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Side:フランジェ

「実は俺、ミジックに告白しようと思うんだ」

……?

 俺はフランジェをじっと見つめる。そして今聞こえた言葉の意味をじっくりと考えてみる。

……?

 分からなかった。いや、だって告白なんて相当好きな人にしかしないぞ?他の国のことは知らんが、ここソンブルヴァレでは告白してOKを貰えたらもう一生添い遂げるべき、みたいなところまであるぞ?大体、会って数日なのに告白をする馬鹿が居るか?あっ、居たわ。ここに。

「……やっぱり、唐突だよな」

……色々とな。

 少しばかりフランジェのことを茶化しまくったが、訳があったらしい。実は、フランジェは幼い頃にミジックと親交があり、先日の模擬戦予選でミジックから声掛けがあり、やっと気づいたとのこと。そこから会話を重ねる内に仲良くなって恋心が芽生えた……のだとか。

……え?もしかしてミジックが言っていた近所の男の子ってこいつか?じゃあもう夢叶ってんじゃん。

 俺は一度頭を整理させる。つまり、フランジェが求めているのは……。

「つまり、俺に恋愛相談を?」

「……!あぁ、そうだ!シリルなら経験豊富かなって思って……」

「無理に決まってんだろ」

 俺がそう告げると、フランジェは鳩が豆鉄砲をくらったような顔になった。そんな期待されても困る。俺は恋愛経験など皆無だ。そもそもあまり人と関わったことがない。外見は取り繕っているかもしれないが、内心はいつもドキドキしている。

……相談なんてこちらがしたいくらいだ。誰かいい人はいないか……?

 先生や生徒は基本的に休日も忙しい。フランジェは忙しくないのか知らないが、少なくとも俺は暇だ。暇な人なんて他にいるのだろうか。そう思っていたとき、聞き馴染みのある声が聞こえた。

「やあやあ、何やらお困りのようだね?」

「……猫?」

「おぉ、ミネットじゃないか!」

 うわっ、向こうから見知った白猫が!ちょうどいいところに来た。ちょっとお前こっち来い。


「……シリル?あの猫に何をしたんだ?」

「ん?あぁ、成敗?」

 まだ消えてないあの恨み。ここで晴らさせてもらったぞ。具体的にはミネットを███したり███したりしただけだ。何とは言えないが。

 すると、またしても声が聞こえた。

「二人集まって何をしているかと思ったら……何やらお困りのようだな?」

「兄貴!」

「おぉ、ブルンじゃないか」

 今度こそ、向こう側から見知った男、ブルンがやってきた。見たところ、前と少し見た目が変わっている。ということは、アレが最終段階というわけだろう。

「……ブルン。かなり薬が効いてきたようだな」

「あぁ。お陰様でな」

 俺が言う「薬」とは、元人間だった魔族を人間に戻す薬……「メディカモン・ア・ラポルテ」の事だ。俺はその存在を最近知った。ブルンは服役する前にこれを服薬していた。一般的にもとに戻る時間は半年〜一年とされているが、人によって全く異なる。しかし、ブルンは服薬してからまだ二ヶ月しか経っていない。それだけ人に戻りたいという意欲と自分が感じている罪の重さが大きいのだろう。実際、表面は取り繕っていても心のなかで全く反省する気がないやつは一年経ってももとに戻らない。この「メディカモン・ア・ラポルテ」は服薬者の感情に左右されるのだ。

「?」

 フランジェは何も違いがわからないらしいが、かなり変わってきている。完全に戻るのにはあと一週間も要らないだろう。

「で、何の話をしているんだ?」

 ブルンが明るい口調でそう言った。それと裏腹にフランジェは「実は……」ととても暗い口調で話している。なんだ、これから葬式でもあるんか?

「実は、フランジェがさぁ、ミジックに告白するんだって!」

「おい、シリル!なんで先に言ってしまうんだ!」

……え?なんでって……お前がサクサク話さないからだろう?

