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星の声 空の想い  作者: 江田 吏来
第2章 エルネストの悲劇
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第1話 黒い髪のアシェ人① 「エルネロスの涙がみせる夢」

 いつもとおなじ夢のはじまりなら、わたしは身体を失い、エトワールの心の中へと消えていく。でも、いまは目の前にまぶしいひかりがあって、人影がみえる。

 おそるおそる近づくと、青い輝きがこぼれた。

「……エルネロスの涙?」

 わたしの手のひらにのった青い輝きは、南さんのところでみた、エトワールのペンダントと似ている。

 ジェラルドの瞳のような、どこまでも澄みきった青空のような石。ラメルの一族に伝わる願い石だ。

 エルネロスの涙が青く強いひかりを放つと、わたしが消えていく。

 でも、声がした。

 ――あなたに、伝えたいことがあるの。

 それは、エトワールの声じゃなかった。

「だれ?」

 ――わたしは、エルネロス。フォンセは刃に倒れて願い、アニスはわたしを見つめて願ったわ。

「願い?」

 ――そうよ、あなたも、彼も、お友達も、みんな、私に願ったの。

「よく、わからない……」

 耐えがたい眠気に、もう目が開かない。声も遠くなって、真っ暗な闇に沈む。

 ――ジェラルドを助けて。それが先に逝くあなたの願い。

「逝……く……?」

 ――あの人は、ジェラルドでは……な……。  

 消えていく意識の中で手を伸ばしたけど、なにもつかめなかった。

 最後の声もよく聞こえないまま、ながい夢が、またはじまる。

 


 遠い昔、終わることを知らない虐殺に傷ついたラメルの民が、燃えさかる赤い髪を天に捧げ、争いのない世界を願った。すると、金色の髪と金色の双眸をした神、エルネロスが荒れはてた大地に来臨(らいりん)する。

 悲惨な世界に涙を流しながら、すべての争い事を消し去ったエルネロスは、自身の姿を人間の男にかえ、エルネロス・ブリアック・ジラルデと名乗った。

 そして神の化身である男と共に、エルネスト王国が誕生する。

 やがて、エルネロスがこの世を去っても、平和な時代はながく続いた。

 赤い髪をしたラメル族のほかにも、さまざまな部族がエルネストに移り住み、港町はいつも賑やかだった。

 しかし、そんな活気にあふれた港町を、こころよく思わないものもいる。

 ジラルデ国王を中心とする貴族や、王国騎士団。彼らはエルネロスとおなじ金色の髪と、金の双眸をしていた。我らこそが、すぐれた人種であり、世界を正しく導けると、いつも胸をはる。

