼で見ると、もはや見るにたえない、姿だと分かった。


 とんでもない連中に私たちは目を付けられた。


 ピラニアの浴槽の上でつるされている四人を見つめると、涙さんとサタ子おばあちゃんは意識があるものの、目を閉じて死ぬ事を覚悟している感じだ。それと向井誠本人も。ちなみに達彦はガキのようにわめいて小便をちびって命乞いをしている。


 分からないけど、もう疲れてきた。もうどうでも良くなってきた。


 するとサタ子おばあちゃんが、


「よっちゃん。最後まで諦めちゃダメ。諦めないで、私達を助けて。そして三人でまた幸せな日々を送りましょう」


 サタ子おばあちゃんの呼びかけに、諦めかけていた私の心に一筋の希望が見えてきた。


「サタ子さんの言う通りよ、最後まで諦めないで」


 そうだ諦めちゃダメだ。


 向井の息子の目を見て、嫉妬の顔になり、不気味にほほえみ、歓声が鳴り響き、何事かと思って後ろを振り返ると、サタ子おばあちゃんにつるされたロープがちぎれてピラニアの浴槽に落下しようとしているのだ。


 すべてがスローモーションになった。


 小説でも衝撃的なシーンにはこう言った表現を使用することがあるが、先ほど涙さんがさらわれたときも同じ感じだった。


 本当に衝撃的な場面に遭遇すると、何もかもがスローモーションに見えてくる。


 私では助けられない。


 ゆっくりと落下するサタ子おばあちゃん。


 もはや私は目を閉じるしかなかった。


 サタ子おばあちゃんは落下して、ピラニアの餌食に。そう思った瞬間、「おお」と歓声が歓喜の驚愕に聞こえて恐る恐る目を開けると、逆さ吊りになった向井が、サタ子おばあちゃんを抱き抱えてサタ子おばあちゃんは一命を取り戻したことに、安堵の吐息が漏れた。