 俺の言葉を聞いたブルンは「ミジック……あの時の……」と呟いている。フランジェの事は無視してるけど。ほら、いい兄貴じゃないか。弟の恋路をしっかりと考えてくれるなんて。

「……やるなら早めのほうがいいぞ?何よりミジックは俺等の世代の男から人気だと聞いているからな」

「ッ……マジッッスカッ?」

 フランジェが片言のように声を発した。なんでこんなに変になるんだよ。

「まぁ、善は急げ、って感じ?先生ことわざとかよく分かんないけど」

 後ろを見ると、何やらニヤニヤして言うリュヌハート先生が立っていた。フランジェはとてもびっくりして腰を抜かした。この先生気配なさすぎるんだよ。いつからそこにいたんだか。

 ふと、ブルンの方を見やると、口は閉じているが目は見開いている。何かあったのだろうか。

「リュ、リュヌハート……?」

「ん?……え、まさかブルン!?」

 どうやら二人は会うのが初めてではなく、むしろよくお互いのことを知っているようだった。絶対にこの場所にはいないと思っていたのに!みたいな感じだ。

……リュヌハート先生とブルンはどんな感じの知り合いなんだ?ミジックみたいに小さい頃からの知り合いとか?

 そう思っていたのだが、実際は違ったようだ。

「えっ……二人は知り合いなんですか!?」

……フランジェも知らない……?じゃあまさか……?

 途端に俺の体に嫌な予感が走った。思考が回らない。まるでその先には触れてはいけないように思えた。だんだん冷や汗をかいてきた。俺がリュヌハート先生の方を見ると先生はニコッと微笑んで口を開いた。

「実は〜私達、昔からの幼馴染なんだよね〜。今二十歳だから……二歳ぐらいの頃からの?知り合いだね。フランジェくんはまだ生まれてなかったからわかんないと思う。だよね?ブルン?」

「えっ。あっ、うん」

……なんだ、そんな事か。

 なんだかリュヌハート先生からはすごい圧を感じて、ブルンは釈然としてないような気もするが、まぁ気のせいだろう!


注釈:ヴァイヤン・シリル君は鋭いけれど実に単純な人間だった!


 その後、リュヌハート先生は「久しぶりに会ったから話をしたい」といってブルンとともに去っていった。

……残されたのは俺とフランジェとミネ……いない!?

 俺等の意識がブルンとリュヌハート先生に向けられている間にミネットに逃走されてしまった。恐らく、今頃自分だけしか入れない空間で暇を楽しむので忙しくしているだろう。ま、また呼べばいいか。それに、今日の本題はそれではない。

……仲いいなら普通に告白さえすればOKもらえるんじゃないか?

 そうフランジェに言ったら、彼は顔を真っ赤にさせて「ムリムリムリ!絶対断られるに決まってるでしょ!」と言われた。大丈夫だと思うけど、本人の勇気と自信がないから無理だな。

……というか、告白に特殊なことないだろ。

 そうは思ったが、どうやらフランジェは、とあるシチュエーションを作って欲しいのだという。

……まず夕日が差し込む訓練場で二人きりにしてほしい、と。結構無理難題だな。

 休日の訓練場は沢山の人で溢れている。防護結界があるため接触はありえないが、姿は見える。人前で告白することなんてできないそうだ。

……だから人が少なくなる夕方か……。人がいない可能性は高いし、とてもロマンチックだと思うが、先生が見回りに来る可能性はまぁまぁ高い。せっかくのロマンチックが邪魔されてはいけない。

……そのために、俺が見張っとくのか。

 大役を任されてしまった。別にそこまでしなくてもいいと思うのだが。

「そういえば、シリルは告白する予定とかあるの?」

「ブフォッ」

 ロマンチックな場面を想像していたときにフランジェがいらないことを言ったせいで台無しになったじゃないか。というかなんか前も同じような質問をされた気がするな。

……俺が告白?あり得ないな。

「ホラ、カンディードちゃんと仲良いじゃないか。告白するんじゃないのか?ちょうどいい年頃だろ?」

「ブフォッ!」

 相変わらずフランジェは痛いところを突いてくる。大体ちょうどいい年頃ってなんだよ。なんでちょうどいい年頃=告白なんだよ。思考回路どうなってるんだ……。

「考えてないのか?」

「か、考えているわけ無いだろ!?」

「え?でも幼馴染なんだろ?両思いじゃないのか?」

……は?

 何言ってんだこいつ。なんで幼馴染=両思いなんだよ。思考回路どうなってるんだ……。相変わらずフランジェの言動には呆れるしかない。

「……そんな訳無いだろ」

「そっかぁ。告白するんだったら素敵だと思ったのになぁ」

 フランジェはそれだけ言った。これ以降その話題に触れることはなかった。あとは少し、学校に馴染めているかとか、模擬戦のこととか色々話して、解散した。フランジェに再び会うのは、夕方。告白本番だ。


 部屋に帰ってきた。なんとなく寝転がりたい気分だったので、ベッドに横たわった。俺の頭の中には、さっきのフランジェの質問が渦巻いていた。

……そもそもリーナに好きな人なんかいるのか?

