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赤男-若手俳優連続殺人事件簿-  作者: 燭間茉楼


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第11話 元警視庁の男

 <13:00 渋谷から離れた古いマンション>


 渋谷の喧騒から少し離れた住宅街。古いマンションの6階、国永プロダクションのオフィスは、午後の陽光がカーテン越しに柔らかく差し込む。

 机の上には書類の山とノートパソコン、壁には色褪せた2.5次元ミュージカルのポスターが貼られ、華やかな過去の残響が静かに漂う。

 

 (はじめ)はソファに腰を下ろし、手にした紙袋をテーブルに置く――五虎社長へのお祝いのお土産だ。

 だが、五虎社長と大倉は打ち合わせで外出中。オフィスには、(はじめ)と顧問の滑川だけ。


 滑川(なめりかわ)全一(ぜんいち)、穏やかな笑顔と柔らかな物腰。白髪交じりの髪を丁寧に整え、ゆったりしたカーディガンが彼の落ち着いた雰囲気を際立たせる。

 元警視庁の刑事で、今は国永プロダクションのOB顧問として週一で顔を出す。


「佐藤君、コーヒーでいいかな? 僕、紅茶派なんだけどね」

 滑川はキッチンコーナーでカップを手に、軽く笑う。


 (はじめ)は頷き、ソファに深く座る。

「コーヒーで大丈夫です。滑川さん、よろしくお願いします」


 滑川はカップをテーブルに置き、向かいの椅子に腰を下ろす。

「いやいや、堅苦しいのはなしだよ。君も五虎から話聞いてるだろうけど、僕、ただのジジイさ。昔のミュージカルの話でもしようか?」


 彼の声は温かく、ユーモアが滲む。(はじめ)は肩の力を抜き、軽く笑う。

「五虎社長、滑川さんのこと『話しやすい親父さん』って言ってましたよ。確かに、なんか安心感ありますね」


 <昔のミュージカルと仕事の話>


 滑川はカップを手に、目を細める。

「五虎のやつ、相変わらずだな。まあ、僕も若い頃は舞台好きでね。2.5次元の黎明期(れいめいき)、DVD観まくったよ。『華ノ戦』も観たんだ。君の演技、なかなかだったじゃないか」


 (はじめ)は苦笑し、コーヒーを一口飲む。

「覚えててくれるなんて、光栄ですけど……あの頃はただがむしゃらでした。滑川さんは、警視庁からプロダクションの顧問って、かなり異色ですよね」


 滑川は肩をすくめ、軽く笑う。

「まあね。刑事生活30年、退職後は暇を持て余してさ。業界の若い子たちを応援したくて、国永に入ったんだ。書類整理とか、愚痴聞きとか、ジジイのできる範囲でね」


 彼の言葉は自然で、親しみやすい。(はじめ)は滑川の笑顔を観察しつつ、内心で警戒を解かない。元警察、2.5次元業界への不自然な関与――


「顧問って、具体的にどんな仕事してるんですか?」


 滑川はカップを置き、指を組む。

「スケジュール調整の相談とか、若手のメンタルケアとかさ。五虎の無茶な企画をブレーキかけたりね。君も知ってるだろ、業界の裏はキラキラだけじゃない」


 (はじめ)は頷き、滑川の穏やかな目に探るような視線を返す。


 <7年前の事件と赤男>


 (はじめ)はコーヒーを置き、慎重に切り出す。

「滑川さん、実はちょっと聞きたいことがあって。7年前の若手俳優連続失踪事件……『赤男』の噂、知ってますよね?」


 滑川の笑顔が一瞬硬くなるが、すぐに柔らかく戻る。

「ほう、君もその話か。業界じゃタブーだよ、佐藤君。まあ、僕が捜査本部長の代理だったから、話すのは構わないけどね」


 彼は椅子に背を預け、遠くを見るような目で続ける。

「7年前、13人の若手俳優が行方不明になった。11人は……見つかった。残る2人は、今も見つかってない」


 (はじめ)の目が鋭くなる。

「代理って、どういうことですか?」


 滑川は軽く手を振る。

「本部長が急病でね、僕が一時的に捜査を仕切ったんだ。資料読んだり、現場回ったり、部下の報告聞いてただけさ。詳しいことは、僕も把握しきれなかった」


 彼の声は淡々としており、まるで他人事のようだ。

 (はじめ)はメモを取りながら、滑川の自然な態度に違和感を覚える。


 <捜査本部と公安の対立>


 (はじめ)はさらに踏み込む。

「事件が打ち切りになった理由、何か知ってますか? 証拠不足って話ですけど、なんか変ですよね」


 滑川はカップを手に、ゆっくりと頷く。

「君、鋭いね。まあ、推測だけどさ……捜査本部と公安の対立が大きかったんじゃないかな。公安が妙に積極的で、情報独占しようとしてた。僕ら現場は振り回されたよ。結局、証拠が揃わず、上から圧力かかって打ち切り。典型的な大人の事情だ」


 彼は苦笑し、コーヒーを飲む。(はじめ)は滑川の言葉を頭で整理する。

「公安がそんなに動くって、普通じゃないですよね。赤男って、そんな大事なんですか?」


 滑川は目を細め、軽く首を振る。

「赤男、か。犯人の名前かどうかもわからんよ。ただ、遺体の状態が異常だった。サイコパスって言葉がぴったりだね」


 彼の声には、どこか感嘆すら混じる。(はじめ)の背筋に冷たいものが走る。


 <救えなかった痛み>


 滑川はカップを置き、急に声を低くする。

「佐藤君、実はね……あの13人、救えなかったのが、今でも心に刺さってるんだ。僕、代理とはいえ捜査の責任者だった」


 彼の目は一瞬遠くを見、穏やかな笑顔の裏に深い痛みが垣間見える。


「若手の夢を潰したあの事件、誰かが止めなきゃいけなかった。なのに、僕には力不足だった。もしどこかで生きてるなら、せめて……会って謝りたい」

 滑川の声は震え、まるで本心を吐露するようだ。


 (はじめ)は彼の言葉に引き込まれつつ、内心で疑念を募らせる。この男、本当にただの顧問か?

「滑川さん、そんな風に思ってるなら、なんで業界に? 過去を忘れたいんじゃないんですか?」


 滑川は微笑み、肩をすくめる。

「忘れたいなんて、無理だよ。君も舞台辞めた後、過去を引きずってるだろ? 僕も同じさ。この業界にいるのは、せめて若い子たちを守りたいからだ。五虎の無茶な夢でも、誰かが支えなきゃ潰れる」


 オフィスのドアがノックされ、五虎の声が響く。

「ただいまー!」

 大倉の足音も続き、部屋の空気が一変する。

 < 国永プロダクション >

名前:滑川なめりかわ 全一ぜんいち

性別:男性

年齢:55歳

身長:183cm

風貌:白髪交じりの髪を丁寧に整え、穏やかな笑顔と柔らかな物腰。ゆったりしたカーディガンが落ち着いた雰囲気を際立たせる。

職業: 国永プロダクション 顧問OB(元警視庁刑事)

性格:ユーモアがあり、話しやすく親しみやすい。業界の若手を温かく見守る姿勢で、経験豊富な大人として信頼される。過去の捜査を淡々と語るが、被害者への深い痛みを胸に秘め、若者の夢を守ることに静かな情熱を注ぐ。自然体で人を引き込む話術を持ち、穏やかな態度で周囲を安心させる。

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