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SOS

 私たち三人は誰一人かけてはいけない。


 奴らは私たちの誰かが一人になったところを精神的に追いつめて殺すつもりだ。


 その意図は分かったが、いったい何のために・・・。


 涙さん。


 サタ子おばあちゃん。


 私が私でいられるのはあなた達二人が賢明に生きているからだ。


 気がつくとサタ子おばあちゃんに泣きながら揺さぶられていた。


「よっちゃん。よっちゃん」


 体を起こしてサタ子おばあちゃんの顔を見ると、安堵した表情で私を抱きしめた。


 何か安心したが、すごく重大な事を忘れている気がして思い出し「涙さんは」とサタ子おばあちゃんに聞いてみる。


「さらわれちゃったわ」


 それを聞いて気が気でなくなる私は、立ち上がろうとすると、腹部に激痛が走って動けなかった。


「無理しないで、よっちゃん」


「そんな事を言っていられないよ。早く涙さんを助けないと」


「でも、私たちにはどうすることも」


 私は耳を疑った。サタ子おばあちゃんが弱音を吐いている。だから私は、


「どうしてそういうことを」


「みんな私が悪いの。私が若返ったから、みんなよっちゃんも達彦も涙ちゃんも・・・」


 顔を覆って泣くサタ子おばあちゃん。


「そんな事はないよ。だから泣かないで」


「ごめんなさい。ごめんなさい」


 私の言葉はサタ子おばあちゃんには届いていない。だから私は、


「泣くな」


 と一喝してサタ子おばあちゃんの頬をはたいた。


 きょとんとするサタ子おばあちゃんに。


「サタ子おばあちゃんが若返って、色々な事があったけど、悪い事ばかりじゃない。いやすべてをひっくるめてすばらしい事だと私は思う。いや、そう思いたい。だから泣かないで。それと涙さんを助けるためにサタ子おばあちゃんの力も必要だ」


