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星の声 空の想い  作者: 江田 吏来
第3章 一条新太は思い出す
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第5話 意外な言葉① 「成宮結人の正体」

 わたしの頭は混乱を通り越して、崩壊しそうだった。

 学校に行くのがとても憂鬱で、どんな顔をして一条君に会えばいいのかわからない。

 突然怒り出したかと思えば、急に抱きしめられて――。

 でも、ふれた温もりからひとつだけわかった。

 わたしの言葉は、ひどく一条君を傷つけた。


『ジェラルドはやっぱり、フェザードの息子だったんだよ』


 これは、ジェラルドかもしれない成宮センセイと、きっぱり別れるために出た言葉。それなのに、一条君の真剣なまなざしが怖かった。

 いつ、一条君はカルデニアじゃないことに気がついたんだろう。

 唇がふれた瞬間、わたしはエルネストにいた。

 なつかしい潮風に包まれて、飲みこまれそうな波の音を聞いていた。

 そして目の前にいたのは、寂しげな影を宿した青い瞳。

 ジェラルドだった。


「おっはよー、蓮夏ちゃん」

「あ、真鈴……」

 いつもと同じ、真鈴の明るい声を耳にすると、落ち着きをなくした心がもとに戻っていく。でも、これからどうしたらいいのか、わからない。じわぁーっと目頭が熱くなった。

「どうしたの?」

 心配そうにのぞき込むから、わたしは笑わなくてはならない。

「テストの結果、かえってくるよね。赤点だったらどうしよう」

「大丈夫だよ。蓮夏ちゃん、がんばったし」

「そうかなぁ」

 気おくれしたまま教室に入ったけど、その日、一条君は学校に来なかった。

 まあ、お互いに気まずいし、冷静さを取り戻すには時間が必要だと考えて、その日はホッとした。

 ところが翌日も、一条くんは学校に来ない。その次の日も。

「蓮夏ちゃん、大変。大変なのー」

 セミの鳴き声が厚さを倍増させている通学路を歩いていると、真鈴にいきなりカバンを引っ張られた。

 ぜぇぜぇと肩で息をして、汗びっしょり。とても慌てた様子にどうしたのかたずねると、真鈴はスマホを差し出して、驚くことを口にした。

「一条から、いまメッセージがきて、お父さんのいるカナダに行くって。いつ日本に戻るのか、わからないって」

 一瞬、うるさすぎるセミの鳴き声が遠のいた。

 真鈴がなにをいっているのかわからない。

 スマホをのぞき込んでも、反射してよくみえなかった。

「なに? その冗談」

 引きつっているのか、笑っているのか、よくわからない感情が波のように押し寄せる。

 意味が理解できなくて、真鈴の腕をつかんで揺すったけど、スマホに目を落としたまま、こっちをみない。

 ようやく顔をあげると、真鈴は切実な表情でわたしの肩をつかんだ。 

「すこし前、一条は学校をサボって、エルネストの展示品をみてたみたいなの。ひどく思いつめた顔をしていたから、南さんが心配してた。なにか心当たりある? 私たちが水族館に行った翌日よ」