 でも向井はもう相当年だし、まともに歩けないと言う障害まで負っているので、いつまで支えられるのもわずかだろう。


「楽しい。すばらしい。これが愛の力。まさに感服させられる」


 向井の息子が言っているがそんなのは無視して、早くサタ子おばあちゃんの所へ。


 水槽の前にたどり着き、どこからよじ登れば良いのか、ぶら下がっている四人を見上げて、そして、向井が、


「サタ子さーん」


 と叫びながら懇親の力を振り絞って、サタ子おばあちゃんは水槽から外れて、私の元へと落下してサタ子おばあちゃんを助けることが出来た。


「サタ子おばあちゃん」


「よっちゃん」


 私に抱きつくサタ子おばあちゃん。


 すると、向井の叫び声が聞こえて、水槽の上につるされている向井が、水槽に落下した。


「向井くーん」


 とサタ子おばあちゃんが悲痛に叫び、水槽に落下した向井は水槽越しにサタ子おばあちゃんに穏やかな微笑みをかけて、そして・・・・。


 向井はピラニアの餌食になり、無惨な姿へと変貌してしまった。


「すばらしい」


 向井の息子が拍手すると、その狂った観客からも歓声と拍手がわき起こった。


 何がおかしいんだ。自分の父親だろ。本当に狂っている。


「私の父親も幸せ者だよ。最愛の人を助け、そしてその犠牲になれたのだから」


「あなたは狂っているわ」


 サタ子おばあちゃんが向井の息子に訴える。


「狂っている。ありがたいお言葉です」


「サタ子おばあちゃん。こいつにもう言葉など通じない」


「そんなの分からない。とにかく自分がやったことを自覚してもらわないと」


「父親は報いを受けたのだ。私の父親は善良な市民から自分の野望の為に、いくつもの命を犠牲にした」


「確かにあなたの父親の向井君は許されない事をしたかもしれないけど、あなたのようにいたずらに命をもてあそんで犠牲にした訳じゃないわ」


 すると向井の顔が一変して精神異常者のような狂った形相で。


「黙れ」


 どうやらサタ子おばあちゃんの言葉が向井の息子の何かに触れた。続けて、


「おい。もっと観客を盛り上げろ」


 すると横からサングラスをかけた連中に連れられた、連中のゲームに賛同して、私たちをさらった篭原と西脇がロープで拘束され水槽の舞台の脇から出てきた。


「俺たちをどうする気だよ」


「助けてよ。助けてよ」


 涙ながらに命乞いをする篭原と西脇。


「君たちには私の憤りの嗜みとして、永遠の幸せへと誘うよ」


 そういって顎をしゃくって、サングラスをかけた厳つい男に水槽の中にたたき込まれた。


 許せない相手とは言え、何てむごいことをするのだろう。


 ピラニアに全身をくまなく食いちぎられ、無惨な姿に変わる篭原と西脇。


 私は二人を見て、因果応報だと思ったが、やはりこのような人間でも、昔は無垢な子供であり、愛された事だってあるはず。


 心を黒く染めれば、心黒き者に、永遠の闇へと誘われる。


 こいつらの過去に何があったか知らないが、その心を黒く染めてしまうような衝撃的な悲しみに直面して、このような姿になってしまったのだ。


 私は向井に振り返り、


「向井さん。あなたはこんな事をして楽しいのですか?」


 改めて向井の顔を見ると、恐ろしさが感じられない無垢な優男に見えるのが逆に怖いのだと私は肝に銘じながら言う。


「小林君後ろをご覧なさい」


 吊された涙さんと達彦がゆっくりと水槽の中に降下して行く。


 思い切り目と口をきゅっとつぐんで黙っていた。


 達彦は、「助けてくれ。今度はちゃんと働くから。だから」相変わらず命乞いを繰り返す。

「やめろー」「やめて」


 私とサタ子おばあちゃんは向井の息子に叫ぶ。


 すると向井の息子が不適に笑い、降下していくロープが止まる。


「楽しい楽しい楽しい」


 私たちのうろたえる姿を見て、楽しんでいるようだ。


 サタ子おばあちゃんと目が合い、吊されている涙さんを目があって、自分は考えなくてはいけないと自分に言い聞かせる。


 向井の息子のあざ笑う声とその狂った観客。


 私は悟った。


「お父さんのあの姿を見て何とも思わないなんて」


 サタ子おばあちゃんは悲しそうに言う。


 そんなおばあちゃんを私は本気で顔面に裏拳を食らわした。


 そして涙さんを見た。


 涙さんは思いも寄らない私の行動を見て唖然としている。


 私は思ったんだ。


 目には目を歯に歯を。


 向井は私の意外な行動を見て、少しうろたえている。