「よっちゃん」


 そういってサタ子おばあちゃんは涙を拭って、


「よっちゃん、たくましくなったね」


 そういってサタ子おばあちゃんの目に以前の輝きがともった感じで、手がかりはないが涙さんを助けるのに頼りになる感じになってきた。


「さあ、もうぼやぼやしていられない。一刻も早く涙さんを助けに行こう」


「うん」


 私はサタ子おばあちゃんの手を取り、共に走った。


 手がかりはない。


 でも涙さんのSOSの声が心に木霊する。


 彼女は簡単に弱音など吐いたりしない。でも心では私の助けを求めている。


 待っていて涙さん。


 辺りには殺伐とした殺気が漂っている。


 少しでも油断したら命取りになる。


 私は立ち止まり、サタ子おばあちゃんの手をしっかりと握って感覚を研ぎ澄ませるかのように強く念じた。


「よっちゃん」


「黙って」


 そういってサタ子おばあちゃんは私に力を全力で貸すかのように私の右手を両手で包み込み、私の感覚がさらに鋭くなる。


 それで見えてきた。


 これは向井の仕業じゃない。


 でも向井に関係している人物だ。


 目的は分からないが、感じる。


 私は目を開き、悪しき気配を感じる茂みの中へと、相手に気づかれないようにゆっくりと歩み寄った。


 地面に握り拳ぐらいの大きな石ころが落ちていた。


 それをおもむろに拾い上げ、今私を狙おうとしている奴は油断している。


 サタ子おばあちゃんは何も言わずに私の手に引かれてついてくる。


 徐々に距離を縮めていく。


 そして、至近距離にたどり着き、思い切りそいつの顔面に拾った石で殴りつけた。


「いてえな。何をするんだよ」


 と、そっちからこちらの命を狙っているというのに逆ギレかよ。


 私は容赦せず、相手の顔面に数回殴りつけ、起きあがれないぐらいに殴り続けた。


 私たちを狙う刺客だ。


 今、私たちを狙う相手はこいつしかいないので好都合だと思って、


「おい」


 と罵り、


「てめえ。こんな事をしてただで済むと思っているのかよ」


 粋がっていることに、まだ痛めつけないと分からないと思って、顔面に数回拾った石をたたきつけた。


「やめろ。やめてくれ」


 命乞いをする刺客。


 こんな風に人を痛めつけるのは生まれて初めての事だった。


「なぜ私たちを狙う」


「知るかよ」


 まだ痛い目に遭わないと分からないようなので、再び数回石で顔面を殴りつけた。


「分かった答えるから、やめてくれ」


「よっちゃん」


 優しいサタ子おばあちゃんは刺客とは言えいたたまれなくなって私に『もうやめた方が良い』と言わんばかりに呼びかける。


「さあ、話せ。お前等はどうして私たちを狙う。そして涙さんの居場所を教えろ」


 胸元を思い切り掴んで、刺客に罵る。


「これはゲームなんだ」


「ゲーム?」


「ネットでお前等三人を追いつめて殺そうと。俺はただそのゲームに興じて。ネット内の仲間と手を組んで面白いから」


「そのゲームをもくろんだ相手は。それと涙さんの居場所は?」


「俺はただゲームに興じただけだから分からない。ただ面白いと思って」


 こいつの動機を聞いて、過去の閉ざされた嫌な記憶が芽生えそうになり、それを閉ざすように、このいたずら心で、このゲームに興じたという名前も知らないし、知りたくもないが、無性に殺意が抱き、石で何回も殴りつけた。


 本当に殺すつもりで殴りつけた。


「やめてよっちゃん」


 私の後ろから、悲痛の思いでしがみつき、私の理性がわき起こり、殺さなかった。


 気がつけば私は呼吸が乱れていて、すごく気持ちが動揺していて、もし私一人だったら、サタ子おばあちゃんがいなかったら、私は殺人鬼になり、人生を棒に振っていたのかもしれない。


 そう思うと涙さんが恐ろしく心配になってきた。


 人間は独りぼっちになると、理性を保つことなく暴走して力つきて死に至る事を私は経験で知っている。


 いくら精神力の強い涙さんでも、孤独になり、心を歪ませた人間に取り囲まれれば、おかしくなる。


 このゲームに興じた奴を殺すつもりで殴って気絶させてしまったが、肝心の、そのネットはどこから経由しているのを聞くのを忘れていた。


 だからこいつのポケットを探ってみると、財布とスマホとスタンガンにバタフライナイフが入っていた。


 スマホの画面を見て、ロックがかかっていたが、直感が働いて、こいつの財布の中身を調べたら、番号が記された一枚の紙があった。


 その番号を入力すると、スマホの画面が開いた。


 ネットの履歴を調べて、そのゲームに興じている連中のサイトにすぐにつながった。


 そのサイトの画面を見た時、涙さんを感じた。


 涙さんに一歩近づいた感じだった。


 私がもっと強ければ、涙さんがさらわれる事がなかった。


 でも今は自分を攻めている場合じゃない。


 このサイトから、涙さんの手がかりを地の利を生かして探るしかない。


 サイトにはラインで通じ合っている。



 西脇 どう?やったか?篭原。


 私の刺客はどうやら篭原と言うらしい。そいつの名前を偽って。


 篭原 やったよ。今すぐに合流できるかな?


 西脇 マジか。これで俺たち億万長者だな。

 

 篭原 どこで待ち合わせる。


 西脇 じゃあ、お前の所の最寄りの駅で。


 篭原 了解。


 奴らは駅に来る。


 もしかしたら、この篭原と言う男はやられたことを知っていて私たちをおびき寄せているのかもしれない。


 その時だった。


 私たちに対する殺気が消えた。


 でも逆に怖くなったりする。


 奴らと待ち合わせ場所の駅まで行くしかない。


 仮に罠だとしてもだ。


「サタ子おばあちゃん。絶対にこの手を離さないで。それとサタ子おばあちゃんも気を引き締めて」


「分かった」


 にっこりと微笑んで私を百パーセント男として信じている感じだった。


 サタ子おばあちゃんの手を握りながら、目的地の駅まで歩み寄る。


 本当に恐ろしいほど殺気はなくなった。


 だから余計に私達は気をつけなくてはいけない。


 涙さん待っていて。


 駅の付近までたどり着いて、駅の方を建物に身を隠しながらのぞき込む。


「よっちゃん。もしかしたらよっちゃんの言うとおり罠なのかな?」


「分からない。でも慎重に行かないといけない」


 駅の方を見ると、サングラスをかけて小太りのラフな格好したいかにもオタクと呼ばれる類の人間が一人たって待っている様子だ。


 さっきラインで名前を知ったが西脇と言う奴だろうか?


 そこで篭原のスマホを取り出して、西脇かどうか確かめる為にラインを送ってみる。それで反応したら、罠じゃないかもしれないし、あいつが西脇かどうか確認できる。


 篭原 悪い少し遅れる。


 そうのように送ったら、駅前にたっているサングラスをかけたオタク系の男が反応した事に、奴が西脇だと確信した。


 だが、西脇は建物に隠れている私に目が合い近づいてくる。


 気づいたか?


 とハラハラして、サタ子おばあちゃんの手を握る手を強めたが、その時背後から全身が凍り付くような殺気を感じて、・・・・。


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