 港町がいろいろな部族であふれかえるのを、血の穢れだと蔑み、ときには理不尽な罰を与えた。

 貴族たちの傲慢なおこないは、対立をうみだしていったが、水も食料も豊富なエルネストの大地が、双方の不満を水面下に抑え込んでいた。

 ところがある日、エルネストの輝きを象徴する真っ白な砂浜に、木くずや布などのゴミが散乱し、十数人の見慣れない人間が倒れていた。

 ピクリとも動かない人間を前に、騎士の怒号が飛ぶ。

「女、子供は家に戻れッ!」

 (えんじ)色のルダンゴートを着た騎士が、馬上から剣を振り回している。

 大きな声をあげているが、だれひとり戻ろうとしない。

「クケルおばさん、わりぃ。そこをどいてくれ」

 短髪の赤い髪をした男が、人混みをかき分けていた。

「おや、ラスティ。あれはなんだい? 死んでいるのか?」

 ウワサ好きのクケルおばさんが海岸を指差すと、人が倒れているのが目に入る。しかし、倒れている人たちはみな、みたことのない黒い髪色をしていた。

 エルネストで黒は、不吉な色。不安そうなクケルおばさんの肩をポンとたたいて、ラスティは口角をグッとあげた。

「心配ない、大丈夫だ。ラメルの民は俺が守る」

 そういって、暴れまわる白馬に近づき、声を張りあげる。

「俺はラメルの族長、ラスティだ。馬上の騎士よ、なにが起きたのか説明してくれッ!」

 白馬がクルリと向きをかえると、押し詰めた人々が自然と道をつくり、静かになった。

 騎士は馬上からするどい視線をおくり、振り回していた剣をラスティに向ける。

「ラメルの族長? ずいぶんと若いな」

「そりゃ、まだ二二だからな。ラメルは強いヤツが族長に選ばれる。なんならアンタと戦って、族長であることを証明してやろうか?」

 大きく胸をはったラスティの身体は、迫力のある筋肉をそなえ、まるで彫刻のようだった。

 するどい視線を向けたまま、上から下までラスティを観察した騎士は、その言葉にウソがないことを確信すると、長い剣をおさめた。そして、深く息を吸ってふたたび怒鳴る。

「邪魔な者は、いますぐ、家に帰れッ!」

 横暴な騎士に反発をする小さなざわめきが、押し寄せる波のように、すこしずつ大きくなっていったが、ラスティが手をあげる。するとまた静かになって、女と子供はその場から離れていった。それにつられて、面倒なことをきらう野次馬たちも、海岸から出ていった。

 残ったのは、赤い髪をしたラメルの男たち。

 魚をとって暮らす彼らは、海岸に散らばった木くずや人をどうにかしないと、船が出せない。

「ふぅ、やっと静かになったか。感謝するぞ、ラスティ」

 大きなため息をついて、騎士は白馬からおりた。そして、剣の鞘でうつぶせに倒れている黒髪の男を仰向けにした。

「この黒髪に、見慣れない服装はアシェ人だな。昨日の時化(しけ)で難破したか、海賊に襲われたか。かわいそうだが、もう息はない」

「アシェ人が多く暮らすトウの国は、はるか東にあるはずだ。なぜこんな所に?」

「さあね。だが、エルネストとは交流のない国だ。このまま遺体をトウの国にかえせば、逆恨みされるかもしれない。面倒なことになる前に、全部燃やそう。すまんが、ラスティたちはあちらに倒れているアシェ人を、こちらにまとめてくれ」

「わかった」

 気持ちのよい作業ではなかったが、海岸に残った男たちで遺体を運んだ。

 ラスティが血管の浮き出た太い腕で、最後のアシェ人をヒョイと持ちあげると、ケホッと小さな咳がこぼれる。

「えっ?」

 驚いたラスティは、アシェ人の男を砂浜におろした。

 顔色も悪く、すっかり死んでいると思っていたが、男は苦しそうな声を出しながら、身体を丸めた。

 ラスティはとっさに男の背中を強くたたく。すると大量の水を吐き出し、ゲボ、ゲボと苦しそうな咳をした。

「おいッ、ひとり生きてたぞォー」

 火葬の準備をしていた騎士に大きな声で知らせたが、こちらへ連れてこいと手招きをする。

 面倒事をさけたい騎士は、すべてを燃やし、なかったことにしたい様子だった。

「おいおい、俺に人殺しをさせるのか? コイツを医術師にみせてくるぜ」

「ラスティ、人殺しではない。この国を守るために、アシェ人には消えてもらおう」

「……生きているのに?」

 騎士は大きくうなずいたが、ラスティはアシェ人の男を肩にかつぐと、背を向けた。

「俺は族長だが商人でもある。人がいなきゃ商売にならねぇ。アシェ人だろうが、なんだろうが、生きてるなら俺は助けるぜ。人は財産だからな」

「財産? アシェ人が?」

「あぁ、トウの国の話が聞きたい。利口なヤツが多い国だからな。なにか収穫があるかもしれん」

 考え込む騎士を無視して、その場から立ち去った。

 一度こうすると決めたら、考え方をかえないラスティは、港町にひとりしかいない医術師のもとへと急いだ。



 


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