 その狂った観客達は私の意外な行為を見て興奮しているのか歓声が上がり、お金まで舞台に飛び込む始末。


 そうだ。その狂った観客から狂ったエネルギーをもらい、私も狂ってしまえば良いのだ。


 涙さんの命、サタ子おばあちゃんの命、そんな事に気を取られてはいけない。


 私は不敵に笑い、向井の息子の目を見る。


 向井が一瞬、うろたえて、そのうろたえた姿を見られまいと、不敵に笑ったところを私は見逃さなかった。


 それは奴が垣間見せた心の弱みだと。


「ど、どうした狂ったのか?」


 うろたえる向井の息子。


「向井さん、どうしたのうろたえちゃって」


 向井の心を逆撫でするような嫌らしい声色で言う。


 そして向井の元へと歩み寄る。


「な、何だ。お前、自分の立場が分かっているのか?」


 飛び交う歓声と投げ銭。そんな向井の息子は、


「黙れ。黙れ。黙れ」


 激しくうろたえている。今だ。


 私は向井の元へ走り、顔面に思い切りけりを入れた。


 後ろにのけぞり、手元にボタンがあり、解除と言うボタンを押し、涙さんの目を見た。


 すると涙さんはすぐに理解して、達彦と涙さんにつながれたロープが外れ、反射神経の良い涙さんは外れたロープに掴み、さらに涙さんは落下した達彦の手を掴んで助けた。


 そこで向井が、


「連中を水槽に落とせ」


 部下に命令したが、私は一瞬ひやっとしたが、部下達は誰も手を出さなかった。


「何をしている。早く奴らを水槽の中にたたき落とせ」


 部下達は何も言わずに、ただ傍観しているだけだった。


「くそー」


 冷静さを失って、拳銃を取り出して、涙さんにめがけたところ、引き金を引く瞬間、サタ子おばあちゃんが飛びかかり、拳銃の音が響き、水槽が破裂して大量の水が流れ込み、ピラニアが散乱する。


 どうやらサタ子おばあちゃんが向井の息子が引き金を引く瞬間に水槽に命中したみたいだ。


「くそー」


 今度はサタ子おばあちゃんを人質にして、サタ子おばあちゃんの首に腕を回して、拳銃を頭に突きつけ狂ったように笑い、奴は本気で引き金を引いて殺すつもりだと分かって、とっさに向井の息子の元へと走った。

「やめろー」


 私たちはただ平和に時を過ごして幸せに生きていれば良いと思っていた。


 私はあまり人と接する事が苦手で、昔から一人で空想するのが好きだから小説家の道を選んだ。


 サタ子おばあちゃんにそれを相談したら、「がんばりなさい」と反対もせずにむしろ応援してくれた。


 誰かに読んでもらいたいと言う気持ちもあるが、書く熱になったのはサタ子おばあちゃんの応援が強かった。


 もしサタ子おばあちゃんが応援してくれなかったら、私は小説家にはなれずに、何も持たない物乞いのように地面をはいつくばっていたのかもしれない。


 幸せになるには一人の力では決して出来ないことをサタ子おばあちゃんはそれとなく教えてくれた。


 私の小説を思い返してみると、サタ子おばあちゃんから教わったことがテーマになっていることに読み返してみると改めて分かった。


 私は人との関係に疲弊し、統合失調症と言う精神的な病にかかっても、私の事を嫌な顔をせずに真摯に気遣ってくれた。


 サタ子おばあちゃんには迷惑ばかりかけていたね。


 サタ子おばあちゃん言っていたね。


 もし何もかも失って、どうしようもない状況に陥った時、誰かの為に生きなさいって。


 それは何でも良い。


 目の不自由な人の目になるとか、足の不自由な人の足になるとか、そうすることで人は幸せになれるって。


 そして決して独りぼっちにはなっていけないって。


 だからサタ子おばあちゃん。


 私はあなたの為に生きているんだよ。


 あなたがいたから、私は小説を描けて私は私であり続けられたんだよ。


 そしてあなたを大切にする想いが、近所に住む明るくて活発で優しくて、ちょっと腹黒いところがあるけど、そんな素敵な人と巡り会えたんだよ。


 サタ子おばあちゃんがどうして若返ったのかは原因は不明だが、これは私たちを幸せへと誘わせるための贈り物なのかもしれない。


 そう。幸せになるための神様からの贈り物。


 そう。私はそう思いたい。


 あなたに育てられ、あなたと共に過ごした時間は決して、忘れてはいけない。


 その思いは、どんな対価に等しいと言えば、物やお金ではなく、幸せという心がほっこりしてしまう物だと思う。


 だからその思いを胸に私は歩み続けるんだ。


 私は一人じゃない。夢は一人ではかなえられる物じゃない。






 

