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どうせ終わる関係だと思っていたのに、騎士様が私に本気だったなんて聞いていません  作者: アキラ・モーリング


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2/2

sideアルベルト

少し修正しました。

 騎士の仕事には誇りを持っている。


 剣の腕には自信があるし、努力もしてきた。


 第三騎士団に入ってからは結果も出してきたし、隊長からの覚えも悪くない。


 というより最近は、完全に気に入られている。


「アルベルト、お前なら騎士爵も狙えるぞ」


 酒の席で、隊長はよくそう言う。


 伯爵家の三男。


 継ぐ爵位はない。


 だが騎士として功績を積めば、騎士爵を賜る道はある。


 だから縁談の打診もいくつか来た。


 顔がいいだの、将来有望だの、女が放っておかないだの。


 同期連中には好き勝手言われる。


 別にどうでもいい。


 ――ミラ以外は。


⸻


 初めて会ったのは街の飲み屋だった。


 たまたま隣に座った女。


 平民の侍女だと後から知った。


 酒の好みが妙に合っていた。話も合う。遠慮がないのに不思議と嫌味がない。


 こっちが貴族だと分かっても態度を変えない。


 それが妙に心地よかった。


 その夜は酔った勢いで、体の関係を持った。


 本来なら一夜限りで終わるはずだった。


 だが次に会った時も、ミラは何ごともなかったかのように話しかけてきた。


『お酒飲みすぎじゃない?』

『騎士様ってもっと堅物かと思ってた』

『その顔で黙ってると怖いわね』


 遠慮がない。


 でも無神経じゃない。


 空気も読める。


 笑い方が明るくて、一緒にいると妙に気が抜けた。


 気づけば、会うのが当たり前になっていた。


 酒を飲んで。


 くだらない話をして。


 抱いて。


 朝になれば別れる。


 広い城の中では、侍女と騎士が顔を合わせることなんてそう多くない。


 たまに遠くで見かけても、軽く黙礼を交わすだけ。


 誰にも知られないまま、その曖昧な関係が続いていた。


 ――最初は、それでよかった。


⸻


 最初は気楽な関係のつもりだったのに、気づけばミラのことばかり考えている。


 騎士団では冷静だと言われる。


 実際そうだ。


 剣を振る時も、任務中も、頭は冷えている。


 だがミラ相手だけは駄目だった。


 あいつが笑えば嬉しい。


 疲れている顔をしていれば気になる。


 他の男と話していれば妙に落ち着かない。


 会えない日が続くと、つい城のどこかに姿を探してしまう。


 ――完全に惚れている。


 認めた時にはもう遅かった。


 なのに。


 ミラは時々、妙に冷静な顔をする。


『楽でいい関係よね』


 そう笑う顔。


 あれが嫌だった。


 まるで、いつでも終われるみたいな顔をする。


 最初は考えすぎだと思った。


 だが長く一緒にいれば分かる。


 ミラはちゃんと俺を好きだ。


 抱き締めれば嬉しそうにするし、キスすれば顔も赤くなる。


 俺が怪我をすれば怒るし、無茶すれば泣きそうな顔をする。


 なのに時々、“線を引いた顔”をする。


 ああ、これ。


 身分差を気にしてるな、と気づいた時は頭が痛くなった。


 だから言えなかった。


 好きだとか。


 付き合おうとか。


 そんなことを言った瞬間、ミラは必ず「貴族だから」と距離を取る。


『私は平民だから』

『騎士様にはもっと相応しい人がいるでしょう』


 そうやって、俺から離れる理由を作る。


 それが分かっていた。


 だから先に、逃げ道を塞ぐ必要があった。


 騎士爵を取る。


 家から独立する。


 “身分差を理由にできない状態”を作ってから、ちゃんと捕まえる。


 そう決めていた。


 ――ただ、その前に「終わる」と言われるとは思っていなかった。


⸻


 侯爵家の話は隊長経由で来た。


「親戚なんだ。顔だけでも出せ」


 断るつもりだった。


 そもそも正式な縁談なら、伯爵家を通して話が来る。


 今回のは隊長が勝手に持ってきた私的な話に近い。


 侯爵家側も軽い顔合わせ程度の認識だろう。


 だから断って問題はない。


 俺自身もそのつもりだった。