 リーナは魔法一筋。忙しくて恋人を作っている暇などない、と感じるような人だ。多分人の恋愛にも興味はない。入学試験のときは急に好きな人のことを聞いてきてとても驚いた。

……フランジェが言うようにちょうどいい年頃なのか?

 それだけではない。俺が魔王討伐に行って、久しく会えていなかったせいか、態度がとても甘々になった気がする。

……何だろう、この気持ち。

 リーナの顔を想像するだけで、鼓動が早くなっていく。これは何だ?これが「恋」というやつなのか?

……分からん。

 自分の部屋で考えても無駄だと分かった俺は、外に出て気を紛らわせることにした。


 リュミエールは塔のような建物の中に四次元空間が広がっているが、その建物と隣接しているところに寮がある。本館の塔の一番上は展望台になっており、きれいな景色が味わえる。俺はそこからコヴンヌ・アンシャンテアの街を見下ろした。少し日が傾いてきた頃で、まだ外は明るかった。

……ふぅー。気持ちがスッキリする。

 標高が高いので少し肌寒く、風も強いため清々しい気分だ。自分の心の中に巣食っていたもやもやした感情が洗い流される感じがする。そのせいで後ろから近づく人影に気づかなかった。

「やっほー、何してるのシリル君?」

「ふぇ!?」

 なんと後ろから現れたのはマリ姉とフールだった。何気にリュミエール内で待ち合わせなしに会ったのは初めてではないだろうか。

「なんでここに……」

「私さ、なんか嫌なことがあったらよくここに来るんだよね。……もしかしてシリル君も?」

「嫌なことが会ったというより、悩んでいることがあって」

 俺はマリ姉にリーナに対する自分の気持ちを打ち明けた。ついでにフランジェが告白することもバラしておいた。

「ふーん。それで悩んでるんだ」

「そうなんだけど……」

「いいと思うよ!シリル兄とリーナちゃんめっちゃお似合いだもん!」

……フール!?

 フールまでそんな事を言うのか。そんなにお似合いかなぁ〜。

「……カンディードちゃんも、シリル君のことは意識していると思うよ?前話したときもそんな感じだったし」

……まじかよ。

 そうだったのか。試験の時、俺に好きな人がいないか聞いたのは本心だったのかもしれない。

……あっ、そういえば四日後はリーナの誕生日だ。

 そうだ。リーナの誕生日会を開こう。美味しいものを食べたり、プレゼントを渡したり。そして、その日に告白をしよう。

……丁度その日は模擬戦決勝だな。そこでリーナに勝つ!

 俺の中で二つの目標が決まった。


 夕方。俺は訓練場に出向いた。夕食前ということもあり、人は少なかった。しかし、見回りのためか先生が何人かいた。

……さぁて、どうしようか。

 先生を追い出すのは簡単だ。事情を説明すれば良い。しかし、フランジェはそんなことを先生たちに知られたくないだろう。

……くそ、どうすれば……。

「どうしたんだ、シリル?悩むなんてお前らしくないぞ?」

「そうですね。珍しいですねぇ」

「!!」

 やってきたのはブルンとリュヌハート先生だ。何かを話し終わった後なのだろうか。それなら一日中話していたということになるが。

「いや、実はさ……」

 俺は今の状況を二人に話した。それを聞いてブルンは神妙な面持ちをしたが、リュヌハート先生はぱっと顔を輝かせた。

「とっても素敵なシュチュエーションじゃないですか!ちゃんとそれを説明して先生方にはお引き取り願えば良いのに……」

「フランジェはそんなこと聞かれたくないと思うんです」

「あぁ、あいつの性格上そうだろうな」

 俺の考えにブルンも賛同してくれた。すると、リュヌハート先生はため息をついてこう言った。

「はぁ……。しょうがないですね。私が適当な理由をつけてお引き取り願うようにいってあげますよ」

「いいんですか!?」

「生徒の想いに応えるのが先生です。私がその想いに全力で応えてあげましょう」

「ありがとうございます。フランジェも喜ぶと思います」

「ちゃんとお礼を言うように伝えてくださいね?」

「はい!」

 こうして、リュヌハート先生のお陰で最高の舞台が整った。そして、見回りの先生の見張りは俺とブルン、リュヌハート先生もしてくれることになった。

……あとはお前だけだ、フランジェ!