「あっ……」

 わたしは悩んだ。

 一条君に送ってもらったあの日の出来事を、すべて真鈴に話すべきなのか、迷った。

「お願い、蓮夏ちゃん、いますぐ南さんのところへ行って。一条がどうしていたのか、詳しく聞いてきて」

「わ、わかった」

 まだ通学途中だったけど、人の流れにさからって駆けだした。

 真鈴がちいさな赤い舌をペロッと出して、ニンマリと笑ったことに気がつかないまま、南さんのところへ向かった。


 バスに揺られて、蔦が絡まった、レンガ造りの建物の前に立つ。すると、前にここへ来たときよりも、つよい潮の香りがした。

 受付のおばさんに南さんのことをたずねたけど、今日は留守のようだった。それでもわたしは、中に入る。

 あまりにもつよいエルネストの空気に、だれかいると確信していた。

「えっ!」

 驚いて思わず声が出た。

「江藤さん?」

 うす暗い館内に、成宮センセイがいた。

「「どうしてここに?」」

 息ピッタリ。

 おたがい同時に同じことをいったので、くすりと笑ってしまった。

 でも、成宮センセイはエルネストの涙を見つめて「なつかしいな」とつぶやいた。

「エルネストの記憶がないって、なぜウソをついたんですか?」

「僕に課せられた任務を遂行するためかな。ジェラルドより先に、エトワールに伝えないといけないことがあったんだ。江藤さんがここにいて、ちょうど良かった」

 成宮センセイは歩きだすと、エルネストの絵の前でとまった。

 背丈より大きな絵は、迫力もリアリティも兼ね備えていて、エルネストにいるような気分になる。

 成宮センセイも、故郷を思い出すかのような遠い目をしている。

「エルネストは美しい国だったけど、エトワールがいなくなってから、その輝きは消えたよ。カルデニアは生き残り、フェザードの悪事を暴露したんだ。でも、フェザードが国王になり、ジェラルドは王を殺した大罪人だ。いくらラメルの民に強靭な肉体と、高い戦闘力があっても、フェザードが育てた兵はバケモノで、悲惨だった」

「ジェラルドが大罪人? どうして?」

「ぜーんぶ、罠だったのさ。ジェラルドはフェザードの駒になりたくなかったから、エトワールと一緒になったのに、結局はフェザードの捨て駒さ。ホント、恐ろしい男だよ」

「よく、わからない……。みんなどうなったの?」

 成宮センセイは口に手をあてたまま、しばらく考え込んでいたけど、ジェラルドの折れた剣の前まで歩く。

「まず、ラスティの戦力を低下させるために、フレムが殺された。その出来事は、さらにジェラルドを追いつめたよ。もう笑いもしない。ただの戦う鬼のように姿をかえた」

 ガラスケースに手をあてた成宮センセイの目は、すこしうるんでいて、語るのもつらそうな表情をしている。それでもゆっくりと、すこしずつ話してくれた。

「ジェラルドはだれとも口をきかなくなったけど、ほんのわずかな休息を見つけては、海にもぐっていた。エルネストの涙以外、なにひとつエトワールに関するものがみつからなかったから。いつまでも、ずっと、エトワールをさがしていたよ」

 わたしは成宮センセイから目をそらした。

 エトワールの知っているジェラルドは、離縁届を突き付け、十二人の命を奪った男。でも、それは全部、フェザードの言葉。

「そこにある折れた剣で、エトワールの(かたき)はとったよ。それなのに、ジェラルドはバカだから、カルデニアをかばってあっさりと。そのとき、なんていったと思う?」

 わからなかったので、首を振った。

「エトワールが命懸けで守った人を、簡単に死なせるわけにはいかない。って、本当にバカだよ。カルデニアは頑丈なラメルの民なのに……。でね、「エトワールはオレを許してくれるかな?」それがジェラルドの最期の言葉だ。だから、ボクは約束したんだ。「大丈夫、アタシがエトワールにちゃんと伝えてあげる」って」

 ようやく成宮センセイは、にっこりとほほ笑んだ。

「僕がだれだか、もうわかったよね?」

 わたしはうなずくと、涙が勝手にポロポロとこぼれ落ちた。

 ジェラルドはやさしい人のままで、エトワールは本当に愛されていた。そして、目の前にいる成宮サンセイが、本当のカルデニア――。

「で、江藤さんは、どうしてここにいるの? 学校は?」

「い、一条君が、カナダに行っちゃうって。もう帰ってこないって。わたし、まだなにも伝えてないのに、傷つけただけで……」

 いままでの想いがあふれて、涙がとまってくれない。

「わたし、ジェラルドとか関係なしに、……大雪の中で声をかけられたときから、きっと……、一条君のことが好きで……、会いたいのに……」

「会いたいの?」

 あまりにも涙が止まらないので、ハンカチで顔を隠しながら、コクンとうなずいた。すると――。

「おーい、江藤さんが、会いたいっていってるよ。一条クン」

「ひゃい?」

 間抜けな声を出して振りむいた。

「え、いや。なんで、江藤がここにいるんだ? オレが呼び出したのは成宮だけだぞ」

 顔を真っ赤にした一条くんが立っている。

「なっ、な、な、なんで!?」

 クラッとめまいがした。

「いつからそこにいたの? カナダにいるんじゃなかったの?」

 慌てて詰め寄ったけど、一条くんは恥ずかしそうに目をそらすから、わたしは悟った。

 いまの話を、全部、すべて聞かれた。

 恥ずかしすぎる!

 もう消えてしまいたい……。

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