 仕事を理由に断ったが、隊長が勝手に「延期」という形にした。


 放っておけば自然に流れる話だと思っていた。


 だがその判断が、余計な噂を生んだ。


⸻


 そしてその夜。


 いつもの飲み屋に現れたミラは、笑っていた。


 いつも通りの顔で。


 ――違う。


 長く見ていれば分かる。


 あれは無理をしている。


「自分は貴族令嬢を待たせてるくせに」


 刺のある声。


 やっぱり噂を聞いている。


 俺は小さく息を吐いた。


 説明しなかったのは俺だ。


 だが説明しても、ミラは「身分差」の材料にするだけだと思っていた。


 だから先延ばしにした。


 その結果がこれだ。


「そろそろ終わりかなって思っただけ」


 その瞬間、視界が一瞬だけ冷えた。


 終わり?


 誰が決めた。


 俺はまだ何も言っていない。


「だって、侯爵令嬢と結婚するなら、こういう関係は邪魔でしょう?」


 ――違う。


 こいつは最初から、終わる前提で俺を見ていた。


 ようやく気づいた。


⸻


「……でも、恋人とも言われたことない」


 俯いたミラを見て、胸の奥がざわつく。


 違う。


 全部違う。


 ただ、言葉にしなかっただけだ。


 だがそれすら誤解されていた。


 そして、このままでは終わる。


 ミラの中で「これは終わる関係」になっている。


「違う」


 このままじゃダメだ。


「俺はお前を遊びで抱いたことなんて一度もない」


 ミラの肩が揺れる。


「お前が好きだ」


 言った瞬間、ミラの顔を見て胸の奥が熱くなった。


 だがそれだけでは足りない。


「中途半端なままじゃ、お前は俺を見ないだろ」


「ちゃんと俺自身が立てる場所を作ってからじゃないと、お前は俺と“同じ場所で向き合ってくれない”と思ってた」


 一度、息を吐く。


「だから騎士爵を取って、家を出るつもりだった」


「お前が俺を伯爵家の三男ではなく、俺自身として見られるように」


 ミラが言葉を失う。


 もう全部言う。


「最初からずっと本気だ」


 騎士爵を取るのも、家を出るのも。


 全てはミラと向き合うためだ。


⸻


 ミラは泣いていた。


 強がるくせに、一度泣くと止まらない。


「泣くな」


「だって……っ」


 一瞬、言葉が詰まる。


 ミラが涙をこぼすたびに、胸の奥が締め付けられる。


「お前に泣かれると……毎回、どうしていいか分からなくなる」


 思わず出た弱音。


 言ってから、自分でもわずかに目を細めた。


 だが、もう取り消す気はなかった。


 隠す必要もないと思ってしまったからだ。


「……騎士様のくせに何言ってるのよ……」


 ミラは泣きながら、それでも小さく笑った。


 その表情を見た瞬間、張り詰めていたものが少しだけほどける。


 いつもそうだ。


 泣かれるたびに、必死に正解を探して、結局よく分からないまま抱き寄せる。


 強くしすぎれば壊しそうで、弱くすれば伝わらない気がして、手探りのまま腕の中に閉じ込める。


 ――それでもミラは、ちゃんと逃げずにそこにいてくれる。


 アルベルトは安心してそっと息を吐いた。


 ぎこちないままの腕の中で、それでも離す気は一切ない。


「もう終わるとか言うな」


 低く、はっきりと告げる。


 ミラの肩が小さく揺れる。


「責任は取る」


「……何それ」


「俺なりの誠意だ」


 泣き笑いのまま見上げてくる顔に、少しだけ力が抜ける。


 結局こうして泣かせてしまうのは、いつも自分の言葉が足りないせいだと分かっている。


 だからこそ、もう曖昧にはしない。


「次からは、お前が泣く前にちゃんと言う」


 ぽつりと付け足すと、ミラが小さく目を瞬いた。


「……それ、遅くない?」


「今気づいたんだよ」


 短く返すと、ミラがとうとう吹き出すように笑った。


 涙の残る顔のまま、いつものミラの笑顔。


 それだけで、胸の奥が妙に軽くなる。


 アルベルトは少しだけ力を込めて抱き直す。


 そのまま腕の中の温度に、迷いのない落ち着きがすっと戻っていくのを感じていた。


 ああ、ミラ。


 一生離さない。


アルベルトは結婚する気満々で、ミラに逃げられないように外堀埋めに必死でした(笑)

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