「ふぅ……」

 俺は今緊張している。いや、いつも緊張している。あの子と喋っている時は。久しぶりに再会したあの子は、とても美人になっていた。信じられないくらい努力をしていて、自分にとって信じられないくらい遠くにいた。そんな人に追いつきたいと思った。横に並びたいと思った。だって俺は、彼女のことが昔から好きだったんだ。


 十一年前。俺達はスラム街の近くに住む中級貴族だった。貴族とは言っても、丁寧な言葉遣いや美しい所作はなく、ほぼ平民同様に暮らしていた。スラム街や他の平民の人々と仲も良く、富を分けることも少なくなかった。俺と兄貴が魔法を使って戦って遊んでいた時。奥のスラム街からこちらを覗いてくる茶髪の少女を見つけた。服装から見てスラム街の中級くらいだろうと察した。それと同時に、やせ細った容貌からあまり食べさせてもらっていないことも分かった。そこで俺は父親の言葉を思い出した。

「いいか?ブルン、フランジェ。生活に苦しそうな人を見かけたら、助けなければならない。そのために、俺達貴族がいるんだ」

 俺がその言葉に感銘を受けたことを思い出し、その少女に手を差し出した。

「こっちにおいでよ!」

 そう言うと、彼女はこちらの方に歩いてきた。とても不安げな表情をしていた。俺が自己紹介をしようと思ったが、兄貴に先を越された。

「俺はフランリュー・ブルン。こっちは……」

「俺の名前は、フランリュー・フランジェだ。君の名前は?」

「……エティケッテ・ミジック」

……へぇ、ミジックっていうのか。良い名前だな。

 その日から、ミジックは毎日遊びに来ていた。ご飯や服を分けたり、面白いお話を聞かせてあげたりした。そんな日々を過ごすうちに、俺はミジックのことを特別だと感じるようになっていた。

「ねぇ、ミジックも魔法をやってみない?」

「え?」

 そろそろ、やってみても良い頃合いだと思う。俺や兄貴が魔法を使って魔物を倒しているところを羨ましく思っているのではないだろうか。俺は兄貴と相談して、教えることになった。まずは、俺と兄貴でミジックをポワン・メディアン・モンタニューに連れて行った。道中の魔物は俺と兄貴の素晴らしい連携プレーで蹴散らした。そうして、何事もなく頂上に到着した。ミジックに長ったらしい詠唱を最初から最後まで教えたが、その必要はなかった。なぜなら、ミジックは最初の方で捧魔与石を出現させたからだ。

「ソンブルヴァレの大地に息づく……」

「おい見ろ、フランジェ!もう捧魔与石が出現したぞ!」

「すごい、ミジック!めっちゃ魔法の才能あるよ!」

 強い魔法使いは主に二種類に分かれる。コツコツ訓練して着実に力をつけていく努力型と、最初から才能がある天才型だ。俺と兄貴は前者だが、ミジックは後者だ。ミジックが得た魔法は音楽の魔法だった。彼女はその魔法を使って、魔物を倒すだけではなく綺麗な音楽を奏で、人々を笑顔にすることができたのだ。そのお陰で、ミジックはお金をたくさん稼ぐことができた。

……すごいなぁ。俺たちにはそんなことはできない。

 そんなこんなで日々を過ごしていた時、ある事件は起こった。

「魔王軍が襲来したぞ!」

「なんでこんなスラム街に!?」

 なんの前触れもなく、魔王軍が襲来してきたのだ。ミジックと会う前だったので、ミジックとは合流できなかった。また、スラム街には戦力となる魔法使いが少ないので、あっという間に制圧されてしまった。

「フランジェ、ブルン……。せめてお前たちだけでも逃げろ……」

 父親の魔法は「火葬」であり、一人を長時間かけて葬る魔法だったので、複数人相手には無力だった。俺と兄貴は必死になって逃げた。しかし、やがて囲まれてしまった。兄貴が魔法で幹部らしき魔族以外を葬り去った。その時には、兄貴はすでにボロボロだった。そこで、幹部が碌でもない提案をしてきた。

「……見たところ、お前さんたちなかなか強そうじゃないか。どうだ、ここは交渉といこうじゃないか。お前さんたちのどちらかが魔族になる。そうすれば、俺はこの街から手を引く」

……ふざけるな!