 あれから一週間が経過して、私は病院のベットの上でサタ子おばあちゃんの思いを心に寄せながら横になっていた。


「小林さんは今日退院だね。おめでとう」


「ありがとうございます」


「ところで君が入院しているこの一週間、家族の方以外は面会はできないと言ってもかかわらず、君に会いたいのか、毎日直談判してくる女の子がいたけど」


 花里先生の話を聞いて、私の頭に涙さんの姿が思い浮かんだ。 


 やれやれと言った感じだけど、気持ちはとても嬉しい。


「それと君の親族の人が亡くなって本当に残念としか言いようがないな」


 それはその通りであり、花里先生も私を五年近く診察して見ているので、私の気持ちをくんでくれたようで、それ以上は何も言わなかった。


 とりあえず私は、


「花里先生。色々とありがとうございました」


「なんだい?別れを告げるような言い方をして、精神疾患を患ったら、その病を抜け出すのに、何年、もしくは何十年とかかる時がある。だからこれが終わりではなく、退院後もちゃんと僕の診察を受けにくるように。僕からはそれだけだよ」


「ありがとうございます」


「うん」


 花里先生は私がいる病室を後にした。


 この一週間ベットに横になっていて、ありとあらゆるサタ子おばあちゃんの思いを巡らせて退屈はしなかった。


 このまま、その思いにいつもでも浸っていたいと思う気持ちも存在したが、それは出来ないだろう。


 それは今私の肩に青い鳥がとまっている状態だと私はそう思っている。


 だから退院した直後、青い鳥は再び大空を舞いそして私は幸せになるために追いかけなくてはいけない。


「青い鳥」


 何となく窓か空を眺めると、雲一つない快晴の空だった。


 窓を開けると、心地のいい風が私を包み生きる喜びを感じさせてくれる。そんな心地の良さだった。


 何となく病院の駐車場を見ると、遠くからでもはっきりと分かったが、涙さんが見えた。


 涙さんはベンチに座って、何やら本を読んでいる。


 何の本を読んでいるかは分からないが、そのカバーを見て分かったが私の出版した小説だと言うことが分かった。


 涙さんは本当に私の事が好きなんだな。


 思えば彼女と一緒にいて、本当に私の心を楽しませてくれるそんな魅力にあふれる人だ。


 でも彼女かなり腹黒いところがあり、時には私に意地悪をする時もあった。


 仮にもし、彼女と結婚でもしたら、私は絶対に彼女の尻に敷かれてしまうだろうな。


 女性なのに私よりも強く、策士だ。


 何て思いながら病室から彼女を遠くから見ていると、彼女が私に気がついて、遠くからだが、表情をほころばせて笑って手を振ってきた。


 恥ずかしいからやめてと言いたいが、私はそんな彼女の気持ちに答えるように、私も手を振った。


 明日退院だ。


 退院したら、涙さんを映画でも誘おうかな。


 その前にやらなくてはいけない事がある。


 それはサタ子おばあちゃんのお葬式だ。


 死因は向井の息子に銃で腹部を撃たれたことだった。


 もはや助からない。


 向井の息子を糾弾する事も出来たが、私は思った。このような人間に糾弾する価値もないと。


 その通りであったが、向井はこれから死ぬよりも苦しい罰が待っている。


 その罰は人にくだされるのではなく、自分のあふれ出た真っ黒いものに包まれて慟哭しながら死んでいく。


 でも彼に救いの手は、それでもある。


 それは彼を理解してくれる人がいればの話だけど、どうでもいい。


 それと達彦はようやく若返ったサタ子おばあちゃんが実の母親だと言うことに気がついた。


 そのサタ子おばあちゃんが亡くなったのを目撃して、屁理屈ばかり言っていた達彦だったが、今回は黙って姿を消した。


 彼が今どこで何をしているのか何て分からないしどうでも良いと思ったが、あんな人間でもサタ子おばあちゃんの息子で、その息子に対する愛情は本物だったんだ。


 だからそんなサタ子おばあちゃんの為にも、まじめに働いて生き甲斐を見つけて、幸せに・・・・・・・・・なって欲しい。


 明日の退院に備えて、準備をしようとして、窓から離れると、私の背後から紙飛行機が通過した。


 再び窓から下を見下ろすと、それは涙さんからの物で、そんな涙さんは、


「私は待っているから」


 と叫んで大きく手を振って去っていった。


 私は飛んできた紙飛行機を拾って広げてみると。


 クレイジーフォーユー。


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