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40 王立教会大聖堂にて

 王都の城壁が見えてきた。

 門に到着すると、門番の兵が眠たそうな顔でアリシアさんと話をしている。門番も酷く疲れている様子だ。

 城門が開かれた。

 馬車はそのまま入ると、深夜の王都に関わらず中の街は騒がしかった。

 行き交う冒険者パーティ、街の商人や露天もこんな時間なのに商売をしている。


 ――ガラガラガラガラ


「ちょっとごめんなさい、急いでいます、避けて避けて」

 アリシアさんは声を張り上げ、人を避けさせる。馬車はそのまま、教会大聖堂に向かった。


 教会大聖堂に到着するやいなやアリシアさんは馬車の運転台から飛びおりた。

「アリシアさま」

 大聖堂入口で聖女レベッカさんが待っていた。

「レベッカさま、勇者シノの容体が悪化しています。じつは……」

 アリシアさんは、レベッカさんに状況を説明した。


   *


「わかりました。大聖堂の別室の簡易的な病室では対処は難しそうなので付属病院の方まで行きましょう」

 するとレベッカさんは、他の聖女たちにも指示をして担架でボクを大聖堂の中へと運んだ。付属病院は大聖堂の奥の方で通路で繋がっているらしい。


 担架に乗せられながら大聖堂の中を移動していると、そこら中に少年少女が座り込んでいたり、横になっているのが見えた。すごい人数だ。どれほどの「なりそこない勇者」がいるのだろう。ざっと四、五十人は居るんじゃないか。

 よく見ると腕や脚や顔に、どこかしら包帯を巻いている子ばかりだ。


「……!」


 ハッとした。いや、ぎょっとしたのかもしれない。大勢いるためか、未対処の子もいるようで、包帯をしていない処置中の様子が見えた。酷い怪我をしている。

(……ん? 怪我なのか、身体のあちこちが人間とは思えない奇妙な色をしている)

 紫色やら深緑、茶色……。まさかこれが帝国でいじくり回された「なりそこない勇者の成れの果て」なのだろうか。

 でも大聖堂の通路は妙に静かだ。誰も声を出していない。淡々と作業をしている。

 ただ、時折かすかに唸り声のようなものも聞こえてきた。


「シノさん、大丈夫ですか!!」

 遺跡で会った、転移召喚勇者「候補」のタケルとキョウコが駆け寄ってきた。タケルは男子中学生だったが召喚時に性別反転して女子武闘家の格好をしていて、キョウコは女子中学生だったが同じく性別反転し、男子魔法使いになっている。候補だった二人はボクの時のようにスキル鑑定後に、それぞれの特性で役割が与えられているのだろう。

「う、うう・・・」

(……く、苦しい……)

「かなりまずい状態です。意識が混濁しているかもしれない。早く!」

 レベッカさんとアリシアさんは、「なりそこない勇者」たちであふれかえっている廊下を担架に寄り添いながら早歩きで抜けていった。


「……」


 しばらく気を失っていたようだ。

 目をそっと開き、あたりを見回してみた。ここは……病室のベッド?

 身体が動かせない。腕や胸や額に色々なケーブルが繋がっている。

 ――ピッ、ピッ、ピッ

(えっ? 病院……あれ? ここ……日本の病院?)

 ボクの身体に付けられているケーブルは、ベッド横の心電図のようなものに繋がっている。

「あっ、目を覚ましたようですね。わたくしを覚えていますか? 聖女レベッカです」

「あっ……はい。そうかここは王国の……」

「そう……、ここは王立教会付属の総合病院です」

「……ああ、なんだか日本の病院みたいな設備が並んでいるから、余命宣告半年のボクはとうとう入院するほどに衰弱していたのかと思った。異世界か。日本に戻ったのかと思った……」

「すこし容体が深刻です」

「あの、ボクはどれくらい気を失っていたんですか?」

「いや、ほんの一時間くらいですよ。……病室の外にアリシアさまとクボさまがいますので呼んできます」

「はい」


 病室内に呼ばれた二人は、ボクのありさまを見て驚いた表情を隠せないでいた。

「シノちゃん……」

 クボちゃんは顔を近づけて震える声で、話しかけてきた。

「シノヤマさん、具合はどうですか……」

 アリシアさんもとても心配そうに顔を近づけてきた。手が震えている。

 そんな二人を前に、レベッカさんが冷静にボクの容体の説明を始めた。

「まずはアリシアさんがステータス確認用眼鏡で『余命は二ヶ月』と診断したそうですが、事態は《《より》》深刻です」

「……!」

 アリシアさんは驚愕した。もちろんボクもだ。クボちゃんに至ってはその場に座り込んでしまった。

「そうです。詳しく身体を調べたのですが、明らかに老化が見られます。表面上の見た目は十六歳のそれですが、内蔵、筋肉、骨密度、血管どうみても今すぐにでも天寿を全うしそうな老人です」

「つまり余命二ヶ月どころかいつ亡くなってもおかしくない、と?」

「ええ、もって一ヶ月……正直このまま目を覚まさないかもと思ったくらいです」

「なんとか……そうだ回復魔法とか、あなたたち聖女さまなんでしょ? どうにか出来ないの?」

 クボちゃんは聖女たちにそんな言葉を投げかけた。

「聖女だって万能ではないのですよ。それこそこの異世界であっても……」

 アリシアさんは静かにそういった。

「こんな急速の老化現象は、やはりなんらかの呪いなのだろうか……」

 レベッカさんは腕を組み、なにかを考えているようだ。

「やはり古代魔法王国遺跡からみの呪い……?」

 アリシアさんはハッと西の遺跡「ゴンドーラ」のことを思い出していた。


 ――その時だった


 ドドドド……。

 遠く、城壁の外だろうか。地を這うような重く低い音が響いてきた。

 クボちゃんがすっと目を細めた。

「……この地響きのような音……グレンツハーフェンでの魔物襲来の雰囲気に似ている……規模はぜんぜん違う。ものすごい数か?」

「ま、魔物……?」

 アリシアさんとレベッカさんは、顔を見合わせて固唾を呑んだ。


 空がしらみはじめた。もうすぐ夜明けが来る……。



          ―― 第四章 完 ――



 次章

「第五章 揺れる王都」 に続く――

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