 魔族になるなど言語道断だ。それに、手を引くといってもすでに破壊し尽くされているので、何一つ変わらない気がする。しかし、そんなことも考えずに即答した男がいた。

「いいぜ。俺がなってやるよ」

「兄貴!?」

「ほぅ……面白い。いいだろう。私はお前を歓迎する」

 そういって幹部らしき魔族は兄貴を連れてどこかへ消えた。あまりに突然のことで、俺は止める間もなくただ呆然とそれを見るしかなかった。

……くそっ、どうしてだよ!二人だったら倒せたかもしれないのに!なんで何も言わずに消えてしまうんだよ、クソ兄貴!

 その言葉を胸の中にしまったまま、俺はただ項垂れるしかなかった。その後ミジックや兄貴に会うことはなかった。


 それから月日は流れ、俺はリュミエールに入学する準備が整った。満を持してリュミエール入学試験に挑むと、予想外の出来事が起こった。

「久しぶりだな」

 シリルと和解し、アルマジーニに苦戦していた頃、自分の兄であるフランリュー・ブルンが会場に姿を現した。

……まだ生きていたのか。

 しかし、俺の軽蔑の気持ちはすぐさま別の感情に変わっていた。

……う、うぅ。良かった。生きていて良かったよ兄貴!

 そこで俺たちは再会を喜びあった。


 どうやら、兄貴は俺を守るために自分から魔族になったようだ。それで、内部の方から魔王軍を壊滅させようとした。しかし、流石に一人では厳しかったので、アルマジーニという協力者を得て、ソンブルヴァレ軍の侵攻時に共に裏切ったのだと言う。まさかそのアルマジーニがさらに裏切るとは知らずに。


 入学試験を経て、俺は無事リュミエールに入学することができた。入学前は兄貴に報復するのが目標だったが、兄貴はすでに魔族側ではない。俺は、リュミエールでの目的を見失っていた。しかし、クラス・エクスセラントの中で懐かしい人影を見つけた。肩に垂れている三つ編みの茶色い髪。単色だが少し高級感を感じさせる服に身を纏い、黒縁の眼鏡をかけている。その人を見た瞬間から、間違いなくあの子はミジックだと感じた。しかし、まだ確信とはいかず、自分から話しかけられずにいた。だから、他人のふりをしていた。そして、模擬戦で話す機会ができた。

「あ、あのっ!フランジェくん!私、貴方に話したいことが……!」

「……?」

「フランジェくんって、あのフランジェくんだよね!?」

……待て。それでは何が言いたいのかいまいちわからないぞ?

 俺は彼女の言葉を一つ一つ真摯に受け止めた。共に遊んでいたのがとても楽しかったこと、あの日会えなかったのが悲しかったこと、今まで魔法の勉強を頑張ってきたことなど。そして、俺は再び認識させられた。ミジックのことが好きだ、と。


 シリルに告白するのか聞いたのは、一人では心細かったからだ。仲間が欲しかったんだ。

……すまない、シリル。シリルにはそんな気は微塵もないだろうが……いや少しはあるのか?なんかすごい悩んでたし。


 俺は夕日が差し込む訓練場で一人拳を握り立っていた。どのくらい待っていたのだろう。訓練場のドアが開いた音がした。そちらの方向に目をやると、そこにはミジックが立っていた。ミジックは一瞬驚いた表情をしてから、こちらに小走りで向かってきた。

……シリルに呼びに行かせて、呼び出しの内容、誰からかは言わないように言っていたからな。絶対に驚くだろう。

 ミジックが目の前に来た。しかし、俺は極度の緊張で口を開けずに、目線を下げたままだった。すると、ミジックの声が聞こえた。

「フランジェくん。話って何?」

……大丈夫だ。絶対に大丈夫だ。

 いろいろな感情が湧き上がってくる。不安、期待、悲観、楽観、爆笑、劣等感……何か違うのも混ざっていなかったか?

 俺は一度深呼吸をしてから目線を上げる。そこには優しく微笑んでいるミジックの姿が見えた。

……頑張れ、俺!

「ず、ずっと前から、貴方のことが好きでした!」

 その言葉を発した瞬間、ミジックはもう一度驚いた顔になる。しかし、その顔にはとっくのとうにわかっていた、あるいは同意感情が混じっていた気がした。

「俺と、付き合ってください!」

 俺は右手を前に差し出す。この時、手を掴んでもらえれば了承の意味になる。

……さぁ、どうなる?

 俺は緊張のあまり目を閉じてしまっていたので目の前の景色は見えなかった。しかし、数秒経った後、伸ばした右手に何かが乗った感触があった。

「……もう、目を開けて良いよ。というか、なんで目を閉じてるの?」

 ミジックの甘い声が聞こえる。その声の言うとおり俺は目を開けた。そこには優しく微笑んでいるミジックの姿があった。今にも泣きそうな顔でこちらを見ている。

「正直に言ってくれてありがとう、フランジェくん。……貴方はずっと前から私のことを好きだと言ってくれたけど、私もそのくらいの頃からずっとフランジェくんのことが……好きだったんだ」

 ミジックの言葉に自分の心臓が飛び跳ねた。予想外の言葉が聞こえたからだ。

……嘘だろ?ミジックも前から俺のことが好きだったのか?

 俺は自分にあと一押しだ、と言い聞かせた。

「ミジック。前の事件の時、一緒にいてやれなかったことを俺は本当に後悔している。だからこれからはお前のことを守ると誓う。だから、俺と付き合ってくれ」

 今度は目を閉じず、ミジックの顔を見ながら言えた。すると、ミジックは顔を赤らめて、口元を両手で覆った。その様子が俺にはとても可愛らしく見えた。

 少し間をおいて、ミジックが口を開いた。

「フランジェくん……これって了承しちゃっていいやつ?」

……つまり、返事自体はYESってことなのか⁉︎

 付き合うということは、この国では一般的に婚約の証と同じ意味を持つ。結婚を前提として付き合わなければならない。付き合ったのにも関わらず、その相手と結婚しない者は異端者として扱われ、一生苦労して過ごすことになってしまう。だからこそ、告白の返事は慎重に行わないといけないのだ。

「……ミジックが本当に俺のことが好きで、結婚したいと思うならいいんじゃないか?」

 告白した本人が告白された側にアドバイスするか状況に困惑しながら俺は答えた。すると、ミジックは少しの間考えるようなそぶりを見せた後に覚悟を決めたような、強い信念を持ったような目をこちらに向けた。

「フランジェくん、こちらこそよろしくお願いします!」

 そう言った後、ミジックは深々と頭を下げた。それを見た瞬間俺は安堵したからか体の力が抜けて膝から崩れ落ちた。

……本当に良かった。俺、ミジックと付き合えるんだ。


 フランジェの告白作戦は大成功で幕を閉じた。どうやら、両思いだったようで、二人とも幸せそうだった。

……フランジェは俺や先生、ブルンの力を借りて告白を成功させたんだ。俺が皆に頼ってもいいのではないか?

 俺はその場にいたフランジェ、ミジック、ブルン、リュヌハート先生に今自分が計画していることを話した。

「……四日後はリーナの誕生日だ。俺はそこでリーナの誕生日会を開き、告白したいと思っている」

 すると、フランジェはやっぱりそうかとでも言うように頷き、ブルンとミジックは驚いた顔になり、リュヌハート先生は「またカップルが増えるんですか……」と頭を痛そうにしていた。しかし、全員俺の計画に賛成し、協力してくれることになった。会場はリュヌハート先生がリュミエール内のホールを予約してくれるそうで、食べ物やその他諸々の設備はマリーやレフリクに言って、用意してくれるらしい。

……自分が思ったよりも遥かに大事になってしまった。

 だからこそ、失敗は許されない。俺も全力を尽くさなければ。……何に全力を尽くすんだ?告白のシチュエーションとか?いや、俺はフランジェみたいに豪華じゃなくて普通でいい。そっちの方がリーナにはいい気がする。一人で色々と作戦を練っていると、フランジェから質問をされた。

「誕生日会で告白だからプレゼントを渡して告白するのか?そのプレゼントはちゃんと買ってあるんだろうな?」

「あぁ、そのつもりでいる。プレゼントはちゃんと買ってある。何かは当日までのお楽しみだな」

 模擬戦が朝からなので、誕生日会は夜にする予定だ。リーナの誕生日まで後四日。

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